• 作成日 : 2022年7月29日

労働基準監督署の是正勧告とは?無視したらどうなる?

労働基準監督署には、企業が労働基準関係法令を遵守し、違反がないかを監督する役割があります。立ち入り調査や監督指導で法違反が確認されれば、是正勧告が交付されます。指導を無視すると書類送検や企業名が公表されることもあり、企業の信用を傷つけかねません。
ここでは、是正勧告がどういったケースで交付されるのかについて解説します。

労働基準監督署の是正勧告とは?

企業に労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働基準関係法令に違反が認められた場合に、労働基準監督署から出されるのが「是正勧告」です。是正勧告とは、法令違反が認められる企業に対して、労働基準監督署が当該違反事項の改善を求めることをいいます。

労働基準法は、さまざまな労働者の権利と企業が順守するべき項目を規定しています。多くの企業が労働基準法を理解し、法律の定めに沿って制度を整備する一方で、なかにはそうではない企業もあります。長時間労働や残業代の未払い、36協定の未締結や就業規則の不備など、さまざまなケースが労働基準法違反として指摘されています。

監督指導が入る前には労働基準監督署から調査実施の連絡があり、立ち入り調査や聞き取り調査、帳簿や書類の調査で法違反が確認された場合に、是正勧告がなされるのが通常の流れです。

是正勧告と指導の違い

労働基準監督署が発するものとして、是正勧告のほかに「指導」があります。この二つの違いは、明らかな法令違反があるかどうかという点です。

指導の場合は指導票というものが企業に交付されます。指導は、明らかな法律違反ではなく、法律違反の可能性がある事項や、望ましくない点がある場合に出される警告です。指導の場合は、是正勧告より強い効力はありません。しかし、望ましくない点について指摘されているわけですから、企業は当該事項の改善に務めるとともに、労働基準署に報告を行う必要があります。

是正勧告に拘束力はある?

是正勧告は、直ちにその場で罰金といった罰則が課されるものではありません。

是正勧告は、行政指導にあたるものです。行政指導とは、行政からの助言・指導・勧告など処分にあてはまらないものをいいます。あくまでも相手方である企業の任意の協力によって行われるものであり、「非権力的」手段に位置づけられ、「できればこうしてください」という意味合いのものなのです。

行政指導のなかでは、助言<指導<勧告の順番に強度は高まります。そのため、是正勧告は、特定の事柄について具体的な行動をとるよう説き進めるという意味で、ある程度の強度を持ったものと考えられます。

ただし、法的拘束力がないからといって、是正勧告を何度も無視するようなことがあってはいけません。悪質で重大と判断されれば、検察庁に送検される可能性もあるのです。

対して、拘束力のある措置を「行政処分」といいます。行政処分では、営業停止命令や許可取り消しといった、公権力に基づく処分が下されます。企業や業者の違法性が疑われる事柄について調査の上、行政指導を行うのが通常の流れですが、違法性の高いケースの場合にはいきなり行政処分が下されることもあります。

労働基準監督署から是正勧告がくるケース

労働基準関係法令法に違反している事柄に対して、是正勧告が交付されます。労働基準監督署が取り締まる法律には以下のものがあります。代表的な是正勧告を受けるケースとあわせて確認していきましょう。

【労働基準監督署が取り締まる法律の種類】

  • 労働基準法
  • 労働安全衛生法
  • 最低賃金法
  • 家内労働法
  • じん肺法
  • 賃確法(賃金の支払の確保等に関する法律)

【是正勧告の内容例】

  • 労働時間
  • 割増賃金
  • 労働契約
  • 法定帳簿
  • 健康診断
  • 就業規則
  • 年次有給休暇
  • 安全・衛生環境
  • 最低賃金

労働時間に関する是正勧告

労働基準法には労働時間についての規定があり、時間外労働の上限規制も定めています。週に40時間、1日に8時間を超えて労働させる場合には36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。届出がないまま、労働者を働かせた場合は法律違反となります。また、36協定を結んでいたとしても、法律の定める上限を超えて働かせた場合には違反となるため注意が必要です。

割増賃金に関する是正勧告

時間外労働や休日労働、深夜労働について、割増賃金が正しく支払われていないケースも労働基準監督署が指摘する対象となります。過去には、「サービス残業」という言葉が日本企業の一つの在り方のように使われていましたが、法律の規定を無視した長時間労働や残業代の未払いは、違反行為として扱われます。

近年は、テレワークやフレックス制度など、柔軟性の高い働き方を採用する企業が増えています。しかしながら、そうした従来の働き方とは違う勤務体系であっても、法律に規定する割増賃金率が適用されます。企業が新たな取り組みを導入する際、労働基準法に沿ったものであるか注意しなければなりません。

労働契約に関する是正勧告

労働基準法では、企業が労働者を雇い入れるにあたって、労働時間や就業場所、雇用期間、賃金の決定など、明示しなければならない事項を定めています。一定の事項は書面交付を義務付けており、こうした事柄を明示せずに雇用するなど、労働条件を適切な方法で明示しないケースは、労働基準法違反として扱われます。

法定帳簿に関する是正勧告

労働基準法や労働基準法施行規則において、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」の作成と保存が義務付けられています。これら3つの書類は法定三帳簿ともう呼ばれ、労働基準監督署が立ち入り調査を行う際に提出を求められることが多いでしょう。

これら法定帳簿は、5年の保存期間が定められています。現在は経過措置として「当分の間は3年」と規定されており、定めに従い適切に書類を保存しなければなりません。

参考:労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう|厚生労働省

健康診断に関する是正勧告

企業は、雇用している従業員に対して、労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しなければいけません。常時使用する労働者に対しては、雇い入れの際と1年以内ごとに1回の健康診断の実施が必要です。深夜業や著しく暑熱・寒冷な場所で業務するなど一定の業務では、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の特定業務従事者健康診断が必要となるので注意しましょう。

また、特定の有害な業務に常時従事する労働者に対しては、特殊健康診断やじん肺健診、歯科医師による健診が必要です。

参考:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう|厚生労働省

就業規則に関する是正勧告

常時10人以上を雇用する企業は、就業規則の作成および届出が必要です。作成や届出を怠った場合にも是正勧告の対象になります。また、就業規則には、労働時間や賃金、退職といった必ず定めなければならない「絶対的必要記載事項」と、安全衛生や職業訓練などのように従業員に共通するするがある場合には定めなければならない「相対的必要記載事項」があります。

これら絶対的必要記載事項や相対的必要記載事項は、就業規則に必ず盛り込まなければいけないものです。たとえ就業規則を作成していたとしても、必要記載事項に抜け漏れがある場合は、労働基準法に違反していると判断されます。

年次有給休暇に関する是正勧告

年次有給休暇は、労働者の権利です。雇い入れから6カ月以上経過し、全労働日の8割以上出勤している労働者には、勤続年数と所定労働日数に応じた年次有給休暇が付与されます。

パートやアルバイトといった勤務時間が通常の労働者よりも短い場合は、週の所定労働日数に応じた比例付与が採用されます。そのため、正社員ではないからという理由で年次有給休暇を認めないようなことがあれば、労働基準法違反となります。

また、2019年4月1日以降は、一定の条件に合致する労働者に対しては、年5日の年次有給休暇を消化させることが企業の義務となりました。最新の規定も踏まえ、適切な対応をしなければいけません。

安全・衛生環境に関する是正勧告

職場の安全衛生を整えるため、さまざまな規定が設けられています。たとえば、条件に合致するのに衛生管理者が選任されていない、産業医が選任されていないという職場は、労働基準法に違反するとして是正勧告の対象となります。

創業間もない企業では必要なくても、規模が拡大し従業員が増えるにしたがって、整えなければならない安全衛生管理体制が出てきます。法律に従った体制が整備されているかの確認が必要です。

参考:安全衛生に関するQ&A|厚生労働省

最低賃金に関する是正勧告

最低賃金には都道府県ごとに定められた地域別最低賃金と特定の産業に定められた産業別最低賃金の2種類があります。地域別最低賃金と産業別最低賃金の両方が適用される場合には、高い方の最低賃金で従業員の給与を計算しなければなりません。

最低賃金より低い賃金を支払っていた場合、最低賃金で計算した給与が従業員の給与とみなされるため、最低賃金で計算した給与と実際に支払われた給与の差額が賃金の未払いとなり、是正勧告の対象となります。

労働基準監督署から是正勧告を無視したらどうなる?

是正勧告は法的な拘束力を持つものではありません。しかし、労働基準監督署から交付された是正勧告を無視すると、さらなる強制的な捜査を受けたり、刑事罰の対象となったりする可能性があります。

是正勧告を受けた時点で、自社の制度や対応に法令違反が認められるということです。何度も改善指導を受けたにもかかわらず改善しない場合には、捜索・差押え、逮捕などの強制捜査が行われることもあります。重大・悪質と判断されれば、検察庁への送検・企業名の公表が行われる可能性もありますので、是正勧告で指定された期日までに、法令違反の内容を確認し、必ず是正報告を提出しましょう。

参考:労働基準監督署の役割|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

是正勧告には適切に取り組もう

労働基準監督署からの是正勧告は、法令違反に対してなされるものです。賃金計算や労働時間、就業規則の作成など、企業が守らなければいけないさまざまな法令があります。法的な拘束力を持ってないとはいえ、法令違反として認められた場合は真摯に改善に取り組むことで、書類送検など、企業の信用に深刻な影響を与える事態を避けることができます。

よくある質問

労働基準監督署の是正勧告とはなんですか?

労働基準監督署の立ち入り調査の結果、法令違反の事実が確認された場合に交付されるものをいいます。是正勧告には、違反事項と指導内容、改善の上で報告するべき期日などが記載されています。詳しくはこちらをご覧ください。

どういった場合に是正勧告がきますか?

労働基準法などで定める企業や使用者としての義務を果たしていない、労働者の権利を侵害しているといった法令違反に対して是正勧告がなされます。具体的には、長時間労働、賃金未払い、就業規則の不備などです。詳しこちらをご覧ください。


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