• 更新日 : 2024年11月22日

税法上の扶養とは?年収や年齢の条件、控除額、配偶者控除との違いを解説

税法上の扶養とは、親族を扶養家族として申告することによって節税できる制度です。特に企業の従業員の給与に関する情報を扱う人事労務担当者の方は、しっかりと把握しておく必要があります。

中でも押さえておきたいのは扶養控除です。この記事では扶養控除の制度概要から扶養になる条件、控除額、配偶者控除との違いまでをわかりやすく解説します。

税法上の扶養とは?

税法上の扶養とは、所得税や住民税の負担を軽減するため、一定条件を満たす親族を扶養親族として申告できる制度です。この制度により、扶養控除が適用され、最終的な納税額が軽減されます。扶養控除は主に以下の3種類です。

  1. 一般の控除対象扶養親族に対する扶養控除(以下、一般扶養控除)
  2. 特定扶養親族控除(以下、特定扶養控除)
  3. 老人扶養親族控除(以下、老人扶養控除)

3つの扶養控除はそれぞれ異なる条件と控除額が設定されており、適用される親族の年齢や状況によって変わってきます。税法上の扶養によって控除される税金は主に所得税と住民税です。具体的には、扶養控除を受けることで納税者の課税所得が減少し、最終的に支払う税額が軽減されます。

例えば、一般扶養控除では年間38万円の控除が適用されますが、特定扶養控除や老人扶養控除ではさらに高い控除額が設定されています。

税法上の扶養になる条件

税法上の扶養が適用されるためには、税法で定められたいくつかの条件を満たす必要があります。具体的には、次の4つの条件を全て満たさなければなりません。

  1. 扶養家族の範囲
  2. 年齢
  3. 年収の上限
  4. その他加入条件

ここからは、扶養になるための4つの条件をそれぞれ詳しく見ていきましょう。

扶養親族の範囲

扶養親族の範囲には納税者が同じ世帯で暮らしながら金銭的に面倒を見ている、離れて暮らしていても金銭的に援助している親族が該当します。このような状態を税法上では「生計を一(いつ)にする」といいます。具体的には、配偶者、子ども、兄弟姉妹、孫、両親、祖父母が含まれていますが、配偶者が配偶者控除の対象となっている場合は扶養親族には該当しません。また、納税者の配偶者の父母や兄弟姉妹も扶養親族として認められる場合があります。

加えて、同じ世帯で生活していることで生計を一にしていると認められる場合には、これらの親族が全て扶養親族の範囲です。さらに、一定の条件を満たす養子や甥、姪も扶養親族として認められることがあります。

年齢(16歳以上)

税法上の控除対象扶養親族となるためには16歳以上であることが求められます(※その年の12月31日時点)。16歳未満の親族は税法上の扶養控除の対象外です。なぜなら、そもそも扶養控除は一定の年齢以上の扶養親族が経済的に自立できていない状況を、主に所得税や住民税の軽減によって支援する制度だからです。

また、扶養親族の年齢によって適用される控除額が異なります。例えば、16歳以上19歳未満または23歳以上70歳未満の一般の控除対象扶養親族がいる場合は1人につき38万円、19歳以上23歳未満の特定扶養親族がいる場合は1人につき63万円です。一方、70歳以上の扶養親族に対しては老人扶養控除が適用され控除額は同居の場合58万円、同居でない場合は48万円となります。このように、扶養親族の年齢に応じて税負担の軽減幅が変わる点も要注意です。

年収の上限

税法上の扶養親族として認められるためには扶養親族の年収が48万円以下であることも条件です。この年収には給与所得事業所得、そのほかの各種所得が含まれます。年収が48万円を超えると、その親族は税法上の扶養親族として認められません。

ただし、年収が48万円以下であっても、それが給与所得の場合は給与所得控除が適用されるため、実際には給与収入が103万円以下であれば扶養親族として認められます。扶養親族となっている多くのパート労働者などが年収103万円を超えないように調整しているのは、こうした背景があるためです。

その他加入条件

扶養親族として認められるためのほかの条件として、まず扶養親族が日本国内に居住していることが挙げられます。海外に住んでいる親族は原則として扶養の対象外ですが、16歳以上30歳未満の人、70歳以上の人のほか、30歳以上70歳未満であって留学している人などの場合は例外として控除対象扶養親族に該当します。

さらに、扶養親族が納税者と同一の生計を営んでいることも条件です。これは同じ家計から生活費をまかなっている状態を指すものであり、同居である必要はありません。加えて、扶養親族がほかの人の扶養親族になっていないことも条件です。以上の条件を全て満たすことで、扶養控除が適用されるのです。

税法上の扶養の控除額

税法上の扶養控除は扶養親族の年齢によって金額が異なります。ここからは年齢ごとの扶養控除の金額について見ていきましょう。

一般扶養控除

一般扶養控除は扶養親族が16歳以上19歳未満、または23歳以上70歳未満の場合に適用され、控除額は年間38万円です。基本的には大多数の扶養親族がこの一般扶養控除の対象となります。

特定扶養控除

特定扶養控除は扶養親族が19歳以上23歳未満の場合に適用されます。大学生などが該当し、控除額は年間63万円とほかの控除に比べて高額です。この年代の子を持つ世帯は学費など経済負担が高いため、それを補助する目的があります。

老人扶養控除

老人扶養控除は扶養親族が70歳以上の場合に適用され、同居している場合は58万円、同居していない場合は48万円が控除されます。いずれも、高齢の親族を扶養している家庭の経済的負担を軽減することが可能です。

以上のように、扶養親族の年齢に応じて税制上の扶養控除額が異なり、それぞれの状況に応じた税負担の軽減が図られています。下表にわかりやすくまとめました。

一般扶養控除特定扶養控除老人扶養控除同居老親等控除
年齢

16歳以上19歳未満、

または23歳以上70歳未満

19歳以上23歳未満70歳以上70歳以上
金額38万円63万円48万円58万円

税法上の扶養と健康保険上の扶養の違い

税法上の扶養と健康保険上の扶養は、目的や適用条件が異なります。税法上の扶養は税負担を軽減するための制度です。一方で健康保険上の扶養は医療費の負担を軽減するための制度です。以下でそれぞれの違いを詳しく見ていきましょう。

目的の違い

税法上の扶養とは、扶養親族の所得税や住民税の負担を軽減することを目的とする制度です。一方で健康保険上の扶養は扶養親族が医療機関で受診した際、医療費の一部を保険がカバーできる制度です。

扶養親族は自己負担分の医療費が軽減され、結果的に被保険者の家庭全体での医療費負担が少なくなります。また、扶養親族がいれば、被保険者が加入する健康保険の保険料に影響が生じるでしょう。

条件の違い

税法上の扶養は主に所得に基づいており、扶養親族の年間所得が48万円以下であることが必要です。一方で健康保険上の扶養は収入要件が130万円未満(60歳以上または障がい者の場合は180万円未満)であることに加えて、扶養親族が主として被保険者の収入により生計を維持していることや、被保険者と同一の世帯に属していることなどの条件も重要です。このように、扶養親族として認められる範囲や基準が異なります。

子どもを税法上の扶養に入れるには共働き夫婦のどちらか

共働き夫婦が子どもを税法上の扶養に入れる際には、収入が高い方の親の扶養に入れることで、より多くの税控除を受けられる可能性が高いです。以下のようなポイントを踏まえて検討してみましょう。

収入が高い親の扶養に入れる理由

収入が高い方の親の扶養に入れるとその親の所得税や住民税の課税所得が減少し、税負担が軽減される可能性が高くなります。収入が高い分だけ控除額も高くなり、結果的に節税効果が見られるでしょう。

扶養控除の申告時期

扶養控除を最大限に活用するためには年末調整時に扶養親族として申告することが重要です。年収が高い方の親の所得税や住民税の負担が軽減され、家庭全体の税負担を減らせます。

特定扶養親族の取り扱い

特定扶養親族は控除額が高く設定されているため、共働き夫婦のどちらが特定扶養親族を申告するかによっても、節税効果に差が出ることがあります。

その他の考慮点

その他、夫婦の所得状況や将来の収入見込み、扶養控除を受ける親の社会保険料負担なども考慮すると、最適な扶養親族の申告ができるでしょう。

税法上の扶養の条件を外れるとどうなる?

税法上の扶養の条件を外れると扶養控除が受けられなくなります。具体的には扶養親族の年間所得が48万円を超えると扶養から外れるので要注意です。ここからは税法上の扶養から外れるタイミングや手続きについてご紹介します。

所得が48万円を超えた場合

扶養親族の年間所得が48万円を超えると税法上の扶養控除の対象外となります。納税者は、その親族を扶養控除の対象から外さなければなりません。該当する扶養親族に対して、その年分の扶養控除の適用を受けることができません。

外れるタイミング

扶養控除の要件を満たすかどうかは、その年の12月31日時点の現況で判定します。年の途中で所得が48万円を超えることが判明した場合、その年分の扶養控除を受けられません。年末調整や確定申告の際に、その年の所得見積額を確認して判断します。

手続きの方法

扶養控除の条件を外れた場合、納税者は年末調整時に給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出し、扶養親族から外す旨を報告する必要があります。また、確定申告を行う場合も、申告書にその旨を記載しなければなりません。

税法上の扶養に該当しない配偶者の控除とは?

配偶者は税法上の扶養に該当しないケースがあります。税法上の扶養に該当しない主な理由は、配偶者自身が収入を持っていることです。しかし、配偶者控除や配偶者特別控除が適用されるケースがあります。以下で配偶者の年収や控除額について詳しく見ていきましょう。

配偶者控除

税法上の配偶者控除は、納税者の配偶者が年間所得48万円以下の場合に適用される控除制度です。この配偶者控除により納税者の課税所得から38万円が控除されます。配偶者がパートやアルバイトなどで収入を得ている場合でも、年間所得が48万円以下であれば配偶者控除を受けることが可能です。

ただし、配偶者が給与を得ている場合、実質的な基準は年間の給与収入が103万円以下なので、人事担当者はパート従業員の年収が103万円を超えないように調整を求められる場合もあります。

配偶者特別控除

配偶者特別控除は、税法上の扶養に該当しない配偶者でも適用される控除制度であり、配偶者の年間所得が48万円を超え、133万円以下の場合に適用されます。

なお、この控除は、配偶者控除に比べて広範囲の所得に対して適用されるのが大きな特徴です。配偶者特別控除は、配偶者の所得に応じて段階的に控除額が変動する制度です。例えば、配偶者の年間所得が95万円以下であれば、納税者の所得から38万円が控除されます。配偶者の所得が増えるにつれて控除額は減少し、最大で133万円の所得に対して適用されるのです。

配偶者特別控除を受けるためには、配偶者の年間所得が48万円以上133万円以下であることに加え、納税者と生計を一にしていなければなりません。

扶養の手続きで会社が気をつけること

扶養の手続きを行う際、企業が気をつけるべき点は多岐にわたります。特に年末調整の確認や変更への対応、社員の家族構成の変化を把握することが重要です。以下のポイントを意識して進めましょう。

年末調整の確認

年末調整の際、従業員が提出する給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を詳細に確認することが必要です。扶養親族の情報が正確であるか、申告内容が適切であるかをチェックすることによって、税務署への正しい申告が行えます。

変更への対応

従業員の家族構成が変わった場合、迅速な対応が求められます。例えば、結婚や出産、離婚などのライフイベントに伴う扶養親族の追加や削除は、随時把握して手続きを行うことが大切です。

定期的な確認

定期的に従業員の扶養親族の状況を確認することも重要です。年に一度の年末調整時だけでなく、社内の人事データベースなどを活用して常に最新の情報を保つよう努めましょう。

書類の保管と管理

扶養控除等(異動)申告書やその他関連書類の保管・管理も大切です。書類の提出を受けた源泉徴収義務者は、その提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存義務があり、税務署長から提出を求められた場合には提出しなければなりません。

税法上の扶養は年収や年齢などの条件と控除額を理解しておきましょう

税法上の扶養に関する業務を円滑に行うためのコツは、納税者の扶養親族の年収や年齢などの条件と控除額をしっかりと理解しておくことです。扶養の手続きを適切に行うことによって、従業員の税務処理がスムーズに進み、会社の業務運営が円滑になります。

企業としては従業員が安心して働ける環境を提供するためにも、これらの手続きをしっかりと行うことが求められます。ぜひ手続きの際には、今回の記事を参考にしていただければ幸いです。


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