• 更新日 : 2022年5月16日

社会保険の任意継続とは?年末調整や確定申告での対応も解説!

会社員時代に加入していた社会保険(健康保険)は、条件を満たせば、退職後も一定期間加入することができる「任意継続」を選択できます。
ここでは、社会保険の任意継続について解説するとともに、任意継続のメリット・デメリットをまとめています。また、支払った社会保険料が年末調整確定申告で申請できるかどうかについても説明します。

社会保険の任意継続とは?

社会保険の任意継続とは、会社を退職した人が、それまで加入していた会社の健康保険に退職後も継続して加入できる制度をいいます。

そもそも広い意味での社会保険には、健康保険、年金保険、介護保険、労災保険、雇用保険があり、これら社会保険は、会社勤めと個人事業主とで加入できる保健の種類が異なります。

会社勤めであれば、会社の加入する健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険に加入し、個人事業主は国民健康保険や国民健康保険組合に加入します。

また、年金も会社員は厚生年金保険、個人事業主は国民年金と異なります。労災保険と雇用保険に至っては、雇用されている労働者の保険という性質上、個人事業主は原則として対象外です。

会社員と個人事業主の社会保険の違い

会社員個人事業主
健康保険会社が加入する協会けんぽや健康保険組合の保険国民健康保険
国民健康保険組合
年金保険厚生年金保険国民年金保険
労災保険対象原則として対象外
雇用保険対象対象外

日本では国民皆保険制度がとられており、会社勤めの人が退職した場合も、なんらかの保険に加入しなければなりません。一般的に考えられる選択肢が、「国民健康保険の加入」「家族の扶養に入る」「社会保険(健康保険)の任意継続」です。

国民健康保険に加入した場合
保険料は、前年の所得をもとに計算されます。また、国民健康保険には会社勤めで加入していた健康保険のように被扶者という考え方がなく、扶養家族がいる場合にはその家族も加入し、家族の分の保険料も納めなければなりません。扶養家族が多い場合や会社勤めの所得が大きかった場合、退職直後の年は、会社員時代よりも保険料が高額になる可能性があります。しかし、勤務先の倒産や解雇などの理由で退職した場合には保険料減額の措置が受けられる場合もありますので、慎重に判断し、退職日の翌日から14日以内に、加入手続きをしましょう。

家族の扶養に入る場合
配偶者や両親など、生計を共にする家族の健康保険に扶養家族として加入する方法があります。扶養家族として加入するため負担する保険料は原則ありませんが、加入にあたっては「年収130万円以下」「被保険者の年収の2分の1未満」といった条件があります。

社会保険(健康保険)の任意継続
会社で加入していた健康保険に、退職後も引き続き加入する制度です。扶養家族がいる場合は、引き続き扶養家族として加入することが可能です。保険料は退職時の所得(標準報酬月額)が基準となるため、国民健康保険のような所得に連動した保険料の変動はおきません。ただし、会社の負担分がなくなるため、退職時の標準報酬月額によっては会社員時代よりも保険料が高額になる点に注意が必要です。

社会保険の任意継続の条件

退職後、加入していた健康保険の任意継続を希望する場合は、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 資格喪失日の前日(退職日)までに、継続して2ヵ月以上の被保険者期間があること
  2. 資格喪失日から20日以内に、「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること

引用:会社を退職するとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

任意継続被保険者になれるのは最長で2年間、また、退職から20日以上たってしまうと、任意継続被保険者の資格が取得できなくなるので注意が必要です。退職後の健康保険については、退職前からそれぞれの制度で保険料がどの程度かかるのか、どのようにするのが自分自身と家族にとってよいのかを調べておくといいでしょう。

参考:任意継続とは | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

社会保険の任意継続のメリット・デメリット

社会保険の任意継続でまず考えられるメリットが「扶養家族の保険料」です。国民健康保険では、扶養家族という扱いがないため、扶養家族の分の保険料を支払わなければなりません。たとえば、会社員時代に妻と子が扶養家族として健康保険に加入していた場合、退職後に国民健康保険を選ぶと3人分の保険料を支払う必要があります。

しかし、任意継続を選択すれば扶養家族の扱いは在職時と変わらず、扶養家族の保険料の分だけ恩恵を受けることが可能です。

保険料については、任意継続と国民健康保険でそれぞれメリット・デメリットがあります。任意継続の場合、「退職時の標準報酬月額」もしくは「全被保険者の平均標準報酬月額(2022年4月の金額は30万円)」のどちらか低いほうを基準に算出するのが通常です。なお、2022年1月から任意継続被保険者制度の見直しにより、健康保険組合は規約によって、退職時の標準報酬月額を選択することも可能になりました。

そのため、退職後に個人事業主やフリーランスとして得る収入額が会社員時代より大きく上回った場合でも、任意継続の保険料に影響はありません。また、協会けんぽなどでは標準報酬月額の最高限度額を定めており、実際の退職時の標準報酬月額に対する保険料よりも任意継続被保険者の保険料が低くなる場合もあります。退職直後から収入に大幅な増加が見込まれる場合には、任意継続のメリットが大きくなることもあるでしょう。

ただし、任意継続の期間は、会社員時代にあった「事業主負担」がなくなります。たとえば月額2万円の保険料だった場合、会社員時代はその半額の1万円を事業主が支払っていましたが、任意継続となれば全額を支払うことになります。こうした点から、安易に「任意継続のほうが保険料がお得」とは考えず、自身の状況にあわせてメリット・デメリットを比較するのがよいでしょう。

社会保険の任意継続はやめられる?

社会保険を任意継続で加入できる期間は、2年が上限です。これまで、任意継続期間の資格喪失(加入を辞める)条件は、以下のように決められていました。

任意継続被保険者の資格が喪失する例

  1. 2年間の期間満了の翌日
  2. 保険料が納付されず、納付期限が過ぎたとき
  3. 再就職などにより、ほかの事業所の健康保険に加入したとき
  4. 75歳の誕生日
  5. 後期高齢者医療制度の被保険者となったとき
  6. 死亡したとき

2022年1月からは、上記にあわせて「任意脱退」が認められるようになりました。任意継続被保険者が任意で資格喪失を希望すれば、申出の受理日が属する月の翌月1日、つまり翌月からは任意継続被保険者ではなくなります。任意継続を選択したけれども状況が変わり、「国民健康保険に入る」「家族の扶養に入る」といった事情が発生した場合にも、柔軟な選択が可能です。この点は、任意継続を選択する上での安心材料が増えたといえるでしょう。

参考: 全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を 改正する法律による健康保険法及び船員保険法改正内容の一部に関する Q&Aの送付について|厚生労働省

社会保険を任意継続する加入要件・手続き

ここでは、任意継続の要件と手続きについて詳しく解説します。以下のすべての要件を満たす場合は、継続して会社在籍中に加入していた健康保険の被保険者になることができます。

  • 健康保険の適用事業所を退職したときや、適用除外として規定されている条件に当てはまったために被保険者でなくなった場合
  • (任意適用事業所として認められていた会社に勤めていても、後に会社が任意適用事業所ではなくなり、被保険者としての資格を失った場合には任意継続ができません。これは、「任意適用事業所の取り消し=任意で脱退すること」と解釈されるため、再度任意加入をすることができないとされているからです)

  • 被保険者である期間が継続して2ヵ月以上あり、その後資格を失った場合
    (共済組合の組合員の場合には、共済組合の任意継続組合員制度が適用されます)
  • 船員保険や後期高齢者医療の被保険者でないこと
    (上記保険の加入者は、それぞれ船員保険もしくは後期高齢者医療等から給付を受けることができます)

要件をすべて満たした被保険者は「任意継続被保険者資格取得申出書」を居住地管轄の協会けんぽ支部に、退職日の翌日から数えて20日以内に提出します。なお、家族を被扶養者として継続手続きを行う場合には、申出書に別枠で記載されている「被扶養者届」にも記入が必要です。

指定された納付期日までに初回の保険料を納めなかった場合は、任意継続被保険者にならなかったとみなされ、被保険者資格が取消となります。(ただし、納付が遅れる妥当な理由があった場合には、期日後の納付でも受理されます)

任意継続の保険料

任意継続期間中の保険料の計算方法について解説します。会社員時代の保険料がそのまま引き継がれるわけではない点に注意が必要です。

社会保険の保険料金額の決定・徴収期間

任意継続の保険料計算方法は、退職時の標準報酬月額、もしくは全保険期間の標準報酬月額の平均額を基準とした標準報酬月額のどちらか低いほうに、保険料率をかけて算出します。健康保険組合に加入している方は健康保険組合の規約によって異なるため、加入している健康保険組合で確認しましょう。

加入期間である2年間は原則として保険料に変更はありません。なお、40歳以上65歳未満の場合には、介護保険料も加えられています。

社会保険の任意継続制度の大きな特徴としては、保険料に上限が設けられていることが挙げられます。たとえば、協会けんぽの最高標準報酬月額は30万円(2022年4月時点)と決められており、標準報酬月額がそれ以上であっても一律30万円で計算されます。

一見、上限があるため保険料が在職中より安くなると思われがちですが、任意継続の保険料は全額被保険者負担になるので実際の保険料を確認しておくことが必要です。

社会保険の任意継続に関する諸手続き

任意継続中のさまざまな手続きについて説明します。

被保険者の氏名変更

結婚などで被保険者の氏名が変更になった場合は、本人と被扶養家族の保険証を添付して「任意継続被保険者氏名・住所・性別・生年月日・電話番号変更(訂正)届」を協会けんぽに提出します。
なお、扶養家族の氏名を変更する場合は「任意継続被扶養者変更(訂正)届」の提出を行います。

被保険者の住所変更

  • 1.同一県内での住所変更
    協会けんぽに、「任意継続被保険者氏名・住所・性別・生年月日・電話番号変更(訂正)届」を提出します。保険証は変わりませんので、住所が書かれた部分のみ訂正して引き続き使用します。
  • 2.同一県外への住所変更
    転出先の協会けんぽに住所の変更届を提出します。保険証が新しくなりますので、新しい保険証が届いたら古い住所の記載された保険証は返納します。

保険証の紛失時

「被保険者証再交付申請書」を協会けんぽに提出します。ただし、無効の手続きというものはないため、紛失の際には必ず警察署へも届け出ましょう。

任意継続で支払った社会保険料は年末調整や確定申告で控除申請は必要?

任意継続期間中に支払った保険料は、年末調整や確定申告において、社会保険料控除の対象となります。どちらの手続きの場合も、任意継続被保険者に関する保険料の証明書は必要ありませんが、加入期間中に支払った合計金額を記載する必要がありますので、保険料を支払ったときの領収書は保存しておき、保険料額がわかるように管理しておきましょう。

任意継続から年の途中で再就職した場合
12月に会社が行う年末調整にて、必要書類にその年に納付した任意継続保険料の合計額を記入します。

任意継続期間中、事業所得等を得ている場合
確定申告の時期(2月16日~3月15日)に、確定申告の書類にその前年に納付した任意継続保険料の合計額を記入します
社会保険料控除を申請することで、控除額が所得額から差し引かれ、最終的な所得税が低くなります。節税につながる手続きですので、忘れずに申請しましょう。

社会保険の任意継続のメリットを確認した上で選択しよう

社会保険の任意継続では、扶養家族の取り扱いでメリットが受けられる反面、保険料の金額については、個人の状況によって国民健康保険との差が異なります。任意継続の場合の保険料がどのように変化するか確認した上で、退職後の健康保険について慎重に検討するのがいいでしょう。

また、任意継続期間中に支払った保険料は、社会保険料控除の対象となります。年末調整もしくは確定申告時に忘れずに申請することで、所得税の節税につながります。

よくある質問

社会保険の任意継続とはなんですか?

退職後、一定の条件を満たした場合に、最長で2年間、会社員時代の健康保険に継続して加入できる制度です。家族を被扶養者としても保険料がかからない点でメリットがあります。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険の任意継続に必要な手続きについて教えてください

退職した日から20日以内に、「任意継続被保険者資格取得申出書」を管轄の協会けんぽ、もしくは健康保険組合に提出します。扶養家族がいる場合には「被扶養者届」への記入も必要です。詳しくはこちらをご覧ください。


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