• 更新日 : 2024年12月24日

給与計算に関連する法律とは?労働基準法の賃金支払いの5原則も解説

給与計算は、労働基準法をはじめとするさまざまな法律によって規定されています。特に労働基準法第24条では賃金支払いの5原則が定められており、給与計算や支払いはこれを基に行われるのが原則です。

本記事では、給与計算に関連する法律や労働基準法第24条で定められた「賃金支払いの5原則」、またその例外についても詳しく解説します。

給与計算に関連する法律とは

給与計算は、労働者の権利を保護し、企業が適正に運営されるために複数の法律によって規定されています。

以下で詳しく見ていきましょう。

賃金に関連する法律

労働基準法は賃金に関する基本的な法律であり、「賃金支払いの5原則」や労働条件の最低基準について規定しています。詳しくは後述しますが、賃金支払いの5原則は賃金の支払いにおける大前提となる法律です。

また、労働基準法は賃金にも大きく関係する企業の就業規則の作成や届出義務も定めているため、その意味でも賃金に関係があるといえます。

さらに、都道府県ごとの最低賃金を定めた最低賃金法も賃金に関連する法律のひとつです。

労働時間に関連する法律

給与計算において労働時間の管理は非常に重要であり、労働基準法32条がその基準を定めています。法定労働時間は「1日8時間、週40時間」とされており、これを超える労働には割増賃金が必要(労働基準法第37条)です。

時間外労働や深夜労働には通常の賃金の25%以上、休日労働には35%以上の割増率が適用されます。また、時間外労働が月60時間を超える場合、超過分に関しては通常の50%以上の賃金を支払わなければなりません。

さらに、企業は従業員の実際の労働時間を正確に把握し、1分単位で給与計算を行う必要があります。

労働条件に関連する法律

労働基準法第89条では、就業規則に賃金や労働時間などの労働条件を明記することが義務付けられており、この内容に基づいて給与計算が行われます。

また、先述した賃金支払いの5原則(通貨払い、直接払い、全額払い、毎月払い、一定期日払い)も労働条件の一部として厳守されるべき項目です。さらに、労働基準法第91条による減給制限なども給与計算に影響を与える規定です。

休暇・休業に関連する法律

労働基準法第26条では、会社都合による休業の場合、従業員に対して平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があると定められています。

また、有給休暇について労働基準法第39条で規定されており、有給取得時には通常の賃金が支払われます。一方で、育児・介護休業法に基づく育児休業や介護休業中には、給与の支払い義務はありません。ただし、雇用保険から育児休業給付金や介護休業給付金が支給される場合があります。

解雇に関連する法律

労働基準法には、解雇時の予告義務や解雇予告手当の支払規定もあります。第20条によると、解雇の際には少なくとも30日前に予告を行うか、予告を行わない場合には30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う義務があるとされています。

また、解雇時には未払いの賃金も清算しなければなりません。なお未払い賃金には、基本給だけでなく残業代や各種手当も含まれます。

そのほかの法律

一般的な企業では源泉徴収といった形で給与から所得税が、また雇用形態によっては社会保険厚生年金も天引きされているため、所得税法や健康保険法、厚生年金保険法なども給与計算に関係する法律といえるでしょう。

雇用保険法なども同様です。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

参考:最低賃金法|e-Gov法令検索

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-Gov法令検索

参考:所得税法|e-Gov法令検索

参考:健康保険法|e-Gov法令検索

参考:厚生年金保険法|e-Gov法令検索

労働基準法第24条「賃金支払いの5原則」とは

労働基準法第24条が規定する「賃金支払いの5原則」は、賃金の支払いに関する基本的なルールを定めたもので、労働者が確実に賃金を受け取れるようにすることを目的としています。企業には、この原則を守る義務があります。

以下では、この5原則について詳しく見ていきましょう。

通貨払いの原則

通貨払いの原則とは、賃金を日本円などの通貨で支払うことを義務付ける規定です。現物支給(商品券や貴金属など)を防ぎ、労働者が受け取った賃金を自由に使えるようにするためのルールといえます。

ただし、労働者の同意があれば銀行振込が認められています。また、近年では条件付きで電子マネーによる支払いも可能ですが、これも労働者の同意が必要です。

直接払いの原則

賃金は労働者本人に直接支払う必要があります。たとえ労働者本人が受け取れない状況であっても、代理人に支払うことは原則として禁止です。これは、代理人が本人の指名を受けた場合であっても適用されます。

この原則は、賃金の中間搾取を防ぐために設けられています。

全額払いの原則

一賃金支払期間に発生した賃金は、全額まとめての支払いが原則です。月給制であればその月の賃金は一括で支払わなければならず、分割払いや一部のみの支払いは認められません。

ただし社会保険料や所得税、雇用保険料、別途労使協定で定められたもの(組合費や財形貯蓄など)の控除に関しては可能です。

毎月1回以上払いの原則

企業は、賃金を最低でも毎月1回以上支払うことが義務付けられています。2ヶ月に1回など、1ヶ月を超える間隔を空けた支払いは認められません。

なお、月に1回であれば、2回以上支払うことに問題はありません。

一定期日払いの原則

一定期日払いの原則とは、賃金を毎月決まった期日に支払うことを求めるものです。労働者が賃金の支払日を把握できるようにすることで、資金繰りなどをしやすくする目的で定められています。

「毎月25日」といった日にち指定のほか、「毎月末日」などの指定も可能です。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

労働基準法第24条「賃金支払いの5原則」の例外とは

労働基準法第24条で定められた「賃金支払いの5原則」は、労働者が確実に賃金を受け取れるようにするための基本的なルールです。ただし先にも少し触れましたが、一定条件下での銀行振込や電子マネーによる賃金支払いが可能である、社会保険料は賃金から控除できるなどの例外もあります。

直接払いの原則についても、家族などの「使者」に支払うことが認められることがあるほか、賞与や特別手当など臨時的な賃金においては、毎月1回以上払いの原則から除外です。

また、一定期日払いの原則では、支払日が休日や金融機関の休業日にあたる場合には前後の日に調整することが許されています。

こうした例外は、実務上の柔軟な運用を可能にするものであり、企業は法令遵守とともに労働者との合意形成を大切にする必要があるといえるでしょう。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

給与計算のエクセルフォーマット(無料)

以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。

給与計算に関連する法律に違反しないためのポイント

給与計算はいくつかの法律が関係しているため、法律違反にならないように以下の点に注意しましょう。

就業規則を見直す

就業規則は、労働条件や職場で守るべき規律を定めた企業のルールブックであり、給与計算にも影響を与えます。そのため最新の法令と一致しているかを定期的に見直し、必要に応じて改定することが大切です。

就業規則を刷新した際には、従業員への周知も徹底しましょう。

最低賃金を必ず守る

最低賃金法では、国が定めた最低限度の賃金額以上を支払うことが義務付けられています。最低賃金は地域ごとや産業ごとに異なり、毎年改定されるため、企業は最新の情報を確認し、それに基づいて給与計算を行わなければなりません。

最低賃金額以下で契約した場合、その契約は無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。

参考:最低賃金制度とは|厚生労働省

労働時間を正しく管理する

労働時間の正確な管理は、給与計算において重要視されるポイントのひとつです。タイムカードや勤怠管理システムを活用し、出退勤時間を正確に記録することが求められます。

特に、労働基準法では実際に働いた時間を基準に賃金を支払うことが義務付けられているため、労働時間の切り捨ては違法であり、原則として1分単位での給与計算が必要です。

1分単位で給与計算を行うには、勤怠管理システムを利用して分単位での勤怠管理を行います。出勤・退勤、休憩時間を正確に記録したうえで、出勤・退勤時間から休憩時間を差し引きます。この際、端数処理は行いません。

こうして算出した分単位の正確な労働時間に賃金を掛け合わせることで、1分単位での給与計算が可能です。

休暇・休業のルールを見直す

有給休暇や特別休暇などの取得ルールも給与計算に影響します。これらのルールが法令と一致しているか確認し、必要に応じて見直すことが重要です。

特に育児休暇や介護休暇に関する法律は改正が繰り返されており、今後も大幅な制度変更などの可能性もあります。最新の情報に注意を払い、法律違反にならないようにするとともに従業員に不利益が発生しないようにしましょう。

参考:育児・介護休業法について|厚生労働省

給与計算における法律遵守の重要性を理解しよう

給与計算は、労働者の権利を守ると同時に企業運営を支える重要な業務です。「賃金支払いの5原則」をはじめとする関連法律を正しく理解することはもちろん、1分単位での労働時間の計算や最低賃金の遵守、就業規則の見直しなど、実務面での細やかな対応が求められます。

また、給与計算に関係する法律は改正されることも多々あるため、適宜給与計算の仕組みや運用を見直すことをおすすめします。


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