• 更新日 : 2024年8月29日

セルフ・キャリアドックとは?導入手順、メリット、企業事例などを解説!

採用難となった現代社会において企業が成長を遂げるためには、従業員の成長と定着が必要不可欠な要素です。それに対して、従業員の主体的な成長を企業が支援する人材育成の仕組みであるセルフ・キャリアドックが注目を集めています。

今回は、セルフ・キャリアドックのメリットや導入手順、事例、助成金の活用などについて解説します。

セルフ・キャリアドックとは?

セルフ・キャリアドックとは、自社の人材育成ビジョンや方針に基づいて従業員の主体的なキャリア形成を促進し、支援する企業内の仕組みのことです。キャリアコンサルティングを行うための面談や多様なキャリア研修などを組み合わせながら、体系的・定期的に従業員のキャリア形成支援を実施します。

セルフ・キャリアドックが注目される背景は?

労働環境の変化や政府の後押しに伴い、セルフ・キャリアドックが注目されています。

労働環境の変化

労働力人口の減少、シニア雇用の推進が、労働環境の変化に大きな影響を与えています。

 労働力人口の減少

少子高齢化に歯止めがかからない中、日本の労働力人口が毎年減少しています。それに伴い採用が難しくなり、従業員を定着させた上で着実に成長させるための仕組みが必要です。

シニア雇用の推進

高年齢者雇用安定法の改正や労働力人口の減少に伴い、世の中の企業のシニア雇用が進展し続けています。高年齢になっても働き続けるには、主体的・継続的なキャリア形成が必要となるため、企業内での仕組みづくりが求められるでしょう。

政府の後押し

職業能力開発促進法の改正により、政府は、従業員の職業能力の開発を推進する担当者を企業内に設置することを推奨する姿勢を明確に打ち出しました。推奨するにあたって、キャリアコンサルティングの専門家の検索や企業向けのキャリア形成施策の紹介などの情報を幅広く公開しています。

参考:

職業能力開発推進者は、専門的な知識・技術をもつキャリアコンサルタント等から選任しましょう!|厚生労働省

企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ|厚生労働省

セルフ・キャリアドックを実施するメリットは?

セルフ・キャリアドックを実施することで、従業員と企業にそれぞれ次のようなメリットが発生します。

従業員にとってのメリット

自らが主体的にキャリアを形成し、ビジネスパーソンとしての成長や処遇の向上に結び付くことで、モチベーションが向上します。それにより働き甲斐が得られ、充実した人生を送れるようになります。

企業にとってのメリット

主体的なキャリア形成の実現により従業員のモチベーションが向上することで、従業員の定着化が推進されます。企業の経営が安定し、人材の募集や育成に関するコストも削減されるでしょう。さらに、従業員の能力が向上することで企業の生産性が向上し、収益の向上が実現されます。

セルフ・キャリアドックを導入する手順は?

一般的なセルフ・キャリアドックの導入手順を解説します。

参考:「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開|厚生労働省

人材育成ビジョン・方針の明確化

次の手順で、自社の人材育成ビジョン・方針を明確化します。

 経営者のコミットメント

職業能力開発促進法で、従業員がキャリアコンサルティング面談を受ける機会を確保するように努めることが企業に求められています。そのための仕組みを具体化した上で、従業員に対する説明を行い、実施を宣言します。

人材育成ビジョン・方針の策定

人材育成ビジョン・方針とは、自社の人材育成の未来像やゴール、そこに到達するまでの方向性や道筋のことです。人材育成ビジョン・方針を策定するために、今後の従業員に期待する人材像と現実の姿とのギャップを認識し、ギャップを解消するための人材育成方針を明らかにします。

社内への周知

策定した人材育成ビジョン・方針や、それに伴い今後企業が実施する施策などを従業員に対して丁寧に説明し、周知します。

セルフ・キャリアドックの実施計画の策定

次のことを明確にして、セルフ・キャリアドックの実施計画を策定します。

実施内容

今後実施するキャリア研修や、キャリアコンサルティング面談の内容を明らかにします。

キャリア研修に関しては、どのような従業員を対象にして、どのようなことを目的とした研修を行うのかを明確にしましょう。入社5年目の従業員に定着を促進するためのキャリア構築に対するアドバイスを行うといった、社員階層ごとの課題に応じた研修内容を明らかにしていきます。

キャリアコンサルティング面談に関しては、次の内容を明確にします。

  • 実施時期
  • 実施場所
  • 実施時間
  • 実施内容
  • 実施後のフォローアップ内容

必要なツールの整備

次のツールを整備します。

  • キャリアコンサルティング面談準備のための記録シート
  • キャリアコンサルティング面談結果の報告書
  • 従業員からのフィードバックを得るためのアンケート

記録シートは、面談を受ける従業員が面談時に相談したいことをあらかじめ明確にするために自己のキャリア情報などを事前に整理するためのツールです。

報告書により、キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティング面談結果を人事部門に報告します。面談を受けた従業員の感想をアンケートで確認し、今後のキャリアコンサルティング面談をより充実させましょう。

参考:「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開(29・30ページ)|厚生労働省

実施プロセス

セルフ・キャリアドックは、進捗管理を行いながら着実に実施する必要があります。そのために、次のプロセスを明確にします。

  • 目標の設定
  • 研修や面談の実施
  • 結果の把握
  • 計画の見直し

企業内インフラの整備

次の観点から、会社を上げてセルフ・キャリアドックを実施していくことのできる企業内インフラを整備します。

組織と責任者の決定

全社的に、セルフ・キャリアドックの推進を管理する組織を整備します。組織は、司令塔としての役割を果たします。その上で、キャリアコンサルタントを統括する組織の責任者を決定します。

社内規定の整備

社内の制度としてセルフ・キャリアドックを運用するために、セルフ・キャリアドックに関するビジョンや方針、実施・活動内容などを規定化します。その上で、規定の内容を従業員に明示し、周知を図ります。

参考:「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開(30ページ)|厚生労働省

キャリアコンサルタントの育成・確保

キャリアコンサルタントを確保するには、社内で育成する方法と社外のキャリアコンサルタントを活用する方法の2種類があります。キャリアコンサルタントは、次のいずれかの公的資格を保有していることが必須です。

  • キャリアコンサルタント国家資格
  • キャリアコンサルティング技能検定(1級・2級)

情報活用ルールの明確化

セルフ・キャリアドックを効果的に運用していくために、実施により得られた情報を活用するためのルールを明確にします。キャリアコンサルティング面談などで得られた情報をどの部門で共有するのか、その後の教育訓練や人事制度にどのように反映させるのかなどについて明確にしましょう。

従業員からの理解促進

セルフ・キャリアドックは、従業員からの理解が得られないままに一方的に進めても成果は出ません。人事部門と一体になって部下を育成することへの管理職者からの理解、自己の成長のためにキャリア形成を行うことへの従業員からの理解を得る必要があります。

セルフ・キャリアドックの実施

次のような形で、セルフ・キャリアドックを実施します。

 対象従業員向けの説明

セルフ・キャリアドックの対象とする従業員に対して、セルフ・キャリアドックの実施に対する理解を得るための説明を行います。具体的には、次のようなことを説明しましょう。

  • セルフ・キャリアドックの趣旨・目的
  • 実施スケジュール
  • 研修や面談のやり方
  • 個人情報の取扱い

キャリア研修の実施

キャリア形成に関する課題を有すると想定される従業員を対象に、キャリア研修を実施します。受講者が自己のキャリアの棚卸を行った上で、今後のキャリア形成に関する目標や行動計画の策定につながる研修内容であると効果的です。

研修実施後は、受講者がどのような気づきを得たのかを確認するため、アンケートなどで振り返りを行うことが望ましいです。

 キャリアコンサルティング面談の実施

キャリアコンサルティング面談とは、今後のキャリア形成のプランを明らかにすることの導きを行う目的でキャリアコンサルタントが個別に行う面談のことです。

仕事内容や働き方、キャリア形成に対する自己理解を促し、キャリア形成に関する課題を認識した上で、今後のキャリア形成に向けた対応を明らかにします。キャリアコンサルタントによる面談後のフォローも重要です。

 セルフ・キャリアドックの振り返り

受講者だけではなく、会社としてのセルフ・キャリアドック実施の振り返りも行います。実施したことによる全体としての成果が、会社が掲げたキャリア形成に関するビジョンや目的と合致しているのか検証しましょう。合致していない場合は、その後の実施内容の見直しを行います。

フォローアップ

セルフ・キャリアドックの取り組みを推進し続けながら効果的なものにしていくためのフォローアップの仕組みを構築します。次のようなことに関して仕組化することが望ましいです。

  • キャリアコンサルタントから人事部門に向けた研修や面談の実施報告
  • 人事部門から経営層に向けたセルフ・キャリアドック実施に関する報告
  • 対象従業員への研修や面談実施後のフォロー
  • 研修や面談実施を仕事で生かすための上司に対するアドバイス
  • 研修や面談実施を仕事で生かすための関係部署との調整

セルフ・キャリアドックを導入している企業事例は?

セルフ・キャリアドックを導入している企業事例を解説します。

株式会社東邦プラン

オーダーメイド広告の制作を行う株式会社東邦プランは、若手従業員が自律的に成長していける仕組みのないことが課題でした。その課題を解消するため、新たに経営指針にキャリアコンサルティング面談の実施を盛り込んで、次の取り組みを実施しました。

  1. 社外のキャリアコンサルタントを活用した従業員へのキャリアコンサルティング面談の実施
  2. キャリア形成に対する従業員の意識やキャリア形成の現状の姿を可視化するためのキャリア健診の実施

これらの取り組みにより、キャリア形成に対する従業員の満足度の向上、管理職者の成長という成果が得られたことを実感しているそうです。

参考:セルフ・キャリアドックの取り組み事例|株式会社東邦プラン

伊藤忠商事株式会社

総合商社の伊藤忠商事株式会社は、従業員のキャリア支援を行う体制はあるものの、従業員が活用しきれていないことが課題でした。その課題を解消するために、入社4年目・8年目を迎える従業員を対象にしたセルフ・キャリアドックを導入し、次の取り組みを実施しています。

  1. 実務対応力や思考力を高めるための研修の実施
  2. 社内のキャリアコンサルタント有資格者によるキャリアコンサルティング面談の実施
  3. キャリア形成に対する従業員の満足度や意識を測定するためのキャリア健診の実施

従業員の希望と会社の求めるキャリア内容とのすり合わせを行った後に、今後の人材育成に反映させられるようになりました。

参考:セルフ・キャリアドックの取り組み事例|伊藤忠商事株式会社

株式会社パスコ

測量、建設コンサルティング等の事業を行う株式会社パスコは、若手社員が自分の将来を見いだせない状況にあることが課題でした。その課題を解消するために、次の取り組みを実施しました。

  1. 社員階層ごとのキャリア研修の実施
  2. 希望者に対するキャリアコンサルティング面談の実施
  3. 社外のキャリアコンサルタントが分析した管理職者向け研修の結果を経営陣が共有

多くの従業員がキャリア形成に関する気づきを得ることができ、キャリアを形成していくことへの理解が進んだことを実感しているそうです。

参考:セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業 好事例集(37ページ)|厚生労働省

セルフ・キャリアドックの導入に助成金は活用できる?

セルフ・キャリアドックを対象とした助成金として、「人材開発支援助成金(制度導入助成)」という制度があります。事業主が継続して人材育成に取り組むために人材育成制度を新たに導入し、従業員に対して実施したことに対する助成です。助成額は47.5万円(生産性要件を満たす場合は60万円)です。

参考:人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル|厚生労働省

セルフ・キャリアドックは企業が成長を遂げるための重要な施策

日本の少子高齢化に伴う労働力人口不足の流れが、今後も続いていくことが確実視されています。一方、企業が成長を遂げるためには、環境に適合した事業を推進していくための戦略を構築し、必要な人材を配置する活動を継続していかなければなりません。

そこでキーワードとなるのが、「人材の定着化と成長」です。それを実現させるための効果的な仕組みとして、セルフ・キャリアドックの導入を検討してみませんか。


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