- 更新日 : 2025年1月20日
労働基準法や民法で退職の規則は定められている?2週間前までに申し出が必要?
労働者には退職の自由があり、会社のルールに従って手続きをすれば会社を退職することができます。しかし、人手不足の昨今、会社を退職したいと思っても、引き止められるケースもあるでしょう。
従業員が退職するには何日前までに申し出ればよいのか、退職する際の義務や手続きを解説するとともに、退職に関するトラブルの事例なども紹介します。
目次
労働基準法で退職の規則は定められている?
退職とは、労働者の申し出によって労働契約を終了させることです。しかし、労働基準法には労働者を解雇する際の手続きに関する規定はありますが、退職する手続きを明確に定めた規定がほとんどありません。
ここでは労働基準法に定めがある退職の規定について解説します。
労働基準法に定められた退職の規定
労働基準法第15条第2項では、会社に雇われた際に明示された労働条件が実際と異なる場合、労働者は直ちに労働契約を解除することができることを定めています。
民法上でも、債務不履行による損害賠償の請求や、錯誤、詐欺・強迫などにより労働契約を取り消すことが可能かもしれませんが、労働者がこれらのことを証明するのは簡単ではありません。そのため、明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合には、即時に労働契約を解除することが認められています。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
また、労働基準法では、有期雇用契約の場合、契約期間は原則として3年以内、労働者が60歳以上である場合など例外に該当する場合でも5年以内にすることが定められています。ただし、有期雇用の期間が1年を超える場合には、働き始めてから1年経過すれば、期間の途中であってもいつでも退職できることになっています(労働基準法附則第137条)。
参考:有期の労働契約を結ぼうと思っているのですが、労働基準法には契約期間の制限はありますか。|厚生労働省
労働基準法では解雇の手続きはある
労働基準法には解雇についての定めがありますが、これは解雇する際の手続きを定めた規定です。その解雇が有効か無効かは別の話しであり、労働基準法に定めがある解雇予告を行ったからといって、必ずしも解雇が有効になるわけではありません。
解雇とは、会社の申し出によって労働契約を一方的に終了させることです。労働基準法第20条では、解雇する際の手続きを以下のように定めています。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
会社は従業員を自由にいつでも解雇できるわけではありません。解雇は労働契約法16条で判断され、解雇することに客観的合理的な理由があり、社会通念上相当と言えるだけのやむを得ない理由がなければ、無効になります。つまり、解雇するだけのきちんとしたルールや事実があって、常識に照らして納得できる程度の事情がなければ有効とは判断されず、簡単にはできないことに注意する必要があります。
労働基準法にはない退職の手続き
民法には退職(辞職)する際のルールが定められています。雇用期間に定めがない無期雇用のケースと、雇用期間に定めがある有期雇用のケースとではルールが異なることに注意しましょう。
雇用期間に定めのない無期雇用の場合(正社員など)
会社の承諾を必要とせず、従業員から一方的に退職できるのが辞職です。民法第627条第1項には、以下の定めがあります。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
近年退職代行を利用して従業員が退職するケースが多くなっています。退職代行のサービスでは、民法上の2週間前の申し出により退職の手続きを行うことが多いでしょう。これは、法律上労働者は2週間前に退職の申出をすれば、自由に退職ができることが定められているからです。
雇用期間に定めのある有期雇用の場合(パート・アルバイトなど)
有期雇用契約の場合は、原則として雇用契約期間中は退職することができないため注意が必要です。民法第628条では、「やむを得ない事由」があるときに退職できることになっています。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
「やむを得ない事由」に従業員の過失があり、過失によって損害が発生した場合は、会社が従業員に対して損害賠償を請求できるケースもあります。ただし、体調不良などが退職の原因であることも多く、従業員の退職によって損害が発生するケースは多くはないでしょう。会社は損害が発生したことを立証しなければならず、損害賠償が請求できるケースは限定されると考えたほうがよいかもしれません。
会社を退職するときは何日前に申し出が必要?
会社を退職する際には、具体的には何日前に申し出ればよいのでしょうか。これは、会社の承諾を得て退職する「合意退職」と、会社の承諾なしに退職する「辞職」とで異なります。
民法では2週間前までの申し出が必要
会社の承諾なしに一方的に労働者が辞職をするケースでは、雇用期間に定めがない無期雇用の契約であれば、2週間前までに申し出ることによって退職することが可能です。ただし、有期雇用契約の場合は、原則として雇用契約期間中は退職することができません。
会社の就業規則で予告期間を定めている場合
従業員が会社に退職を申し出て、会社の承諾や許可を得た上で退職するのが合意退職です。会社で「退職するには〇〇日前までに退職願を提出し、会社の承諾を得なければならない」などと予告期間を定める場合には、就業規則や労働契約書(労働条件通知書や雇用契約書などを含む)に、退職手続きのルールを定めておく必要があります。
従業員から退職を願い出る場合には、退職日の1ヵ月前や3ヵ月前に申し出るルールにしている会社が多いでしょう。通常の退職は、辞職ではなくこのような合意退職を指します。ただし、民法で2週間前の退職が規定されているため、従業員が辞職による退職を申し出てきた際は、会社は退職を断ることができないことに注意しましょう。
労働基準法における退職までの有給休暇の取り扱い
従業員が退職する際にトラブルが多く発生するのが、年次有給休暇の取り扱いです。従業員退職時の年次有給休暇の取り扱いについて解説します。
会社側は退職者の有給休暇申請を拒否できない
従業員が退職する際、原則として年次有給休暇の取得を断ることはできません。年次有給休暇は、「事業の正常な運営を妨げる場合」には時季を変更して与えることができます。これは時季変更権と呼ばれ、会社側の正当な権限・権利でもあります。
しかし、年次有給休暇は退職後に取得することはできないため、時季変更権を行使する余地がなければ認めざるを得ません。そのため、退職する従業員が年次有給休暇を申請してきた場合は、断ることはできないと考えたほうがよいでしょう。
有給休暇の買い取りは可能?
労働基準法では年次有給休暇の買い取りは原則として認めていません。これは、買い取りを認めてしまうと、従業員が年次有給休暇を利用しなくなり、年次有給休暇の法的な趣旨が損なわれてしまうからです。
ただし、従業員の年次有給休暇の取得を妨げるものでなければ、年次有給休暇を買い取ることは法律違反とまでは言えないでしょう。消化しきれなかった年次有給休暇の残日数分を退職時に買い取ることまで禁止しているわけではありません。一方、会社に年次有給休暇を買い取る義務はないため、従業員から買い取りを請求されたとしても、必ずしも応じる必要があるわけではありません。
労働基準法に退職する従業員の義務は定められている?
労働基準法に退職する従業員の義務に関する定めはありません。しかし、退職する従業員の義務を定めておかなければ、事業に支障が生じることがあります。退職時の従業員が守るべき義務について解説します。
予告義務
従業員が辞職により退職するケースでは、期間の定めがない雇用契約の場合、2週間前の予告が必要です。従業員が民法上の規定を守らずに退職して会社に損害を与えた場合には、会社が従業員に損害賠償を請求することもあり得ます。
退職願の提出期限・予告期間については、労働基準法や民法に規定があるわけではありません。労働契約の条件の1つとして、就業規則や労働契約書に定めることになります。就業規則や労働契約にルールを定めることによって、退職願の提出期限・予告期間を守るように従業員に義務付けることができます。引き継ぎなどを円滑に行い、円満に退職するためのルールであり、会社で予告期間の長さは任意に設定することが可能です。
引き継ぎの義務
引き継ぎの義務についても同様です。就業規則や労働契約に「退職前に引き継ぎを完了しなければならない」などと引き継ぎの義務を定めることによって、引き継ぎを行うことを労働条件として従業員に義務付けることができます。
退職する際、退職後に担当業務で支障が生じないように引き継ぎを行うのは当然と言えるでしょう。顧客への連絡や仕掛中の案件の進捗状況の説明、必要な情報の提供などを行わなければ、会社に迷惑をかけることになります。たとえ退職代行を利用して一方的に退職するにしても、引き継ぎの義務が免除されるわけではありません。
会社の正当な利益を不当に侵害しない義務
従業員が会社の正当な利益を不当に侵害して損害を与えるようなことがあれば、会社は従業員に損害賠償を請求することが可能です。以下のような行為は、会社の正当な利益を侵害すると言えるでしょう。
- 虚偽の報告書や引き継ぎ資料の作成
- 退職時に会社の重要な情報や業務上必要な情報を削除するなどといった妨害行為
- 会社に損害を与える目的でほかの従業員が退職するように誘う行為
- 退職時に機密情報・顧客情報を持ち出す行為
退職のトラブルの事例
従業員が退職する際には、トラブルが発生しやすいものです。退職時に発生しやすいトラブルについて解説します。
アルバイトが一方的に退職する場合
パートやアルバイトなどの非正規の従業員であっても、労働者であることには変わりはありません。民法や労働基準法などの法律が同様に適用されます。
「代わりを見つけなければ退職を認めない」などというのは認められません。また、年次有給休暇についても、残日数が残っていれば、会社は断ることはできません。
退職者が引き継ぎせず辞めた場合
就業規則や労働契約で引き継ぎすることが義務付けられていれば、退職者が引き継ぎをせずに辞めれば業務命令違反や誠実義務違反などの対象になります。
退職する従業員が他の競業企業に就職した際に、開発データを持ち出したり、引き継ぎを行わずにいなくなったりすることで、会社の従業員に対する損害賠償が認められた裁判例もあります。労働契約上の誠実義務の観点からも、担当業務の遂行に支障が生じないよう、適切に引き継ぎは行うべきでしょう。
試用期間中に退職した場合
試用期間中であるからといっても、退職するかしないかは労働者の自由です。企業としては、募集・採用にかかった費用、研修・教育費などさまざまな費用がかかっており、試用期間中に退職されてしまっては大きな損害となるため、損害賠償を請求したいと考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、試用期間だからといって損害賠償が認められるケースは限定され、簡単に認められるものではありません。試用期間中に退職する従業員が多く発生するのであれば、研修や教育方法、自社の雇用管理の制度を見直す必要があるかもしれません。
労働条件に相違があった場合
労働基準法第15条第2項では、明示した労働条件が実際と異なる場合には、労働者は直ちに労働契約を解除することができることが定められています。「賃金が明示されていた条件と違う」「出勤日数が多い」「休日が少ない」などということがあればトラブルになります。
労働条件通知書や労働契約書は実態と合った内容にしなければ、労働基準法違反で指導を受ける可能性もあります。ひな型などを利用している場合にも、法律に合っているかを定期的に見直ししましょう。
参考:2024年4月から労働条件明示のルールが変わります ー 厚生労働省|厚生労働省、「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」
会社側が違法な引き止めを行った場合
退職の自由を妨害するような方法は認められませんが、従業員の自由な意思を尊重して、会社を辞めないように説得したり、退職日を話し合って変更するように交渉したりすることは可能と考えられます。しかし、懲戒処分をチラつかせたり、損害賠償を請求するなどと脅かしたりすることは、当然ながら認められません。
労働基準法では「前借金と賃金の相殺の禁止(第17条)」「損害賠償を予定する契約の禁止(第16条)」「強制労働の禁止(第5条)」などを定めており、不当な手段で労働者を拘束することが禁止されています。そのため、借金があるからといって退職を拒むこともできません。
退職防止のために従業員エンゲージメント向上に取り組むことが大切
従業員には退職の自由があり、実際に退職を申し出てきた従業員を引き止めるのは困難なケースが多いでしょう。離職防止には、雇用管理をしっかりを行い、従業員のエンゲージメント向上に取り組むことが大切です。
従業員エンゲージメントとは、会社と従業員との信頼関係や従業員の会社に対する愛着心などを意味します。従業員が働きやすい職場環境をつくり、従業員が仕事を通じて成長し、会社に貢献したいと思うことは、会社の成長にもつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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