• 更新日 : 2025年1月20日

労働基準法第39条による年次有給休暇の付与日数は?違反した場合の罰則も

一定の条件を満たす労働者には、年次有給休暇が付与されます。また、企業は年次有給休暇をルールに則って消化させる義務を負っています。そのため、年次有給休暇のルールを正確に理解しなければ、思わぬトラブルを招いてしまいかねません。当記事では年次有給休暇について網羅的に解説します。ぜひ参考にして、トラブルを防いでください。

労働基準法第39条による年次有給休暇のルール

労働基準法第39条は、年次有給休暇のルールが定められた条文です。本項では、労働基準法で定められた年次有給休暇のルールについて解説します。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

年次有給休暇の付与日数

年次有給休暇の付与日数は、全ての労働者について同じわけではありません。年次有給休暇は勤続年数に応じ、原則として以下の日数が付与されます。

勤続年数0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

ただし、1週間の所定労働日数が4日以下※で、週所定労働時間が30時間未満の労働者に対しては、以下のような日数が付与されます。このような付与方法を「比例付与」と呼びます。※所定労働日数が週以外の期間で定められている場合は、年間216日以下

所定労働日数勤続年数
1年間0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
4日169日~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121日~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73日~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48日~72日1日2日2日2日3日3日3日

同じ企業に勤めていても、労働者ごとに有給休暇の付与日数が異なる点に注意しましょう。

また、これらの日数は法定のものであるため、企業の判断で減じることはできません。一方、企業が法定以上の年次有給休暇の日数を付与することは、労働者の福利厚生の充実につながるため認められています。

年次有給休暇の発生要件

年次有給休暇は、次の条件を満たした労働者に付与されます。

  • 雇い入れられたときから6か月間継続して勤務している
  • 全労働日※の8割以上の出勤率を満たしている

※労働契約上、労働義務が課されている日

年次有給休暇は、上記の条件を満たした労働者であれば当然に発生する権利です。労働者の請求によって発生するわけではありません。

年次有給休暇の取得時季

年次有給休暇は、労働者がいつでも自由な時季に取得することができる権利です。「時季指定権」と呼ばれる労働者の権利で、請求があれば、企業は原則として年次有給休暇の取得を拒めません。ただし、請求された時季に年次有給休暇を付与することが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に与えることができます。このような企業の権利を「時季変更権」と呼びます。

事業の正常な運営を妨げない限り、年次有給休暇の取得時期は、労働者が自由に決定できるのが原則です。しかし、例外も存在します。たとえば、労使協定を締結することで、労働者が保有する年次有給休暇の5日を超える部分を、協定で定める時季に与えることが可能です。このような付与方法は「計画的付与」と呼ばれます。

年次有給休暇の取得単位

年次有給休暇の取得単位は1日単位が原則ですが、就業規則等に定めることで半日単位での取得とすることも可能です。また、労使協定を締結することで、時間単位で年次有給休暇を取得することも可能となります。このような年次有給休暇は「時間単位年休」と呼ばれます。なお、時間単位年休は無制限に認められるものではなく、年間5日以内の取得日数とする必要があります。

時間単位年休の請求は、年次有給休暇が比例付与される労働者も対象です。また、時間単位年休として取得するか否かは、労働者の自由意思に委ねられています。そのため、企業が1日や半日単位での取得請求を時間単位年休に変更することはできません。

労働基準法の改正で年5日の年次有給休暇の取得が義務化

労働基準法の改正によって、2019年4月からは年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、5日以上の年次有給休暇取得が義務付けられました。企業規模を問わず、全ての企業は確実に5日以上の年次有給休暇を取得させる必要があります。比例付与の場合でも、週4勤務で継続勤務期間3年半以上の場合などは対象となるため、注意しましょう。

5日以上取得させるべき期限は、基準日(年に10日以上付与された日)から1年以内です。たとえば、2024年4月1日に入社した場合、6か月経過後の10月1日に10日の年次有給休暇が付与されます。そのため、10月1日を基準日として、1年以内に5日以上の年次有給休暇を取得させることが必要です。

仮に10日以上付与される場合であっても、労働者が自ら時季を指定して取得した部分や計画的付与で取得した部分については、企業が時季を指定して取得させることを要しません。労働者自身が年に5日以上自主的に取得したり、計画的付与で5日以上取得させたりした場合には、取得義務が消滅することになります。

労働基準法の年次有給休暇のルールに違反した場合の罰則

年次有給休暇のルールに違反した場合、労働基準法によって罰則が科される場合もあります。たとえば、労働者が請求した時季に年次有給休暇を取得させることを正当な理由なく拒んだ場合、労働基準法第39条第5項に違反することになります。この場合には、労働基準法第119条によって、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。

また、年に5日の取得義務を果たさなかった場合、労働基準法第39条第7項違反です。この場合には、労働基準法第120条によって、取得させなかった労働者ひとりにつき30万円以下の罰金が予定されているため、確実な取得を心掛けましょう。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

労働基準法の年次有給休暇のルールで注意すべきポイント

年次有給休暇を運用する際には、注意すべきポイントがいくつかあります。ポイントごとに解説するため、適切な運用の助けとしてください。

退職時は有給休暇を買い取りできる

未取得の年次有給休暇があったとしても、企業が買い取ることは許されません。年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュのための制度であり、取得させずに買い取ることは制度趣旨に反するためです。

ただし、退職時に未取得であった年次有給休暇であれば、企業が買い取ることが可能です。年次有給休暇は、その企業に勤める労働者の権利であり、退職した後は権利行使できる余地がないため、買い取っても労働者の不利にならないことが理由です。また、法定の年次有給休暇の付与日数を超える部分は企業が恩恵的に付与するものであり、その内容や取り扱いも企業の自由です。そのため、その部分について買い取ることは可能です。

有給休暇には2年の時効がある

年次有給休暇には、2年間の時効期間が設けられています。発生の日から2年間で取得できなかった年次有給休暇は、時効により消滅することになります。トラブルを避けるためにも、付与された日から2年間で消滅することを説明し、労働者の自主的な年次有給休暇取得を促したほうがよいでしょう。

なお、時効により消滅した年次有給休暇であれば、企業が買い取ることも可能です。時効消滅後には権利を行使できないため、消滅した部分を買い取ることは何ら労働者の不利益とならない行為になります。

2年以内なら有給休暇の繰り越しができる

年次有給休暇は2年間で消滅しますが、これは2年以内であれば繰り越しが可能であることも意味しています。

たとえば、2024年10月1日に10日の年次有給休暇が付与されたフルタイムの労働者がいたとします。この場合に10日のうち5日を自主的に取得したら、残日数は5日です。この5日はすぐには消滅せず、時効の期間内であれば繰り越すことが可能です。そのため、翌年度は2025年10月1日に付与された11日と合わせて、16日の年次有給休暇を保有することになります。

年次有給休暇は、理論上最大35日まで保有することが可能です。これは、最大の付与日数である20日と前年からの繰り越し分である15日を合わせた日数となります。なお、最大40日と紹介されている場合もありますが、これは取得義務のある5日分を取得させていない状態であるため、法違反となります。企業が法定を上回る日数を付与している場合を除き、このような日数を保有している労働者がいれば、罰則の対象となるため注意しましょう。

アルバイトやパートも有給の対象となる

年次有給休暇は、正社員だけに付与される権利ではありません。条件を満たしたのであれば、アルバイトやパートなどの非正規雇用の労働者にも付与されます。ただし、アルバイトやパートは所定労働日数が少ない場合が多いため、比例付与の対象となることが多いでしょう。条件を満たしたアルバイトやパートにも年次有給休暇の権利が発生することを忘れずに、自主的な取得を促しましょう。

アルバイトやパートであっても、罰則については通常と同様です。正当な理由なく請求を拒否したり、取得義務のある日数を取得させなかったりした場合には、懲役や罰金が科せられる恐れがあります。特に長期間勤務しているパートなどは、年5日の取得義務の対象となっている場合が多いため、確実に取得させましょう。

また、週所定労働日数が5日以上であったり、週所定労働時間が30時間以上であったりすれば、比例付与ではなく正社員と同様の日数が付与されることも忘れてはなりません。

年次有給休暇は労働者の大切な権利

年次有給休暇は、労働者が心身をリフレッシュさせて、万全の状態で仕事に臨むための大切な権利です。取得義務のある部分だけでなく、保有する部分全てを消化できるようにするためには、年次有給休暇を取得しやすい環境づくりが必要となるでしょう。対象者や発生要件、取得義務などを確認し、年次有給休暇を取得しやすい環境づくりに努めてください。


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