• 更新日 : 2024年5月1日

バイトの社会保険の加入条件は?年収の分岐点や手続きを解説

アルバイトは社会保険に加入させなければならないのでしょうか。実は社会保険の加入条件は従業員の種類に関係なく適用されるため、条件に該当すればアルバイトでも加入させる義務があります。

この記事では社会保険の概要や加入条件、加入のメリット等について解説します。アルバイトの社会保険加入検討の参考にしていただければ幸いです。

バイトが社会保険に加入する条件は?

社会保険の加入条件は、正社員、アルバイトといった社員の種類により規定されていません。労働時間の長さや契約期間などに基づき規定されています。

したがって、加入条件に合致する場合はアルバイトやパート、派遣社員、契約社員であっても社会保険に加入させなければなりません。以下では社会保険の概要や役割、それぞれの加入条件について解説します。

社会保険とは?

社会保険とは病気やケガをはじめ、出産、死亡、老齢、障害、失業などの様々な保険事故に対する給付を行う保険制度とされています。

社会保険には健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の5種類があります。これら5種類を広義の社会保険と呼びます。このうち、健康保険、介護保険、厚生年金保険の3つを狭義の社会保険、労災保険、雇用保険を労働保険と呼びます。

それぞれの概要については以下の通りです。

健康保険

適用事業所と呼ばれる事業所で働く人とその家族が業務外の病気やケガで治療を受けた際の費用の一部を負担します。また、加入者(被保険者)が病気やケガ、出産で仕事ができない場合や、死亡した場合などに手当を支給します。

大企業の場合は健康保険組合、中小企業の場合は協会けんぽ、公務員などは共済組合にそれぞれ加入します。保険料は事業主と被保険者が折半して負担します。

介護保険

40歳以上の全ての人が加入するもので、65歳以上を第1種被保険者、64歳以下を第2種被保険者としています。要介護状態(寝たきりで介護が必要な状態など)、要支援状態(日常生活の支援が必要な状態)の際に介護サービス等の費用の一部を給付する制度です。第2種被保険者の場合は特定疾病による要介護、要支援状態の場合に給付が限定されています。

保険料は、65歳以上は原則年金からの天引き、64歳以下は健康保険料とまとめて徴収します。健康保険(社会保険)加入時は事業主と被保険者で折半、それ以外は被保険者が全額負担します。

厚生年金保険

適用事業所と呼ばれる事業所で働く人が加入します。加入者が受け取ることができる年金には、原則65歳以降に受給する老齢年金、病気やケガで障害が残った場合に受給する障害年金、死亡した場合に遺族が受給する遺族年金があります。

要件に合致する場合には、国民年金法により支給される基礎年金に上乗せして支給されることになります。保険料は健康保険と同じく、事業主と被保険者が折半して負担します。

労災保険

労働者を一人でも使用した場合に、事業主が加入しなければなりません(一部適用除外あり)。労働者が業務や通勤が原因で病気やケガをした場合や死亡した場合などに必要な給付を行うものです。保険料は事業主が全額負担します。

雇用保険

加入条件に合致する労働者を一人でも使用した場合には、事業主が加入しなければなりません(一部適用除外あり)。労働者が失業した場合、育児や介護で休業した場合、教育訓練を受けた場合などに必要な給付を行うものです。保険料は事業主と被保険者で按分して負担します。

社会保険の加入条件

社会保険の加入条件の概要は以下の通りです。

健康保険・厚生年金

適用事業所

  • 法人の事業所(事業主のみの場合を含む)
  • 個人事業(業種は限定されている)の事業所で従業員を5人以上使用する場合

被保険者の条件

  • 適用事業所に勤務する正社員、法人の代表者や役員等
    個人事業主は加入できない。
  • 週所定労働時間および月所定労働日数が正社員等の4分の3以上の従業員
  • 週所定労働時間および月所定労働日数が正社員等の4分の3未満の従業員は以下の要件を全て満たす場合(従業員数101人以上の企業)
  • 週所定労働時間20時間以上
  • 月の報酬(残業代や賞与などは含まず)88,000円以上
  • 2か月超の雇用見込みがある
  • 学生(※)でない

※学生であっても加入義務がある場合があります。詳細は次章で解説します。

介護保険

適用事業所

適用事業所の概念はない(40歳以上の国民全てが加入)。

被保険者の条件

40歳以上の全ての国民。65歳以上は第1種被保険者、64歳以下は第2種被保険者。

労災保険

適用事業所

労働者を一人でも使用する事業(一部適用除外あり)

対象者の条件

使用される労働者全員(パート、アルバイトも含む)。ただし事業主や役員(使用人兼務役員以外)は対象外。

雇用保険

適用事業所

加入条件に合致する労働者を一人でも使用する事業(一部適用除外あり)

被保険者の条件

週所定労働時間20時間以上かつ31日以上使用見込みがある労働者(パート、アルバイトも含む)。事業主や役員(使用人兼務役員以外)は対象外。

※学生の場合は条件があります。詳しくは次章で解説します。
※2028年10月より、週所定労働時間の要件が「10時間以上」に拡大する予定です。

学生のバイトも社会保険の加入は必要?

アルバイトであっても、前章で説明した加入条件に該当すれば社会保険に加入させなければなりません。ただし、学生アルバイトの場合は必ずしも全員を加入させる必要はありません。

学生で健康保険や厚生年金保険、雇用保険に加入させる必要があるのは以下の場合です。

  • 夜間課程、定時制、通信課程の学校等に通う学生
  • 休学中の学生
  • 卒業見込証明書があり、卒業前から働いていて、卒業後も同じ会社で働き続ける学生
  • 会社の命令、承認に基づき、大学院等に通う学生
  • 健康保険、厚生年金保険の場合は、正社員等の週所定労働時間・月所定労働日数の4分の3以上働いている学生など

なお、この要件は学校の種類(大学、大学院、専門学校等)に関わらず同じです。また、昼間課程に通学する学生は上記の要件に該当しない限り加入させる必要はありません。

労災保険、介護保険については学生を特別に除外する要件はありません。

【2022年10月から】社会保険の適用対象が拡大されたポイント

社会保険の適用対象拡大とは、2022年10月の健康保険および厚生年金保険の加入条件の変更による適用対象者の拡大のことです。

2022年10月以降、週所定労働時間などが正社員などの4分の3未満の従業員の加入条件である、適用事業の規模の基準が変わりました。2022年9月以前は「従業員数501人以上」でしたが、2022年10月以降は「従業員数101人以上」となり、健康保険や厚生年金保険の加入対象者が増えました。

なお、2024年10月には適用事業の規模が「従業員数51人以上」となります。現時点で対象外の企業であっても加入条件に該当するパート、アルバイトを健康保険や厚生年金保険に加入させなければならないため、注意が必要です。

バイトが社会保険に加入するメリット

社会保険に加入すると以下のようなメリットを享受することができます。

なお、ここでは社会保険のうち、他の制度(国民健康保険、国民年金)との対比が可能な健康保険、厚生年金保険のメリットについて解説します。

老後の年金が増える

老齢年金(原則65歳以上で受給)は、国民年金に加入している場合には、老齢基礎年金(2024年度816,000円/年)のみが支給されます。一方、厚生年金保険に加入すると、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金が支給されるため、支給額がその分増えることになります。

障害年金や遺族年金の支給対象が広がる

病気やケガにより障害に至った場合に支給される障害年金は、国民年金加入時には障害等級1・2級のみが認定される障害基礎年金のみの支給となります。一方、厚生年金保険に加入する場合には障害等級1・2級に加え、より軽度の障害等級3級が認定され、支給対象が広がります。

被保険者の死亡時に受給できる遺族年金についても国民年金加入時の遺族基礎年金と比べて、支給対象となる遺族の範囲が広がるというメリットがあります。

傷病手当金・出産手当金を受け取れる

病気やケガによる療養のために働けない場合に支給される傷病手当金、出産のために産前産後休業を取得する場合等に支給される出産手当金は健康保険独自の制度です。国民健康保険にはこの制度がないため、健康保険加入のメリットと言えます。

保険料負担が少ない

健康保険、厚生年金保険ともに保険料を企業と被保険者で折半して負担するため、被保険者本人の負担は国民健康保険や国民年金と比較して少ないと言えます。

扶養家族の保険料が不要

健康保険、厚生年金保険ともに扶養家族の保険料の支払いが不要になることもメリットです。

国民健康保険の場合は扶養家族全員分の保険料を負担しなければなりませんが、健康保険では被保険者のみが保険料を支払えば扶養家族も給付が受けられます。

国民年金の場合は20歳以上60歳未満であれば原則として保険料を納めなければなりません。一方、厚生年金保険では被保険者に扶養される配偶者で要件に該当した場合は、保険料を納めなくても、国民年金の3号被保険者となり国民年金を受給できます。

育児休業期間中の保険料が免除される

健康保険、厚生年金保険の保険料は、育児休業期間中は支払いを免除されます。一方、国民健康保険や国民年金にはこの制度はないため、メリットと言えます。

なお、産前産後休業中の保険料は、社会保険、国民健康保険、国民年金ともに免除されます。

バイトで社会保険料や税金がかからないように働くには?

アルバイトとして働く場合の、社会保険料や税金がかからない働き方について以下に解説します。

社会保険料がかからない要件

企業と従業員が負担する社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料があります。先に述べた加入条件に該当し、それぞれの被保険者となる場合に社会保険料の支払いが発生します。

アルバイトの従業員などが、健康保険・厚生年金保険の加入条件の一つ、月の報酬88,000円以上(年収約106万円以上)にならないように働き方を調整するためのボーダーラインを指して「106万円の壁」と言われています。また106万円の壁の他に、「130万円の壁」もあります。

年収106万円の要件には残業代などが含まれません。よって基本給などで年収106万円に満たなくても残業代が多い場合や、従業員数100人以下の企業で働いている場合などは、この130万円の壁を意識して仕事を調整することがあります。

年収130万円未満であれば、配偶者が健康保険や厚生年金の被保険者の場合には健康保険の被扶養者に認定され、国民年金の第3号被保険者にも該当します。したがって自ら国民年金や国民健康保険に加入する必要がないため、それぞれの保険料を負担しなくてもよいのです。

税金がかからない要件

アルバイトの収入は所得税法上の給与所得にあたります。給与所得を受ける人は、48万円の基礎控除と最低55万円の給与所得控除を受けることが可能です。

したがって、アルバイトによる年収が103万円以下であれば、所得税を支払う必要がありません。なお、住民税については年収103万円以下であっても課税される場合があるため、必要により自治体の窓口に問い合わせてみましょう。

バイトで社会保険に加入したほう方が良い年収は?

バイトで社会保険に加入しておらず、社会保険加入後の手取り収入が増えるのは、自ら国民年金や国民健康保険の保険料を支払っているケースが考えられます。社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入した場合、保険料を企業と折半するためです。

社会保険に加入していない場合で、自ら国民年金や国民健康保険の保険料を支払わなければならないのは、配偶者が自営業などのために扶養に入ることができないケースになります。ここでは年金保険料の差異に着目して確認します。

国民年金保険料
年収に関係なく月額16,980円(令和6年度)

厚生年金保険料
協会けんぽ加入の場合であれば、以下の通り標準報酬月額18万円(年収約216万円)までは国民年金保険料の負担より少ないことになります。

標準報酬月額18万円(年収約216万円)の場合:厚生年金保険料月額16,470円
標準報酬月額19万円(年収約230万円)の場合:厚生年金保険料月額17,385円

参考:令和6年3月分~適用 ・厚生年金保険料率|協会けんぽ

したがって、自ら国民年金や国民健康保険に加入している人が社会保険に加入した場合、年収約216万円までであれば社会保険加入前よりも社会保険料控除後の収入が多くなります。

バイトの社会保険加入の手続き

アルバイトを雇った場合の社会保険加入手続きについて、必要書類と手続きの流れを以下に解説します。なお、この内容はアルバイトに限らず、正社員などを雇った場合でも同じです。

必要な書類

加入条件に該当するアルバイトを雇った場合には以下の書類を準備します。また、事業所を設立した際には、新たに社会保険を適用するための書類も必要です。

健康保険、厚生年金保険

  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届

事業所を設立し、新たに適用事業所となる場合

※強制適用事業所ではない事業所が適用を受けようとする場合は健康保険・厚生年金保険任意適用申請書・同意書

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届

加入条件に合致した従業員を新たに雇用した場合

  • 健康保険被扶養者(異動)届

健康保険に加入させる従業員に要件に合致する扶養家族(被扶養者)がいる場合

※配偶者を国民年金の第3号被保険者として加入させる場合の国民年金第3号被保険者関係届も一葉になっています。

介護保険

加入用の書類はありません。健康保険に加入していて、介護保険加入条件の年齢になれば自動的に加入します。

労災保険

  • 保険関係成立届
    適用事業となった場合

雇用保険

  • 雇用保険適用事業所設置届

雇用保険の適用事業となった場合

  • 雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険の加入条件に該当する従業員を新たに雇用した場合

手続きの流れ

健康保険、厚生年金保険

電子申請、郵送、窓口への持参のいずれの方法でも可能です。

提出先は、郵送の場合は事業所を所轄する日本年金機構の事務センター、窓口への持参の場合は事業所を所轄する年金事務所です。

  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届

事業所を設置した日から5日以内に提出します

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届

雇入れの日から5日以内に提出します

  • 健康保険被扶養者(異動)届

雇入れの日から5日以内に提出します

※結婚や子の出生などで新たに被扶養者を届け出る時は、その事実があった日から5日以内に提出します。

介護保険

加入手続きは不要です。

労災保険

保険関係成立届を労災保険の保険関係が成立した日の翌日から10日以内に、事業所を所轄する労働基準監督署または公共職業安定所に提出します。

※郵送や電子申請も可能です。

雇用保険

雇用保険適用事業所設置届を雇用保険の適用事業所を設置した日の翌日から10日以内に、事業所を所轄する公共職業安定所に提出します。労災保険と雇用保険がともに適用される事業所の場合は、保険関係成立届の提出後に提出します。

雇用保険被保険者資格取得届を雇用保険の加入条件に合致した従業員を雇入れた日の翌月10日までに、事業所を所轄する公共職業安定所に提出します。

※いずれも郵送や電子申請も可能です。

加入条件に該当したアルバイトを社会保険に加入させよう

社会保険はアルバイトであっても加入条件に該当した場合は加入させなければなりません。社会保険に加入する場合、国民健康保険や国民年金に加入する場合と比べてメリットも多く、労災保険や雇用保険などの労働保険でも様々な給付が受けられます。

この記事で紹介した社会保険の加入条件や加入手続き方法などを確認し、アルバイトの社会保険への加入を進めましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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