- 更新日 : 2025年1月20日
労働契約申込みみなし制度とは?企業への影響や事例をわかりやすく解説
派遣労働者等の外部リソースを使って、自社の業務を行っている企業も多いでしょう。しかし、派遣労働者を利用する場合には、注意しなければならない制度があります。当記事では、労働者派遣に関連する「労働契約申込みみなし制度」について解説します。裁判事例なども紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
労働契約申込みみなし制度とは
「労働契約申込みみなし制度」とは、違法な派遣が行われた場合に、派遣先企業が派遣労働者に対し、派遣元と同様の労働条件で労働契約を申し込んだものとみなす制度です。派遣先が労働契約を申し込んだとみなされた日から、1年以内に派遣労働者が申込みを承諾することによって、派遣先との労働契約が成立します。なお、申し込んだものとみなす制度であるため、派遣労働者が承諾しなければ労働契約は成立しません。労働契約が成立したものとみなす制度ではないことに注意しましょう。
労働契約申込みみなし制度は、違法派遣を抑制し、派遣労働者の雇用を安定させることを目的とした制度です。しかし、派遣先企業が違法派遣であることを過失なく知らなかった場合には適用されません。
労働契約申込みみなし制度はいつから施行された?
労働契約申込みみなし制度は、2012年の派遣法改正によって設けられました。2012年の派遣法改正は、日雇い派遣の原則禁止やマージン率の情報提供、均等待遇の確保など多岐にわたるものであり、ほとんどは同年中に施行されています。しかし、労働契約申込みみなし制度の施行は、3年後の2015年10月からです。
労働契約申込みみなし制度は、制度導入からそれほどの期間が経過しておらず、制度自体の理解が進んでいない企業も少なくありません。しかし、派遣元企業・派遣先企業はもちろん、派遣労働者にとっても重要な制度であるため、しっかりと理解することが必要です。
労働契約申込みみなし制度の対象となる5つの違法派遣
労働契約申込みみなし制度の対象となるのは、違法状態である派遣です。どのような派遣が違法派遣として、制度の対象となるのかを解説します。
派遣労働者を禁止業務に従事させること
労働者派遣には、派遣労働者に従事させてはならない禁止業務があります。派遣禁止業務は以下のとおりです。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 医師や看護師などが行う医療業務
- 弁護士や司法書士、税理士などの士業
上記の禁止業務に労働者を派遣し、派遣先が受け入れた場合には労働契約申込みみなし制度の対象となります。ただし、医療関連業務については、紹介予定派遣である場合や、育児休業等を行う労働者の業務に派遣する場合などは、例外として派遣が認められます。
無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
労働者派遣事業は、厚生労働大臣の許可を受けた事業者以外は行えません。2015年の派遣法改正以前は、届出制と許可制がありましたが、現在は新たな許可基準に基づく許可制に一本化されています。そのため、厚生労働大臣の許可を受けることなく、派遣事業を行っている場合には、違法派遣となります。
事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
派遣先企業が派遣労働者を受け入れられる期間には、3年の制限が設けられています。この事業所単位の期間を超えて派遣元企業から労働者の派遣を受けている場合には、違法な派遣となります。
派遣先企業が派遣労働者を受け入れられるのは3年が原則ですが、過半数労働組合や労働者代表などから意見聴取することで、3年に限って延長することが可能です。ただし、管理監督者を労働者代表として選出したり、投票等の民主的方法によらず、事業主の指名で代表者が選出されたりした場合には、選出方法に瑕疵があることになります。このような場合には延長が認められないため、3年を超えて受け入れた場合には違法派遣となります。
個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
労働者代表等から意見聴取を行い、期間を延長したとしても、同一の派遣労働者を同じグループや課で受け入れることはできません。たとえば、ある派遣労働者を人事課で受け入れていた場合、仮に延長されたとしても人事課では同じ派遣労働者を受け入れられません。同じ課で3年を超えて受け入れた場合には、違法派遣となります。この場合に人事課ではなく経理課や総務課であれば、同一の派遣労働者でも3年を超えて受け入れることが可能です。
原則として派遣可能期間には制限が設けられていますが、下記の場合には派遣期間に制限はありません。
- 無期雇用派遣労働者である
- 派遣労働者が60歳以上である
- 事業の開始や転換、拡大等のための業務で、一定期間内に完了する予定である
- 1か月以内に行われる業務の日数が、派遣先企業の通常の労働者に比して少なく、かつ10日以下である
- 産前産後休業や育児休業、介護休業等を行う労働者の業務に派遣される
いわゆる偽装請負等
労働者派遣法や労働基準法等の労働関係法令の適用を免れる目的で行われる業務委託(請負)契約は、「偽装請負」と呼ばれます。
請負契約においては、作業の進め方や時間配分などについて、注文者が具体的に指示できません。しかし、偽装請負では請負事業主が雇用する労働者に対して、注文者が業務に関する具体的な指示を行います。このような関係は、実質的には派遣契約と異なりません。請負事業者が派遣元、請負事業主が雇用する労働者が派遣労働者、注文者が派遣先の関係となるわけです。このような偽装請負は違法な派遣であり、労働契約申込みみなし制度の対象となります。
労働契約申込みみなし制度に違反した場合の罰則
違法な派遣であることを知りながら受け入れた場合、労働契約申込みみなし制度の対象となります。労働契約申込みみなし制度自体が、派遣先企業に対する一種のペナルティとなっているわけです。
しかし、労働契約申込みみなし制度の対象となり、派遣労働者が申込みを承諾したにもかかわらず、派遣先企業が労働契約の成立を認めない場合もあります。このような場合、派遣労働者は厚生労働大臣(都道府県労働局長)に派遣先企業に対する勧告を求めることが可能です。
派遣先企業が勧告に従わない場合、企業名が公表される可能性があります。また、派遣労働者は、派遣先企業に対し、労働契約における地位確認の訴えを起こすことも可能です。
労働契約申込みみなし制度に関連する裁判事例
労働契約申込みみなし制度に関しては、いくつかの裁判事例が存在します。たとえば、「日本貨物検数協会事件」における判決は、偽装請負状態にある複数の受託者が、発注元企業に対して直接雇用の地位確認を求めた事例です。この事例に関して、裁判所は労働契約申込みみなし制度が適用されると判断しましたが、期間内に申込みに対する承諾がなかったとして直接雇用の成立は認められませんでした。
「東リ偽装請負事件」は、偽装請負の可能性があるとして、発注元企業に対し、複数の労働者が直接雇用を求めた事例です。しかし、受託者に対する指示や労働時間管理、服務規律等を総合的に判断した結果、偽装請負の事実はなく、労働契約申込みみなし制度は適用されないと判示されました。
参考:
日検事件 逃げる派遣先、捕まえぬ裁判所――偽装請負の責任は誰も取らないのか?|民主法律協会
東リ偽装請負事件で最高裁が不受理決定をする ――就労先との直接契約関係を認める判決が最高裁で確定――|民主法律協会
労働契約申込みみなし制度に企業が対応すべきポイント
企業には、労働契約申込みみなし制度に対する正しい対応が求められます。企業が対応すべきポイントについて、項目ごとに解説します。
厚生労働省のリーフレットを参考にする
労働者派遣事業を管轄する厚生労働省では、リーフレットなどを作成し、労働契約申込みみなし制度の周知を図っています。内容についても正確性が担保されており、格好の資料のため、積極的に活用して制度に対する理解を深めましょう。理解の難しい偽装請負について解説した資料も併せて活用してください。
参考:
労働者派遣事業・職業紹介事業の概要|厚生労働省 香川労働局、労働契約申込みみなし制度の概要
「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」について|厚生労働省
派遣スタッフや派遣先企業への影響を理解する
違法派遣を行った場合、派遣労働者や派遣先企業に多くの影響を及ぼします。労働契約申し込みみなし制度の対象となり直接雇用となれば、雇用主が変わることになり、派遣労働者への影響は計り知れません。派遣先企業も直接雇用によって社会保険料の負担などが増加し、人件費の増大に悩まされるでしょう。違法な派遣を行うことは周囲へ大変な影響を与えてしまうため、そのことを理解し、適用対象とならないようにしなければなりません。
人員計画を見直し、直接雇用や無期雇用の方針を進める
派遣労働者など、外部の人的リソースに頼らざるを得ない業務量であることが問題の場合もあります。業務量を見直し、適切に人員を配置し直せば、外部リソースに頼らなくても業務を遂行できるかもしれません。
また、労働契約申し込みみなし制度の対象となるリスクを避ける意味では、最初から直接雇用することもひとつの手段です。雇用が安定することで、労働者の業務に対するモチベーションも向上するでしょう。
業務委託やアウトソーシングも検討する
派遣労働者を利用せざるを得ない業務量が問題であれば、業務委託やアウトソーシングの活用を検討しましょう。給与計算業務を税理士や社労士などの専門家に委託すれば、自社の人的リソースに余裕ができるだけでなく、専門家による正確な処理も期待できます。採用代行業者に採用業務をアウトソーシングすることも効果的です。
採用業務には多くの時間と人的リソースが必要ですが、アウトソーシングすることによって削減可能です。余裕ができれば、自社のコア業務により人的リソースを集中できるようになるでしょう。
違法派遣を受け入れないために必要な知識を身につけよう
労働契約申し込みみなし制度の対象とならないためには、どのような派遣が違法派遣となるのかを知る必要があります。派遣禁止業務に派遣労働者を受け入れないことはもちろん、派遣可能期間や偽装請負などを理解し、派遣労働者を活用することが大切です。労働契約申し込みみなし制度の対象とならないように、ぜひ本記事をご活用ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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