- 更新日 : 2025年6月23日
時間外労働とは?上限規制や関連法律をわかりやすく解説
企業において、時間外労働(いわゆる残業)は日常的に発生するものですが、その運用を誤ると法令違反や労使トラブルの原因になりかねません。「何時間まで残業できるのか」「36協定とはどのような仕組みなのか」「割増賃金はどのように計算するのか」など、時間外労働に関する正しい知識が欠かせません。
本記事では、時間外労働の定義や法律上の位置づけ、36協定との関係や割増賃金の計算ルールについて解説します。
目次
時間外労働とは
時間外労働とは、法律で定められた労働時間の上限を超えて行われる労働のことです。この節では時間外労働の正確な定義と、法定労働時間との関係について解説します。
時間外労働の定義
時間外労働とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて行う労働のことです。日本の法定労働時間は原則として「1日8時間、週40時間以内」です。この上限を超えて労働させることは原則禁止されており、そうした法定時間外の労働が「時間外労働」に当たります。一般に「残業」と呼ばれるものの多くは、この時間外労働に該当します。
一方、企業ごとに就業規則で定める所定の勤務時間を所定労働時間と言います。所定労働時間が1日7時間の会社で社員が8時間働いた場合、1時間分は会社の定めを超える所定外労働ですが、法律上はまだ法定8時間以内なので時間外労働(法定時間外労働)には該当しません。ただし所定労働時間を超える労働も、企業内では残業として扱われ、労働契約や就業規則で割増賃金の支払い対象としている場合があります。
法定労働時間を超える残業が発生する場合には法的な手続きが必要になるという点が重要です。
時間外労働と法定労働時間との関係
法律上、使用者(会社)は労働者に対し1日8時間・週40時間を超えて働かせてはならないと定められています(労働基準法第32条)。また、毎週少なくとも1日または4週を通じて4日の法定休日を与える義務もあります(同法第35条)。この法定労働時間および法定休日は労働条件の最低基準であり、これを超える労働をさせるには特別な手続きが必要です。
法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させたりする場合には、あらかじめ労使間で協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが法律で義務付けられています。この労使協定がないままに時間外労働や休日労働を行わせることは労働基準法違反となり、たとえ残業代を支払っていても違法状態となります。
したがって、社員に法定労働時間を超える残業をさせる可能性がある企業は、必ず36協定を締結し、届け出ておく必要があります。
36協定とは
36協定とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定書」といい、企業が従業員に時間外労働や休日労働をさせるために労使間で締結する協定のことです。名称の由来は労働基準法第36条に規定されていることから来ています。
36協定の目的
労働基準法第36条に基づく36協定は、会社と労働者代表(労働組合または従業員代表)との間で締結される労使協定です。内容は「どの程度の時間外労働・休日労働を認めるか」という取り決めであり、これを労基署に届け出ることで、法定労働時間を超える労働や法定休日の労働が法律上可能になります。36協定の目的は、企業のやむを得ない残業ニーズと労働者の健康・権利保護とのバランスを取ることにあります。
協定では時間外労働の上限や条件を定めるため、単に残業を無制限に認めるものではなく、労働時間を適切にコントロールする役割を果たします。
36協定書には1日や1か月あたりの時間外労働の上限時間、法定休日に労働させる場合の条件などを記載します。協定が締結・届出されていれば、その範囲内で残業や休日出勤が認められ、会社は労働基準法違反に問われなくなります(逆に言えば、協定の範囲を超えた残業は認められず違法となります)。このように36協定は残業のルールを明文化し、労使で共有することで、長時間労働の歯止めとする意味合いも持っています。
36協定が必要な理由
企業活動において繁忙期や予期せぬ業務で法定時間を超えて働いてもらわざるを得ない状況は少なくありません。しかし法律上は原則としてどんな理由があっても法定労働時間超えの労働は禁じられています。そこで法律は、労使間の合意(協定)を結び、行政に届け出ることを条件に例外的に時間外労働・休日労働を認めています。
この合意こそが36協定であり、企業が従業員に残業や休日出勤をさせるためには欠かせない法的手続きなのです。
36協定がない場合、会社は従業員を週40時間を超えて働かせることができません。仮に36協定未締結のまま残業をさせてしまうと、どんなに従業員が合意していても労働基準法違反となります。また、そのような違法残業に対しては労働基準監督署から是正勧告を受けたり、後述する罰則の適用対象になったりするリスクがあります。残業代を支払っていれば問題ないと思われがちですが、36協定の届出がない残業は法的に許されません。
適法に時間外労働を行うために、36協定の締結・届出は企業にとって必須と言えるでしょう。
時間外労働の上限規制と36協定特別条項
2019年の働き方改革関連法の施行による労働基準法の改正によって、時間外労働に初めて罰則付きの上限規制が設けられました。従来は36協定で特別条項を結べば事実上青天井だった残業時間にも法的な上限が設定され、企業はこれを守る必要があります。
改正で定められた時間外労働の上限
働き方改革関連法に伴う労働基準法改正(大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から適用)により、時間外労働の上限が法律で明確に規定されました。改正前も行政指導の目安として「月45時間・年360時間」という基準は存在していましたが、法的拘束力はなく、特別条項さえ結べばそれ以上の残業も可能でした。
改正後は原則として月45時間・年360時間を超える時間外労働はできないと法律に明記され、違反すれば罰則の対象となります。
ただし、業務の繁忙など臨時的な特別の事情がある場合には、36協定に特別条項を定めることで上記の原則上限を一時的に超える残業が認められます。しかしその場合でも、改正法により絶対的な上限が設けられました。
特別条項適用時の上限と例外事項
特別条項付きの36協定を結んだ場合であっても、以下の条件を超えて時間外労働をさせることはできません。
- 年720時間以内
時間外労働(法定休日労働を含まない)の年間総計が720時間までという上限です。 - 月100時間未満
時間外労働と法定休日労働の合計が、どの月でも100時間未満でなければなりません。 - 複数月平均80時間以内
時間外労働と法定休日労働の合計について、2~6か月間の平均がいずれの期間でも80時間以内に収まる必要があります。 - 月45時間超の残業は年6回まで
時間外労働が月45時間の上限を超えて認められるのは年に6か月(6回)までという制限があります。
これらを一つでも超過した残業は特別条項があっても違法となります。これらの上限規制に違反した場合、企業や責任者に対して罰則が科される可能性があります。
なお、改正法の適用当初は一部業種に猶予措置が設けられ、大企業・中小企業とも建設業や自動車運送業、医師などについては施行が猶予されました。しかしそれらも段階的に規制対象となり、2024年4月からは建設業などでも上記上限規制が適用されています。現在(2025年時点)では企業規模や業種を問わず時間外労働の罰則付き上限規制が導入されており、遵守が求められます。
36協定で時間外労働について定める場合の注意点
36協定は、労働者に法定労働時間を超える残業や法定休日の労働をさせるために欠かせない協定ですが、その内容や運用に不備があると、協定を結んでいても違法と判断されることがあります。ここでは、36協定で時間外労働を定める際に企業側が注意すべきポイントについて解説します。
労働時間の上限を定める
まず、協定に記載する労働時間の上限は明確でなければなりません。1日、1か月、1年のそれぞれにおいて、残業が発生する可能性がある時間数を具体的に記載する必要があります。「必要に応じて残業あり」などの抽象的な表現では、法的に無効とされる可能性があります。また、2019年以降は法改正により、原則として「月45時間・年360時間」の上限を守ることが求められており、これを超えるには特別条項付き協定が必要です。
特別条項を設ける場合には、その適用条件や手続きも明記する必要があります。「突発的な業務の集中」や「予測困難なトラブル対応」など、限られた事情の下で一時的に上限を超えることが認められています。常態的に特別条項を使い続けていると、「臨時的・特別な事情」とはみなされず、指導や是正の対象となる可能性があります。
業務範囲を定める
また、対象業務の範囲を明確に定めることも大切です。協定書には時間外労働が想定される業務の種類を記載しなければなりません。「営業業務」や「開発業務」といったように、従業員が行う職務ごとに明確に区分しておくことが求められます。対象業務が曖昧な場合、その範囲外の従業員に残業をさせることは、協定違反とみなされる可能性があります。
有効期間を定める
さらに、36協定の有効期間にも注意が必要です。法律上、有効期間の定めは必須であり、1年などの期間を設けるのが一般的です。有効期間が切れてしまうと、それ以降の時間外労働は無許可扱いとなり、違法残業とみなされます。協定の更新時期は、社内の労務管理カレンダーなどでしっかり把握しておくとよいでしょう。
このように、36協定は形式的に締結するだけでなく、その内容・範囲・運用にまで注意を払い、法令に沿った形で適切に管理することが必要です。
時間外労働の割増賃金と計算ルール
時間外労働をさせる場合には、法定の割増率に従って賃金を支払う義務があります。ここでは時間帯別の割増率や計算例について説明します。
時間外労働に対する割増率の基本
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間外労働について、通常の賃金に加えて25%以上の割増率で賃金を支払う必要があります。これは最低基準であり、労使協定や就業規則によってはより高い割増率を定めることも可能です。
さらに、時間外労働が1か月に60時間を超えた部分については、割増率が50%以上に引き上げられます。なお、中小企業についてはこの50%の割増について2023年3月まで猶予措置が設けられていましたが、現在は大企業と同様に50%以上の支払いが必要です。
また、法定休日(週1回以上の休日)に労働をさせた場合には、35%以上の割増が義務付けられています。深夜(午後10時〜午前5時)の労働については、通常の勤務であっても25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金の計算方法と注意点
割増賃金を計算するためには、1時間あたりの基礎賃金を正確に把握することが前提になります。基礎賃金とは、基本給だけでなく、役職手当など一定の手当を含んだ総支給額から、除外項目を差し引いたものを指します。法定で除外できるのは住宅手当、家族手当、通勤手当などが挙げられます。
たとえば、1か月の基礎賃金が25万円で、1か月の所定労働時間が160時間の場合、1時間あたりの単価は「250,000円 ÷ 160時間 = 1,562.5円」となります。これに対して、時間外労働25%増なら「1,562.5円 × 1.25 = 1,953.13円」が時間外労働1時間あたりの賃金です。
時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)の無料テンプレート・ひな形
時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)とは、使用者が労働者に対し、法定労働時間(原則として1日8時間・週40時間)および法定休日(週1回)を超えて労働させる場合に、あらかじめ締結しておく必要がある労使間の協定です。この協定は、労働基準監督署に提出する必要があります。
以下より、時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。
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時間外労働の管理のポイント
時間外労働は単に残業を命じるだけでは済まず、記録や承認、健康面への配慮まで多岐にわたる管理が求められます。企業が注意すべき実務上のポイントを押さえましょう。
残業命令と労働者の同意
原則として、就業規則に明記されていれば会社は業務上必要に応じて残業を命じることができます。ただし、現場では労働者の同意や納得感が欠如した残業命令が問題になることがあります。
強制的な残業は「強制労働」に該当するリスクがあり、個々の事情に配慮しない一方的な指示はトラブルの火種になります。やむを得ない事情がある場合には、本人との話し合いや調整の機会を設けることが望ましい対応です。
また、裁判例でも「合理的な業務命令」でない残業命令については、従業員が拒否できる余地があると判断されることがあります。管理職であっても、残業時間が過大になっていないか注意が必要です。
時間外労働の記録とタイムカードの運用
企業には労働時間の正確な把握義務があり、時間外労働の発生状況を明確に記録しなければなりません。近年の労働安全衛生法の改正により、労働時間の記録は自己申告だけでなく、客観的なデータ(タイムカード、PCログ、ICカードなど)による裏付けが求められるようになっています。
また、労働時間の記録を「打刻ベース」で行っている場合、早出や居残り時間が業務指示によるものかを明確にする必要があります。仮に「自主的な残業」として処理していた場合でも、実際には上司の黙認があれば労働時間と認定される可能性があります。
従業員からの「みなし残業ではないか」といった指摘や、過重労働による申告リスクを抑えるためにも、勤務時間の可視化と適正な承認プロセスを整えましょう。
時間外労働をきちんと理解し、上限規制への抵触や36協定違反を防ごう
時間外労働は、日々の業務運営において避けられない場面もありますが、法令に則った正しい対応が求められます。従来のような長時間労働の常態化が法的に難しくなった一方で、企業にはより精緻な労務管理体制が求められるようになりました。
時間外労働を合法的に実施するためには、36協定の締結と労働基準監督署への届出が不可欠です。形式的な運用では不十分で、割増賃金の支払い計算や健康管理への配慮、勤務実態の記録方法など、実務上の観点でも確認すべき点は多岐にわたります。
時間外労働の扱いを誤ると、企業は法的責任や損害賠償リスクを抱えることになりかねません。労働者の健康や職場環境を守り、企業全体の持続的な成長を支えるためにも、時間外労働に関する正確な理解と適切な対応が欠かせません。
現在の労務体制を見直すきっかけとして、本記事の内容を活かしていただければ幸いです。
よくある質問
時間外労働とは何ですか?
労働基準法に定める法定労働時間を超える労働のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
時間外労働における割増賃金について教えてください
時間外労働に対しては割増率を用いて計算する割増賃金を支払わなければならないことが、労働基準法で定められています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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