- 更新日 : 2024年12月19日
健康保険未加入のリスク
会社に勤めている間は、自分では何もしなくても、会社の社会保険に自動的に加入することになります。しかし、会社を退職したら自分で国民健康保険等の加入手続きを行わなくてはなりません。
転職先が決まっていれば、数週間は国民健康保険に加入しなくてもいいと思っている方もいるかもしれませんが、転職までの期間が例え1日だったとしても、また、その間に病院にかからなかったとしても、国民健康保険に加入して保険料を納めなくてはいけません。国民健康保険は任意ではないのです。加入しなければ法令違反になります。
今回は、健康保険未加入のリスクについて考えたいと思います。
病気になったときは全額負担
会社を退職すると14日以内に市町村や国民健康保険組合へ国民健康保険加入の手続きを行いますが、これを怠り、未加入のままだとどのようなリスクがあるのでしょうか。
離職して無職だったとします。国民健康保険に未加入のまま、病気やケガで病院にかかった場合、当然保険証はないので自由診療となり、全額負担しなければいけません。
また、保険診療の場合、病気ごとに診療の内容や処方できる薬などが決まっているので、どの病院へ行っても金額に大きな差がないと思っていいでしょう。しかし、公的な医療保険が適用されない自由診療は治療の内容や費用に制限がないため、医療費が高額になってしまいます。
離職した翌日から保険料が発生
離職後、しばらくして国民健康保険加入の手続きに行ったとします。この場合、手続きに訪れた日からの保険料が発生するのではなく、会社を辞めた翌日に遡って保険料を徴求されます。つまり、未加入の期間を滞納期間とみなされ、支払い請求されてしまうのです。
ただし、遡れる期間には限度が決められており、国民健康保険料の場合は2年、国民健康保険税の場合は3年となっています。これは根拠となる法律が異なっているためで、国民健康保険料は「国民健康保険法」、国民健康保険税は「地方税法」によって定められているためです。
また、時効(市町村が徴求する権利の消滅)については、国民健康保険料の場合は2年、国民権法保険税の場合は5年と、それぞれ異なっています。
しかしながら、保険料の督促状などが届くと時効が中断されることもあり、2年もしくは5年を過ぎても必ずしも時効消滅とはなりません。
健康保険は日本国民の義務
では、病院に行かなければ加入しないでもいいのでしょうか。そういうわけではありません。日本は国民皆保険制度を採用しており、これは、国民全員が公的医療保険制度の下にいることを表しています。
健康保険の加入は法律で定められた義務ですから、加入するべき者が加入しなければ、義務を怠った場合の罰則があります。それぞれの市町村において条例で定めている場合には、10万円以下の過料が課される場合もあります。
それだけではありません。もしも偽りやその他不正な行為により保険料を免れていたなら、免除されていた金額の5倍を過料として科することも場合によっては認められます。
未加入者や滞納者の問題は年々深刻化しており、徐々に厳しくなっています。場合によっては保険料よりも高くなる諸々の罰則があり得るのです。
事業者が未加入の場合
個人が健康保険に加入する必要があるように、企業も社会保険などに加入する義務があり、これを怠るとしかるべき罰則があります。法人または常時5人以上を使用する個人事業所(一定業種を除く)は、事業主の意思に関係なく、健康保険に加入しなければなりません。
また、近年においては罰則が強化されています。
企業が健康保険に未加入だった場合には、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。ただし、以下の者は健康保険の適用外です。
- 臨時の雇用者(2カ月以内の期間で雇用された者、日々雇い入れられる者)
- 季節的業務に4カ月以内の期間を定めて雇用される者
- 臨時的事業のため6カ月以内の期間を定めて雇用される者
国民健康保険未加入のリスクは大きい
経済的な理由から国民健康保険への不加入者が増えているようです。病気にならない、なっても病院に行かないと自分が思うだけではすまない行為です。
健康保険への加入は保険料を納めるのに見合うメリットがあります。病気になってほんとうに経済的に医療費が払えないと心配するような場合でも、さまざまな制度で生活を守るように仕組みが組まれているのです。
国民の義務でもあると同時に、自分の生活を守る制度として健康保険の仕組みを知り、未加入のリスクをおかさないように注意しましょう。
よくある質問
国民健康保険に加入せず、病気になったらどうなりますか?
治療は自由診療となり、本人が治療費を全額負担しなければいけません。詳しくはこちらをご覧ください。
離職してからしばらくして、国民健康保険に加入した場合はどうなりますか?
手続きをした日からの保険料が発生するのではなく、会社を辞めた翌日からさかのぼって保険料を徴求されます。 詳しくはこちらをご覧ください。
会社が健康保険に未加入の場合はどうなりますか?
企業が健康保険に未加入だった場合は、一定の場合を除き、6 カ月以下の懲役または50 万円以下の罰金に処せられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社会保険の加入義務とは?対象者の条件やパート・アルバイトの適用範囲拡大についても解説!
社会保険は、けがや病気、出産、老齢、障害、死亡など、生活が困難になるさまざまな事故が起きた場合に、その生活を安定させることを目的にした保険制度です。しかし、制度が複雑で、加入条件や補償内容もさまざまです。 今回は、この社会保険の加入条件や手…
詳しくみる役員は労災保険の適応外?特別加入についても解説!
労災保険は、労働者のための保険制度であることから、事業主や役員は対象外になっています。基本的に事業主・役員は労災保険へ加入することも、給付を受けることもできません。しかし労働者と同じように働くことが多い中小企業主は、労災保険に特別加入するこ…
詳しくみる社会保険料の勘定科目は?仕訳方法を解説
社会保険は健康保険や厚生年金保険などからなり、毎月の給与から保険料が源泉徴収され納付されています。これら社会保険料は基本的に労使折半での負担で、会社負担分と従業員負担分をそれぞれ適切な勘定科目で会計処理しなければなりません。当記事では社会保…
詳しくみる厚生年金の報酬比例部分とは?定額部分との違いや計算方法、支給開始年齢を解説
公的年金制度には厚生年金と国民年金がありますが、その仕組みは複雑です。 支給開始年齢が65歳であることは知っていても、年金を構成する報酬比例部分や定額部分がどのようなものなのか、理解している人は少ないのではないでしょうか。 本稿では年金制度…
詳しくみる社会保険における健康保険とは
業務外で病気やけがをしたとき、またはそのために休業してしまったときに頼れる公的な医療保険制度が社会保険制度のひとつである健康保険です。出産時や死亡時にも給付金を受け取れます。 整理しておきたい点ですが、「社会保険」には二つの意味があります。…
詳しくみるパート・アルバイトの社会保険
一定の要件を満たせば、パート・アルバイトであっても、社会保険に加入することはできます。しかし、会社によって対応はまちまちで、なかには正社員でなければ社会保険の手続きをしてもらえない会社もあるようです。 このような事態は、社会保険の適用事業所…
詳しくみる