• 更新日 : 2023年8月25日

みなし残業とは?制度や導入のメリットについてわかりやすく解説

みなし残業とは、従業員の給与について、あらかじめ一定時間分の残業手当を見込んで支給する制度です。過重労働や残業代未払いにつながりかねないと思われがちですが、正しい運用を行えばメリットのある制度です。

今回は、みなし残業制の意味、導入手順やみなし残業制度が違法になるケースなどについて見ていきます。

みなし残業とは?

みなし残業とは、給与にあらかじめ残業手当を含めた給与形態です。毎月の一定時間の残業時間を「みなし残業時間」として設定し、その設定に基づいて固定額の残業手当を支給します。みなし残業のことを「固定残業制」と呼ぶこともあります。

間違えやすい残業の他の呼び方との違いを見ていきましょう。

通常の残業との違い

通常の残業とは、所定労働時間外の実労働時間のことをいいます。残業手当についても通常の残業の場合は、実際に労働した時間に対する残業手当が支払われます。

それに対して、みなし残業は、あらかじめ、みなし残業時間分の残業手当が固定額で支給される給与形態です。通常の残業と異なる点は、みなし残業の場合は、たとえ残業時間が0分であっても、決められた固定残業手当が支給される点です。

みなし残業の正式名称は?

みなし残業は、「固定残業代制」とも呼ばれますが、「固定残業代制」という名称は、法律で正式に定義されている名称ではありません。「みなし残業制」「固定残業代制」など、会社によって呼び方も異なっています。

見込み残業との違い

見込み残業とは、会社が一定時間の残業を想定して、支払われる給与の中にあらかじめ見込み残業代を含める制度のことをいいます。

「固定残業代制」や「みなし残業」とも言われ、結局のところ、見込み残業とみなし残業は同じような意味合いで使われています。

みなし労働時間制みなし残業(固定残業代制)の種類

「みなし残業」と間違えやすい言葉に「みなし労働時間制」があります。みなし労働時間制とは、実際の労働時間の長さにかかわらず、「事前に取り決めた一定の時間を働いた」とみなして、その分の賃金を支払う制度です。

労働基準法において、みなし労働時間制には、「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」があり、さらに裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。

それぞれについて見ていきましょう。

事業場外みなし労働時間制労働

事業場外みなし労働時間制は、外回りの営業職や添乗員、直行直帰が多いなど、事業場外で業務を行うため、実際の労働時間を正確に把握することが難しい場合に、所定労働時間労働したとみなす制度です。

ただし、事業場外で行っている業務でも、会社からの指示や管理の元で働いている場合などは適用できません。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、研究、設計、デザイン、弁護士など、厚生労働省が指定した19業務に限って導入が可能な制度です。

会社が業務遂行に関して、具体的な指示を出すことが難しく、労働時間や時間配分、仕事の進め方を従業員自身の裁量に任せたほうが合理的な場合に導入できる制度です。

専門業務型裁量労働制を導入する場合には、労使協定の締結と労働基準監督署への届け出が必要になります。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、業種にかかわらず、労働時間や時間配分、仕事の進め方を従業員自身の裁量に任せたほうが合理的な場合に導入できる制度です。

専門業務型裁量労働制とは異なり、19業務に限定されているわけではなく、「対象業務が存在する事業場」について導入が可能です。対象業務は、労働基準法第38条の4 第1号で次のように定められています。

「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」

引用:労働基準法第38条の4 第1号|e-Gov法令検索

みなし残業制(固定残業代制)の給与の仕組み

みなし残業(固定残業)は、あらかじめ「20時間」「30時間」などの残業時間が「発生したとみなす」考え方です。みなし残業制の基本的な計算方法を見ていきます。

1)1時間あたりの賃金額を求める

1時間あたりの賃金額=1カ月の給与の総額÷月平均所定労働時間(※1)

(※1)月平均所定労働時間

=1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12カ月

2)みなし残業手当を求める

みなし残業手当の計算方法は、以下の通りです。

みなし残業手当=1時間あたりの賃金額×残業割増率×固定残業時間

例えば、1カ月の給与の総額が30万円、1年間の所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が8時間、固定残業時間が20時間分とします。

1時間あたりの賃金額=30万円÷(240日×8時間÷12カ月)

=30万円÷160時間

=1,875円

よって、みなし残業手当=1,875円×1.25×20時間=46,875円になります。

この固定残業時間分が30時間と仮定した場合には、以下の金額になります。

みなし残業手当=1,875円×1.25×30時間=70,312.5円≒70,313円

なお、みなし残業手当は、決められた固定残業時間分に限った残業手当です。その固定残業時間を超過した時間分については、別途残業手当を計算して追加で支給する必要がありますので注意してください。

みなし残業の時間は一般的に何時間?

みなし残業には、法律で明確な基準などは定められていません。

ただし、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)においては、1カ月の残業時間の上限が45時間(特別条項による例外あり)と定められています。よって、一般的には45時間を目安にしている事業所が多いです。

事業場外労働や裁量労働でない場合もみなし残業制度は導入できる?

みなし残業制度は、実際に労働した時間数に関係なく、毎月一定時間の残業があるとみなして、固定残業代を基本給とは別に支払う制度です。法律でルールや基準が決められているわけではなく、それぞれの会社が任意で導入できます。

したがって、事業場外労働や裁量労働制ではない場合でも、みなし残業制度は導入することができます。

みなし残業制を企業が取り入れる手順

ここでは、企業がみなし残業制を導入する手順について説明します。

1.勤務実態を把握する

すべての部署における時間外労働の時間数を把握するために、時間外労働の実態を調査します。調査結果を見ながら、みなし残業制を導入することが妥当なのか、妥当であった場合には、どのくらいの時間を固定残業とするかを検討します。

2.みなし残業制の対象者を決める

みなし残業制を適用する従業員を決めます。すべての従業員(管理職を除く)に適用するのか、調査した勤務実態を確認して、部署によって適用するのかなどを検討します。

部署によってあまり差がないようであれば、すべての従業員を対象に適用してもよいでしょう。

3.みなし残業時間を決める

勤務実態調査のデータから、1年間の残業時間の大小を把握し、最適なみなし残業時間を決めていきます。1カ月の平均残業時間からでは、繁忙期と閑散期の大小の状況がつかめませんので1年間の残業時間で検討してください。

4.従業員に制度についての説明を行う

みなし残業制の導入について、従業員に説明して同意を得てください。特に、「何のためにみなし残業制を導入するのか」という部分を丁寧に説明して合意を得ることが大事です。

5.就業規則に規定する

就業規則にみなし残業制について規定します。明記するのは、下記のような内容です。

  • 固定残業時間が何時間分で固定残業代がいくらであるか
  • 固定残業代の計算方法
  • 固定残業代を除く基本給がいくらか
  • 固定残業時間を超過した時間外労働に対して追加で割増賃金を払うこと

6.従業員への周知を行う

従業員個人ごとに新たに労働条件通知書を取り交わします。以下のような内容を明記してください。

  • みなし残業代として〇〇時間分の手当を支払う
  • 〇〇時間を超えた場合は、追加で残業代を支払う

7.運用開始

実際に運用を開始します。

みなし残業制が違法になるケース

みなし残業制は、正しい運用を行っていれば問題はありませんが、正しく運用できていなかった場合には違法となってしまう可能性がある制度です。例えば、次のような点に注意が必要です。

最低賃金を下回ってしまっている

給与から固定残業代を差し引いた金額を1時間あたりの賃金額に換算したときに、最低賃金額よりも低くなっている場合には、違法になる可能性があります。

1カ月の賃金額で見ていると見落とす場合があります。年1回の最低賃金額の見直しの際に、毎年、新しい最低賃金を下回ることがないかを確認しておきましょう。

固定残業時間を超過した分の割増賃金が支払われていない

みなし残業制では、前もって定められたみなし残業時間分のみなし残業手当が支払われます。ただし、設定したみなし残業時間を超えた労働時間分については、別途残業手当を追加で支払う必要があります。この超過分の支給を忘れることが多くあります。

超過分の残業手当の支給を忘れると、「未払賃金」として労使トラブルになる可能性もありますので、給与計算時には、計算漏れがないかこまめにチェックすることが必要です。

就業規則や雇用契約書にみなし残業制に関する詳細な記載がない

なし残業制を導入する場合は、就業規則や雇用契約書に詳細を明記して、社員に周知する必要があります。以下のような項目について明記して、社員にきちんと周知しましょう。

  • 固定残業時間が何時間分で固定残業代がいくらであるか
  • 固定残業代の計算方法
  • 固定残業代を除く基本給がいくらか
  • 固定残業時間を超過した時間外労働に対して追加で割増賃金を払うこと

みなし残業はメリットを生かした導入をしましょう

みなし残業では、あらかじめ従業員の給与に一定時間分の残業手当を含めて支給します。そのため、会社にとっては、残業手当の計算が簡単になる、人件費の予算が立てやすくなる、などのメリットもあります。しかし、実際の残業時間が少なかった月も一定の残業手当を支払う必要があるため、残業手当の支払いが思ったより多くなる可能性もあります。

みなし残業制を適用したからといっても、勤怠管理はしっかりと行ってください。残業時間の超過による残業手当の未払いや従業員の健康管理にも十分注意して運用していく必要があるのです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事