• 更新日 : 2024年8月23日

競業避止義務とは?定め方や就業規則・誓約書のひな形、記載方法

競業避止義務とは、自社の従業員が競業にあたる事業を行えないようにすることを指します。競業避止義務は、契約締結などによって課されるケースが多いです。

従業員は業務内容によって勤務している企業の重大な情報を共有したり、特別なノウハウを身につけたりすることがあります。その従業員が競合他社に転職すると自社に損失を招く恐れがあり、競業避止義務を課すケースがあるのです。

しかし、過度な競業避止義務は無効になることがあり、定め方には注意が必要です。具体的にどうすればよいのか、競業避止義務を課す方法などを解説します。

競業避止義務とは

競業避止義務は、自社で従業員が特別な知識やノウハウを身につけることによって起こる自社のリスクを回避するために重要な役割を果たします。

例えば、競業を営む他社に転職することで自社が不利になることもあり、同種の事業を立ち上げる際に自社の取引先を奪われることもあります。このような事態を避けるために、競業に当たる事業を行えないように就業規則や雇用契約書、誓約書などによって義務を課すのです。

ただし、従業員個人には職業選択の自由があるので、退職後の行動を厳しく取り締まることはできません。そのため義務の内容が重すぎる、業務の範囲が広すぎる、禁止する期間が長すぎるなどといった場合、無効という法的評価を受ける恐れがあり、従業員と争いが起こることもあります。

競業避止義務を定めるケース

企業が競業避止義務を定めるべきケースには、以下のようなものが挙げられます。

  • 企業の秘密情報やノウハウの持ち出しに大きなリスクが伴うケース
    従業員は在職中に企業の秘密情報やノウハウに触れる機会がある。退職後、競合他社に就職したり、自ら事業を立ち上げたりするとき、その情報などを活用し、企業の利益が損なわれるリスクが大きいときに定めることが多い。
  • 取引先を奪われる可能性があるケース
    従業員が在職中、個人的に取引先と関係性を構築しており、退職後その関係を利用することもある。こうして取引先が奪われる恐れがあるときに設定することが多い。

このように、競業避止義務を設定する行為は企業の秘密情報やノウハウ、取引先を逃さないために重要なことといえるでしょう。

近年、副業をする従業員が増え、企業機密やノウハウの流出防止に対するリスク管理が企業の重要な課題となっています。退職後における同業他社へ転職だけではなく、社員の在職中の競合事業の立ち上げにより、企業の機密情報や高度なスキルやノウハウ、人的ネットワークが外部へ流出するリスクがあることにも注意しなければなりません。

競業避止義務の定め方

競業避止義務の定め方に決まった方法はありません。実務上多いのは、以下の3つが挙げられます。

  1. 誓約書を個別に作成するパターン
  2. 就業規則に定めるパターン
  3. 個別の誓約書と就業規則の両方を使って定めるパターン

誓約書を使うときや就業規則を使うときなど、それぞれの競業避止義務の定め方を紹介します。

誓約書を作成する場合(誓約書のテンプレート)

まずは誓約書を作成するパターンです。次のような文書を作成して、従業員に同意のサインをしてもらうことで個別の合意を得ておきます。

株式会社○○(以下、「甲」という)を退職するにあたり、従業員○○(以下、「乙」という)は、退職後1年間、甲から許諾を受けない限り、次に該当する行為をしてはいけない。

  1. 甲で従事した○○を通じて得た経験や知見が甲にとって重要な秘密ないし、ノウハウであることを鑑み、当該○○に係る職務を、甲の競合他社または競業する新会社において行うこと。
  2. 甲で従事した○○に係る職務を、甲の競合他社から受注ないし請け負うこと。

なお、一般的な競業避止義務を設定するのみであれば、就業規則に定めて一律に適用したほうが効率的です。そのため誓約書を作成するのであれば、従業員個人に着目して、個別の内容にカスタマイズすることを検討すると良いでしょう。

当該従業員がどのような業務に従事していたのか、具体的にどのような行為を制限する必要があるのか、業務内容と照らし合わせてよく考えることが大事です。

以下のサイトから一般的な誓約書のテンプレートをダウンロードすることが可能です。誓約書の書き方がわからない場合には、活用すると良いでしょう。

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就業規則に記載する場合(就業規則のテンプレート)

就業規則に記載するルールは従業員に共通に適用されるルールとなるため、原則的な規定のみを置くことが一般的です。例えば、次のような形で記載をします。

第○条 (競業避止義務)従業員は、在職中及び退職から6カ月間は、競合他社に就職すること及び競合する事業を営むことを禁ずる。

ただ、就業規則の規定のみで十分な効果が期待できないときは、個別の誓約書も併せて利用することがあります。その際、就業規則と誓約書で異なる内容になっていると誓約書による契約の効果が無効になることもあるため、次のように誓約書の内容を優先すると就業規則に定めておきましょう。

「個別に契約を締結したときは、当該契約によるものとする」

就業規則に定める場合、服務規律に定めるのが一般的です。退職時に誓約書の提出を求めるのであれば、「人事」について定めた章の「退職」の項目にも、同様に規定を設けるのが良いでしょう。誓約書以下のサイトでは一般的な就業規則のワードのテンプレートをダウンロードすることが可能です。誓約書の書き方がわからない場合には、活用すると良いでしょう。

就業規則(ワード)のテンプレートを無料でダウンロードする

個別の誓約書と就業規則の両方で定める

就業規則に誓約書を提出させる旨の規定がないと、会社が命じる根拠がないことを理由に誓約書の提出を拒否されることもあります。労働契約法第7条では、次のように規定しています。

労働契約法第7条

「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。」

引用:労働契約法 | e-Gov法令検索

つまり、就業規則を労働条件として効力を持たせるには、合理的な労働条件が定められていて、従業員に適切に周知していることが要件となります。服務規定で一般的な競業避止義務について定めるとともに、退職時の手続きとして、次のような規定を就業規則に設けるのも良いでしょう。

【服務規律】

第○条 (競業避止義務)従業員は、在職中及び退職から6カ月間は、競合他社に就職すること及び競合する事業を営むことを禁ずる。なお、個別に契約を締結したときは、当該契約によるものとする。

【人事の章の退職の項目】

第〇条(退職)

第〇項 退職時(解雇・懲戒解雇も含む)においては、退職する日までに、会社所定の競業避止義務・守秘義務に関する誓約書を提出しなければならない。

就業規則でこのように定めておけば、個別の誓約書を作成し、退職する従業員にもその誓約書の提出を求めることができます。

競業避止義務が有効か判断するポイント

自社に勤務している間の競業行為を禁ずる規定は広く認められやすい傾向です。ただし、退職後の行動は原則として従業員の自由であることから、その後の競業避止義務については無制限に認めることはできません。

過去の裁判所の考えに基づけば、次の6つが重要な判断ポイントといえます。

  1. 企業秘密やノウハウなどを守る必要があるか
  2. その従業員に義務を課す必要があるか
  3. 競業が禁止される地域が限定的か
  4. 競業が禁止される期間が限定的か
  5. 禁止行為の範囲が広すぎないか
  6. 代償措置が取られているか

それぞれ詳しく説明していきます。

企業秘密やノウハウなどを守る必要があるか

競業避止義務規定の有効性を判断する上で前提となるのが「守るべき利益があること」です。従業員に制限をかけてまで守るべき利益が企業にあることを求められます。

何が企業側の利益と呼べるのか、それは個別の判断によります。例えば、顧客情報や意匠権など不正競争防止法で保護対象になっている営業秘密は、企業にとって守るべき利益であると評価できます。他にも、自社のノウハウ、技術なども守るべき利益と評価される余地があります。

ただし、当該技術などが広く流布されており、他社でも容易に再現・利用できるものであるときは、企業に利益があるとは評価されにくいでしょう。

その従業員に競業避止義務を課す必要があるか

競業避止義務を課してまで企業に守るべき利益があったとしても、当該利益に影響のない従業員にまで一律に重く義務を課すことは認められません。

従業員個別の事情を考慮してその必要性を評価することが重要です。そのため、単に「役員」という肩書があるだけで広く競業避止義務の制約が認められるわけではないため、当該人物が具体的にどのような業務に接してきたのかを考える必要があります。

逆に、アルバイトなどの立場であったとしても、特別な技術やノウハウを共有されていたのであれば、競業避止義務を課すことに必要性があると考えられるでしょう。

競業が禁止される地域が限定的か

同業他社への転職を禁ずるルールを置くケースもありますが、その場合は自社の事業内容と照らし合わせてエリアの制限についても考える必要があります。

例えば、特定のエリア内に限って営業をしているにもかかわらず、単に同じ業種だというだけで全国の同業他社への転職を禁ずるというルールは行き過ぎているでしょう。

逆に、日本全国にサービスを展開する企業の場合、地理的制限がないからといって常に禁止範囲が過度に広いということはできません。そして地理的制限の内容のみで義務の有効性が決まるとは限らず、その他の事柄も総合的に評価する必要があります。

競業が禁止される期間が限定的か

競業が禁止される期間についても重要です。あまりに長い期間、例えば、「生涯、他社への転職を禁ずる」とする制約内容は行き過ぎていると考えられます。とはいえ、「○年以下ならOK」「○年以上ならNG」などと線引きができるわけでもありません。

従業員の不利益の程度、業種の特徴、守るべき企業の利益、さまざまな要素を踏まえて評価されます。

ただ、傾向としては1年以内の期間に制限した場合は有効と評価がされやすく、2年を超えてくると否定的な評価を受けやすいでしょう。そのため期間に関しては、「なぜその期間にしているのか」といった、根拠のある期間を設定することが大事です。

禁止行為の範囲が広すぎないか

どのような活動を禁止するのか、どのような職種に就くことを禁止するのか、禁止行為の範囲の広さにも着目しましょう。

当然、禁止対象の活動を具体的に定め、限定しているほど競業避止義務の有効性は認められやすくなります。ただ、詳細に個別の具体的な行為を明記しないといけないわけでもありません。「在職中に従事していた業務内容」「在職中に担当した顧客との取引」といった形で範囲を定めても有効と認められる可能性は十分にあります。

代償措置が取られているか

強い制限がかけられていたとしても、それに見合うだけの代償措置が取られているのであれば、競業避止義務も有効と評価されやすくなります。

代償措置の有無については、明確に「代償措置として○○万円を支払う」などと示されている必要はありません。代償措置と明示されていなくても、競業避止義務が課せられて以降の賃金が大きく上がったのであれば、その事実をもって代償措置と捉えることもできます。

競業避止義務を定める際の注意点

競業避止義務を厳しく定めるほど企業にとって有利な状況といえるでしょう。しかし、「義務の内容が厳しすぎる」と従業員から反発を受けるリスクが高くなり、訴訟トラブルにまで発展するケースは多くあります。

そこで競業避止義務の内容が適法となるよう、上記6つのポイントを踏まえて過度な制限になっていないかどうかを慎重に判断することが大事です。企業側は、就業規則に規定を置いたり、個別の合意を取ったりする前に、弁護士のチェックを受けるなどして有効性を評価してもらいましょう。

また、自社と状況の近い過去の裁判例を調査して、その事件における裁判所の判断を確認することも有効です。そうすることで、単に相場に沿って無難な内容とするのではなく、独自に最適化された競業避止義務規定を作りやすくなります。

そして当然のことながら、「自社の利益をその規定内容で守れるのか」という点に着目することも重要です。無効にならないように配慮しすぎるあまり、競業避止の効果が十分に発揮できないのでは意味がありません。法的な評価を交えつつ、必要と思われる場合に義務を課しましょう。

競業避止のサインは拒否できるか

従業員から誓約書にサインすることを拒否されるケースが多々あります。しかし、就業規則に誓約書を提出させる旨の規定があれば、会社が誓約書の提出を命じることができます。就業規則に規定がなければ、競業避止の誓約書のサインを拒まれた場合に誓約書の提出を求めるのは困難となるでしょう。

また、日本では職業選択の自由があり、先述した判断のポイントで解説したように、競業避止義務が無制限に認められるものではありません。仮に従業員がサインしたとしても、司法の判断で無効とされる場合もあります。近年副業・兼業が認められるようになり、従業員の行動を不当に制限するようなことがあれば、モチベーションの低下、離職率の上昇など、他の従業員への影響は計り知れません。

就業規則についても今一度よく確認し、整備した上で、従業員によく説明しておくことが大切です。就業規則を変更してあらたに競業避止義務についての規定を設ける場合には、労働条件の不利益変更に当たる可能性がありますので、説明義務を尽くし、個別に合意を取るようにしましょう。

競業避止義務違反があった場合の対応

就業規則の規定で根拠があれば、会社は誓約書の提出を命じることができます。また、就業規則の服務規定に違反することにもなり、懲戒処分などペナルティを与えることができないわけではありません。しかし、懲戒処分の有効性は労働契約法で判断されます。懲戒処分ができる場合であっても、相応の理由があって処分の重さに妥当性がなければ無効となります。

在職中や退職後に無断で同業種の事業を行って、社内の情報を持ち出したり、企業の取引先を勧誘したりして自己の利益とするようなことがあれば、会社は当該従業員に損害賠償を請求することも可能でしょう。しかし、損害が発生していない場合には、競業避止義務があるからといって賠償請求ができるとは考えられません。

懲戒処分の有効性、民事上の損害賠償請求の判断などは専門家の手を借りるのが一番です。法的なリスクを踏まえつつ、実際に損害が発生したと判断できる場合や、処分が必要と考えられる場合には、専門家である弁護士に一度相談し、必要に応じて対応を依頼するなどといった対応を検討しましょう。

従業員の権利にも配慮した競業避止義務規定を置こう

競業避止義務規定は、自社の重要な情報・ノウハウなどを競合他社に流出しないために重要なルールです。就業規則や個別の誓約書に定めてできるだけリスクを排除できるように定める必要があります。

ただし、あまりに過度な義務を従業員に課してしまうと無効になってしまいます。自社のことだけでなく、従業員の権利にも配慮し、有効な競業避止義務となるよう規定内容を考えましょう。


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