- 更新日 : 2024年5月24日
クォーターライフクライシスとは?急増の理由や対策方法、接し方を解説
クォーターライフクライシスは、今日の若者にとって深刻な問題となっています。人事担当者の皆様にとっては、これを理解し、対処することが重要です。この記事では、クォーターライフクライシスの定義から対処法まで、わかりやすく解説します。
目次
クォーターライフクライシスとは?
クォーターライフクライシス(QLC)は、20代から30代前半の若者が直面する心理的な危機を指します。この時期には、自己のアイデンティティーや人生の方向性についての不安や疑問が生じることが一般的です。では、どのような症状が見られるのでしょうか。男性と女性の違いや、ミッドナイトクライシスとの違いについても見ていきます。
クォーターライフクライシスの症状
クォーターライフクライシスに見られる症状には、方向性の喪失感、孤独感、不安、抑うつ、自己疑念などがあります。また、キャリアや人間関係における選択に対する後悔や、将来に対する漠然とした恐怖を感じることも一般的です。これらの感情は、自己実現の過程での障壁となり得るため、適切なサポートと自己理解が重要です。
女性の方がなりやすい?
女性の方が陥りやすいと指摘する向きもありますが、これは社会的なプレッシャーや期待、ライフステージの変化(例えば結婚や出産など)が影響していると考えられます。しかし、今のところ、明確に男女間でのクォーターライフクライシスの発生率の違いを明らかにした研究はありません。
ミッドライフクライシスとの違い
ミッドライフクライシスは、主に40代から60代にかけて経験する心理的な危機で、人生の折り返し点における成果の評価や死生観の変化が主な原因です。一方、クォーターライフクライシスは、成人初期の不安定さや将来への不確かさが原因であり、人生の初期段階での自己実現の試みと密接に関連しています。両者は生じる年齢や焦点が異なり、それぞれのライフステージにおける特有の課題が影響しています。
クォーターライフクライシスにおける5フェーズ
クォーターライフクライシスには、心理的な五つの段階があるとされています。各フェーズについて解説していきましょう。
フェーズ1:自分の選択を後悔
クォーターライフクライシスのフェーズ1では、個人が自分の人生の選択、特にキャリアや人間関係に対して閉じ込められた感覚を抱きます。この段階では、自動操縦で生活しているような感覚に陥り、自分の決断に疑問を持ち始めることが一般的です。このフェーズは、自分の人生に対する不満や、達成したいと思っていたことと現実とのギャップに気づくことから始まります。この結果、自分の置かれている状況に対する焦燥感や不安が高まり、変化への渇望が生まれます。
フェーズ2:現状の打開を検討
フェーズ2では、「抜け出さなければ」という感覚と共に、人生を変えることが可能だという希望が芽生えます。この段階で、個人は自分の人生に対するコントロールを取り戻すための選択肢を模索し始めます。これには、キャリアの変更、趣味や興味の追求、新しいスキルの習得などが含まれることがあります。このフェーズは、自己発見と自己実現への道を開くための重要な転換点となります。
フェーズ3:過去と決別・今後を思案
フェーズ3では、個人が自分を閉じ込めていると感じていた仕事や関係性から離れ、自己探求の「タイムアウト」期間に入ります。この期間は、新しい経験を試し、自分が本当になりたい人物像を探求するためのものです。このフェーズは、自己認識を高め、人生の新たな方向性を模索するための反省と探求の時期です。
フェーズ4:人生の再選択
フェーズ4では、個人が自分の人生を再構築し始めます。この段階で、新たに発見した自己理解に基づいて、より充実した人生を築くための具体的な計画を立てます。これには、新しいキャリアパスの追求、価値観に合った人間関係の構築、または自己実現に向けたステップの実行が含まれることがあります。このフェーズは、自分自身との約束を新たにし、自分の興味や目標に合致した新しいコミットメントを形成する時期になります。
フェーズ5:新たな人生をスタート
最終フェーズであるフェーズ5では、個人が新しい人生のコミットメントを発展させ、それらが自分の興味や志向により適合するようになります。この段階では、個人は以前の危機を乗り越え、新しい自己理解と人生の方向性を確立します。これは、自分の人生に対する新たな理解と満足感を持って、より意味のある未来に向けて前進する時期です。
クォーターライフクライシスの原因
クォーターライフクライシスがなぜ生じるのか、これまで概要には触れてきましたが、ここでは詳しくみていきましょう。
自分の目標とのギャップ
クォーターライフクライシスの一つの原因は、「自分の目標とのギャップ」です。多くの若者が20代の初めには高い理想と目標を持って社会に出ますが、実際の職場環境や生活のプレッシャーに直面すると、理想と現実の間に大きな隔たりを感じることがあります。
特に、自分が想像していたキャリアパスが順調に進まない場合、そのギャップによって失望や焦燥感を感じることがあります。このような状況は、自己価値の問い直しや生活の再評価を迫ることが多く、クォーターライフクライシスを引き起こす要因となります。
キャリアの不安定性
キャリアの不安定性もクォーターライフクライシスの原因の一つです。現代の労働市場は非常に競争が激しく、安定した職を見つけることが難しい場合があります。また、契約の不安定さ、昇進の遅れ、または求めていた職種と異なる仕事をすることなどが、不安やストレスの原因となります。不安定なキャリア状況は、将来に対する不確実性を高め、クォーターライフクライシスを深刻化させることがあります。
人間関係の変化
20代から30代にかけては、結婚や出産、友人のライフスタイルの変化など、個人の生活環境が大きく変わる時期です。これにより、長年の友人との関係が希薄になったり、新しい社会的役割に適応する必要が生じたりします。人間関係のこうした変化は、孤独感やアイデンティティーの喪失を感じさせ、クォーターライフクライシスを引き起こす可能性があります。
自己肯定感の低下
自己肯定感の低下もクォーターライフクライシスに大きく寄与します。キャリアや人間関係での挫折、または自分の期待に応えられないと感じることが、自己評価を下げる原因となります。自己肯定感が低下すると、自分の価値や能力を疑い、さらには精神的な健康問題につながることもあります。このような状態は、クォーターライフクライシスの深刻な症状を引き起こすことがあります。
他人との比較
SNSの普及により、他人の成功や幸福が常に目に見える形で提示されるようになりました。これにより、自分と他人との比較が避けられなくなり、劣等感や不満が増大します。特に、自分が達成していないことを他人が達成しているように見えると、自己価値の低下を感じやすくなります。この「比較文化」は、クォーターライフクライシスの感情を悪化させる重要な要因です。
クォーターライフクライシスの対処法
クォーターライフクライシスを予防するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、予防法や対処法について解説していきます。
自分自身と向き合う
クォーターライフクライシスを予防し対処するためには、自分自身と向き合うことが重要です。具体的には、自己反省や自己認識を深める活動を行うことが効果的です。例えば、日記をつけることで日々の感情や思考を整理し、自分の本当の価値観や興味が何かを見つめ直すことができます。
また、瞑想(めいそう)やヨガなどのマインドフルネス活動を取り入れることで、精神的な平穏を保ちながら自己理解を深めることが可能です。これにより、自分自身の内面に焦点を当て、クォーターライフクライシスによる不安や迷いを軽減することができます。
自分と他者を比べることをやめる
他人と自分を比較することは、クォーターライフクライシスの感情を悪化させる原因の一つです。この習慣を止めるためには、自分の成功を他人の成功と比較するのではなく、自分自身の成長と達成に焦点を当てることが重要です。
具体的な方法としては、SNSの使用を控えめにする、自分の小さな成功を祝う、そして自己肯定の言葉を日常的に使うことが挙げられます。これにより、他人の人生と自分の人生を比較することなく、自分自身の道を歩むことに集中できるようになります。
サンクコストから脱出する
サンクコストの誤謬(ごびゅう)は、過去の投資にとらわれてしまう心理的な罠(わな)です。これを克服するためには、過去の投資を切り捨て、現在および将来の選択肢を評価することが必要です。例えば、時間やお金を大量に投じたが成果が上がっていないプロジェクトから手を引く決断をすることが挙げられます。
また、新しい機会や選択肢に目を向け、それらがもたらす可能性に焦点を当てることで、サンクコストの誤謬から脱却することができます。このプロセスを通じて、より合理的で健全な意思決定が可能になります。
クォーターライフクライシスを経験している方への接し方
クォーターライフクライシスの対処法をみてきましたが、では、身近な人が陥っている場合、どのように接してあげればよいのでしょうか。
理解と共感を示す
職場でクォーターライフクライシスに陥っている同僚に対しては、まず理解と共感を示すことが重要です。具体的には、彼らの感じている不安やストレスを否定せず、話をじっくりと聞くことから始めます。例えば、「それは大変だったね」「君の気持ち、よくわかるよ」といった言葉をかけることで、彼らが自分の感情を理解し受け入れる手助けとなり、心理的な安定を取り戻す一助となります。
プレッシャーをかけない
クォーターライフクライシスを経験している人々は、しばしば仕事のプレッシャーや期待に圧倒されがちです。職場でこれらの個人に対しては、過度な期待やプレッシャーを控えることが肝心です。具体的には、締め切りの柔軟性を持たせる、仕事の優先順位を見直す提案をするなどが有効です。
また、彼らが自分のペースで仕事を進められるよう、サポートする姿勢を見せることが重要です。これにより、彼らは仕事のストレスを軽減し、自己効力感を回復する手助けとなります。
サポートする
クォーターライフクライシスに苦しむ同僚をサポートするためには、具体的な支援策を提供することが効果的です。例えば、仕事の負担を軽減するためにタスクを分担する、必要に応じてリソースを提供する、またはカウンセリングサービスへのアクセスを促すなどが考えられます。彼らは自分だけで問題を抱え込むのではなく、職場全体で支え合っていると感じることができます。このような環境は、彼らがクライシスを乗り越えるための重要な基盤となります。
経験者からのアドバイス
クォーターライフクライシスを経験したことがある先輩や同僚からのアドバイスは、苦しんでいる人々にとって非常に価値があります。経験者であればこそ、彼らが直面している問題を理解し、悩みを共有することができます。例えば、定期的なミーティングを設けて経験者が自身の体験を話す時間を作ることが有効です。このような情報交換は、クライシスを経験している人々にとって、解決策を見つけるための具体的な手がかりとなり得ます。
クォーターライフクライシスが激増する理由
クォーターライフクライシスが激増している理由について、Yahooの検索レポート「アラサーに立ちはだかる壁。クォーターライフクライシスにデータから迫る」の記事を参考に解説します。
※参照:「アラサーに立ちはだかる壁。クォーターライフ・クライシスにデータから迫る」
社会的・経済的変化
現代の社会的および経済的環境は、若年層に多大なプレッシャーを与えています。特に、キャリアの不安定性や、高い教育水準にもかかわらず満足できる職に就けないという問題が、20代後半から30代の若者たちの間で不安や焦燥感を引き起こしています。このような状況は、自己実現の遅れとして感じられ、クォーターライフクライシスの一因となっています。
SNSと比較文化
SNSの普及により、人々は常に他人の成功や幸福を目の当たりにします。この「比較文化」は、自己評価の低下を招き、自分の人生が停滞していると感じさせることがあります。特に、同年代の友人が結婚やキャリアで成功している様子を見ることで、自分だけが取り残されているという感覚に陥りやすくなります。
人生の目標と現実のギャップ
多くの若者が抱く理想と現実のギャップも、クォーターライフクライシスを引き起こす大きな要因です。教育や社会から「夢を追い求めること」が強調される一方で、実際には経済的な制約や市場の要求により、夢を追うことが困難になっています。このギャップに直面することで、自己の価値観や人生の意味について深く悩むようになります。
メディアとの関連性
クォーターライフクライシスに関するメディアの報道も、この問題の認知度を高め、より多くの人々が自分の経験をクォーターライフクライシスとして認識するようになったと考えられます。特に、ポッドキャストやソーシャルメディアでの議論が、人々の共感を呼び、クォーターライフクライシスに対する意識が高まっています。
これらの要因が複合的に作用することで、クォーターライフクライシスは現代の若者にとって避けがたい現象となっており、その激増の背景には多様な社会的、文化的、経済的要因が絡み合っています。
クォーターライフクライシスについてのおすすめ本
クォーターライフクライシスに関する日本語の書籍はまだ数が少ないようですが、近年電子書籍も含めて徐々に増えてきている印象があります。ここでは、おすすめの本を3冊選び、簡単に内容を紹介します。
「境界線(バウンダリーズ)」(著:ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼント) 出版元:地引網出版(2004年)
「境界線」は、全米だけでなく、世界各地で講演を行ってきた著名な2人の心理学者による代表作です。この本では、健全な対人関係を築くための「境界線」の重要性が説かれています。著者は、自己肯定感を高め、他者を尊重する態度を身につけることが、クォーターライフ・クライシスを乗り越える鍵であると指摘しています。適切な「境界線」を設けることで、自分らしさを失うことなく、人間関係をコントロールできるようになるのです。具体的なエピソードを交えながら、親密な関係、職場、家族など、さまざまな場面での「境界線」の在り方を解説しています。人生の岐路に立った20代の読者にとって、自分に正直に生きる力が養われ、クォーターライフ・クライシスへの対処法が見えてくる一冊です。
「そろそろいい歳というけれど」(著:ジェラシーくるみ) 出版元:主婦の友社 (2022年)
この本では、著者が、25歳前後の”クォーターライフ・クライシス”を体験した際の心境を赤裸々に綴っています。就職や恋愛、家族関係など、さまざまな場面で直面する迷いや葛藤を率直に描写しており、同世代の読者に強く共感されるでしょう。著者は、この時期の試行錯誤を通して、自分らしい生き方を見出そうと奮闘する姿を示し、辛酸をなめながらも、前を向いて歩み続けることの大切さを教えてくれます。加えて、親友や家族の存在が、どれほど心の支えになるかも伝わってきます。この作品は”25歳の壁”を乗り越えようとする読者に勇気と希望を与えてくれる一冊だといえるでしょう。
「クォーターライフ・クライシス」(著:RURI)出版元:Amazon Kindle (電子書籍、2023年)
「クォーターライフ・クライシス」は、著者自身のクォーターライフクライシス経験をもとにした、イラストエッセイ形式の書籍です。著者のRURIさんは、20代後半から30代にかけて、自分の人生の選択に迷い、漠然とした不安を抱えていました。この本では、そんな著者の経験が、等身大の言葉とイラストでつづられています。「周りと比べて焦る」「自分らしさがわからない」といった、多くの若者が共感できる悩みが、ユーモアを交えて描かれています。また、著者が実践してきた、クォーターライフクライシスを乗り越えるための方法も紹介されており、読者の心に寄り添う内容となっています。重たいテーマを扱いながらも、読みやすく、親しみやすい一冊です。
クォーターライフクライシスを理解し、支援することが大切!
若者のクォーターライフクライシスへの理解と対応が、企業の健全な成長に不可欠です。これらの知識とアプローチは、若手社員の支援と励ましに役立ちます。積極的な対応とサポートが、彼らの成長と組織の成功につながることを理解しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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