• 更新日 : 2023年7月21日

社宅とは?メリット・デメリットや制度を作るプロセスを解説

社宅とは?メリット・デメリットや制度を作るプロセスを解説

社宅を設けている企業は少なくありません。しかし、従業員に提供される住宅には、社員寮、賃貸住宅、寄宿舎などと呼ばれるものもあります。これらに違いはあるのでしょうか。この記事では、社宅の意義、類似する用語との相違のほか、社宅のメリット・デメリット、導入する際の基本的なプロセスなどについて解説していきます。

社宅とは?

「社宅」とは、企業が従業員の住居にまつわる負担を軽減するために相場よりも安価で貸与する住宅のことです。社宅は福利厚生のひとつとして、高度経済成長期に多くの企業が用意しました。一般的に社宅は家族向けの物件を指すことが多いといえるでしょう。では、社員寮、賃貸などとの違いはあるのか確認していきます。

社員寮との違い

社員寮も社宅と同様、福利厚生の一環として企業が設けるものです。単身者向けを「社員寮」、ファミリー向けを「社宅」と区別することがありますが、企業が用意した従業員用の住宅という意味では同じです。

賃貸との違い

賃貸住宅と社宅の違いは、賃貸住宅は個人が不動産会社などから借りる住宅であり、家賃や敷金礼金などが発生します。一方、社宅は企業が従業員に対して相場よりも安価で貸与する住宅であり、通常は敷金礼金などが発生しません。また、賃貸住宅の場合、自社の従業員以外の居住者もいますが、社宅の場合はその企業の従業員だけが居住します。

寄宿舎との違い

寄宿舎は、学校が用意した居住のための施設や、会社が社員の居住のために用意した施設のことを指します。同じ学校や企業に属する多くの人たちが生活を共にします。各個人にプライベートな空間が限定されているため、一定の共同生活のルールが設けられているという特徴があります。

社宅のメリット

社宅のメリットについて、従業員および会社としての立場、それぞれについて考えていきます。

従業員の立場から

従業員の立場からは、社宅のメリットとして、物件探しや契約手続きの手間が軽減されることが挙げられます。また、社宅は一般的な家賃相場よりも安い賃料で住むことができるため、経済的負担が軽減されます。さらに、社宅は社員同士のつながりができることもメリットです。

会社としての立場から

会社としての立場からは、社宅制度を導入することにより、福利厚生の充実や節税効果が期待できます。通常、社宅制度の有無は求人情報に表記されるため、人材確保にもつながります。遠隔地からの就職もしやすく、「社員のことを考えている」というアピールにもなるため、社宅制度を導入することによって採用にもメリットが生まれます。

社宅のデメリット

次に同様に社宅のデメリットについてみていきましょう。

従業員の立場から

従業員の立場からは、デメリットとして物件を選べない場合があることが挙げられます。また、退職時には社宅を立ち退かなければなりません。社宅制度があることにより、かえって退職を躊躇してしまう可能性があります。

会社としての立場から

社宅制度を導入するためには、少なからずコストが発生します。社有住宅型の場合、物件の取得・維持コストが必要です。また、社宅制度の導入に伴い、人事担当者などの事務負担が増加する可能性がある点にも留意する必要があります。

社宅についての規制や法律はある?

社宅については、法律上は借地借家法が問題となることがあります。一般的には、福利厚生の一環として設けられるものですが、実態は必ずしも一様ではなく、法律関係もそれによって異なります。

実態を厳密に分ければ、①福利厚生の一環と捉えられる場合、②従業員の労務提供と社宅の使用が直結している場合、③一般の賃貸借契約と同一視できる場合、の3つがあるといえるでしょう。

福利厚生の一環と捉えられる場合

通常、社宅と呼ぶ場合が該当します。会社が所有または賃借している家屋を従業員の生活の便宜を図るために福利厚生施設として提供するというものです。

この場合の社宅では、一般の賃貸借契約よりも低額の使用料が設定されています。最高裁判所は、社宅の使用料が「維持費にも足らない低廉なもの」であって家屋使用の対価たる賃料と目し得るほどのものではないことが認められる事案において、建物賃貸借契約であることを否定しています(最判昭和30年5月13日民集9巻6号711頁)。

後述の賃貸借契約と異なり、借地借家法は適用されず、従業員は退職とともに社宅を明け渡さなければなりません。

従業員の労務提供と社宅の使用が直結している場合

会社が所有する家屋の住み込みの管理人などが該当します。社宅に住むことが雇用契約で定める労務の提供であり、賃貸借契約ではなく、社宅使用契約という特殊な法律があると考えられます。

したがって、借地借家法は適用されず、社宅の場合と同様、従業員は退職とともに社宅を明け渡す必要があります。

一般の賃貸借契約と同一視できる場合

従業員が世間並みの家賃相当額を使用料として支払っている場合、法的には賃貸借契約であるとして借地借家法が適用されます(最判昭和31年11月16日民集10巻11号1453頁)。

借地借家法は、法的弱者である借主を保護するために契約の一般法である民法で定める賃借権よりも手厚く借主を保護する法律です。契約の期間の満了や更新等の場合も、賃料不払い等がない限り、貸主である会社が明け渡しを求めるのは容易ではありません。

社宅使用について「解雇されたときは雇傭契約終了のときから3カ月後に当然明渡をなす」との特約を設けていても無効とされる可能性が高いでしょう。

社宅制度を導入するプロセス

一般的には、会社が社宅を作る場合、社有社宅借り上げ社宅の2種類があります。社宅制度を導入する場合、どちらにするかを決める必要があります。

社有社宅の場合

社有社宅とは、企業が所有する物件を社宅とするものです。社有社宅とする場合、物件を購入するなどして入手することが不可欠になります。企業が所有するため、不動産会社への敷金・礼金・家賃などが発生しません。また、社外への賃貸も可能であり、新たな収益源としての活用も期待できます 。

ただし、物件購入費用や不動産所得税などの初期投資が大きく、維持管理や固定資産税などのランニングコストも少なくありません。建物の老朽化や周辺環境の変化によって、資産価値が下がることも考慮すべきでしょう。

借り上げ社宅の場合

借り上げ社宅とは、民間の賃貸マンションなどを企業が借り上げて、それを社宅として社員に貸すものであり、前述の賃貸住宅が該当します。借り上げ社宅で社宅制度を導入する場合、会社が賃貸住宅を押さえる必要があります。

不動産購入などの初期投資が不要であり、建物や設備の維持管理を考える必要もありません。入居者や目的、居住期間など個別の事情に合わせ、「築浅で構造のしっかりした物件」だけを選ぶなど、柔軟に社宅用の物件を用意できるメリットもあります。

ただし、部屋1件ごとに契約が発生するため、数によっては手続きが負担となる場合があります。また、契約には期間が定められているため、途中解約すれば違約金が生じるケースもあります。

社宅のメリット・デメリットや制度導入するプロセスを知っておこう!

社宅の意義、類似する用語との相違のほか、社宅のメリット・デメリット、導入する際の基本的なプロセスなどについて解説してきました。社宅は、福利厚生としては従業員からすれば魅力的であり、採用上のメリットがあることは間違いありません。しかし、会社側としてデメリットがある点もしっかり把握しておくことが大切です。


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