• 更新日 : 2025年1月22日

労働基準監督署の調査の流れは?対応方法から指摘されやすいポイントまで解説

労働基準法では、最低限の労働条件のルールが定められており、違反することがあれば労働基準監督署による立ち入りや呼び出しなど、調査の対象になることがあります。

当記事では、労働基準監督署の調査の目的や内容、調査の流れについて解説します。対応方法や指摘されやすいポイントまで紹介しますので、参考にしてください。

​​労働基準監督署の調査とは

労働基準監督署(以下、労基署)とは、労働条件の向上や労働者の安全と健康の確保を目的とする厚生労働省の第一線機関のことです。全国に321署配置されており、企業が労働基準法や労働安全衛生法に則った運営、最低賃金法の遵守など、労働基準関係法令に違反がないかを調査するとともに、労災補償を適切に実施するための業務を行っています。具体的には、労働条件や安全衛生に関する監督指導、特定の機械の検査、労災保険の支給の調査などです。労基署が行う調査は「臨検監督(臨検)」などとも呼ばれています。

労基署は、規模にもよりますが「方面(監督課)」「安全衛生課」「労災課」「業務課」の4支署から構成されているのが一般的であり、主に「臨検監督(臨検)」により調査を実施するのが「方面(監督課)」や「安全衛生課」です。「方面(監督課)」や「安全衛生課」では、労働者や企業からの労働条件に関する相談を受け付けてアドバイスをするとともに、勤務先の労働基準法や労働安全衛生法などの法律違反に対して行政指導を求める労働者からの「申告」を受け付けます。

監督指導業務は、計画的に、あるいは労働者からの法律違反に関する「申告」や「情報提供」をきっかけとして行うことが一般的です。従業員の労働条件を確認するために帳簿類を持参して出頭するように依頼されることもあれば、機械や設備が法律に合っているかを調査するために立ち入り調査が実施されることもあります。法律に定められた帳簿類は日ごろから正確に記載することはもちろんのこと、機械や設備についても適切に設置し、メンテナンスも徹底しておきましょう。

調査の結果、法違反が認められた場合は事業主に対して是正勧告や改善指導が行われます。危険性の高い機械・設備はその場で使用停止になることもあります。度重なる指導にもかかわらず改善が見られない場合は刑事事件として送検されることもあるため、指導があった際は速やかに従い、是正しましょう。捜索や差押え、逮捕などの強制捜査となった場合、検察庁に送検されることになります。企業名が報道されることで、ブラック企業などとマイナスなイメージで世間に認知されてしまうため注意してください。

参考:労働基準について |厚生労働省
参考:労働基準監督官の仕事|厚生労働省 労働条件に関する総合情報サイト

​​労働基準監督署の調査の目的

労基署の調査の目的は、企業が労働基準法や労働安全衛生法に則った運営や最低賃金法を遵守しているかなど、労働基準関係法令に違反がないかの確認です。「残業代に不足がないか」「解雇予告手当の支払いが適切か」「年次有給休暇の取扱いに間違いはないか」「労働者の安全や健康を守る措置が取られているか」「最低賃金が確保されているか」など、調査内容は多岐に渡ります。

労働基準監督署の職務・権限

労基署の監督官の職務には、「労働条件の確保・向上」と「労働者の安全や健康の確保を図ること」があり、職務遂行のためにさまざまな権限が与えられています。法令に基づき事務所や営業所などの事業場に立ち入ることや、労働条件や安全衛生の基準が守られているかを指導するために書類の提出を命じたり、使用者や労働者に事情を聴取したりする権限を持っています。

労働基準監督官の主な権限

  • 予告なく事業所に立ち入り、適切な調査を行うこと
  • 調査のために事業場の帳簿書類を確認したり、使用者や労働者に尋問したりすること
  • 司法警察官の職務として、重大・悪質な事案については、刑事訴訟法に従って捜査を行い、検察庁に送検すること

立ち入り検査や調査を拒むようなことがあれば処罰(30万円以下の罰金)されることもあります。

参考:労働基準監督官の仕事 |厚生労働省

労働基準監督署の調査の流れ

監督指導は法律違反を是正することが目的であり、日ごろから労働基準関係法令を遵守していれば怖がる必要はありません。仮に法律違反があったとしても、是正をすれば監督指導は原則として終了します。労基署の調査の流れを見ていきましょう。

予告・来訪

監督指導は企業に訪問するのが一般的で、定期監督は文書や電話にて通知を行う場合がほとんどです。申告監督の場合は、実態を把握するために予告なく立ち入り調査が実施されることがあります。

立ち入り調査

企業に事情聴取や帳簿の確認などの立ち入り調査を実施し、法違反が認められなければ監督指導はここで終了します。法違反が認められた場合は、是正勧告・改善指導・使用停止命令などの文書指導が行われるため、それに従う必要があります。ただし、重大・悪質な事案があった場合は、この時点で送検されることもあるため注意しなければなりません。

是正勧告書・指導票・使用停止等命令書の交付

法違反や重大な事案がなければ、文書指導に従って企業が是正・改善報告を行い、監督署で是正・改善が認められれば終了するのが一般的な流れです。再度立ち入り調査が行われたとしても、ここで是正・改善が確認されれば指導は終了します。

再度立ち入り調査が実施され、それでも改善が認められず重大・悪質な事案と判断されると送検されることがあります。そのため文書指導が行われたら、必ず改善を図りましょう。なお、これはあくまでも一般的な流れであり、事案によって異なる場合があります。

参考:労働基準監督署の役割|厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署

是正報告書の提出

是正報告書には、労基署の監督官から指摘された法令違反の条項や内容に従って、改善した具体的内容を記載します。是正した具体的内容については、写真や図面などの資料をできるだけ添付して提出しなければなりません。改善報告書も同様に、指導事項の概要や改善した具体的事項を記載し、改善したことがわかる資料を添付して提出します。

不明点や書き方・提出方法でわからないことがあれば、担当した監督官に聞くのがよいでしょう。

参考:魚津労働基準監督署からのお知らせ|富山労働局労基署からの指摘に対する是正・改善報告書の作成方法について|魚津労働基準監督署

労働基準監督署の調査の種類

労基署の調査が行われるケースとして以下の3つがあります。

  • 主体的かつ計画的に対象企業を選定して行うケース(定期監督)
  • 労働者から個別の相談や申告があったケース(申告監督)
  • 労働災害が発生したケース(災害時監督)

申告監督については、労働者が労基署に相談して手続きをすれば実施されるのが原則です。定期監督は、36協定に特別条項が付いているなど長時間労働やサービス残業の可能性がある企業や業種は定期監督の対象になりやすいと言われることがありますが、その年の行政の方針や重点課題などさまざまな事項を考慮して対象先が選定されます。

定期監督

定期監督は、3つのケースのうち最も一般的な調査で、労基署がその年の方針や計画に基づき任意に調査対象企業を選択し、法令全般に渡って調査を行うのが一般的です。労働者が法律違反に対して申告により実施する調査ではないため、調査の内容や程度はその目的や監督官の裁量によって異なると考えておきましょう。どのような目的や内容にしても誠実に対応することが大切です。

申告監督

申告監督は、労働基準法104条に基づき労働者が労基署に申告したことで事実を確認するために行う調査を言います。ただし、行政指導を行うことが目的であり、事実が確認できれば指導を行いますが、民事的な判断が伴う場合は指導に至らないケースもあります。個別の労働者の権利救済はあくまで裁判所の役目です。労働者と雇用した企業とでお互いの主張が食い違うときには司法の判断に委ねられることになり、労基署では指導できないケースもあります。

労働者は不当解雇や残業の未払いなど特定の部分について申告しますが、労働者保護の観点から定期監督のように調査を行うこともあれば、申告があったことを明かして調査をすることもあり、方法はさまざまです。定期監督と比較して調査や対応が厳しくなることもあります。

災害時監督

災害時監督とは、死亡事故の発生や複数の被害者が発生するなど重大な労働災害が発生した際に行われる調査のことです。原因究明や再発防止の指導を行う必要がある重大事故の場合に実施されます。従業員が重篤な傷害を負うような一定程度の労働災害があった際に、災害時監督が行われると認識しておきましょう。

災害調査

災害調査の場合、労働基準監督官だけでなく、産業安全専門官や労働衛生専門官など必要に応じて専門官が現場に訪れます。調査内容は、災害発生現場の普段の状態、災害発生時の状況、災害発生の原因、労働安全衛生法等の法令違反の有無などです。災害の内容によっては、事故報告書の提出や死傷病報告書の提出が必要になります。なお、以下のような災害が発生した際には、企業は所轄の労基署に速やかに連絡をしなければなりません。

  • 死亡や重い後遺障害が予想される重篤な災害
  • 有害物による中毒等の特殊な災害
  • 一時に3人以上が被災するような重大災害が発生した場合には

参考:労働災害・事故が発生したら|福岡労働局労基署ってどんなところ?定期監督って?|厚生労働省 山梨労働局

労働基準監督署の調査対象となる項目

労基署の調査対象となる項目は、労基署が管轄する労働基準関係法令の違反となる内容のすべてです。各法令の条文と照らし合わせて違反の事実が確認されれば、労基署から指導を受けることになります。したがって、法令に則り「最低限の労働条件が守られているか」「賃金が適切に支払われているか」「安全や健康が確保されているか」を中心に調査が実施されると考えればよいでしょう。

以下の6つの法律は労働基準関係法令などとも呼ばれています。

  • 労働基準法
  • 最低賃金法
  • 労働安全衛生法
  • じん肺法
  • 家内労働法
  • 賃金の支払の確保等に関する法律 など

なお、労基署の労災課では労働者災害補償保険法に関する業務も行っています。

労働基準監督署の調査の対応方法・準備すべき書類

労基署がいつ抜き打ちで調査に来ても問題ないように、日ごろから適切な労働関係帳簿・書類等を準備しておきましょう。特に「賃金台帳」「出勤簿などの勤務規則」「就業規則」は整備しておかなければなりません。労基署に就業規則や36(サブロク)協定の届出を済ませてあるか、内容は最新の法律に則っているか、パートやアルバイトにも適用できる規則を整備しているかなども確認しておいてください。勤怠データや賃金台帳を改ざんしたり、従業員に調査に関して問答を強いたりした場合は厳しい罰則が科される可能性があります。

調査の目的によって異なりますが、準備しておきたい書類は以下のとおりです。

  • 就業規則
  • 労働条件通知書(雇用契約書や労働契約書を含む)
  • 賃金台帳
  • 協定書・協定届(36協定や変形労働時間関係の届)
  • 勤務記録票
  • 給与明細書
  • 労働者名簿
  • 組織図
  • 年次有給休暇管理簿
  • 定期健康診断個人票
  • 安全衛生委員会の議事録
  • 産業医の選任がわかるもの

スムーズに調査が進められるように、必要書類を説明できる状態で整備しておきましょう。立ち合い中に書類の不備が見つかった場合は、監察官が求めることに素直に答えてください。不備があったとしても誠実な対応をすれば大きな問題にはなりません。絶対にしてはならないのが虚偽報告です。虚偽報告が明らかになった場合は強制捜査や検察庁への送検に発展してしまう可能性が高まります。

労働基準監督署の調査で指摘されるポイント

労働者が労基署に申告するケースが多いものの中から、労基署の調査で指摘されやすいポイントを紹介します。

労働時間

労働時間は1日8時間・1週間に40時間以内となる法定労働時間を守るのが原則です。労働時間を適正に把握して管理するのが雇い主となる企業の義務とされており、タイムカードやICカード、パソコン使用時間の記録など、客観的な記録をもとに確認することが求められます。

法定労働時間を超えて働く場合には、事前に36協定を労基署に届け出なければなりません。また、時間外労働の法律の上限である月45時間・年間360時間を超えて働く場合には、36協定で特別条項を締結しておかなければなりません。36協定で締結した時間外労働や休日労働の時間を超えて働くことも、時間外労働の上限規制を超えて働くこともできませんので、労働時間の管理には注意が必要です。

労働条件

労働基準法では、労働時間・休憩・休日のほか、労働契約の期間や就業の場所、始業・終業などの一定の事項について、労働者を雇い入れた際や契約更新の際に書面など法律で認められた方法で明示しなければならないことが定められています。明示しなければならない事項に不足があるケースや、口頭のみで従業員を雇用しても労働条件を書面で明示していないケースもあるため注意しましょう。

年次有給休暇

年次有給休暇は労働者が希望した時季に取得できるのが原則です。また、年次有給休暇取得時には適正に賃金を支払わなければなりません。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には年に5日取得させることも義務付けられており、年次有給休暇の取得日数や残日数の管理も重要です。年次有給休暇管理簿は必ず作成しましょう。

賃金

時間外・深夜・休日労働があった場合には、割増賃金の支払いが必要です。また、1ヵ月に60時間を超える時間外労働があった場合には、法定割増賃金率が25%以上から50%以上になります。賃金は適正に計算して支払わなければなりません。

変形労働時間制を採用している場合や、賃金規程に複数の手当があるケースでは、賃金の計算が複雑になることがあります。賃金に未払いが発生しないように気をつけましょう。

安全衛生管理

労働安全衛生法では、事業場の業種や企業の従業員数に応じて総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任が必要になります。また、一定規模の事業場では、安全委員会、衛生委員会等の設置も義務付けられています。

総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医を選任した際には、労基署への報告も必要になりますので、忘れないようにしましょう。

参考:各種パンフレット、リーフレット|盛岡監督署労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制を整備しましょう|厚生労働省 岩手労働局 盛岡労働基準監督署

健康診断

定期健康診断は年に一度の実施が原則ですが、深夜業など一定の業務に常時従事する場合には、6ヵ月に一度実施することが義務付けられています。また、年に一度の定期健康診断やストレスチェックを実施しても、報告書の提出を忘れているケースもあります。50人以上の従業員がいる事業場では、定期健康診断やストレスチェックを実施した際に労基署に報告をしなければなりません。

労働基準監督署から呼び出し調査される場合も

監督指導は事業上の立ち入り調査ではなく、労基署から出頭を依頼されて呼び出し調査が行われることもあります。労基署から呼び出されるケースは、長時間労働の是正や最低賃金違反、労働条件の調査などさまざまであり、目的や理由によって異なります。その際、持参する書類を指定されることも多いため、必要な書類を準備して呼び出しに応じるようにしましょう。

労働基準監督署の調査を断ると罰則はある

調査を行う労働基準監督官には、予告なしに立ち入り調査をしたり、使用者や労働者に尋問したりする権限があります。調査に協力しない場合は30万円以下の罰金に処されることがあります。質問に適切に答えなかったり、書類の提出をしなかったりした場合も罰則の対象となる可能性があるため注意しましょう。忘れてはならないのが、監督官は労働基準関係法令の違反に関する罪において司法警察と同様に強制捜査を行う権限が認められていることです。監督官が予告なしにやって来た際に担当者が不在の場合は、調査を拒否していると誤解されないように再来訪を依頼しましょう。

参考:労働基準監督官の仕事|厚生労働省 労働条件に関する総合情報サイト

労働基準監督署の調査が突然来ても対応できるよう準備しておきましょう

ここまで労基署が行う調査について解説しました。従業員から労基署へ相談があった場合、調査は抜き打ちで行われることがあります。調査にスムーズに対応できるように日ごろから就業規則や雇用契約書、賃金台帳など労働関係帳簿・書類等を準備しておくことが大切です。

最近では労働者からの告訴や告発が増えているため、今一度、労働環境や労働条件が適切か見直しておきましょう。


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