• 更新日 : 2025年1月20日

パートタイム・有期雇用労働法とは?条文の内容をわかりやすく解説

2020年に「パートタイム・有期雇用労働法」が施行され、通常の労働者とパートタイム労働者等の間の不合理な待遇差が禁止されています。パートタイム労働者を正しい待遇のもとで活用するためには、同法に対する理解が欠かせません。当記事では、パートタイム・有期雇用労働法について条文を通して解説します。

パートタイム・有期雇用労働法とは

「パートタイム・有期雇用労働法」とは、企業内における正規雇用労働者とパートタイム労働者に代表される非正規雇用労働者の不合理な待遇格差の是正を目的とした法律です。少子高齢化や就業構造の変化に伴って、パートタイム労働者等の果たす役割が重要性を増していることが法制定の背景にあります。

パートタイム・有期雇用労働法は、従来の「パートタイム労働法」を改正する形で、2020年4月から施行されています(中小企業は翌2021年4月から)。なお、パートタイム・有期雇用労働法は通称で、正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。

パートタイム・有期雇用労働法の条文

パートタイム・有期雇用労働法は、パートタイムなどの短時間有期雇用労働者(以下、パートタイム労働者等)のための法律です。同法には、パートタイム労働者等を保護するための重要な条文が複数あります。本項では、条文ごとに解説します。

参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-Gov 法令検索

第6条 労働条件に関する文書の交付等

労働者を雇い入れる際には、雇用形態を問わず、労働条件通知書等で労働条件を明示する必要があります。労働条件には、労働契約の期間や賃金などの必ず明示を要する「絶対的明示事項」と、退職手当や休職などの定めがある場合に明示を要する「相対的明示事項」があります。しかし、パートタイム・有期雇用労働法第6条では、パートタイム労働者等を雇い入れる際に、これらの明示事項に加えて下記の事項も書面等で明示しなければならないとしています。

  • 昇給制度が適用されるか
  • 退職手当が支給されるか
  • 賞与が支給されるか
  • 雇用管理の改善に関する相談窓口に関する事項

上記のような明示事項は、「特定事項」と呼ばれます。

第7条 就業規則の作成の手続

就業規則は、労働条件や働くうえで労働者が遵守すべきルールを定めた重要な規則集です。その重要性から就業規則を作成や変更する際には、過半数労働組合または労働者の過半数代表の意見を聴取することが義務付けられています。この手続きに加えて事業場にパートタイム労働者などの短時間労働者が勤務する場合には、当該短時間労働者の過半数代表の意見を聴取するように努めることとされています。

なお、パートタイム・有期雇用労働法第7条には「努める」とあるため、絶対的な義務ではありません。しかし、パートタイム労働者等が働きやすい環境とするために、十分に意見を聴いておくことが推奨されます。

第8条 不合理な待遇の禁止

パートタイム・有期雇用労働法第8条では、通常の労働者(正社員等の正規雇用)とパートタイム労働者等の不合理な待遇の格差を禁止しています。パートタイム労働者等の職務内容(業務の内容及び責任の程度)などを考慮して、適切でないと認められる不合理な待遇格差を設けてはならないことが、その内容です。禁止される不合理な待遇には、基本給や賞与だけでなく、福利厚生施設の利用なども含まれます。

第9条 通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止

以下の条件を満たすパートタイム労働者等は、「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」とされています。

  • 職務内容同一短時間・有期雇用労働者※であること
  • 事業場における慣行などの事情を鑑みて、雇用関係が終了するまでのすべての期間において、職務内容や配置変更が通常の労働者と同一の範囲で行われる見込みであること

※職務の内容が、通常の労働者とされる労働者と同一のパートタイム労働者等

上記に該当する場合には、パートタイム・有期雇用労働法第9条の規定によって、パートタイム労働者等であることを理由とする差別的取扱いが禁止されます。禁止される差別的取扱いには、基本給や賞与だけでなく、そのほかの待遇も含まれます。

第10条 賃金

パートタイム・有期雇用労働法第10条では、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者以外のパートタイム労働者等の賃金について定めています。第10条では、通常の労働者との均衡を考慮し、職務内容や経験、能力などを勘案したうえで、賃金を決定するように努めることを求めています。

第11条 教育訓練

パートタイム・有期雇用労働法第11条は、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者以外のパートタイム労働者等の教育訓練について定めた条文です。第11条では、職務遂行に必要な能力を得るための教育訓練は、職務内容同一短時間・有期雇用労働者についても、実施しなければならないとしています。また、職遂遂行に必要な能力を得るための教育訓練以外についても、就業実態に応じて、実施するよう努めるとしています。

第12条 福利厚生施設

パートタイム・有期雇用労働法第12条では、健康の維持増進や円滑な業務の遂行に資する福利厚生施設は、パートタイム労働者等にも利用機会を与えるべきとしています。具体的には、給食の施設や更衣室、休憩室が該当します。

第13条 通常の労働者への転換

パートタイム・有期雇用労働法第13条は、パートタイム労働者等の通常の労働者への転換措置について定めた条文です。具体的には、以下の措置が必要であるとされています。

  • 通常の労働者の募集を行う際には、募集内容等を事業場に掲示するなどして、その条件をパートタイム労働者等に周知すること
  • 通常の労働者の配置を行う際には、パートタイム労働者等にも配置の希望を申し出る機会を与えること
  • 一定の資格を保有するパートタイム労働者等を対象として、通常の労働者への転換のための試験制度を設けること
  • そのほか、通常の労働者への転換措置を推進するための措置を講じること

第14条 事業主が講ずる措置の内容等の説明

パートタイム・有期雇用労働法第14条では、第8条~第13条の規定によって、講ずべき措置の内容について雇い入れの際、速やかに説明しなければならないとしています。また、事業主は待遇の格差について説明する義務を負っています。こちらについては、次項で詳述します。

パートタイム・有期雇用労働法の改正で重要なポイント

パートタイム・有期雇用労働法は、従来のパートタイム労働法を改正する形で成立した法律です。この改正で、2つの重要なポイントが整備されました。ポイントごとに解説します。

同一労働同一賃金(不合理な待遇差の禁止)

「同一労働同一賃金」とは、雇用の形態を問わず、同様の業務を行うのであれば、同様の賃金を支払うべきという考え方です。正規雇用と非正規雇用の不合理な格差是正に関しては、以前から取り組まれていました。

しかし、改正により、パートタイム労働者だけでなく、有期雇用労働者に対しても、第9条により均等待遇規定が適用されるようになっています。また、第8条によって、均等待遇規定の明確化が図られています。つまり、パートタイム労働者等が通常の労働者と同様の業務に従事するのであれば、同様の待遇が受けられるようになったわけです。

具体的に不合理な格差が禁止される待遇の例は、以下のとおりです。

  • 賃金
  • 賞与
  • 役職手当などの諸手当
  • 福利厚生
  • 教育訓練

上記で具体的に挙げられていない場合であっても、あらゆる待遇において、不合理な格差を設けることが禁止されています。

正社員との待遇差に関する説明義務

事業主は、第14条に基づき、求めがあった場合にはその雇用するパートタイム労働者等に対し、待遇決定にあたって考慮した事項について説明する義務があります。こちらも改正によって、パートタイム労働者だけでなく、有期雇用労働者に対しても適用されるようになりました。また、求めがあった場合には、待遇差の内容や理由についても説明する義務があります。なお、事業主は、説明を求めたことを理由として、不利益な取り扱いをしてはなりません。

パートタイム・有期雇用労働法に対応する方法

パートタイム・有期雇用労働法の施行によって、事業主は不合理な待遇格差が生じないように対応することが義務付けられました。対応のために必要なポイントについて解説します。

労働者の雇用形態と待遇を確認する

パートタイム・有期雇用労働法では、労働者の雇用形態による差別的取扱いを禁止しています。自社内に正社員等の正規雇用と同様の業務に従事するにもかかわらず、待遇が劣る労働者がいないか確認しましょう。賃金だけでなく、福利厚生の適用や教育訓練についても確認する必要があります。

待遇に違いがある場合は理由を確認する

パートタイム・有期雇用労働法が禁止しているのは、あくまでも不合理な待遇の格差です。格差があったとしても、合理的理由があれば許されます。従事する業務の内容や責任の程度の差異に基づいた格差であれば、不合理とはならず、問題のない取り扱いとなります。

待遇の違いが不合理ではないと説明できるようにする

パートタイム労働者等が、自分の待遇について疑問を感じ、不合理であると訴えることも想定されます。それが本当に不合理な格差であれば是正が必要ですが、不合理でなければ是正の必要はありません。格差を設けるのであれば、なぜ、そのような格差が生じているのか、合理的な理由で説明できるようにしておく必要があります。

待遇の違いが不合理な場合は改善を目指す

待遇格差が合理的な理由に基づくものでなく、ただ正規と非正規の雇用形態の差異によるものであれば、格差を解消しなければなりません。非正規雇用だけでなく、正規雇用も納得できる勤務実態に応じた待遇を設定しましょう。

パートタイム・有期雇用労働法に違反した場合の罰則

パートタイム・有期雇用労働法第6条に定められた労働条件を明示しなかった場合には、同法第31条によって、10万円以下の過料が科せられます。また、パートタイム・有期雇用労働法第18条では、雇用管理のために必要があれば、厚生労働大臣は事業主に対して報告を求めたり助言や勧告を行ったりできると規定されています。

第18条の規定により報告を求められたにもかかわらず、報告を怠ったり虚偽の報告を行ったりした場合には、第30条により、20万円以下の過料の対象です。また、第18条では、勧告に従わなかった場合には、その旨を公表できると定められています。

条文を理解し正しい待遇の適用を

パートタイム労働者を正しい待遇のもとで活用するためには、パートタイム・有期雇用労働法の理解が欠かせません。当記事における条文の解説を参考に、理解を深め勤務実態に相応しい待遇を設定してください。働きに見合った相応しい待遇が用意されれば、パートタイム労働者のモチベーションが高まり、生産性向上にもつながるでしょう。


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