• 作成日 : 2022年7月15日

一人親方の社会保険加入は義務?判断のポイントを解説!

建設業などで独立して一人親方になる場合、運転資金、事務所、作業車などは、事前準備の段階で比較的しっかりと手配できているものです。しかし、それに加えて重要な社会保険についてはおざなりにされ、未加入の傾向があります。一人親方は個人事業主である一面、家族を支える現場での働き手でもあります。一人親方の加入義務がある社会保険について解説していきます。

事業所が社会保険に加入するルールとは?

社会保険には、いくつもの種類があります。大きく分けると、医療保険、年金、労働保険の3つがあります。

医療保険はさらに健康保険、国民健康保険があり、年金には、厚生年金保険、国民年金の2つがあります。また、労働保険には、労災保険と雇用保険の2つがあります。

まず、健康保険と厚生年金保険の適用事業所の枠組みを示すと次のようになります。

  • 健康保険と厚生年金保険の適用事業所の枠組み

健康保険と厚生年金保険の適用事業所の枠組み

法定16業種とは、製造業など、非適用業種(農林水産業、サービス業、宗務業)以外の業種です。

次に労働保険の適用事業所の枠組みを示します。

  • 労働保険の適用事業所の枠組み

労働保険の適用事業所の枠組み

これらを踏まえて、以下、説明していきましょう。

個人経営の場合には加入ができない

2つの図表を見ていただくと、個人事業主については、以下のことが分かります。

個人事業主では業種によりますが、常時5人以上の労働者を雇用しているか、それ未満の労働者を雇用しているかで線引きされています。

また、労働保険(労災保険・雇用保険)については、常時5人未満の労働者を雇用している場合だけが任意加入で、それ以外は強制適用となっています。

任意加入は、任意で加入できるということです。つまり、上記の要件に該当する場合には、個人事業でも健康保険・厚生年金保険、労災保険・雇用保険の適用事業として加入できます。

法人経営の場合には加入が必須

再び、2つの図表を見てください。法人については、健康保険・厚生年金保険、労働保険のいずれも使用する労働者数を問わず、強制適用になっています。

強制適用とは、必ず加入手続きをしなければならないことを意味しています。事業主には加入が義務付けられているわけです。

一人親方の場合は?

一人親方は、どのような扱いになるのでしょうか。

まず、明らかなことは一人親方は、労働者を雇用していません。常時5人未満の労働者を雇用するとは、最低1人は労働者がいるということを意味します。したがって、一人親方は2つの図表で示されている適用事業所の枠組みには入らないことになります。健康保険・厚生年金保険、労災保険、雇用保険は適用されないということです。

一人親方が加入する社会保険の種類

一人親方は、労働者を雇用しない個人事業主である以上、上記の健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の適用対象にならないのが原則です。

では、加入できる社会保険はないのでしょうか。ここで一人親方の働き方の実態について考えてみましょう。

「請負としての働き方」「労働者としての働き方」の2つがあります。実は、一人親方の場合、働き方の実態によって社会保険の扱いが違うのです。

請負としての働き方に近い一人親方の場合

請負とは、民法では「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」契約としています(法632条)。

つまり、仕事の完成を目的とした請負契約を結んで働くことになります。建設工事、運送業務などで請負という働き方があり、相手方は仕事の取引先あるいは顧客という関係になります。あくまで個人事業主であるため、前述の社会保険は馴染みません。

しかし、個人事業主を対象とした社会保険はあります。
医療保険では、国民健康保険か建設連合国民健康保険組合のどちらかに加入する必要があります。

国民健康保険は、市町村と都道府県が運営する保険制度であり、自治体によって保険料や計算方法などが異なっています。

建設連合国民健康保険組合は、建設業従事者や一人親方向けに公的医療保険を運営しています。一定の要件を満たさなければ加入できず、国民健康保険にはない私傷病による休業中の傷病手当金が支給されます。

年金については国民年金に加入しなければなりません。

労働者としての働き方に近い一人親方の場合

労働基準法では、労働者とは「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定めています(法9条)。

ここでいう「使用される」とは、指揮命令を受けて労務を提供することを意味します。

実態として、一人親方が現場で仕事先の監督を受け、その指示のもとで働くなど、労働基準法上の労働者と変わらないケースはあります。その場合、労働者性が認められれば、法律上の個人事業主である一人親方ではなく、労働者と判断されます。

健康保険などの労働者の社会保険に加入する必要があり、仕事先は労働者を雇用する事業所として社会保険に加入させる義務があります。

一人親方の社会保険加入方法

一人親方の働き方の実態によって、社会保険が違ってくることについて説明しました。一人親方でも加入が義務付けられている社会保険について触れましたが、さらに詳しくみていきましょう。

国民年金の加入方法

年金制度は、2階建ての仕組みになっており、1階部分はすべての国民が加入する国民年金(基礎年金)です。

雇用される労働者は、これに加えて2階部分の厚生年金に加入し、こちらからも年金が支給されます。請負として働く一人親方の場合、1階部分の国民年金だけの加入になります。

加入方法は、住所地の市区役所、または町村役場の窓口に基礎年金番号通知書、または年金手帳などの基礎年金番号を明らかにすることができる書類を提出します。提出期限は、会社を退職した日の翌日から14日以内です。

国民年金基金の加入方法

国民年金基金は、自営業やフリーランスなどの国民年金の第1号被保険者のように1階部分しかない年金受給者のために国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。加入は義務ではありません。

国民年金基金のホームページから加入申出書をダウンロードし、プリントアウトしたら必要事項を記入して住所地の支部に郵送します。

参考:全国国民年金基金のホームページ

小規模企業共済の加入方法

社会保険ではありませんが、一人親方が加入できる公的な退職金制度もあります。個人事業主である一人親方などに退職金というのは違和感があるかもしれません。

国の機関である中小機構が運営する小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによって退職金を支給する制度です。老後の保障だけでなく、掛金はすべて所得控除できるので、高い節税効果があります。

加入方法は、ホームページから契約申込書などを入手し、必要事項を記載のうえ、確定申告書の控えを添付して提出します。

参考:中小機構のホームページ

手続きは、中小機構と業務委託契約を締結している委託機関(委託団体)、または金融機関の本支店(代理店)の窓口で行います。

労災保険の加入方法(特別加入制度)

労災保険は、労働者の仕事中や通勤による災害に対して保険給付を行う制度です。すでに述べたように原則として、加入対象となるのは労働者であり、個人事業主は加入できません。

しかし、一人親方のような個人事業主は、現場の最前線で働くため、労災事故に合うリスクが高いのが実情です。そこで、労働者ではありませんが、それに準じて法律で保護することが適当であると認める場合は、特別に労災保険に任意で加入することを認めています。

これが労災保険の特別加入制度というものです。加入が認められている特別加入者の範囲は、個人タクシー業者、個人貨物運送業者、大工、とび職人、左官など、法律で定められています。

一人親方の労災保険に特別加入するためには、すでに特別加入を承認されている団体(一人親方組合)を通じて加入するのが一般的です。加入手続きはその団体が行いますので、都道府県労働局または労働基準監督署に問合せてください。

一人親方組合が決まれば、所定の加入申込書を組合へ提出します。

あとは、一人親方組合が提出された加入申込書の内容を確認し、加入日を決定のうえ、労働基準監督署へ提出します。労働基準監督署は問題がなければ加入を承認することになります。

特別加入が承認されれば、仕事中や通勤途中の事故によって負傷・疾病、障害、あるいは死亡した場合、労災保険から自己負担なく、保険給付を受けることができます。

一人親方の社会保険について知っておこう

一人親方は、本来、個人事業主ですが、働き方の実態によって労働者と認定される場合があります。社会保険の扱いが全く異なるにもかかわらず、一人親方自身だけでなく、取引先なども適切な手続きをしていないケースも少なくありません。

自分自身だけでなく、支えてくれる家族のためにも、一人親方の社会保険加入について知っておくことが大切です。

よくある質問

一人親方の場合、社会保険への加入は義務ですか?

労働者性があれば雇用先に加入させる義務がありますが、個人事業主であれば加入は任意です。詳しくはこちらをご覧ください。

一人親方が加入できる社会保険について教えてください

国民健康保険、労災保険の特別加入、国民年金などです。詳しくはこちらをご覧ください。


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