- 更新日 : 2024年12月13日
診断書なしで休職は可能?適応障害・つわり・産休前など
従業員の休職手続きでは、適応障害やつわり、産休前など、さまざまなケースによる申請が考えられます。傷病が原因の場合、診断書の提出を求めることが一般的です。ただし、会社によっては診断書を提出しないで休職できる場合があります。
今回は、診断書がなくても休職可能なケースについて、企業側の対応法も含めて解説します。
目次
診断書なしで休職は可能?
病気やケガによる休職は、社内の就業規則の規定に基づくため、医師が作成した診断書の提出を求めます。ただし、診断書なしでも休職が可能な場合もありますので、主な3つケースについて紹介しましょう。
会社の就業規則による
うつ病などの精神的な理由や、その他の私傷病で出勤できなくなった場合、多くの企業では休職として対応可能です。社籍を入れた状態で、体調が回復したときに復帰できる仕組みとなっています。
さらに、休職制度を運用する場合。就業規則に休職期間の上限や適用条件が明記されていることが一般的です。「医師の診断書の提出」が条件となっている場合がありますが、例外として診断書なしでも対応する企業も一定数存在します。
診断書があっても休職開始の指示が記載されていない場合
休職を申請する従業員は、医師の作成した診断書を提出するのが基本ですが、提出した診断書に休職開始指示が記載されていない場合もあります。
診断書に休職開始日が記載されていない場合は、原則として診断書を提出した翌日から休職開始と判断しなければなりません。医師による「休職を要する」という判断は、診断時の病状を診ての見解です。診断が出ているのに、従業員を出勤させた場合は職場で何かあった場合、会社の責任となる可能性があります。
特に精神疾患の場合は、外見では判断がしにくい面があります。しかし、医師の「休職を要する」という診断であれば、休職開始指示の記載がなくても翌日から対応可能です。
医師による診断書以外の書類がある場合
診断書は、医師に依頼すればその場ですぐ作成してもらえるものではありません。基本的に医師は複数の患者を対応しています。そのため、状況や診療の優先順位によっては診断書の作成や手元に届くまで日数を要す場合もあるでしょう。
会社が休職を許可する際は、医師の診断書が必要な場合がほとんどです。しかし、病状が重く休職を急ぐケースもあります。そのようなケースでは、診断書以外の書類で判断することも必要です。例えば、医師の書く診断書以外では次の書類が該当します。
- 療養証明書
- 診療情報提供書
- 状況説明書
これらは、診断書の作成よりも簡易に作成できる書類です。診断書の作成に時間を要する場合は、依頼してみましょう。
休職願(ワード)のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
そもそも「休職診断書」とは?
休職診断書とは、ケガや病気により仕事ができないと診断したことを証明する書類です。作成できるのは、患者の診察を担当した医師に限ります。休職診断書には、会社に在籍したまま仕事を休み、療養させることが必要という医師の見解が書かれています。
休職診断書に書かれている内容
休職診断書には、次の内容が書かれています。
- 病名
- 症状
- 休職が必要な理由
- 療養のために必要な休職期間
休職診断書は、患者が仕事をできる状況ではないことと、療養が必要な点を会社に理解してもらうために必要な書類です。
そもそも休職制度とは?
会社を休むために申請が必要な休職制度は、従業員を一定期間休ませることを目的としており、自己都合や会社都合などで制度が利用可能です。なお、休職中でも雇用契約は継続します。
自己都合で利用する休職制度
自己都合で利用する休職制度は、従業員が会社以外の活動理由で長期的な休みを取得するための制度です。次の制度が会社以外の活動の際に利用できる場合があります。
自己都合で利用する休職制度 | 概要 |
---|---|
事故欠勤休職 | 会社以外で傷病以外の自己都合で長期的に休む場合の休職制度 |
起訴休職 | 何らかの刑事事件で起訴されて仕事ができなくなったときの自己都合による長期休職制度 |
自己啓発休職 | 会社の業務には直接関係のない留学や資格取得、研修参加など自身の能力を向上させる目的で取得する休職制度 |
私傷病休職 | 業務外の病気やケガが原因で仕事ができなくなったときの長期休職制度 |
会社都合で利用する休職制度
会社都合による休職制度は、会社からの指示や業務が原因で長期的に休む際に利用する制度です。会社からの命令や、一時的に籍を移動する必要がある場合に利用します。
会社都合で利用する休職制度 | 概要 |
---|---|
留学休職 | 復職後のキャリアアップなどを目的にして、希望する従業員が能力向上を目指した留学で長期休職する制度 |
出向休職 | グループ企業や関連企業などで従業員の一時的な転籍で利用する長期休職制度 |
組合専従休職 | 労働組合員になった従業員が組合活動に専従するために取得する休職制度 |
休職期間中の給与は無給
休職制度を活用した場合は、基本的に休職中の給与が無給です。そのため、休職期間中は在籍する会社以外から給与の代わりとなる補償を受け取る必要があります。
例えば、傷病による休職であれば傷病手当金が生活保障となります。出向休職であれば出向先の会社から給与が支払われます。
傷病手当金の申請に医師の診断書は必要?
私傷病休職の場合に支給される傷病手当金は、基本的に医師の診断書が必要です。医師の診断書は、医療機関の専門家の見解としてケガや病気の状態を証明します。傷病手当金は、第三者である主治医の見立てにより休職期間が定められ、その期間中の生活保障に充てられます。
そもそも傷病手当金とは?
傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に申請することで支給される生活保障制度です。支給対象者は、健康保険の被保険者本人のみであり、扶養家族は対象外です。傷病手当金を受給するには、次の条件が必要です。
- 健康保険被保険者本人であること
- 業務外のケガや病気休業中の生活保障
- 入院・通院を問わず療養のために労務不能と診断されること
- 連続した3日以上の病気休業中で4日目以降の休んだ日に対して支給
- 休んだ期間に会社から給与の支給がない、または会社から傷病手当金の額より多く報酬額の支給を受けていないこと
上記の条件に該当している従業員(その家族)に支給されます。
傷病手当金の申請手順
傷病手当金は、申請しなければ支給されません。傷病手当金を申請するには、次の手順が必要です。
- 傷病手当金支給申請書(申請者情報・申請内容・事業主証明・療養担当者の意見書など計4枚)に必要事項を記入
- 傷病発症1カ月前の給与台帳またはタイムカードのコピー(初回申請時)
- 年金振込通知書のコピー(障害厚生年金受給者の場合)
- 休職が必要と診断した医師が作成した診断書の取得(必要な場合)
なお、傷病手当金支給申請書は以下のURLからダウンロードすることが可能です。
上記の手順で集めた書類や申請書に必要事項を記入(入力)し、会社の人事労務担当者または被保険者本人が最寄りの全国健康保険協会支部または健康保険組合に提出(郵送・持ち込みなど)します。
傷病手当金は退職した後も受給できる
傷病手当金は、退職した後も受給できます。退職後に受給するには、退職日時点で傷病手当金の支給要件を満たしている必要があります。原則として、任意継続被保険者は支給対象外ですが、資格喪失後の継続給付に該当する場合は、出産手当金と傷病手当金も支給されます。
例えば、退職後に健康保険を任意継続した後に発症したケガや病気の場合は、傷病手当金の支給対象から外れます。
診断書なしで休職する場合の企業側の対応法
従業員が診断書のない状態で休職を申請する場合、会社側として取るべき対応方法は次の通りです。
診断書の提出を義務化する
会社は、業務以外の傷病による休職を申し込んできた際に診断書の提出を義務化しておく必要があります。つまり、病気やケガなどで労務不能となった際は、会社のルールとして「診断書の提出」を就業規則に義務づけましょう。
就業規則での義務づけは、専門家である医師の見解がなければ休職を認めないという姿勢でもあります。就業規則で示しておけば、全ての部署で共通した対応ができます。診断書の提出を義務化するには、その旨を就業規則に記載しましょう。
就労困難な状況を本人が把握しているか確認する
従業員の中には、本来ならば休職が必要なほど就労困難な状況の人もいるかもしれません。そのような従業員を放置しておくと、会社による労働者への安全配慮義務違反と判断される可能性があります。
労働契約法第5条では、会社側は労働者に対して安全配慮義務を負っています。そのため、使用者である会社は、労働者の健康や安全に配慮しなくてはなりません。また、会社側は、従業員本人が就労困難な状況を把握しているか常日頃から確認することが重要です。
適応障害で診断書をもらい「休職しない」ということは可能?
従業員の中には、メンタル面の不調から適応障害になる場合もあるでしょう。適応障害は、特定の環境や状況に対して自分が適応できなくなったときに強いストレスを感じ、気分や行動に障害が出る疾患です。悪化すると、うつ病となる可能性があります。
また、適応障害と診断されたとしても、休職せずに働き続けたいと考える人もいます。そのような場合、適応障害であっても業務量の調整をしながら働き続けているケースが多い模様です。
適応障害の診断を受けて休職しないメリット
適応障害の診断を受けても休職せずに働くことには、次のメリットがあります。
- 休まずに仕事を続けられたことに自信を持てる
- 休職後の職場復帰時の心配がなくなる
適応障害の診断を受けて、休職をしないという選択は、あくまでもストレスの要因が職場や職場の上司・同僚ではないことが前提です。もし、職場に原因があるならば適応障害の症状は治りにくいでしょう。適応障害は、原因となる環境や行動などから遠ざけることが症状を軽くする近道とも考えられます。
適応障害の診断を受けたのに休職させてもらえないのは違法?
職場や上司によっては、適応障害の診断を受けても休職させてもらえない場合もあります。もし、医師の書いた診断書に「適応障害」と病状だけ記載してあった場合は、休職の必要性には触れていません。そのため、会社として休職させようとは考えないでしょう。
ただし、適応障害の診断書に休職の必要性と具体的に必要な休職期間が記載されていた場合は、会社が休職を認めないことは安全配慮義務違反となる可能性があります。
医師による「休職の必要性がある」との診断を無視して働かせることは、訴訟リスクにも発展するでしょう。会社が休職を認めないことは安全配慮義務違反となる可能性があります。状況が悪化してうつ病となった場合は、自殺リスクなども高くなるため、医師の診断には従うことが必要です。
つわりや産休前に診断書なしで休職は可能?
病気やケガが原因の休職ではなく、妊娠中の休職では、診断書を必要としない場合があります。例えば、つわりや産休前の休職では、診断書の必要性はケースバイケースであり、つわりの症状や産休の申請方法によります。働き方改革が浸透している今日では、労働基準法において母性保護規定が定められている状況です。
労働基準法第65条によると、産前休業は女性労働者が請求した場合、出産予定日の6週間前(多胎妊娠のうち双子の場合は14週間前)から取得可能となっています。
つわりで休職する際に診断書がないと欠勤あつかい
つわりで休職する際は、診断書を必要とします。診断書がないと、欠勤あつかいとなるかもしれません。妊娠中の従業員は、つわりのひどさによって、休職したいときもあるでしょう。そのような状況で休職する場合は、医師による判断が求められます。
医師が診断書に「つわりによる症状が重いため休職を要する」と書いた場合は休職の申請が可能です。
つわりで休職する際は母健連絡カードが有効
つわりで休職する際は、母性健康管理指導事項連絡カード(以下、母健連絡カード)が有効です。母健連絡カードとは、妊娠中の労働者を支える診断書の効力があります。妊娠中や産後に発生するさまざまな疾患を予防するための主治医による必要事項が記載されたカードです。
母健連絡カードが発行される人は、つわりの重症化など疾患の兆候に対して、次の調整で予防します。
- 妊娠中の通勤緩和:混雑時の通勤を避けた勤務開始・終了時間の調整
- 妊娠中の休憩に関する措置:妊娠中の労働者からの申し出により休憩の増加・調整を行う
- 妊娠中の症状などに対応する措置:妊娠中の労働者からの申し出により作業の制限や作業環境の変更、勤務時間の短縮、休業などの調整を行う
産休前の休職に母健連絡カードがあれば診断書は不要
産休前の休職は、母健連絡カードがあれば診断書は不要です。母健連絡カードは、医師が妊娠中の症状に対して予兆や予防などを書き記した証明文書に該当します。診断書と同等の効力を持つため、産休前に休職する場合は、母健連絡カードのみで申請が可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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