- 更新日 : 2024年12月19日
休業補償とは?休業手当との違い、支払い金額の計算方法を解説!
労働基準法の休業補償と休業手当は、平均賃金の6割を支払うところは同じですが、支払う目的が大きく異なります。休業補償は労働災害により労働者が療養のために勤務できない場合に企業が支払う補償であり、休業手当と違って賃金ではありません。
休業手当との違いや支払い金額の計算方法、労災の休業補償等給付との関係について解説します。
目次
休業補償とは?
休業補償とは、労働災害に被災した労働者がケガや病気による療養のために働くことができず賃金がもらえない場合に、企業が支払わなければならない災害補償のことです。企業は、労働者が業務上負傷したり、業務が原因で病気になったりした際には、療養により休業している期間、平均賃金の60%の休業補償を支払わなければなりません。
休業補償は労働者が労働災害に被災したことにより受け取ることができる損害賠償のような意味合いを持つ補償であり、企業が支払う際には、課税所得に含まれず、非課税となることも注意しましょう。
最初に、休業手当との違いや、労災の休業補償等給付との関係について解説します。
休業手当との違い
「今日やる仕事がない」「資材が届かず仕事ができない」「経営難や資金繰り難による自宅待機」など、企業の都合で労働者を休業させた場合には、休業手当を支払わなければなりません。労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」で休業する場合には、労働者に平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことを義務付けています。
ただし、企業が不可抗力で労働者を休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由」にはあたりません。不可抗力といえるには、以下の2つを満たす必要があります。
- 原因が企業に責任があるとはいえない外部から発生したものであること
- 企業が最大の注意・努力を尽くして避けることができないものであること
また、休業手当は企業の都合で労働者を休ませた場合に最低限の生活を保障するための手当であり、休業補償とは異なり、給与所得に該当します。
参考:
労働基準法 | e-Gov法令検索
No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係|国税庁
労働保険との関わり
労働災害の補償は金額が多額になることが多いため、企業と労働者を救済するために、労災保険で労働災害の種類ごとに各種給付する制度を設けています。労災保険の給付が行われる場合には、労災保険の給付の範囲内で企業は労働基準法上の災害補償を行う義務が免除されることになっています。
労災保険の休業補償等給付では、労働者が休業した4日目からの補償をカバーしています。休業3日目までは労働基準法によって企業は休業補償をする義務を負いますが、4日目からは労災保険の休業補償等給付が支給されます。
休業補償等給付(通勤災害の場合は休業等給付)は、休業補償と同様に非課税の所得になります。ただし、休業補償等給付や休業補償は労働者が働けない間の所得を補償するものであり、慰謝料の部分は含まれていないことに留意しなければなりません。
労働災害の種類(業務災害・通勤災害)
企業が労働者が業務災害に被災した際に行う災害補償の種類には以下のものがあります。
- 療養補償(労働基準法第75条)負傷・疾病のために通院・入院するなど、治療をするための療養の費用
- 休業補償(労働基準法第76条)療養のために賃金が受け取れない期間の所得の補償
- 障害補償(労働基準法第77条)労働者の業務上の負傷・疾病が治った際に障害が残った場合の補償
- 遺族補償(労働基準法第79条)労働者が業務上死亡した際の遺族に対する補償
- 葬祭料(労働基準法第79条)労働者が業務上死亡した際の葬祭を行う者に対する費用の補償
労働基準法上の災害補償に対応する労災保険の給付の種類には以下のものがあります。
- 療養補償等給付
- 休業補償等給付
- 障害補償等給付
- 遺族補償等給付
- 葬祭料等
※労災保険の制度では、その他に傷病補償等年金、介護補償等給付などがあります。
参考:労災保険給付の概要|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
休業補償及び休業補償等給付の対象となるための条件
ここでは、休業補償、休業補償等給付の対象となる条件について解説します。
1. 業務災害の負傷・疾病を療養中
休業補償や休業補償等給付は、業務災害による負傷・疾病により療養をしていることが条件となります。ただし、労災保険では、業務災害だけではなく通勤災害についても給付が行われますが、労働基準法の災害補償は通勤災害を対象にはしていません。そのため、企業は通勤災害で休業をした労働者に休業補償を支払う必要はありません。
2. 療養中により労働が不可能
休業補償や休業補償等給付は、療養中で働くことができないことが条件となります。したがって、会社を休むことなく働いていた場合や、医師が就労可能と判断した場合には、休業補償や休業補償等給付の対象にはなりません。
3. 会社からの賃金が支払われていない
休業補償や休業補償等給付は、療養のために働くことができず、会社から賃金が支払われていないことが条件となります。会社から通常通り賃金が支払われる場合は、休業補償や休業補償等給付の対象とはなりません。年次有給休暇を取得した場合も同様です。会社から賃金が支払われるため、対象外となります。
4. 業務災害発生から3日間の待機期間が過ぎている
労災保険の申請手続きをすれば、休業4日目からは休業補償等給付の対象になります。しかし、労働者が休業した最初の3日間は労災の休業補償等給付が支給されないため、休業3日目までは労働基準法における休業補償を企業が支払う必要があることに注意しなければなりません。
休業の初日から第3日目までのことを「待期期間」と呼び、以下の方法でカウントします。
- 災害が労働時間内に発生したために所定労働時間の一部しか働くことができなかった場合は、その日を休業1日目としてカウントする
- 災害が所定労働時間が終わった残業中に発生した場合は、翌日から休業をカウントする
「待機期間」は、通算して3日間の待期期間があれば完成します。したがって、3日間連続して休業していなくても問題ありません。また、会社が休みの日であっても関係なく、暦日でカウントされます。たとえば、土日が休みの会社で金曜日の業務中にケガをして病院に行った場合は、以下のように考えます。
■金曜日の所定労働時間中にケガをして病院に行ったケース(当日も待期期間にカウントする)
金曜日(出勤日):1日目
土曜日(休日):2日目
日曜日(休日):3日目(待機完成)
■金曜日の残業中にケガをして病院に行ったケース(翌日から待機期間をカウントする)
金曜日(出勤日):待機期間のカウントなし
土曜日(休日):1日目
日曜日(休日):2日目
月曜日(出勤日・療養中):3日目(待機完成)
なお、年次有給休暇を取得した日は賃金が支払われることになりますが、療養のために働くことができなければ、「待機期間」のカウントに含めることが可能です。
休業補償の補償期間
労働基準法では、労働者が休業補償を受ける権利は退職しても失われないことが定められています。したがって、療養のために働くことができなければ、企業は退職した後であっても休業補償を支払わなければなりません。
(補償を受ける権利)
第八十三条 補償を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。
労災保険の休業補償等給付も同様です。療養のために働くことができなければ、退職後も支給されます。したがって、労働者が労災保険の休業補償等給付を受給している場合には、退職後でも、ケガや病気が治り働けるようになるまで受け取ることが可能です。
また、 業務災害による傷病が療養開始後1年6ヵ月経過しても治癒(症状が固定する状態)せず、傷病による障害の程度が労災保険法で定められた傷病等級に該当する場合には、休業補償等給付は傷病補償等年金に切り替り、年金として受給できるようになります。
休業補償の計算方法
労働基準法の休業補償の金額は平均賃金の60%です。しかし、業務中に労働者がけがをした場合のように、所定労働時間の全部を働いていないこともあるでしょう。休業中に一部労働していた場合には、以下のように休業補償の金額を計算します。
労災保険の休業補償等給付の金額は、休業1日あたり給付基礎日額の60%です。
なお、休業補償等給付には、上乗せされて支給される休業特別支給金が加算されるため、合計して給付基礎日額の80%(60%+休業特別支給金20%)が支給されることになっています。休業中に一部労働していた場合には、以下のように休業補償等給付の金額を計算します。
※給付基礎日額は、原則として傷病発生日または医師の診断により疾病発生が確定した日の直前の3ヵ月間の賃金総額をその3ヵ月間の暦日数で割って計算した金額、つまり「労働基準法の平均賃金に相当する額」となります。直前の3ヵ月間というのは、傷病発生日または医師の診断により疾病発生が確定した日の直前の賃金締切日から遡った3ヵ月間を指します。また、賃金総額には賞与は含まれません。
休業補償等給付を受け取るための手続き
労災保険の休業補償等給付を受給する手続きについて見ていきましょう。
会社による各種手続き
企業は、「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(8号)」を入手して、労災発生時の状況や平均賃金算定内訳、事業主の証明欄を記載します。申請書は休業特別支給金の請求も兼ねた書式になっています。
2回目以降の請求の際には、平均賃金算定内訳を記載する必要はありません。また、2回目以降の請求が、労働者が退職した後の期間のみとなる場合は、事業主の証明は不要です。
休業補償等給付支給請求書を労働基準監督署へ提出する
申請書にはケガや病気の症状について医療機関の証明を受ける必要もあります。ただし、労働者は療養のために働くことができない状態であり、休業補償等給付の申請を企業が労働者に代わって労働基準監督署に提出するのが一般的です。労働者が入院などをして休業が長期になる場合には、1ヵ月毎に請求するのがよいでしょう。
労働基準監督署から通知書が届く
休業補償等給付の申請内容に基づき審査が行われ、労災として認定されると労働基準監督署から支給決定通知が届きます。ケガや病気の内容によっては審査に時間がかかることがあります。
休業補償が登録した口座に振り込まれる
傷病が労災と認定されて労働基準監督署から支給決定通知が届けば、給付金が振り込まれます。
参考:労災保険 休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続き|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
労災保険は労働者と企業を守る制度
労働基準法の休業補償は企業に過失がなくても支払うことが義務付けられています。また、業務災害によって労働者が休業している期間と、その後の30日間は、原則として解雇することが禁止されています。
労働者が業務中に大ケガをして長期間休業するようなことがあれば、企業は多額の休業補償を支払わなければなりません。労災保険に加入していれば、労災保険の休業補償等給付が支払われるため、休業補償の支払いが免除されます。労災保険は、被災した労働者だけではなく、企業の災害補償の負担を軽減し、企業を守る制度でもあります。労働者を雇う際は必ず労災保険に加入し、年度更新など労働保険の申告・納付の手続きは、確実に行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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