• 更新日 : 2025年1月17日

時短勤務の残業代はもらえる?制限や計算方法、給与計算の注意点

時短勤務中の残業は、法律上禁止されておらず、従業員の同意があれば可能です。残業代は、所定労働時間(原則6時間)を超えた部分は法定内残業、8時間を超えた部分は法定外残業として支払われます。

本記事では、時短勤務者の残業に関する基礎知識や残業代の計算方法、給与計算の注意点について解説します。

時短勤務の残業とは?

時短勤務者の残業時間は、所定労働時間(原則6時間)を超えて働いた時間を指します。残業時間は「所定外労働」と「時間外労働」の2つに区分されます。

ここでは、時短勤務の残業について詳しく解説していくので、参考にしてみてください。

所定外労働の残業

「所定外労働」とは、企業が就業規則で定めた所定労働時間(定時)を超える労働のことです。育児・介護休業法施行規則第74条によると、時短勤務者の場合は1日6時間を超えて働いた時間が所定外労働となります。

たとえば、時短勤務者が7時間勤務した場合、そのうちの1時間分が所定外労働です。所定外労働に対しては、割増賃金は適用されず、通常の賃金が支払われます。

しかし、これを怠ると労働基準法違反となるため、企業は労働時間の管理を徹底する必要があります。

時間外労働の残業

時間外労働とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間)を超えて働くことです。時短勤務者の場合、1日8時間を超えた部分が時間外労働となり、25%以上の割増賃金が発生します。

たとえば、時給2,000円の時短勤務者が1日9時間勤務した場合は、そのうちの1時間は2,500円(2,000円×1.25)の割増賃金が支払われます。このように、時間外労働の発生には明確な基準があり、適切な賃金の支払いが求められるのが特徴です。

参考:厚生労働省|時間外労働の上限規制

時短勤務者は残業できる?

時短勤務者の残業は、法律上禁止されていません。労働基準法や36協定で定められた範囲内であれば、従業員の同意のもと残業可能です。

ただし、労働基準法や育児・介護休業法で規定された条件を守る必要があります。時短勤務者が残業する場合は、労働者本人の同意が必須であり、企業が一方的に残業を命じることはできません。

育児・介護休業法により、下記の従業員は所定外労働や時間外労働の免除を請求する権利があります。

種類対象者
所定外労働
  • 3歳に満たない子を養育する労働者
  • 要介護家族を抱える労働者
時間外労働
  • 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者
  • 要介護状態にある家族を抱える労働者

参考:

厚生労働省|時間外労働の制限

厚生労働省|所定外労働の制限

厚生労働省|所定外労働の制限について

厚生労働省|時間外労働の制限について

法定労働時間内であれば、通常の勤務者と同じく残業が可能です。しかし、時短勤務は家庭との両立を目的としているため、頻繁な残業は望ましくないでしょう。

残業免除の申請があったら、会社は原則これを拒否できません。事業の正常な運営を妨げる場合は例外となります。

時短勤務でも残業代はもらえる?

時短勤務者の残業代は、法律で定められた基準にしたがって必ず支払われなければなりません。残業代の支払いが必要なのは、所定労働時間や法定労働時間を超えた労働が発生した場合です。

具体的には、6時間の所定労働時間を超えた労働には通常賃金が支払われ、8時間を超える法定外労働には25%以上の割増賃金が適用されます。

また、週40時間を超える労働も法定外労働に該当します。たとえば、時短勤務者が平日に1日6時間働き、週末に8時間勤務を追加したら週40時間を超えた分は割増賃金が必要です。

月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増賃金が必要となります。企業は残業代の計算基準を明確にし、従業員が不利益を被らないように気をつけなければいけません。

時短勤務中の残業の制限にはどんなものがあるか

時短勤務者に対する残業の制限は、育児・介護休業法により定められています。

ここでは、残業の制限の詳細と、申請方法を解説します。

所定外労働の制限

所定外労働の制限とは、企業が定めた所定労働時間を超える労働を禁止する措置です。時短勤務者の場合は、所定労働時間は通常6時間に設定されています。このため、6時間を超える労働を求めることはできません。

制限の対象は、以下に該当する労働者です。

  • 3歳に満たない子を養育する労働者
  • 要介護家族を抱える労働者

1回の申請で1ヶ月以上1年以内の期間に適用され、申請回数に制限はありません。ただし、企業と労働者の合意にもとづいた期間の設定が必要です。

なお、入社1年未満の従業員や週の所定労働日数が2日以下の従業員は、労使協定により対象外にできます。

時間外労働の制限

時間外労働の制限とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働を制限する措置です。具体的には、1ヶ月に24時間・1年に150時間を超える時間外労働を禁止するものです。

下記に該当する労働者が対象となります。

  • 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者
  • 要介護状態にある家族を抱える労働者

制限の申請には、事業主に対して1ヶ月前までに書面で申し出る必要があります。

深夜残業の制限

深夜残業の制限とは、22時から翌5時までの深夜帯の労働を免除する措置です。深夜労働は従業員の健康や生活に大きな影響を及ぼします。そのため、育児や介護を理由とした時短勤務者に適用されます。

対象・対象外となる労働者は、下記のとおりです。

対象となる労働者対象外となる労働者
  • 小学校就学前の子を養育する従業員
  • 要介護状態にある対象家族を介護する従業員
  • 入社1年未満の従業員
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 日雇いの従業員
  • 所定労働時間のすべてが深夜にある労働者
  • 以下の条件を満たす16歳以上の同居家族がいる従業員

保育または介護ができること、深夜に就労していないこと(深夜の就労日数が1ヶ月につき3日以下のものを含む)、負傷、疾病または心身の障害により保育または介護が困難でないこと、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間以内のものでないこと

参考:

厚生労働省|深夜業の制限について

厚生労働省|深夜業の制限

深夜残業の免除は1回の申請につき1ヶ月以上6ヶ月以内の期間で適用されます。申請回数には制限がなく、必要に応じて再申請が可能です。

残業免除の申請方法

残業免除の申請は、就業規則で定められた期限までに申請する必要があります。原則、免除開始予定日の1ヶ月前までに、書面で会社に申請するのが一般的です。提出方法は、書面やメールなど、企業が指定する形式で行います。

申請内容には、免除を希望する期間や理由を明記しましょう。企業は、従業員からの申請を受け入れる義務があります。

ただし、申請内容が事業の正常な運営を著しく妨げる場合は、企業は申請を拒否する権利があります。

時短勤務の残業代の計算方法

時短勤務者の残業代は、法定内労働と法定外労働を明確に区分して計算しましょう。

種類計算方法
法定内労働1時間あたりの賃金×法定内残業時間=残業代
法定外労働1時間あたりの賃金×時間外労働の割増賃金率×法定外残業時間=残業代

法定内残業は、時短勤務者の所定労働時間である6時間を超える労働です。つまり、法定労働時間である8時間までの残業のことです。一方、法定外残業は8時間を超えた部分の残業となります。

法定内残業の場合は、割増賃金は発生せず、通常の時給単価に残業時間を掛けて計算します。時給2,000円の従業員が7時間勤務した場合は、1時間分の法定内残業となるため、残業代は2,000円です。

一方、法定外残業は、労働基準法により25%以上の割増賃金を支払う必要があります。同じく時給2,000円の従業員が9時間勤務した場合の残業代は、下記のとおりです。

【6時間から8時間までの2時間が法定内残業】

2,000円×2.0=4,000円

【8時間を超えた1時間が法定外残業】

2,000円×1.25=2,500円

合計:6,500円

なお、深夜時間帯(22時から翌5時)の残業は、さらに25%の割増賃金が必要となります。1ヶ月の時間外労働が60時間を超える場合は、超過分について50%以上の割増賃金を支払わなければいけません。

正確な計算のためには、労働時間の管理を適切に行い、法定内残業と法定外残業を明確に区分することが大切です。

時短勤務の給与計算をする場合の注意点

時短勤務者の給与計算には、通常の従業員とは異なる特有の注意点があります。ここでは、企業の人事担当者が注意すべき給与計算のポイントについて、具体的に解説します。

基本給や賞与(ボーナス)の確認

時短勤務の給与計算をする際は、基本給や賞与(ボーナス)の確認を怠らないことが大切です。

基本給は、労働時間に応じて比例計算されることが一般的です。1日の所定労働時間が8時間・基本給が25万円の従業員が、時短勤務で1日6時間に短縮した際は、給与額は以下の計算式で求められます。

基本給×実労働時間÷所定労働時間

25万円×6時間÷8時間=18万7,500円

このように、時短勤務前と比較して約25%減少します。賞与についても同様に、勤務時間に比例して支給額が減少するケースが多いです。

ただし、会社の規定や評価基準によっては例外もあるため、事前に就業規則を確認しましょう。

時短勤務後の社会保険料の再確認

時短勤務に移行すると給与が減額される場合が大半です。しかし、社会保険料は適切な手続きを行わないと、従来の基準のまま控除が継続されるので注意しましょう。

これにより、給与は減少しているにもかかわらず社会保険料は変わらない状況が発生し、手取り額が想定以上に減少する可能性があります。

ただし、育児休業からの復職後に育児時短勤務を開始する際は、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出すれば、新しい給与に応じた社会保険料に減額可能です。

また、育児時短勤務により社会保険料を減額した場合でも、将来の年金額への影響を抑えられる制度があります。「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出をすれば、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」が適用されます。

これによって、将来受け取る年金額が減少されません。手続き方法は、下記のとおりです。

  1. 従業員が会社に申し出を行う
  2. 会社が日本年金機構に必要書類を提出
  3. 変更後の社会保険料で控除開始

なお、これらの制度は育児を理由とする時短勤務に限定されているため、そのほかの理由の時短勤務には適用されません。

有給休暇取得時の賃金計算

時短勤務者が有給休暇を取得する際は、その日の所定労働時間分の賃金が支払われます。1日6時間勤務の従業員が有給を取得した場合、6時間分の給与が支給されます。

フルタイム勤務者とは賃金額が異なるため、有給休暇取得時の給与計算を誤らないことが大切です。

また、時短勤務者の有給休暇取得時の賃金計算は、平均賃金や月給制の場合の所定時間数にもとづいて行われます。そのため、就業規則に従った計算が必要です。

これを怠ると労働基準法違反となり、労働者とのトラブルにつながる可能性があります。

残業ルールを理解し、安心して働ける時短勤務環境を作ろう

時短勤務制度は、従業員が育児や介護などの事情に配慮して働きやすい環境の提供が目的です。しかし、給与や残業代の計算が不正確であれば、労働者のモチベーションを低下させたり、法的トラブルを招いたりする可能性があります。

企業は、時短勤務者に関する就業規則を明確に定め、労働時間や給与計算を適切に管理することが大切です。

本記事を参考に、時短勤務者が働きやすい職場環境を整備し、ワークライフバランスの実現を目指しましょう。


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