- 更新日 : 2022年10月4日
厚生年金とは?国民年金との違いや保険料について解説

公的年金制度のひとつに厚生年金保険があります。多くの方は、給与明細を見て「厚生年金保険料が給料から天引きされている」くらいの認識しかなく、厚生年金保険の仕組みを深く考えたことがないかもしれませんが、年金は将来の生活を支えるとても大切なものです。
そこで今回は、厚生年金保険とはどのようなものなのかについて解説していきます。
目次
厚生年金とは?
厚生年金保険とは、サラリーマンなどのように会社で働く方々が加入する公的年金です。公的年金には、ほかにも国民年金があります。
国民年金は、個人事業主などのようにサラリーマン以外の方が加入する制度というイメージがあるためか、厚生年金保険とまったく別の制度と思っている方も多いでしょう。しかし、国民年金は20歳以上60歳未満のすべての方が加入することになっており、実はサラリーマンなどの厚生年金保険の被保険者も国民年金に加入しています。
国民年金との違い
サラリーマンなども国民年金に加入していると説明しましたが、年金の制度を建物にたとえていうと、国民年金は「1階部分」のベースとなる年金であり、20歳以上60歳未満の人はすべて加入する仕組みになっています。
厚生年金保険は、国民年金に上乗せされる仕組みで制度が作られているため、年金の「2階部分」と呼ばれます。
1階部分と2階部分を合わせて「厚生年金保険」と捉えると、国民年金とはまったく別の制度のように思われるかもしれませんが、ベースとなる年金は国民すべて同じであるため、国民年金は基礎年金とも呼ばれます。サラリーマンなどの場合は、国民年金(基礎年金)に加えて厚生年金保険が上乗せされており、将来受け取る年金の金額が厚めになっているということになるのです。
厚生年金の加入条件は?
厚生年金保険の加入条件は、「適用事業所」と呼ばれる厚生年金保険に加入している企業に「常時使用される70歳未満のすべての方」です。したがって、外国人であっても、条件に該当すれば、厚生年金保険に加入しなければなりません。また、試用期間中であっても、加入条件を満たせば入社初日から加入義務があります。
以下で従業員が厚生年金保険に加入する適用事業所の種類と厚生年金保険の被保険者とならないケースについて詳しく見ていきましょう。
厚生年金に加入する適用事業所の種類
従業員が厚生年金保険に加入する適用事業所には、主に「強制適用事業所」「任意適用事業所」「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」の4種類があります。
強制適用事業所
以下の事業所は強制適用事業所と呼ばれ、必ず厚生年金保険に加入しなければなりません。
- 常時従業員を1人以上雇用しているすべての法人の事業所
- 適用業種に該当し、常時従業員を5人以上雇用する個人事業所
法人の場合は、役員であっても「法人から報酬を得て使用される者」として扱われるため厚生年金保険の被保険者となります。したがって、代表者1人であっても厚生年金保険に加入しなければなりません。
また、常時従業員を5人以上雇用している個人事業所も強制適用事業所となりますが、一部の業種は除かれます。農林・水産・畜産業、接客娯楽業(飲食店・旅館・理容業など)、法務業(弁護士・税理士・社会保険労務士など)、宗務業(寺社・寺院など)などは非適用業種と呼ばれ、常時従業員が5人以上いる個人事業所でも強制適用事業所とはなりません。なお、法務業については、2022年10月以降は適用業種に該当することになるため注意が必要です。
参考:健康保険・厚生年金保険の適用事業所における適用業種(士業)の追加(令和4年10月施行)|日本年金機構
任意適用事業所
強制適用事業所に該当しなくても、任意適用事業所となることで厚生年金保険に加入することができます。任意適用事業所として認められるには、厚生年金保険の適用事業所になることに半数以上の従業員が同意し、厚生労働大臣の認可を受けることが必要です。なお、このケースでは、任意適用事業所になることに同意をしなかった人もすべて厚生年金保険の被保険者となることを覚えておきましょう。
特定適用事業所と任意特定適用事業所(社会保険の適用拡大)
社会保険の適用拡大により、これまで社会保険の加入義務がなかった短時間労働者でも厚生年金保険に加入するケースが増えています。
厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業は特定適用事業と呼ばれ、「1週間の所定労働時間が20時間以上」などの一定の条件に該当する短時間労働者は、社会保険の加入が義務付けられています。また、常時500人以下の企業で働く短時間労働者であっても、労使の合意により申し出をすることで、任意特定適用事業所となることができます。
2022年10月からは段階的に特定適用事業所の対象となる企業の範囲が広がり、被保険者の総数は2022年10月からは「501人以上から101人以上」、2024年10月からは「51人以上」に変更される予定です。特定適用事業所では、これまで社会保険に加入していなかったパートやアルバイトでも、短時間労働者の要件を満たすと健康保険と厚生年金保険に加入義務が発生することに注意しましょう。
参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
厚生年金保険の被保険者とならないケース
パートやアルバイトなどのように労働時間が短い従業員や日雇など臨時的・一時的に働く方は厚生年金保険の被保険者にならないケースがあります。
パート・アルバイトなど労働時間が短い従業員
パートやアルバイトなどのように労働時間が短い従業員でも、「1週間の所定労働時間」と「1か月の所定労働日数」が正社員やフルタイムの従業員の3/4以上である場合には、厚生年金保険の被保険者となります。これが、いわゆる「4分の3基準」とよばれる基準です。つまり、この「4分の3基準」を満たさない従業員は、原則として厚生年金保険の被保険者とはなりません。
ただし、先に説明した特定適用事業所と任意特定適用事業所で働く従業員の場合は、「4分の3基準」に該当していなくても、以下の4つの条件に該当すると厚生年金保険の被保険者となることを覚えておきましょう。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 1雇用期間が1年以上の見込み(2022年10月以降は「2か月を超える見込み」)
- 1賃金の月額が88,000円以上
- 1昼間部の学生ではない
上記の社会保険の適用拡大により厚生年金保険の被保険者となる条件については、日本年金機構のホームページで詳しく解説されていますので、詳しく知りたい方は参考にするとよいでしょう。
参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
日雇などの臨時的・一時的に働く労働者
以下の条件に該当する場合には厚生年金保険の被保険者とはなりません。ただし、一定期間を超えて雇用されると「常時使用される従業員」とみなされ、被保険者になるため注意しましょう。
被保険者とされない人 | 被保険者となる場合 |
---|---|
日々雇い入れられる人 | 1カ月を超えて引き続き使用されるようになった場合は、その日から被保険者となる |
2カ月以内の期間を定めて使用される人 | 所定の期間を超えて引き続き使用されるようになった場合は、その日から被保険者となる(※) |
所在地が一定しない事業所に使用される人 | いかなる場合も被保険者とならない |
季節的業務(4カ月以内)に使用される人 | 継続して4カ月を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となる |
臨時的事業の事業所(6カ月以内)に使用される人 | 継続して6カ月を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となる |
(※)令和4年10月以降、当初の雇用期間が2カ月以内であっても、当該期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は、契約当初から健康保険・厚生年金保険に加入となります。
厚生年金保険の保険料負担
厚生年金保険は、国民年金に上乗せされた2階部分ですので、国民年金のみの加入者よりも多くの年金をもらうことができます。しかし、2階部分があるということは、その分多く保険料を払うと思われる方も多いのではないでしょうか。
厚生年金保険料は使用者と従業員が折半で負担することになっています。例えば、厚生年金保険料が40,000円の場合には、使用者が20,000円を負担するため、従業員は20,000円の負担で済むのです。
なお、厚生年金保険の被保険者の国民年金(基礎年金)の保険料は、厚生年金保険制度から国民年金制度へ拠出される仕組みとなっており、厚生年金保険の被保険者は個別に国民年金の保険料を納める必要はありません。
年金支給額は報酬に比例した保険料に応じて計算する仕組みになっているため、いくらもらえるかは簡単に計算できません。しかし、国民年金の保険料が約16,590円/月(2022年度)であるのに対して、月収18万円の方の厚生年金保険料は16,470円/月(標準報酬月額18万円の本人負担分・賞与なし・東京都の場合)です。従業員からすると実際にかかる保険料の半分の金額で将来国民年金と厚生年金を受給できることを考えると、厚生年金保険に加入することがいかに有利であるかがわかるでしょう。
厚生年金の保険料の計算方法
厚生年金保険の保険料は、毎月の保険料や年金額を計算する際に用いる「標準報酬月額」と、賞与を1,000円未満の端数を切り捨てて計算した「標準賞与額」の2つから計算します。
標準報酬月額による保険料の計算方法
厚生年金保険の標準報酬月額は、第1級(88,000円)から第32級(650,000円)まで区分されており、被保険者ごとに区分したそれぞれの標準報酬月額に厚生年金保険料率(2022年4月現在18.3%)を乗じて計算し、使用者である会社と従業員で折半して負担します。
標準報酬月額の決定方法には以下の4つがあります。
- 入社時に決定する「資格取得時決定」
- 毎年決められた時期に見直しをする「定時決定」
- 昇給や降給などで報酬が大きく変動したときに見直しをする「随時改定」
- 産前産後休業や育児休業をした従業員が復職後に報酬に変動があった場合に見直しをする「産前産後休業終了時改定」及び「育児休業等終了時改定」
標準賞与額による保険料の計算方法
標準賞与額は、賞与、期末手当、決算賞与のような労働の対価として一時的に支給されるものであり、名称を問わず年3回まで支給されるものが対象です。それぞれの賞与の1,000円未満の端数を切り捨てて計算した標準賞与額に厚生年金保険料率(2022年4月現在18.3%)を乗じて計算し、労使折半して負担します。
なお、1か月に支給された賞与額が150万円(同一月内に2回以上支給された場合には合計額)を超える場合には、150万円が標準賞与額の上限となることも覚えておきましょう。
そのほか標準報酬月額や標準賞与額について詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてください。
厚生年金はいくらもらえるのか
厚生年金は、原則として65歳から受け取れ、生涯支給が続きます。
2021年12月に厚生労働省年金局が発表したデータでは、国民年金の老齢年金受給者の平均的な年金の月の金額は、2020年度では56,358円となっています。また、厚生年金保険の老齢年金受給者の平均的な年金の月額は、2020年度では146,145円となっています。これらのデータをみると、厚生年金保険の受給者の平均年金月額が国民年金の2.5倍以上になっており、厚生年金保険の加入の有無によって年金の格差が大きいことがわかるでしょう。
厚生年金保険は、給与の額によって年金保険料が異なり、結果として受給額に大きな差が生まれ、支給額も個人毎に異なります。したがって、高い給与の人は、将来高額の年金を受け取ることができるのです。
以上、厚生年金保険の概要について解説してきましたが、年金は老後の生活の基盤となるものであり、とても重要な制度です。これまで法改正が多く、細かいことはわかりにくい点も多い制度ですが、基本的な枠組みについてはしっかりと理解するようにしておくようにしましょう。
厚生年金の手続きの方法は?
年金は受給できる年齢が来ても請求しなければもらうことはできません。ここでは受給年齢が到来することによって支給される老齢厚生年金の手続きや必要書類について解説します。
受給資格期間とは?
受給資格期間とは老齢基礎年金を受給するために最低限必要な期間のことです。老齢基礎年金を受け取るためには、国民年金や厚生年金保険、共済組合などの加入期間を含む保険料納付済期間と保険料免除期間などを合計して10年以上の期間が必要になります。そして、老齢厚生年金を受給するためには、老齢基礎年金の受給資格期間を満たし、かつ、厚生年金保険の被保険者期間が1か月以上あることが必要です。
受給開始年齢とは?
老齢厚生年金の受給開始年齢は原則として65歳です。ただし、60歳から65歳になるまでの間で月数に応じて年金額が減額される「繰上げ受給」や、66歳以降75歳までの間で月数に応じて年金額が増額される「繰下げ受給」による受給方法もあり、自分自身のライフプランに合わせた柔軟な受け取り方が可能な制度になっています。
また、厚生年金保険の加入期間が1年以上ある場合には、特例として65歳前でも生年月日に応じて「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる場合があります。「特別支給の老齢厚生年金」には、老齢厚生年金の基礎となる報酬比例部分と「定額単価×被保険者期間の月数」で計算される「定額部分」があり、生年月日と性別に応じて受給できる金額やそれぞれの受給開始年齢が異なることに注意が必要です。
「特別支給の老齢厚生年金」は65歳まで支給される期間限定の有期年金であり、65歳になると通常の老齢厚生年金と基礎年金の2階建て年金に切り替わります。「特別支給の老齢厚生年金」と通常の老齢厚生年金の支給開始年齢の関係は以下の図のようになります。
厚生年金を受給するための手続きと必要な書類は?
年金の手続きをすると年金証書が日本年金機構から送られてきます。年金証書が届いたら2か月〜3か月で指定した口座に最初の年金が振り込まれるのが一般的です。
ただし、働いて厚生年金保険に加入しながら厚生年金を受給する方は、厚生年金が全額または一部支給停止になることがあるため、自身の年金がいくら支給されるのかを手続きの際に年金事務所で相談することをおすすめします。
手続きの流れ
年金請求書に必要事項を記載して、戸籍抄本や住民票などの必要書類を添付して、お住まいから近い年金事務所に提出して手続きを行います。手続きは受給権発生日である受給開始年齢の誕生日の前日から可能です。受給開始年齢になる前に手続きをすることはできません。
年金の受給する権利がある方には、受給開始年齢が到来する3か月前に日本年金機構から年金請求書が送られてきますので、年金請求書といっしょに送られてくる「年金の請求手続きのご案内」をよく読んで、必要書類を準備しましょう。
なお、日本年金機構から送られてくる年金請求書には、基礎年金番号・氏名・生年月日・性別・住所・年金加入記録があらかじめ印字されています。特に年金記録に間違いがないかをよく確認しましょう。厚生年金保険の加入歴に間違いがある場合、加入資格期間の10年を満たすのに年金請求書が送られて来ない場合には、お近くの年金事務所で事前に相談し、調べてもらうことをおすすめします。
手続きに必要な書類
受給手続きに必要な書類には以下のものがあります。戸籍抄本や住民票などは、原則として受給権発生日以降に交付されたもの(交付から6か月間有効)が必要です。老齢厚生年金を受給するために必要となる主な書類について見ていきましょう。
【共通して必要となる書類】
- 年金請求書
- 戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のうちいずれか1つ(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合や年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)
- 年金を受給する通帳やキャッシュカード(コピー可)
【本人の厚生年金保険の加入期間が20年以上あり、65歳未満の配偶者や18歳到達後の3月31日までの子どもがいる場合】
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し(マイナンバーを記載することで省略可)
- 配偶者の収入確認書類(マイナンバーを記載することで省略可)
所得証明書、課税証明書、非課税証明書など - 子どもの収入確認書類(マイナンバーを記載することで省略可)
学生証、在学証明書など(義務教育期間中は不要)
【本人の厚生年金保険の加入期間が20年未満であり、配偶者の厚生年金保険(共済年金を含む)の加入期間が20年以上ある場合】
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し(マイナンバーを記載することで省略可)
- 請求者の収入確認書類(マイナンバーを記載することで省略可)
所得証明書、課税証明書、非課税証明書など
【その他注意点】
- 年金手帳など(基礎年金番号に統一されていない年金手帳や記録がある場合)
- 合算対象期間を証明する書類(受給資格期間を満たしていない場合)
- 雇用保険被保険者証(雇用保険に加入したことがある場合
- 年金証書(配偶者の分を含み、他の公的年金を受給している場合)
- 配偶者の基礎年金番号通知書など
- 医師の診断書など(障害の状態が1級または2級に該当する子どもがいる場合)
必要書類は加給年金の有無など請求する方の状況によって異なります。また、特別支給の老齢厚生年金を受給している方が65歳で老齢厚生年金を受け取る場合には、誕生日月までにはがき形式の年金請求書が送られてきますので、簡単に手続きすることが可能です。
会社の負担と責任
厚生年金保険が従業員にとって魅力的な制度であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。一方、会社経営者にとっては、労使折半とはいえ厚生年金保険料を従業員の分まで支払うことになり、従業員が多い場合には大きな負担になるかもしれません。
しかし、法人の場合はたとえ社長1人であっても厚生年金保険の加入は義務です。また、個人事業所であっても従業員が常時5人以上いる場合は、農林水産業などの一部の業種を除き、厚生年金保険の加入が義務付けられています。
年金事務所では未加入事業所の調査を常時行っており、未加入の企業に対して指導を実施しています。これに違反をすれば、保険料を追徴されるだけではなく、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性もあり、決して許されることではありません。
費用負担が大きいからという理由で厚生年金保険に加入しないことがあっては、従業員の気持ちも企業から離れ、離職率の増加や採用時の応募者の減少など、経営に大きな影響を与えることでしょう。
厚生年金保険は将来の生活における支え
公的年金制度のひとつである厚生年金保険は、将来の生活の支えとなる大切なものであることが理解できたと思います。2階建ての仕組みになっている厚生年金保険は、従業員のみが負担しているのではなく、会社も負担するものです。
将来の生活を支える大切な厚生年金保険の基本的な仕組みを理解することは、自身のライフプランを立てる際にも役立つでしょう。
よくある質問
厚生年金とは何ですか?
厚生年金保険とは、サラリーマンなどのように会社で働く方々が加入する公的年金です。詳しくはこちらをご覧ください。
厚生年金と国民年金はどう違いますか?
厚生年金保険は、国民年金に上乗せされる「2階部分」の年金です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。