- 更新日 : 2024年9月13日
傷病手当金は有給休暇を取った日にも支払われる?
仕事外のケガや病気が理由で会社を休む場合、傷病手当金を申請できます。原則として有給をとった場合、この傷病手当金は支払われません。ただし、受給までの待機期間に有給を利用するなど、いくつかの適したケースがあります。ここでは傷病手当金と有給のどっちが得かケース別に解説すると共に、計算の方法や申請書の書き方について説明します。
目次
有給休暇を取った場合、傷病手当金は支払われない
傷病手当金とは、病気やケガのため仕事を休んだ際に支給される健康保険の制度の一つです。健康保険に加入していれば、うつ病や骨折など療養のために働けず休業している場合に、申請することで受給できます。
有給休暇を取得して給与の支払いがされている期間は、傷病手当金は支払われません。
傷病手当金の受給には、以下のすべての条件が満たされなくてはいけません。
- 業務外の事由による病気やケガのために休業
- 仕事に就けないこと
- 連続する3日を含んだ4日以上仕事に就けない状態であること
- 休業期間に給与支払いがされていないこと
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
傷病手当金の支給条件の1つに「休業期間に給与支払いがされてないこと」とあるため、有給休暇と傷病手当金の両方を受け取ることはできないのです。健康保険法108条に、報酬の全部または一部を受けることができる者にはその期間傷病手当金を支給しない旨の定めがあります。
また、有給休暇と傷病手当金の併用はできません。ただし、有給休暇取得による給与の金額や出産手当金の金額などが傷病手当金より少ない場合は、その差額分が傷病手当金として支給されます。
ただし「待機期間」における有給休暇の使用はOK
では、病気やケガで会社を一定期間休む場合、有給を利用する意味がないかというとそうではありません。
傷病手当金は、仕事に関係ない病気やケガで「連続して3日休んだあと」、4日目以降の仕事に就くことができなかった日から支給されます。この最初の3日間を「待機期間」といいます。待機期間中は、傷病手当金が支払われません。
待機期間には、通常の勤務日だけでなく、土日祝日といった休日のほか、有給取得日も含まれます。そのため、待機期間に有給休暇を利用すれば、収入がない期間をなくし、傷病手当金の支給にスムーズにつなぐことが可能です。
引用:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
たとえば、金曜日の業務終了後にケガをし、全治2週間と診断されたとします。そのまま土日から2週間丸々休業した場合、土曜日を1日目の休みとカウントし、傷病手当金の対象となるのは、休業4日目の火曜日からです。このとき、月曜日のみ有給休暇を取得すれば、休業していたとしても収入がない期間はなく、連続した支払いを受けることができます。
傷病手当金と有給、どっちがお得?
4日以上、業務外のケガや病気で休んだときに支給される傷病手当金ですが、有給を利用する場合と比べて、受け取れる額に違いがあります。実際、どっちが得をするのか、ケース別に解説します。
ざっくりとした計算で言えば、傷病手当金は月額給与の2/3が支払われることになります。対して、有給休暇の場合は1日分の給与が丸々支払われますので、単純に考えてもらえる金額は有給休暇のほうが多くなります。
ただし、支払われる額が多いからといって、一概に有給消化のほうがお得とは言い切れません。有給休暇と傷病手当金のどちらが望ましいかは、休む期間や休みをとる状況によって個別に判断したほうがいいでしょう。
入社して間もない場合
有給休暇は、通常入社して6か月たってから付与されます。使用できる有給休暇がない場合は、傷病手当金を申請するべきと言えます。
休む期間が長くなる場合
有給休暇は、最大で年間20日付与され、1年に限り繰り越すことができます。1日も有給休暇を使用していなかったとすれば、利用できるのは最大40日です。対して、傷病手当金の受給期間は支給を開始した日から1年6か月です。長期間での療養が必要な場合は、傷病手当金の利用が望ましいと言えるでしょう。
過去に傷病手当金を受給していた場合
過去に傷病手当金を受給し、復職を挟み、同じ傷病が理由で再度申請する場合は、「1年6か月」という受給期間に注意が必要です。この期間とは、暦の上での期間であり、実際に受給していた期間は関係ありません。
たとえば、3か月休職し傷病手当金を受給した後復職した場合、最初の支給から1年6か月たった時点で同じ病気で休職していたとしても、1年6か月経過後は、傷病手当金を受けることはできません。この場合は、有給休暇を消化するほうがいいといえるでしょう。
引用:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
なお、別のケガや病気が原因で休職する場合は、受給期間はリセットされ傷病手当金を申請できます。
参考:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省
直近で残業代の支給額が多くなっていた場合
基本的には、傷病手当金の額は有給休暇の給与の額よりも少ないと考えられますが、例外がないわけではありません。
傷病手当金のもととなる標準報酬月額は月の総支給額が元になります。そのため、時間外労働や休日出勤が多く、支給額が多い月がたくさんあるとそれだけ標準報酬月額が高めに設定され、傷病手当金の額が高くなります。
一方、有給消化時の賃金支払いには、一般的に以下の2通りがあります。
- 「平均賃金」
- 所定労働時間労働した場合に支払われる「通常の賃金」
「平均賃金」は、「計算する理由が発生した以前から3か月間に支払われた賃金の総額÷同期間の総日数」で計算します。端的に言えば、直前3か月の総支給額を暦の日数で割ります。「平均賃金」は土日などの休日を含めた暦日数で割るため、「通常の賃金」よりも比較的低い金額となるのが一般的です。しかし、残業代やその他手当も含まれるため、普段から残業が多い場合には、「通常の賃金」よりも「平均賃金」のほうが比較的高い金額が出ることがあります。
対して、所定労働時間労働した際に支払われる「通常の賃金」は、残業代を含めない基本給がもとになります。こうした有給消化の賃金計算は会社の就業規則によって定められています。
もし、残業代が多い人で、「通常の賃金」で有給休暇の給与が計算される会社に勤めている場合は、有給休暇で支払われる給与が傷病手当金の額を下回る可能性がゼロではありません。
上記のようなケースで、インフルエンザで1週間入院した場合に、最初の3日間で有給休暇を使用し、残りの日数のを傷病手当金を申請すれば、全日程有給休暇を利用するよりも、受け取る金額が大きいことになります。
傷病手当金はいくらもらえる?
傷病手当金は、以下の方法で計算します。
引用:P8「傷病手当金」について|全国健康健保協会 千葉支部
「標準報酬月額」とは、社会保険料を決める際に利用されるもので、給与額によって等級が決められ、その等級と連動した金額のことをいいます。
もし、申請する従業員の勤務期間が12か月未満の場合は、以下のいずれかの方法で算出した低い金額を利用します。
・支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額 または
・標準報酬月額の平均額
・28万円:支給開始日が平成31年3月31日までの方
・30万円:支給開始日が平成31年4月1日以降の方
引用:傷病手当金について|全国健康保険協会
また、まれにあるケースとしては同じ月に2つ以上の標準報酬月額がある場合は、その月の最後の時点での報酬月額を利用します。
【そのほかの計算に用いられる標準報酬月額】
たとえば、支給開始日以前の継続した12か月の各月の標準報酬月額が、以下のような場合、支給金額を計算してみましょう。
【Aさんの場合】
Aさん:2020年4月15日から5月14日まで、30日間ケガのため会社を休む
Aさんの標準報酬月額
2019年4月~10月:28万円
2019年11月~12月:30万円
2020年1月~4月:28万円
【計算式】
- 【支給開始日以前の継続した12か月の各月の標準報酬月額を平均した額】=(28万円×10か月+30万円×2か月)÷12か月=283,333.33……円
- 283,333.33……円÷30日=9,444.444……円(※1の位を四捨五入し、9,440円に)
- 9,440円×2/3=6,293.333……円(※小数点第1位を四捨五入して、6,293円に)
- Aさんの1日あたりの傷病手当金は6,293円
- 休んだ日数とかけあわせ、6,293円×27日=169,911円
Aさんは、傷病手当金として16万9,911円が支給されます。
傷病手当金申請書の書き方
傷病手当金の申請は、業務外のケガや病気で働けなくなった場合、従業員本人、または会社側が申請書類をダウンロードし、それぞれに必要な箇所を記入します。その上で、必要書類を揃え、加入している組合健保等に提出します。
【傷病手当金申請の流れ】
- 業務外のケガ・病気により働けない期間が発生
- 申請書類をダウンロード
- 従業員(被保険者)に必要事項の記入を依頼する
- 医師が担当箇所の記入をする
- 企業側の記入欄を埋める
- 添付書類を準備する
- 支給申請を行う
以下に、傷病手当金申請書の具体的な書き方について説明します。
傷病手当金申告書の記載項目
傷病手当金申告書は合計4ページあります。最初の2ページが従業員(被保険者)が記載するページで、3ページ目が事業主が記載、最後のページを担当医師が記載します。具体的な書き方についてみてみましょう。
【従業員(被保険者)が記入する内容(1、2ページ目)】
従業員は、傷病手当金の申請にあたり、以下の情報が必要です。
- 保険証に記載された記号番号
- 氏名、生年月日、住所
- 振込先口座詳細
- 傷病名
- 休んだ期間(申請期間)
- 仕事の内容
- 報酬・障害厚生年金または障害手当金・老齢または退職年金(公的年金)・労災保険による休業補償給付を受けていたかどうかの確認
一般的には、1か月ほどで復職が予定される場合は復職後に、長期の休みになるのであれば、1か月単位で申請する方法があります。なお、加入している健康保険組合の指示がある場合はそちらに従いましょう。
【企業が記入する内容(3ページ目)】
企業が記入するページでは、事業主の証明が必要です。従業員氏名のほか、申請期間を含む賃金計算期間の勤務日数や欠勤日数について記入します。この「勤務状況」は、各給与の締め日ごとに記載する必要があります。たとえば、毎月の締め日が10日で、申請期間が6月1日~7月9日となっている場合、「5月11日~6月10日」「6月11日~7月10日」の記入が必要になります。
賃金計算期間の賃金支給状況欄には、欠勤控除の計算方法についても記入しましょう。
【担当医師が記入する内容(4ページ目)】
担当医師のページでは、傷病名、初診日、就労できなかったと認められた期間と日数、症状と経過などを記載します。このとき、「労務不能と認めた期間」は、2ページ目の従業員が記入する「療養のため休んだ期間(申請期間)」と一致している必要があります。
【そのほか必要な書類】
申請にあたっては、以下の添付書類も必要です。
従業員 | ・負傷原因届(ケガの場合) ・第三者の行為による傷病届(交通事故など第三者が関係する場合) ・戸籍(除籍)謄本または戸籍抄本(被保険者死亡の場合) ・マイナンバーカードの両面のコピー、マイナンバーを持っていない場合には身元確認や番号が確認できる書類のコピーを貼付台紙に貼付して提出(被保険者記号番号にマイナンバーを記入した場合に) ・年金証書のコピー、年金額改定通知書のコピー、休業補償給付支給決定通知書のコピー(支給を受けている場合) ・勤務先の会社名・所在地・使用されていた期間がわかる書類(申請日以前の12か月間に勤務先に変更があった場合) |
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参考:
健康保険傷病手当金支給申請書|全国健康保険協会
健康保険傷病手当金支給申請書 記入の手引き|全国健康保険協会
傷病休暇規定のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
傷病手当金受給中の有給の取り扱いには注意しよう!
傷病手当金の受給を受けるには、まず連続して3日休む「待機期間」を経なくてはなりません。また、給与を会社から受けている場合は傷病手当金の対象にはなりませんので、「待機期間」に有給を消化し、傷病手当金が支払われるようにしましょう。
傷病手当金は、一定の条件を満たせば退職後も継続して受給することができます。なお、離職後にケガや病気により就職活動ができなくなった場合には、雇用保険の傷病手当制度の利用を検討してください。
会社を退職後に任意継続被保険者となった場合、任意継続被保険者期間中に発生した病気やケガでは傷病手当金が支給されないことも覚えておきましょう。
有給休暇以外に関連する傷病手当金の詳細は、以下の記事も参考にしてください。
よくある質問
有給休暇をとった場合、傷病手当金は支払われる?
会社から給与の支払いがある場合、傷病手当金は支払われません。ただし、傷病手当金の額よりも有給休暇の給与のほうが少ない場合は、その差額分が傷病手当金として支給されます。詳しくはこちらをご覧ください。
傷病手当金と有給、どっちがお得?
1日あたりの傷病手当金の金額は、おおよそ給与の2/3です。有給は通常勤務とほぼ同等額の賃金が支払われます。ただし、受給できる期間や条件に違いがあるため、どちらを利用するかは個別に検討しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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