- 更新日 : 2024年10月7日
男性の育休とは?期間や給付金、法改正に伴う企業の取り組みを解説
男性の子育て支援を目的に、産後パパ育休の新設などさまざまな法改正が行われているため、企業の担当者は育休に関する諸制度や法改正を正しく理解することが重要です。
本記事では、男性の育休について解説します。育休の種類や期間、育休中の給与や従業員向けの給付金、企業向けの助成金なども紹介しますので、男性の育休取得推進に役立ててください。
目次
男性の育休(育児休業)とは?
男性の育児休業(以下、育休)には、男女共通の「従来の育休」と男性だけ取得できる「産後パパ育休」の2種類があります。それぞれの概要と、男性の育休の取得例を紹介します。
育児休業
育休とは、会社員など雇用保険加入者が育児のために取得できる休業制度です。従業員から取得申出があると事業主は拒否できません。育休中は雇用保険からの育児休業給付金が支給されます。
対象は「原則1歳未満の子どもを養育する法律上の父母(※)」ですが、保育園が見つからないなどの事情があれば、「1歳6ヶ月になるまで」または「2歳になるまで」延長可能です。また、2回まで分割取得できます。
※特別養子縁組や里親として子どもを養育する人も含みます。
(育休と育児休業給付金のイメージ図)
産後パパ育休
産後パパ育休(正式名称は「出生時育児休業」)は、2022年10月に男性向けに新設されました。「子どもが生まれてから8週間の間(女性の産前産後休業の期間)に最大4週間の休業」を取れます。
男性従業員が休業取得開始の2週間前までに申し出することで取得できます。産後パパ育休は2回に分けて取ることができ、仕事が忙しくて長期間職場を離れにくい男性従業員も取りやすい制度です。
男性の育休の取得例
従来の育休は、原則出生後から子どもが1歳になるまで最大1年間取れます。分けて取ることも可能ですが、分割できるのは最大2回です。
産後パパ育休の新設以降は、上記取得方法のほかに「産後パパ育休」と「従来の育休」を併用して最大4回に分けて育休が取れるようになりました。
(産後パパ育休と従来の育休を併用した取得例)
男性の育休の取得条件
男性の正社員だけでなく、契約社員やパートタイム社員、アルバイトなどの有期雇用の男性社員も、原則1歳未満の子どもを養育していれば育休は取得できます。ただし、有期雇用の社員については、一定要件があります。
有期雇用の場合(契約社員・アルバイトなど)
有期雇用の社員が育休を取得するには、次の要件を満たす必要があります。
- 養育する子どもが1歳6ヶ月になる日までの間、労働契約期間が満了することが明らかでないこと
「有期雇用契約が満了することが明らかでない」には、「更新される」または「更新されないことが明らかでない」ケースも含まれます。
男性の育休取得率の現状、取らなかった理由
政府が進める男性の育休取得推進策の影響もあり、男性の育休取得率は急速に高まっています。男性の取得率の現状やこれまで取らなかった理由などについて解説します。
男性の育児休業取得率は約30%
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、2023年の男性の育休取得率は約30%です。女性の取得率は80%以上で大きな変動がないのに対し、男性の取得率は急速に高くなっています。
(育休の取得率)
男性 | 女性 | |
---|---|---|
2019年 | 7.5% | 83.0% |
2020年 | 12.7% | 81.6% |
2021年 | 14.0% | 85.1% |
2022年 | 17.1% | 80.2% |
2023年 | 30.1% | 84.1% |
なお、有期雇用社員の2023年育休取得率は次の通り正社員を下回る状況です。
- 男性:26.9%
- 女性:75.7%
イクメンプロジェクトによる育休取得率
「イクメンプロジェクト」とは、育児を積極的に行う男性「イクメン」を応援し、男性の育児と仕事の両立を推進する厚生労働省の施策です。同プロジェクトの「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)によると、男性育休取得率は46.2%と雇用均等基本調査を大幅に上回る結果でした。
調査対象は従業員が1,000人を超える全企業・団体のうち回答があった企業などです。大企業ほど男性の育休取得が進んでいると言えるでしょう。
育休取得率の計算方法
厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」の育休取得率は、次の通り計算します。
- 育休取得率=(出産者のうち調査時点までに育児休業を開始した人数)
/(調査前年の9月30日までの1年間の出産者数※)
※男性は配偶者が出産した人数です。
男性が育休を取らなかった理由
厚生労働省委託事業の「令和4年度仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」によると、男性が育休を取らなかった主な理由は勤務形態別に次の通りです。
(男性が育休を取らなかった主な理由)
正社員 | 正社員以外 | |
---|---|---|
収入を減らしたくなかった | 39.9% | 46.4% |
職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だった | 22.5% | 20.5% |
自分にしかできない仕事や担当している仕事があった | 22.0% | 19.6% |
残業が多い等、業務が繁忙であったから | 21.9% | 13.4% |
会社で育児休業制度が整備されていなかったから | 21.9% | 25.0% |
参考:厚生労働省委託事業「令和4年度仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」
育休を取らない理由で最も多いのは、「収入を減らしたくない」という従業員の希望によるものです。しかし、そのほかは仕事が忙しいなど業務上の問題と、育休を取りにくい職場環境の問題が主な理由です。男性の育休取得を推進するには、男性が育休を取りやすい業務体制づくりや雰囲気づくりが企業の課題と言えるでしょう。
男性の育休中に給料は支払われる?
育休中に給料やボーナスの支払いがあるかどうかは企業によって異なります。各企業の給与規定などに基づいて、支給されるかどうか決まるためです。「ノーワーク・ノーペイ」の原則により無給であるのが一般的ですが、賞与や有給の取扱いはどうなっているのでしょうか。ここからは、男性の育休中の給料について解説します。
賞与やボーナス
賞与やボーナスも企業ごとの給与規定などで支給の有無や支給額が決まりますが、査定期間に就業していれば支給される可能性もあります。
たとえば、当年7月支給の賞与の査定期間が「前年10月から当年3月まで」、支給要件が「7月1日の在籍」の場合、4月に出産し賞与支給時は育休中でも賞与は支給されます。一方、賞与支給時までに復職していても査定期間に育休を取得していれば賞与はありません。
育休中の有給の扱い
育休中も有給休暇(以下、有給)を取得できます。ただし、育休と有給を同時には取得できないため育休を中断して有給を取得します。
有給に対しては給与の全額が支給されるため、育児休業給付金より多くの金額を受け取れることがメリットです。デメリットは、有給の給与は所得として課税される、社会保険料の免除が受けられない、有給の取得可能日数が減るなどです。
有給休暇の付与については、育休期間は出勤したものとみなして出勤率を計算するため不利になることはありません。育休をとっても基準日に新たな有給が付与されます。
男性の育休中に活用できる給付金や免除
男性が生計の主体者である場合、育休で無給になると家計は大きな痛手を受けます。育休中の収入の減少を補い、生活を支援するため設けられた給付金制度や負担の軽減措置について解説します。
手当金や給付金
育休で無給になったとき、国から支給されるのが児童手当と育児休業給付金です。
児童手当は、中学生以下の子どもを養育する人に支給されます。父親が生計の主体者なら、子どもの年齢などに応じて1人あたり次の手当が支給されます。
- 3歳未満の子ども:1万5,000円
- 3歳以上小学校修了前:1万円(第3子以降は1万5,000円)
- 中学生:1万円
育児休業給付金は、原則子どもが1歳になる日までの育休(産後パパ育休を含む)に対して支給されます。育休期間が延長されれば、支給期間も延長されます。ただし、育休取得前に一定期間雇用保険に加入し休業していることが条件です。支給額は次の通りです。
- 支給開始後180日目まで:支給額=休業開始時賃金日額×休業日数×67%
- 支給開始後181日目以降:支給額=休業開始時賃金日額×休業日数×50%
休業開始時賃金日額は、原則ボーナスを除いた直近6ヶ月間の賃金総額を180日で割って計算します。
社会保険料・税金の免除
育休中は社会保険料などが免除され、無給期間の家計負担が軽減されます。
健康保険料や社会保険料は、勤務先が日本年金機構に免除申出することにより労使とも支払いが免除されます。また、雇用保険料と所得税は給与所得がなくなるため支払いは不要です。
ただし、住民税の支払いは必要です。住民税は前年の所得に対して課税され源泉徴収されるため、現在無給でも支払わなければなりません。
男性の育休で活用できる助成金やプロジェクト
男性の育休取得を支援するために設けられた助成金やプロジェクトを紹介しますので、活用を検討してみましょう。
両立支援等助成金(出生時両立支援コース)
主な助成金は、中小企業を対象とした「両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」です。
男性従業員が育休を取得しやすい雇用環境を整備するなどした上で、男性従業員が出生後8週間以内に休業開始し5日以上の育休取得した場合、企業に対し次の助成金が支給されます。また、活動の結果、男性の育休取得率がアップすると助成金が加算されます。
- 1人目:20万円(雇用環境整備措置を4つ以上実施で30万円)
- 2人目・3人目:10万円
イクメンプロジェクト
「イクメンプロジェクト」とは、前述の通り男性の育児を支援する厚生労働省の施策です。同プロジェクトでは、次の活動を行っています。
- 企業の事例集や研修資料・動画、育児体験談などのWeb発信
- イクメン企業宣言(企業による男性育休取り組み宣言)の発信
- イクボス宣言(管理職による男性育休取り組み宣言)の発信
- 各種セミナーやシンポジウムの開催、地域発信型のイクメン普及活動のサポート など
男性の育休取得で会社がすべきこと
企業には、男性の育休取得推進が求められています。会社がすべき主な内容は次の通りです。
- 育児休業給付金の申請など各種手続き
- 男性などが育休を取りやすい雇用環境の整備
- 育休に関する諸制度の個別周知と意向確認
- 育休取得率の公表
それぞれについて解説します。
育児休業給付金の申請など各種手続き
育児休業給付金の受給資格確認や支給申請は、原則企業が行います。また、社会保険料の免除手続きも必要です。主な手続きや請求書類などは次の通りです。
(育休に関する諸手続き)
手続き書類 | 提出先 | |
---|---|---|
育休手当の受給資格確認・初回申請 |
| ハローワーク |
育休手当の支給申請(2回目以降) |
| ハローワーク |
社会保険料の免除申請 |
| 日本年金機構 |
育休が予定より早く終了したときの社会保険の届け |
| 日本年金機構 |
上記以外にも、育休延長の手続きや復職時の対応が必要になることもあります。
男性などが育休を取りやすい雇用環境の整備
2022年4月の育児・介護休業法改正により、企業に「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」が義務づけられました。次のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 育休(産後パパ育休を含む)に関する研修の実施
- 育休に関する相談体制の整備
- 従業員の育休取得事例の収集・提供
- 従業員へ育休制度と育休取得促進に関する方針の周知
育休に関する諸制度の個別周知と意向確認
前述の法改正では、「妊娠・出産(本人または配偶者)を申し出た従業員への個別の周知・意向確認措置」も企業の義務となりました。次の事項について、個別面談や書面交付などにより内容を周知し、従業員の意向を確認しなければなりません。
- 育休に関する制度
- 育休の申出先
- 育児休業給付に関すること
- 育休中に従業員が負担する社会保険料
育休取得率の公表
2023年4月より、従業員1,000人超の企業に男性の育休取得率等の公表が義務づけられました。男性の育休取得率は、公表する事業年度の前年度実績により次の通り計算します。
- 男性の育休取得率=(育休を取得した男性従業員数)/(配偶者が出産した男性従業員数)
2025年4月から公表義務の対象は、従業員300人超の企業に拡大します。
男性の育休取得でやってはいけない禁止事項
男性従業員などが育児休業の申し出をしたり、取得したりしたことを理由に、企業が解雇や不利益な取扱いをすると、育児・介護休業法違反となります。不利益な取扱いとは次の通りです。
- 解雇や雇止め
- 降格や減給
- 不利益な配置変更
- 昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う
- 過大な要求(業務上不要な仕事や遂行不可能な仕事をさせる)や過小な要求(仕事をさせない、もっぱら雑務をさせる)を行う など
違反したときの罰則は設けられていませんが、国から報告を求められたり指導・勧告を受けたりすることがあります。また、勧告に従わなかったときは企業名が公表されます。
上記行為は、男性の育休取得に対するハラスメント(パタニティハラスメント)に該当するため、防止に向けて次の対応を検討しましょう。
- 男性の育休取得推進やハラスメント防止に関する研修を行う
- 相談窓口を設ける
- ハラスメント発生時の対応部署や対応マニュアルを整備する など
育休手続きに関する各種テンプレート
育児休業は従業員の申し出を受けて、企業がハローワークに申請します。申出方法は、原則書面の提出となるため、定型の申請書を準備しましょう。マネーフォワード クラウド給与では、申請書のテンプレートが無料でダウンロードできます。
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/415/
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/881/
育児のために行う時短勤務については、従業員の申請に応じて企業が就業規則を基に承認します。育児短時間勤務申出書のテンプレートを添付しますので活用してください。
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/872/
https://biz.moneyforward.com/payroll/templates/868/
男性の育休制度を理解して取得推進に取り組みましょう
男性の育児休業には、男女共通の「育児休業」と男性だけが取得できる「産後パパ育休」の2つがあり、両制度を併用すると最大4回に分割して取得可能です。
近年、男性の育休取得を推進するためにさまざまな法改正が行われているため、本記事を参考にして育休制度を正しく理解し対応しましょう。男性が育休を取りやすい業務体制や雰囲気をつくることが、男性の育休率を高めるポイントです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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