• 更新日 : 2024年3月22日

定年延長とは?いつから?65歳、70歳の定年延長の違いや企業の対応を解説

定年延長とは?いつから?65歳、70歳の定年延長の違いや企業の対応を解説

高年齢者雇用安定法により、一部の経過措置を除き、希望者全員の65歳までの雇用が義務化されています。また2020年の法改正では、70歳までの就業確保が努力義務となりました。本記事では、定年の延長や廃止、再雇用等の概要と給与体系、定年延長のメリット・デメリット、雇用確保措置を講じた企業への助成金などについて解説します。

定年延長とは?いつから?

定年延長とは、企業が定める定年年齢を引き上げることです。例えば、定年を60歳としていた企業が、65歳定年に改定することが「定年延長」に該当します。

法律で定められた定年の下限年齢は60歳です。高年齢者雇用安定法により、定年は60歳を下回ることはできませんが、60歳であれば合法です。2024年現在では、定年年齢の引上げに関する法改正は予定されていません。

しかし、高年齢者の雇用の話題では「65歳までの雇用確保」「70歳までの就業確保」といった言葉がよく聞かれます。ここでは、定年延長がどのようなものかを解説します。

65歳、70歳の定年延長の違い

高年齢者雇用安定法は、2012年と2020年に大きく改正されました。

2012年の改正では「65歳までの雇用確保措置の義務」が、2020年には「70歳までの就業確保措置の努力義務」が、それぞれ成立しています。

以下で、この2つの措置について順にみていきましょう。

65歳までの雇用確保措置

2013年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用確保措置が義務化されました。

ただしこの措置により、65歳までの定年延長が義務化されたわけではありません。以下の3つのうち、いずれかの制度を導入すればよいです。

  • 65歳まで定年を引き上げる(定年延長)
  • 65歳までの継続雇用制度を導入する
  • 定年を廃止する

継続雇用制度」とは、定年に達した労働者を雇用延長、または再雇用の形で引き続き雇用することです。

なお2012年の改正以前は、継続雇用される労働者を労使協定により限定できる制度がありました。この制度は2012年の改正で廃止されましたが、2013年3月31日までに労使協定を締結していた場合に限り、経過措置として制度が残されていました。

しかし、この経過措置も2025年3月31日で終了するため、2025年4月からはすべての企業で「希望者全員が65歳まで働ける」ことになります。

参考:高年齢者の雇用|厚生労働省

70歳までの就業確保措置

高年齢者雇用安定法の2020年の改正により、70歳までの就業確保措置ができました。ただし、これは義務ではなく努力義務です。

70歳までの就業確保措置により、企業は次の5つのいずれかの措置を実施するよう努める必要があります。

  • 70歳まで定年を引き上げる(定年延長)
  • 70歳までの継続雇用制度を導入する
  • 定年を廃止する
  • 70歳までの継続的な業務委託契約制度を導入する
  • 70歳まで継続的にaまたはbの事業に従事できる制度を導入する
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業

参考:高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)|厚生労働省

65歳まではすべての労働者が働けますが、65歳を超えて働けるかどうかは企業ごとの方針次第といえます。

なお、70歳までの就業確保措置は義務ではなく「努力義務」であるため、65歳以上の継続雇用については、対象労働者を限定する基準を設けることは可能です。

対象の企業

65歳までの雇用確保措置の義務がある企業は、次のとおりです。

  • 定年年齢を65歳未満に設定している企業

70歳までの就業確保措置の努力義務があるのは、以下のような企業です。

  • 定年年齢を65歳以上70歳未満に設定している企業
  • 継続雇用制度の上限年齢が70歳未満の企業

高齢者雇用の現状

少子高齢化による労働力人口の減少や年金支給開始年齢の引上げ、高年齢者の就業意欲のアップなどを背景に、高年齢者を積極的に雇用しようとする企業が増加している状況です。

2023年度の「高年齢者雇用状況等報告」によると、報告した企業は定年年齢を次のように定めています。

  • 定年制を廃止…3.9%
  • 60歳…66.4%
  • 61~64歳…2.7%
  • 65歳…23.5%
  • 66~69歳…1.1%
  • 70歳以上…2.3%

起業における定年制の状況

出典:令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します|厚生労働省

また、65歳までの雇用確保措置は99.9%の企業で実施され、内訳は次のとおりです。

  • 定年制の廃止…3.9%(前年度と変動なし)
  • 定年の引上げ…26.9%(前年度より1.4%増加)
  • 継続雇用制度の導入…69.2%(前年度より1.4%減少)

定年制 雇用確保措置の内訳

出典:令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します|厚生労働省

本調査によると、41.6%の企業において、70歳以上まで働ける制度が設けられています。このように、高年齢者の活躍の場は増加傾向です。

定年延長に伴う企業の対応

雇用確保措置や就業確保措置には「定年制の廃止」「定年年齢の引上げ」「継続雇用制度の導入」などの用語が書かれています。以下で、これらについて順に説明します。

定年制の廃止

定年とは、企業が定めた年齢に到達したことをもって雇用契約を終了することです。定年制を廃止することで、労働者は年齢にかかわりなく働けるようになり、企業も熟練労働者を長く雇用できます。

個人差はありますが、一定以上の年齢になると、体力や集中力に衰えがみえることもあるでしょう。定年制の廃止には、このようなケースの扱いが難しいという問題があります。

定年年齢の引上げ

企業が定める定年年齢を変更することも、1つの方法です。例えば、60歳だった定年を65歳まで引き上げるような措置が考えられます。

定年年齢を引き上げた場合、一般的に旧定年年齢(上の例の場合は60歳)に達しても、雇用形態や賃金などの処遇は変更されません。そのため企業側としては、熟練した人材を長く使えるメリットがある一方、人件費が増えるのがデメリットです。

継続雇用制度の導入

継続雇用制度とは、定年年齢を変更せず、定年に達した労働者を継続して雇用する制度です。継続雇用制度には、勤務延長制度再雇用制度があります。

勤務延長制度とは、定年に到達した従業員をそのまま雇用する制度です。この場合、原則として労働条件に大きな変更はなく、定年前と同じ条件で働けます。

再雇用制度とは、定年到達をもって一旦退職し、同じ企業と新しい雇用契約を締結し直す制度です。新しく契約を結び直すため、雇用形態や給与などの労働条件が大きく変わることがあります。

定年延長で人事が見直すべき内容

高年齢者の雇用確保措置や就業確保措置に伴い、企業は就業規則や雇用契約、賃金制度、退職金制度などの見直しが必要です。ここでは、定年延長により人事が見直すべき内容をご紹介します。

雇用契約

雇用契約の内容に変更がない場合は、雇用契約を締結し直す必要はありません。

ただし再雇用の場合は、定年到達前と再雇用後で労働条件が大きく変わることもあります。その場合、新たな契約内容で雇用契約書、および労働条件通知書を作成し直すことが必要です。

就業規則

定年を廃止した場合、定年を引き上げた場合、または新たな継続雇用制度を設けた場合は、就業規則の改定が必要です。

退職(定年)に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項であるため、就業規則の改定および届出を行い、労働者にも周知しましょう。

賃金制度

雇用確保措置や就業確保措置の導入、または変更に伴い、賃金制度を見直す必要があります。特に再雇用制度を導入する場合は、再雇用後の給与体系について充分検討しなければなりません。

再雇用時等で賃金を見直す場合は、労働者のモチベーション維持も考慮し、不合理な賃金低下とならないよう気をつける必要があります。

退職金制度

退職金制度のある企業で定年を延長した場合は、退職金について検討する必要があります。

退職金の支払時期を新定年時にするか旧定年時にするか、旧定年時から新定年時までの期間を退職金額の計算に算入するかなどについて、充分な話し合いのうえ決定しなければなりません。

その結果、変更がある場合は就業規則(退職金規程)を改定し、届出のうえ労働者にも周知しましょう。

定年延長後の給与・退職金はどうなる?

雇用確保措置や就業確保措置の導入または変更をすると、給与や退職金にも影響が及びます。

再雇用制度を導入した場合、再雇用後に給与が低下することは少なくありません。再雇用後の給与減額率については諸説ありますが、明確な法律上の決まりは今のところありません。

再雇用後に給与を下げる場合は、労働者の納得感が得られるよう、再雇用後の業務内容や就業時間、責任の程度などと釣り合う金額を設定することが大切です。

また、退職金の支払時期や計算方法についても検討する必要があります。退職金は金額が大きく企業・労働者双方に及ぼす影響も多大であるため、慎重に検討しましょう。

定年延長のメリット・デメリット

定年を延長するメリットとして、優良な労働者を長期間確保できることが挙げられます。一方、人件費負担が重くなるといったデメリットもあるため注意が必要です。ここでは、定年延長のメリット・デメリットをご紹介します。

定年延長のメリット

定年延長のメリットは、業務に慣れた労働者に長く働いてもらえることです。長期間に渡って経験やスキルを積み、企業風土にも理解のある高年齢労働者は、企業にとって資産ともいえる存在です。

また高年齢労働者は、新人の指導も担当できます。特に技術を必要とする製造業などでは、若年労働者への技術承継に活躍してくれるでしょう。

定年延長のデメリット

人件費が増えることは、定年延長のデメリットです。特に、年功制の賃金制度を採用している企業では、賃金の高い高年齢労働者を雇い続けることになるため、人件費の増大が避けにくくなります。

また、高年齢者の身体状況に個人差はありますが、体力や集中力が著しく低下する人も少なくありません。定年延長の場合、こうした労働者も引き続き雇用する必要があるため、周囲のモチベーションを低下させてしまうことも懸念されます。

定年延長に関わる助成金

定年延長をすると、人件費は増大することがあります。ここでは、高年齢者を活用する企業に支給される助成金をご紹介します。

65歳超雇用推進助成金

65歳超雇用推進助成金は、高年齢者の積極的な雇用に取り組んだ企業に支給される助成金です。「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「高年齢者無期雇用転換コース」の3つのコースがあります。

65歳超継続雇用促進コースでは、65歳以上への定年引上げ、定年の廃止、希望者全員に対する66歳以上の継続雇用制度導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した企業に対し、10万円~160万円が支給されます。

参考:令和5年度65歳超雇用推進助成金のご案内|厚生労働省

定年延長に関する注意点

高年齢労働者は、体力や注意力が低下していることがあるため、企業には充分な安全配慮が求められます。ここでは、定年延長に関する注意点を確認しておきましょう。

安全衛生に気を配る

企業には、労働者を安全に就業させる義務があります。厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインには、高年齢労働者の労災防止のため、次のような配慮をする努力義務が記載されています。

  • 就業環境の照度を確保し、警報音は聞き取りやすい音域にする
  • 作業台の高さ等を工夫し、不自然な作業姿勢を防止する
  • 熱中症等に気を配る
  • 集中力が必要な作業の場合、作業時間を工夫する
  • 短時間勤務制度など無理のない勤務体制を整備する
  • 高年齢者の体力や健康状態を把握し、必要に応じて就労時間や業務内容を工夫する
  • など

高年齢労働者の身体機能や健康状態には個人差があり、中には衰えがみられない人もいますが、高年齢者を雇用する企業としての一定の配慮は必要でしょう。

参考:エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)|厚生労働省

定年延長を考え、高年齢労働者を長く活用しよう

高年齢者雇用安定法により、企業には65歳までの雇用確保措置を講じる義務があります。なお、70歳までの就業確保措置は努力義務です。

高年齢者を継続して雇用することで、給与や退職金が増加するデメリットがある一方、熟練の労働力を長く活用できるメリットもあります。助成金も検討しながら、定年延長を検討してみてはいかがでしょうか。


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