- 更新日 : 2024年9月3日
時間外労働とは?上限規制や関連法律をわかりやすく解説
働き方改革に伴い、時間外労働に上限規制が設けられました。時間外労働は原則として月45時間・年360時間まで、特別条項がある場合でも年720時間・月100時間未満・2~6ヵ月平均80時間・45時間超の月は年6回までといった上限を超えることはできません。大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から施行されています。
目次
時間外労働とは
時間外労働の上限規制は、大きな社会問題であった労働者の長時間労働を解消する目的で設けられました。長時間労働を引き起こす時間外労働とは、どのような労働を言うのでしょうか?時間外労働とは何かについて、定義や法律との関係をご説明します。
時間外労働の定義
一般的には残業を指して時間外労働と言いますが、上限規制の対象となるのは法律で定められている時間外労働です。残業にも時間外労働に該当するものと時間外労働に該当しないものがあります。上限規制の対象になる時間外労働とは、労働基準法が法定労働時間として定めている「1日あたり8時間・1週間あたり40時間」を超えて労働者にさせた労働のことを指します。
働き方改革の関連法案との関係
働き方改革は働く意欲を持つ者が、それぞれの事情に応じた働き方ができるようにすることを目的としています。長時間労働は健康に悪影響を及ぼすだけでなく、ワーク・ライフ・バランスを損なうという意味から働き方改革において是正のための数々の施策が行われました。時間外労働の上限規制も働き方改革の一環として行われた取り組みの1つです。
労働基準法における時間外労働
労働基準法では法定労働時間を超えた労働を、時間外労働としています。
時間外労働の割増賃金 – 割増率など
時間外労働に対しては以下の割増率による割り増しした賃金を支払う必要があります。
- 時間外労働の割増率 25%(1ヵ月60時間まで)
50%(1ヵ月60時間超)
- 深夜労働の割増率 25%
- 休日労働の割増率 35%
時間外労働の上限規制
以前は時間外労働に関して「何時間まで」といった規制は厳格ではなかったため、長時間にわたって残業させることが可能でした。長時間の過重労働をなくす目的で設けられたのが時間外労働の上限規制で、これにより労働者にさせられる時間外労働は一定の時間までに制限されます。時間外労働の上限規制とはどのようなものなのか、しっかりと理解しましょう。
改正前と改正後の違い
2019年の労働基準法改正により、時間外労働に上限規制が設けられました。改正前と改正後では、以下のような違いがあります。
改正前 法律上、時間外労働に上限が設けられていない
限度基準告示による上限で、強制力がなかった
改正後 時間外労働に上限が設けられた(上限の内容月45時間、年360時間まで)
罰則付きの規定であり、強制力がある(罰則は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)
上限規制の適用年 – 大企業と中小企業
時間外労働規制の施行は、大企業と中小企業で以下のように異なっています。
- 大企業 2019年4月から
- 中小企業 2020年4月から
改正後の上限時間
労働基準法の改正により、時間外労働の上限として以下の時間が設けられました。
- 原則として
月45時間・年360時間まで(休日労働は含まない)
- 特別条項により
時間外労働は年720時間以内
時間外労働・休日労働の合計は月100時間未満
時間外労働・休日労働の合計の2~6ヵ月の平均はすべて月80時間以内
時間外労働が月45時間を超えるのは年6回まで
上限規制の適用除外 – 事業と業務
次の事業・業務には5年間の猶予期間が設けられ、2024年3月31日まで時間外労働の上限規制の適用を受けません。
- 建設の事業
- 自動車運転の業務
- 医師
- 鹿児島県と沖縄県における砂糖製造業
(時間外労働・休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヵ月平均80時間の規制のみ除外)
また新技術・新商品等の研究開発業務は、時間外労働の上限規制の適用対象外です。
36協定で時間外労働について定める場合の注意点
36協定に反する時間外労働は認められません。記載内容から逸脱しないよう、十分に気を付ける必要があります。以下の点には、とくに注意が必要です。
時間外労働のためには36協定が必須
労働者に時間外労働させるには、36協定の締結と所轄労働基準監督署への届出が不可欠です。36協定なしに時間外労働させると、労働基準法違反となります。罰則も設けられている重大な違反のため、時間外労働させる際は必ず36協定を確認しましょう。
時間外労働・休日労働は最小限に
時間外労働・休日労働はともに最小限であることが求められます。36協定締結にあたっては、労使ともにこの点に対してしっかりとした意識を持つことが大切です。
労働者に対する安全配慮義務
36協定の内容に沿った時間外労働でも、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負っています。長時間労働は過労死や、脳血管疾患や虚血性心疾患といったさまざまな疾患を引き起こす可能性があります。使用者は時間外労働によるリスクを考慮し、配慮を怠らないようにしなければなりません。
業務区分の細分化と業務範囲の明確化
36協定では、「業務の種類」を決め、実際には労使で36協定を締結し、協定書を作成します。その後、その内容を記入した所定の帳票である「協定届」を労働基準監督署に届け出ることになります。協定届出は時間外労働する労働者の行う業務について範囲を細分化し、明確に定めて記入しなければなりません。
限度時間の遵守
特別条項がある場合は原則の限度時間を超えて時間外労働させることができますが、濫用は認められません。特別条項は臨時的な特別の事情がある場合に、月45時間・年360時間の限度額を越えて時間外労働させることを認めるものです。通常予見できない業務量の大幅な増加があった場合などに認められ、常態としている場合は認められません。また臨時的な特別の事情がある場合も、原則の限度時間に近づける努力が必要です。
時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)の無料テンプレート・ひな形
時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)とは、使用者が労働者に対し、法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)及び法定休日(1週1回)を超えて労働させる場合に必要な労使協定です。この協定は、労働基準監督署に提出する必要があります。
以下より、時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。
時間外労働に関連する36協定の記載例
36協定(特別条項なし)の記載例は、以下の通りです。
青枠内は45時間まで、緑枠内は360時間までの時間としなければなりません。
引用:36協定届の記載例(限度時間を超えない場合)|厚生労働省
時間外労働をきちんと理解し、上限規制への抵触や36協定違反を防ごう
働き方改革に伴って労働基準法が改正され、時間外労働に上限規制が設けられました。月45時間・年360時間までの上限時間を越えて時間外労働させると、労働基準法違反となります。特別条項がある場合でも、時間外労働は年720時間・月100時間未満・2~6ヵ月平均80時間・45時間超の月は年6回までとしなければなりません。特別条項は臨時的な特別の事情がある場合のために定めておくもので濫用は認められず、原則の限度時間を遵守する努力も求められることに注意が必要です。
時間外労働させるためには36協定が不可欠です。36協定なしに時間外労働させた場合も、労働基準法違反になります。36協定についてもさまざまな注意点があるため、36協定違反とならないように十分に注意する必要があります。時間外労働をきちんと理解し、労働基準法違反とならないようにしましょう。
よくある質問
時間外労働とは何ですか?
労働基準法に定める法定労働時間を超える労働のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
時間外労働における割増賃金について教えてください
時間外労働に対しては割増率を用いて計算する割増賃金を支払わなければならないことが、労働基準法で定められています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
4連勤はきつい?違法?労働基準法に基づき分かりやすく解説!
4連勤は「まだ短い」と思われがちですが、心身の疲労やプライベートの圧迫が重なれば、十分に負担を感じることがあります。特に、毎日フル稼働しなければならない仕事の場合、少しの休息では疲れが回復しきらず、連勤の終わりには心身ともに疲弊してしまうこ…
詳しくみるコアタイムとは?フレックスタイム制の導入方法や適正時間を解説
コアタイムとは、フレックスタイム制において従業員が必ず勤務していなければならない時間帯のことです。その時間帯は従業員がそろうため、打ち合わせなどの目的で設定されます。設定は必須ではなく、開始時間・終了時間や何時間にするかについても企業が自由…
詳しくみる事故欠勤とは?傷病欠勤との違いや給与の扱いも解説
事故欠勤とは、病気やケガなどで欠勤する「傷病欠勤」以外の理由で欠勤することです。 ただ、「どのようなケースが事故欠勤になるの?」「事故欠勤した場合の給与や税金の扱いは?」などと疑問に思っている人もいるでしょう。 そこで本記事では、事故欠勤の…
詳しくみる急な退職でも残った有給休暇を取得できる?有給消化できないと言われた場合の対処法も解説
突然退職することになった場合、残った有給休暇をどう扱えば良いのでしょうか? 年次有給休暇は法律で認められた労働者の権利であり、退職時であってもその権利を行使できます。しかし、会社との交渉や手続き次第ではスムーズに消化できないケースもあります…
詳しくみる月177時間は法定労働時間の範囲内!違法になるケースや有給取得時の対応を紹介
「月177時間の労働時間は違法なのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。月177時間が適法かどうかは、勤務形態や36協定の有無によって異なります。 本記事では、月177時間の法定労働時間の扱いや違法になるケース、有給休暇の影響、よくある疑問に…
詳しくみる【2025年最新】勤怠管理の法律で守るべき義務・労働基準法の改正点まとめ
企業は従業員を雇用する際に、労働基準法にしたがって正確な勤怠管理を行う義務があります。 しかし、近年は働き方改革による法改正にともない、勤怠管理のあり方も変化しています。 そのため、企業としても従来の勤怠管理方法を見直し、法改正へ迅速に対応…
詳しくみる