- 作成日 : 2022年8月5日
健康保険とは?被用者保険と国民健康保険の違い
健康保険は、日本の医療制度を支える重要な保険制度です。会社員や公務員が加入する政府管掌健康保険、健康保険組合、共済組合のほかに、個人事業主や自営業者が加入する国民健康保険があります。
ここでは、日本の健康保険制度の種類や加入対象者について解説するとともに、国民健康保険とそのほかの保険の違いについても説明します。
目次
健康保険とは?
健康保険とは、公的医療保険の一つです。国民がお互いの医療費を支え合うことを目的とし、医療機関を受診した際に、健康保険証を掲示することで少ない自己負担で医療を受けることができます。
健康保険制度は、大きくわけて「被用者保険」と「国民健康保険」の2種類に分けられます。日本では国民皆保険制度を導入しているため、原則として国民はいずれかの健康保険制度に加入しなければなりません。
被用者保険とは?
被用者保険とは、国や地方公共団体、法人などに雇われる従業員やその扶養家族が加入する健康保険のことを指します。被用者保険のなかにもいくつかの種類があり、具体的には公務員や会社員などの加入する方の雇い主によって分かれています。
被用者保険の種類
- 組合管掌健康保険(健保組合):主に大企業や同種・同業種の企業が集まって組織された健康保険
- 全国健康保険協会(協会けんぽ):主に中小企業の従業員とその扶養家族を対象とした健康保険
- 共済組合:国家公務員、地方公務員、私立学校の教職員を対象とした健康保険
- 船員保険:船員を対象とした健康保険(2010年から全国健康保険協会が運営)
国民健康保険とは?
国民健康保険は、市町村が運営する健康保険制度です。フリーランスや自営業などの、他の健康保険に加入していない人を対象としています。日本は国民皆保険制度で75歳未満の人への健康保険の加入を義務付けているため、被用者保険の健康保険に加入していない人は、国民健康保険に加入しなければなりません。
国民健康保険は、市町村が運営するもののほかに、医師や建設業などの同業者で組織する国民健康保険組合(国保組合)があります。国保組合は、国からの補助を受けており、国民健康保険よりも保険料を比較的安く抑えられるメリットがあります。
被用者保険と国民健康保険の違いは?
被用者保険と国民健康保険は、保険料の算出の仕方や、扶養者の取扱い、給付の範囲などでいくつかの違いがあります。
被用者保険 | 国民健康保険 | |
保険料の計算 | 給与に応じた標準報酬月額で決定 | 世帯の加入人数、年齢、収入などで決定(自治体によって異なる) |
保険料の支払い | 労使折半 | 全額自己負担 |
扶養の扱い | あり。扶養者が増えても保険料は変わらず | なし。世帯の加入者が増えると保険料が増える |
出産手当金 | あり | なし |
傷病手当金 | あり | なし |
出産育児一時金 | あり。原則42万円 | あり。原則42万円 |
・保険料の算出方法
被用者保険の保険料は、「標準報酬月額表」をもとに算出されます。標準報酬月額とは、毎年4月から6月の収入をもとに算出するもので、保険料はこの標準報酬月額表で定められた等級に従い決定されます。
国民健康保険の保険料は、世帯ごとに「加入人数」「年齢」「所得金額」などに基づいて算出されます。ただし、具体的な計算方法および保険料率は各自治体によって異なります。
また、算出方法だけでなく、保険料を納付する際にも大きな違いがあります。被用者保険は労使折半であり、従業員が負担する保険料は算出の半額です。国民健康保険には、労使折半の規定がありません。
・被扶養者の取扱い
被用者保険では、配偶者や子ども、親などを扶養者に入れることが可能です。扶養者が複数人いても、被用者保険の保険料は変わりません。そのため、被保険者が支払う一定の保険料で家族を扶養できます。対して、国民健康保険は世帯の加入人数、年齢、収入などによって保険料が算出されます。被用者保険のような「扶養認定」がありません。
・傷病手当金と出産手当金の給付
被用者保険と国民健康保険の大きな違いに、給付の範囲があります。怪我や病気などで一定日数以上休んだ際に支給される傷病手当金、および子の出産時に支給される出産手当金の支給は、原則として国民健康保険にはありません。(出産一時金は、被用者保険・国民健康保険ともに支給されます)
傷病手当金では、1年半を上限に標準報酬月額の3分の2が支給されます。出産手当金では、産前産後の合計98日間に標準報酬月額の3分の2が支給されます。
参考:
病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
出産で会社を休んだとき|全国健康保険協会
職域保険と被用者保険・国民健康保険の違い
健康保険制度の用語に、「職域保険」があります。職域保険とは、共済組合や協会けんぽなど、被用者とその扶養家族を加入条件とする社会保険のことです。被用者保険は職域保険に含まれます。また、健康保険に限らず、厚生年金、労災保険、雇用保険なども職域保険に該当します。
職域保険に対する用語に、「地域保険」があります。これは、自営業者やフリーランスなどの職域保険の対象外となる人が加入する社会保険を指します。よって、国民健康保険や国民年金が地域保険に該当します。
船員保険は健康保険?
船員保険とは、日本の船舶で働いている人々を加入対象とする保険制度です。もともとは、戦時下の海上輸送確保を目的に発足した制度で、1939年の制定当時は国が運営する保険制度でした。制度改定が行われ、2010年以降は全国健康保険協会が運営しています。
船員保険の大きな特徴は、船員保険独自の給付がある点です。代表的なものに「下船後3カ月の療養補償」があり、これは、乗船中にはじめて発生した「職務外」の怪我や病気を対象とする補償で、下船後療養補償と呼ばれます。補償対象と認められた場合は、下船後3カ月の医療機関への診察料が自己負担ゼロとなります。また、船員という仕事上のリスクから、行方不明手当金など、他の被用者保険にはない給付も整備されています。
参考:乗船中に職務外の事由で病気やけがになったとき(下船後3月の療養補償)|全国健康保険協会 船員保険
被用者保険と国民健康保険の対象者
被用者保険では、務めている企業や組織によって対象者の取扱いが異なります。国民健康保険は、その他健康保険に加入していない国民が対象となります。以下に、対象者について説明します。
被用者保険の対象者
被用者保険の加入対象となる事業所には、「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2種類があります。
・強制適用事業所
法人はすべて強制適用事業所として扱われます。また、製造業や土木建設、鉱業や電気ガス事業など、一定の事業を営む個人事業主が行う事業所の場合は、従業員5人以上で強制適用事業所となります。
・任意適用事業所
任意適用事業所とは、強制適用事業所以外の事業所で、従業員の半数以上が希望し厚生労働省の認可を受けて適用事業所となったものを指します。任意適用事業所でも、被保険者の条件に合致する人はすべて健康保険に加入します。
適用事業所で働く人は、国籍・性別・年齢・賃金の額などに関係なく、健康保険に加入します。ただし、以下の「被保険者の適用除外」に該当する人は、加入対象とはなりません。
・被保険者から除外される人
- 船員保険の被保険者
- 所在地が一定しない事業所に使用される人
- 国民健康保険組合の事業所に使用される人
- 健康保険の保険者、共済組合の承認を受けて国民健康
- 険へ加入した人
- 後期高齢者医療の被保険者等
・パートやアルバイトの短時間労働者
パートやアルバイトなど、週の所定労働時間がフルタイムの社員と比較して少ない労働者は、原則として、同じ事業者で同様の仕事に従事する正社員などの通常の労働時間と比較し、「1週間の所定労働時間」と「1カ月の所定労働日数」が4分の3以上である場合は被保険者になります。
また、4分の3以下であったとしても、「厚生年金保険の被保険者数501人以上の企業」に務めている場合、以下の4点を満たすパートやアルバイトは健康保険の加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 継続して1年以上雇用の見込みがある
- 学生ではない
国民健康保険の対象者
国民健康保険は、上述した被用者保険に入っていない国民が対象となります。自営業者、個人事業主、扶養に入っていない学生、無職の年金受給者は国民健康保険に加入します。ただし、生活保護の受給者は対象から除外されます。また、75歳以上になった国民健康保険の加入者は、後期高齢者医療制度に加入することになります。
被用者保険のこれまで。適用拡大とは
2020年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、厚生年金・健康保険を含む社会保険の、パートやアルバイトに対する適用範囲が拡大されることになりました。
被用者保険の対象は、以下の通り2022年10月から段階的に適用拡大となります。2022年10月には、厚生年金保険の被保険者数が常時101人以上の事業所を対象に、一定要件を満たしたパートやアルバイトの短時間労働者が社会保険の対象となります。2024年10月以降は、事業所の範囲が常時51人以上の企業と、さらに拡大されます。
被保険者数の数え方は、個人事業主の場合は事業所ごとに数えますが、法人の場合には法人規模で数える点に注意しましょう。支店ごとや営業所ごとではなく、会社全体(同一の法人番号)の被保険者数で数えます。12カ月のうち、6カ月以上で100人を超えることが見込まれる場合に「常時101人以上」と判断します。
現行2016年10月~ | 2022年10月~ | 2024年10月~ | |
事業所 | 常時501人以上 | 常時101人以上 | 常時51人以上 |
短時間労働者 | 週20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
月額8.8万円以上 | 変更なし | 変更なし | |
継続して1年以上雇用される見込み | 継続して2カ月を超えて雇用される見込み | 継続して2カ月を超えて雇用される見込み | |
学生でないこと | 変更なし | 変更なし |
健康保険の対象をしっかりと把握しよう
健康保険は、日本の医療制度を支える重要な保険です。法人や、一定の条件を満たした企業は健康保険の適用事業所となり、雇用する従業員を健康保険に加入させなくてはいけません。また、パートやアルバイトなど週の所定労働時間が短い労働者も、一定条件に合致する場合は健康保険の加入対象となります。
2022年から段階的に社会保険の適用範囲が拡大されるため、自社のパート・アルバイトの健康保険の取扱いについて正しく理解し、加入漏れのないように手続きを行いましょう。
よくある質問
被用者保険とはなんですか?
会社員や公務員など、国や地方公共団体、法人などに雇われる従業員やその扶養家族が加入する健康保険を指します。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合などがあり、保険料が労使折半となるのが基本です。詳しくはこちらをご覧ください。
被用者保険と国民健康保険の違いとはなんですか?
保険料の算出方法、扶養者の取り扱い、給付の範囲に違いがあります。特に被用者保険では同じ保険料で扶養家族が加入できるのに対して、国民健康保険は世帯の加入者に応じて保険料が増加します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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