- 更新日 : 2024年2月16日
カーブアウトとは?メリット・デメリット、実施手順や注意点を解説!
カーブアウトとはM&A手法の一つで、事業を切り離して別会社として展開することをいいます。メリットには経営資源の集中化により成長が促せる点などがある一方、デメリットには資本関係の複雑化により意思決定がしにくくなる点や、勤務先の変更により離職につながる点などが挙げられます。カーブアウトの代表的な成功事例として、VAIOやNTTdocomoが知られています。
目次
カーブアウトとは?
カーブアウトはM&Aの手法として、しばしば耳にする機会が多い言葉です。企業から一事業を切り離して、別企業として展開することを指します。多くの場合は成長が見込める優良事業に対して採用されますが、撤退を視野に入れた不良事業に対して行われる場合もあります。以下に詳しい意味や、似た言葉との違いを紹介します。
カーブアウトの意味
カーブアウトは、「切り出す」を意味する「carve out」が語源の言葉です。社内事業の1つを切り離して、社外で展開することを指します。一般的には社内に留保しておくよりもカーブアウトした方が効果的な事業育成が望める場合に用いられますが、経営健全化を目的に、不採算事業を分離する場合に実施されることもあります。
スピンオフやスピンアウトとの違い
スピンオフやスピンアウトも、M&A手法において用いられる言葉です。スピンオフとスピンアウトは元の企業との資本関係の有無に違いがあります。スピンオフは元の企業との資本関係を保持した状態で事業を独立させますが、スピンアウトは資本関係を断ち切って事業を独立させます。カーブアウトはスピンオフ・スピンアウトを包括した言葉とされています。
カーブアウトの手法は?
カーブアウトには2つの手法があります。違いを見ていきましょう。
会社分割
会社分割は会社の一部を切り離して分離・独立させる方法です。元の企業が出資して新たな会社を設立し、カーブアウトを実施します。事業に必要な権利や契約、許認可は、包括的に元会社から新会社に移転されます。そのため、新会社が新たに手続きする必要はなく、手間が省け、スムーズな移転が可能というメリットがあります。基本的に従業員はそのまま引き継がれます。
事業譲渡
事業譲渡は事業のみを分離・独立させる方法です。事業に必要な権利や契約、許認可は譲渡されないため、分離・独立先で新たに手続きする必要があります。一つひとつ権利取得や再契約、許認可申請を行わなければならないため手間がかかりますが、不利なものは引き継がなくて済みます。従業員も新しく雇用関係を結ぶ必要があります。
カーブアウトのメリットは?
カーブアウトを行うと、どのような効果があるのでしょうか?メリットを説明します。
親会社の経営資源を活用できる
カーブアウトによって新しい会社が設立され、親会社と子会社の関係が生じます。元会社は親会社、新会社が子会社となります。子会社は親会社の経営資源を活用して事業を拡大させることができ、親会社と子会社の連携により効率的な企業経営も可能になり、両社ともの成長が期待されます。
外部からの出資が受けられる
カーブアウトによって設立された新会社と元会社は、それぞれ別個の企業です。そのため、新会社は他企業から出資を受けることができるようになります。資金が不足した場合には独自に出資者を募ることもでき、自由な資金調達が可能になります。多額の資金を集められるようになるため、事業の成長・展開のスピード化・拡大を図ることができます。
1つの事業に集中できる
新会社はカーブアウトした事業に専念することができます。元会社で複数の事業を展開していた場合、複数の事業間で人材や資金などの経営資源を分散して使う必要がありますが、カーブアウトによって、一つの事業に経営資源を集中投資できるため、事業の飛躍的な成長を目指すことができます。
カーブアウトのデメリットは?
カーブアウトには経営資源の獲得や集中活用といった面でのメリットがあります。では、デメリットにはどのような点が考えられるでしょうか?カーブアウトのデメリットのほか、考えられる悪影響を説明します。
意思決定しにくくなる
カーブアウトは元の会社の意思で行われますが、実施後は新会社が意思決定を行わなくてはならなくなります。新たな出資者の意見や要望も受け入れなくてはならなくなり、それだけ意思決定が行いにくくなります。
事業継承手続きが必要になる
「カーブアウトを実施すると、多くの手続きが必要になります。特に、事業継承に関する手続きは避けて通れず、迅速かつ正確に進めなければなりません。これには時間とリソースがかかるため、事前の準備と計画が不可欠です。
管理部門が手薄になる
事業を切り離す際、必要最低限の人員でカーブアウトするのが一般的です。エンジニアや技術者といった事業に欠かせない人材を優先的に切り離し、管理部門の人材は限定的に移行するのが一般的です。その結果、カーブアウトしてでできた新会社は、管理部門が手薄になりがちです。
離職者が出る
カーブアウトでは切り離された事業に従事していた従業員は、新会社に移籍します。しかし、大手企業から規模の小さい企業への移籍や、歴史ある会社から新設したばかりの会社への移籍に対して抵抗感を持つ一部の従業員が離職を選択することもあります。
カーブアウトの実施手順は?
実際にカーブアウトを行う際、どのように進めていくのでしょうか?次に、カーブアウトの実施手順を見ていきましょう。
手法を選択する
カーブアウトには会社分割と事業継承の2つの手法があります。最初に、どちらの手法を採用するかを決定する必要があります。会社分割は会社の一部を包括して切り出す方法であり、事業継承は事業のみを切り離して独立させる方法です。それぞれのメリットやデメリットを考慮して、適した方を選択します。一般的に規模が大きい場合は会社分割、規模が小さい場合は事業継承が向いているとされています。
必要事項を決定する
カーブアウトには、事業に必要な契約の継承、知的財産権など権利関係の移転手続き、従業員の雇用の問題など、といった多くの決定事項が伴います。各項目について、慎重に調査し、最適な方法で対応できるよう決定する必要があります。
適時開示を行う
上場企業がカーブアウトを行う際は、適時開示が求められます。一般的に新会社を設立した時点や事業の譲渡を契約した時点で、情報を開示します。
カーブアウト財務諸表を作成する
カーブアウト財務諸表とは、カーブアウトする事業のみを対象とした財務諸表を指します。カーブアウト事業だけの損益計算書や貸借対照表を仮に作成し、利益や資産状況を確認します。会計データとして引き継ぐ範囲の検討にもカーブアウト財務諸表が用いられます。
カーブアウトの注意点は?
カーブアウトの注意点を、会社分割の場合と事業継承の場合に分けて説明します。
会社分割
カーブアウトを会社分割で行う場合は、引き継ぐ内容について慎重に検討することが重要です。会社の一部を切り離す会社分割では、対象事業に関する契約や権利などが包括して新会社に引き継がれます。不要なものが含まれていても気づきにくく、そのまま引き継がれてしまう可能性があります。
例えば、事業継承の場合は個々の契約を再締結する際に、不利な内容については検討しますが、会社分割の場合はそのまま引き継がれる傾向があります。負債についてもどういった性質のものであるかが精査されずに、一括して転移されてしまう恐れがあるため注意が必要です。
事業譲渡
事業譲渡でのカーブアウトでは、従業員の離職に注意を払う必要があります。雇用契約を結び直す必要がある場合では、新会社に移ることでの待遇の悪化や、社会的に認知されていない新興会社の従業員となることへの不安から、離職を考える従業員も出てくるでしょう。離職までいかなくともモチベーションダウンは大いに考えられることなので、丁寧なケアが求められます。
カーブアウトの成功事例
カーブアウトの成功事例を2つ紹介します。
NTTdocomo
NTTdocomoは1991年、NTTから移動体通信事業がカーブアウトされてできた会社です。エヌ・ティ・ティ・移動通信企画(株)として設立され、翌年のエヌ・ティ・ティ移動通信網(株)への商号変更を経て、2013年に(株)NTTドコモとなりました。NTTを持株会社とし、営業収益はグループ全体の約4割に相当する6兆590億円を占めています(2022年度営業収益)。
VAIO
VAIOは2014年にソニーのパソコン部門のカーブアウトによって、VAIO(株)として設立された会社です。VAIOブランドパソコンの企画から設計・開発・製造・販売に至るまでの事業全体が譲渡され、多くの従業員の継承、ソニーの約5%の出資も行われました。
事業を切り出すカーブアウトでは従業員の離職防止に努めよう
カーブアウトはM&A手法の一つで、事業の切り出しを意味します。特定の事業を切り離し、経営資源を集中的に投入するため、成長・育成の促進に効果的です。会社の一部を切り離す会社分割と事業のみを切り離す事業継承、2つの方法があります。会社分割では従業員の雇用関係はそのまま引き継がれますが、事業継承では新たな雇用契約を結ぶ必要がある場合があります。
カーブアウトがあると対象事業の従業員は、新会社の社員とならなければなりません。その点に不安や抵抗を感じて、離職する従業員も出てきます。人事労務担当者は従業員の離職防止に努め、カーブアウト成功に寄与しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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