• 更新日 : 2025年6月23日

給与計算に関連する法律とは?労働基準法の賃金支払いの5原則も解説

給与計算は、労働基準法をはじめとするさまざまな法律によって規定されています。特に労働基準法第24条では賃金支払いの5原則が定められており、給与計算や支払いはこれを基に行われるのが原則です。

本記事では、給与計算に関連する法律や労働基準法第24条で定められた「賃金支払いの5原則」、またその例外についても詳しく解説します。

給与計算に関連する法律とは

給与計算は、労働者の権利を保護し、企業が適正に運営されるために複数の法律によって規定されています。

以下で詳しく見ていきましょう。

賃金に関連する法律

労働基準法は賃金に関する基本的な法律であり、「賃金支払いの5原則」や労働条件の最低基準について規定しています。詳しくは後述しますが、賃金支払いの5原則は賃金の支払いにおける大前提となる法律です。

また、労働基準法は賃金にも大きく関係する企業の就業規則の作成や届出義務も定めているため、その意味でも賃金に関係があるといえます。

さらに、都道府県や特定の産業ごとの最低賃金を定めた最低賃金法も賃金に関連する法律のひとつです。

労働時間に関連する法律

給与計算において労働時間の管理は非常に重要であり、労働基準法32条がその基準を定めています。法定労働時間は「1日8時間、週40時間」とされており、これを超える労働には割増賃金が必要(労働基準法第37条)です。

時間外労働や深夜労働には通常の賃金の25%以上、休日労働には35%以上の割増率が適用されます。また、時間外労働が月60時間を超える場合、超過分に関しては通常の50%以上の賃金を支払わなければなりません。

さらに、企業は従業員の実際の労働時間を正確に把握し、1分単位で給与計算を行う必要があります。

労働条件に関連する法律

労働基準法第89条では、就業規則に賃金や労働時間などの労働条件を明記することが義務付けられており、この内容に基づいて給与計算が行われます。

また、賃金支払いの5原則(通貨払い、直接払い、全額払い、毎月払い、一定期日払い)も労働条件の一部として厳守されるべき項目です。さらに、労働基準法第91条による減給制限なども給与計算に影響を与える規定です。

休暇・休業に関連する法律

労働基準法第26条では、会社都合による休業の場合、従業員に対して平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があると定められています。

また、有給休暇について労働基準法第39条で規定されており、有給取得時には通常の賃金が支払われます。一方で、育児・介護休業法に基づく育児休業や介護休業中には、給与の支払い義務はありません。ただし、雇用保険から育児休業給付金や介護休業給付金が支給される場合があります。

解雇に関連する法律

労働基準法には、解雇時の予告義務や解雇予告手当の支払規定もあります。第20条によると、解雇の際には少なくとも30日前に予告を行うか、予告を行わない場合には30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う義務があるとされています。

また、解雇時には未払いの賃金も清算しなければなりません。なお未払い賃金には、基本給だけでなく残業代や各種手当も含まれます。

そのほかの法律

一般的な企業では源泉徴収といった形で給与から所得税が、また雇用形態によっては社会保険厚生年金も天引きされているため、所得税法や健康保険法、厚生年金保険法なども給与計算に関係する法律といえるでしょう。

雇用保険法なども同様です。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

参考:最低賃金法|e-Gov法令検索

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-Gov法令検索

参考:所得税法|e-Gov法令検索

参考:健康保険法|e-Gov法令検索

参考:厚生年金保険法|e-Gov法令検索

労働基準法第24条「賃金支払いの5原則」とは

賃金支払いの5原則は、それぞれが独立した法的根拠と趣旨を持ちながら、全体として労働者の生活の安定と公正な待遇を支える仕組みを形成しています。ただし、実際の運用では例外も存在します。ここでは、5原則の趣旨と例外を確認していきます。

通貨払いの原則と例外

通貨払いの原則は、賃金を日本円の現金で支払うことを定めた基本的な考え方です。労働者が確実に自由に使用できる形で報酬を受け取れるようにするために設けられています。現物支給や代替物による支払いでは、価値や利用範囲が制限されるおそれがあるため、この原則が設けられています。

しかし実務では、ほとんどの企業が銀行振込によって賃金を支払っています。これは労働基準法施行規則において、一定の条件下で例外が認められているためです。銀行振込が許容されるのは、①労働者本人の明確な同意がある場合、②指定された口座が自由に引き出し可能であること、の2点が満たされていることが前提となります。

企業が賃金を銀行振込で支払う際には、雇用契約書や入社時書類において、振込に関する同意を取得することが推奨されます。また、近年ではデジタル給与や電子マネーによる支払いも法改正により一部認められるようになりつつありますが、これらも通貨払いの原則に準拠した形での例外運用であり、条件や労使合意の内容を明示することが欠かせません。

直接払いの原則と委任・代理の例外

直接払いの原則は、賃金は本人に直接支払うことを定めたルールです。この原則により、本人が正当に労働の対価を受け取り、その使用方法を自ら決定できるようにしています。本人以外への支払いは、本人の意思に反して行われる可能性があるため、原則として認められていません。

とはいえ、本人の都合により、代理人を通じて賃金を受け取る必要が生じることもあります。そのような場合には、本人に支払うのと同様の効果を生ずる使者に支払うことが認められています。たとえば、長期入院中の労働者が妻子等の家族を使者とするようなケースです。

銀行振込による支払いも、形式上は口座を通じて行われるため、本人以外への支払いとみなされる側面がありますが、これは本人が指定した口座であるため、直接払いの原則の例外として扱われています。

このように、例外が認められる場合でも、本人の意思に基づいた手続きと、客観的に確認できる記録が不可欠です。

全額払いの原則と控除の例外

全額払いの原則は、賃金から企業が一方的に控除を行わず、労働者に対して賃金全体を支払うことを求めるものです。企業が恣意的に賃金を減額したり、理由のない天引きを行ったりすることを防ぎます。

ただし、税金や社会保険料など、法律に基づいて控除が義務付けられている項目については、労働者の同意がなくても控除を行うことができます。これを「法定控除」と呼びます。所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などが該当します。

一方、社宅費や食費、福利厚生費、労働組合費などは「任意控除」とされ、これらを賃金から差し引くには、労使協定の締結が必要です。労使協定として、あらかじめ文書で明示しておくことがトラブル防止に役立ちます。

控除の項目や金額が不明確なまま処理されると、全額払いの原則に反する違法行為とされる可能性があるため、事前の説明と合意内容の明文化が大切です。

毎月1回以上払いの原則

毎月1回以上払いの原則は、労働者が生活の見通しを立てやすくするために、賃金の支払いが一定の周期で行われることを前提としています。少なくとも1ヶ月に1回は定期的に賃金を支払うことが義務付けられており、これにより収入が断続的にならず、生活の安定につながります。

企業によっては、週払いや日払いを採用しているケースもありますが、それらは月1回以上の支払いを含む方式として適法に認められています。逆に、2ヶ月に1回の支払いといった形は、この原則に違反することとなります。支払いの頻度は、増やす分には制限はありませんが、減らすことはできません。

また、歩合給やインセンティブ、出来高払いなど変動のある報酬制度についても、集計の期間を月単位で設定し、月1回以上支払うことでこの原則を満たすことができます。ただし、支払い対象となる成績や集計方法が不明瞭だと、従業員とのトラブルにつながるおそれがあるため、制度内容をあらかじめ文書化しておくと安心です。

基本給と変動給を組み合わせた複雑な報酬体系も珍しくないため、それぞれの性質をふまえて支払いスケジュールを調整する配慮が求められます。

一定期日払いの原則

一定期日払いの原則とは、賃金の支払日を事前に明示し、毎月同じ日付または一定のルールで定めることを意味します。たとえば、「毎月25日」「毎月末日」など、支払日が明確であればこの原則は満たされます。一方で、「毎月第4金曜日」などと定めた場合は、支払日を特定したことにならず、原則に違反することになります。

支払日が「会社の都合により決定する」「不定期に支払う」といった形になっている場合には、労働基準法違反とみなされる可能性があります。従業員が収入を予定できず、生活に支障を来すおそれがあるためです。また、支払日の延期や変更を行う場合でも、労働者の理解と同意、事前の周知が欠かせません。

賞与や退職金など、支払い時期や金額が事前に確定できない報酬については、この原則の適用外とされています。ただし、その場合でも「業績により6月と12月に支給する可能性がある」など、支給の基準や時期の目安を定めておくと、従業員の誤解や不満を防ぐのに有効です。

災害やシステム障害などにより予定通りの支払いが困難となるケースもありますが、そのような場合には速やかな代替対応や補足説明を行うことで、信頼関係の維持につながります。

賃金支払いの5原則を守らなかった場合のリスク

労働基準法に定められた賃金支払いの5原則を順守していないと、企業は法的・経営的なリスクを抱えることになります。法違反に対する行政の対応だけでなく、従業員との関係悪化や訴訟といった問題にも発展する可能性があり、見落としがちな細部にも注意が必要です。

行政指導・是正勧告・送検リスク

労働基準法第24条に違反していると判断された場合、労働基準監督署からの是正勧告や指導が行われます。企業にとっては、行政対応が業務に影響を与えるだけでなく、法令違反という記録が残ることにもつながります。とりわけ、悪質とみなされた場合には、是正勧告だけでなく送検という厳しい措置が取られる可能性もあります。

たとえば、支払期日を定めずに不定期で賃金を支払っていたケースや、従業員の同意を得ずに賃金を控除していた場合などは、通貨払いの原則や全額払いの原則に違反していると判断されるおそれがあります。継続的に行われていると、計画的な違法行為とみなされる可能性もあるため、実態と規定の整合性を常に確認しておきましょう。

さらに、行政指導を受けても改善されない場合には、企業名が公表されることもあります。企業の信用力が損なわれ、取引先や採用活動への影響が出ることもあるため、賃金支払いのルールは形式的な確認だけでなく、実務に沿った運用の点検も求められます。

送検まで至った場合、労働基準法違反として罰金などの刑事処分が科されることもあります。

従業員とのトラブル・訴訟リスク

賃金支払いに関するトラブルは、従業員の生活に直結するため、感情的な問題に発展しやすい傾向があります。支払いの遅延、控除内容の不明確さ、または退職時の未払いなどが発端となり、労働者から不満や不信を抱かれるケースは少なくありません。

たとえば、残業代を一部しか支払っていなかったことが発覚し、従業員から未払い分の支払い請求を受けるケースがあります。このような請求は、最初は社内の話し合いにとどまっていたとしても、解決に至らない場合には労働基準監督署への通報、労働審判や民事訴訟に発展する可能性があります。

裁判となれば、企業には賃金支払い義務の履行に加え、付加金や遅延損害金の支払いが命じられることもあり、金銭的な負担が想定以上に大きくなることもあります。また、訴訟の過程で企業の対応が不誠実であったことが明らかになると、信頼を損なう要因にもなりかねません。

さらに、こうした問題が他の従業員にも波及し、社内全体のモラルや職場環境に悪影響を与えることもあります。一人の従業員とのトラブルがきっかけとなり、同様の訴えが複数寄せられる「集団請求」に発展するリスクもあるため、最初の段階での丁寧な対応が重要です。

労務トラブルを未然に防ぐには、賃金規定の明確化と、誤りのない運用、従業員との信頼関係を損なわないためのコミュニケーション体制の構築が不可欠です。説明責任を果たす姿勢と、事前の相談対応を徹底することで、不要な誤解や対立を避けることができます。

賃金支払いの5原則についてよくある疑問と対応策

賃金支払いの5原則は法律上の基本ルールとして定められていますが、現場では判断に迷うケースも多くあります。労務管理を行ううえで、解釈が分かれやすいポイントや、対応に注意を要する事例について、代表的なものを取り上げて解説します。

給与の一部を商品券で支払ってもよい?

通貨払いの原則に基づき、賃金は日本円の通貨で支払うことが基本とされています。したがって、たとえ従業員が希望したとしても、賃金の一部を商品券で支払うことは、原則として認められていません。商品券は換金性があるとはいえ、自由に使える現金とは異なり、用途や利用可能な場所に制限があるためです。

一方で、福利厚生の一環として、給与とは別に商品券やギフトカードを配布することは可能です。この場合、賃金とは別の「福利厚生費」として扱われ、労働基準法第24条の賃金支払いの原則には該当しません。したがって、業績に応じて支給する金券などは、就業規則等で明確に賃金ではないことを位置づけておく必要があります。

支給の趣旨や目的によって分類が変わるため、給与とその他の給付の線引きを正確に行うことが実務上のポイントとなります。税務上の取り扱いについても異なるため、経理部門や税理士との連携を図ったほうがよいでしょう。

従業員の同意があれば毎月以外の支払いもできる?

賃金支払いの頻度や支払日については、「毎月1回以上」「一定の期日」といった形で、労働基準法により明示的に定められています。これらは労働者の生活を安定させる目的で設けられており、たとえ従業員の同意があったとしても、原則の緩和は認められていません。

たとえば、現場の慣習として「2ヶ月に1回の支払いにしてほしい」といった要望が従業員から出された場合でも、これに応じて支払い間隔を変更することはできません。同様に、「支払い日を毎月変動させる」といった運用も、一定期日払いの原則に反する可能性があります。

ただし、月2回の分割払い、いわゆる「前払い制度」など、月1回以上の支払いを満たす形であれば、制度として構築することが可能です。その場合には、対象者、支払いスケジュール、支払額の算定方法などを明確に定めておくことが必要です。制度の導入にあたっては、労使協定や就業規則への記載を通じて、適法性と透明性を確保することが望まれます。

このように、賃金支払いのルールには柔軟な対応が可能な部分もありますが、法定の原則を逸脱しない範囲での運用に留めることが大切です。

退職者の未払い給与はどう支払うべき?

退職者に対する未払い給与の扱いについても、賃金支払いの5原則がそのまま適用されます。勤務最終日が月末である場合、その月の給与をいつ支払うかについては、在職時の支払スケジュールに準じて対応することが基本となります。

ただし、給与締日や支払日が退職日と大きくずれる場合には、速やかな支払いを行うことが望ましいとされています。たとえば、退職後1ヶ月以上経ってから支払われると、労働者との信頼関係が損なわれたり、トラブルに発展したりする可能性があるためです。

また、退職時には未払いの残業代、有給休暇の未消化分の買取なども含めて精算する必要があるケースがあります。これらもすべて「賃金」に該当するため、法定原則に沿った形で支払われる必要があります。

さらに、退職後の振込先口座情報に誤りがあった場合や、連絡が取れなくなった場合なども想定されます。そのようなケースでは、書面による最終確認や郵送での案内送付などを行い、支払いの意思と対応の記録を残しておくことが、後の紛争防止につながります。

給与計算のエクセルフォーマット(無料)

以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。

給与計算に関連する法律に違反しないためのポイント

給与計算はいくつかの法律が関係しているため、法律違反にならないように以下の点に注意しましょう。

就業規則を見直す

就業規則は、労働条件や職場で守るべき規律を定めた企業のルールブックであり、給与計算にも影響を与えます。そのため最新の法令と一致しているかを定期的に見直し、必要に応じて改定することが大切です。

就業規則を刷新した際には、従業員への周知も徹底しましょう。

最低賃金を必ず守る

最低賃金法では、国が定めた最低限度の賃金額以上を支払うことが義務付けられています。最低賃金は地域ごとや産業ごとに異なり、毎年改定されるため、企業は最新の情報を確認し、それに基づいて給与計算を行わなければなりません。

最低賃金額以下で契約した場合、その契約は無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。

参考:最低賃金制度とは|厚生労働省

労働時間を正しく管理する

労働時間の正確な管理は、給与計算において重要視されるポイントのひとつです。タイムカードや勤怠管理システムを活用し、出退勤時間を正確に記録することが求められます。

特に、労働基準法では実際に働いた時間を基準に賃金を支払うことが義務付けられているため、労働時間の切り捨ては違法であり、原則として1分単位での給与計算が必要です。

1分単位で給与計算を行うには、勤怠管理システムを利用して分単位での勤怠管理を行います。出勤・退勤、休憩時間を正確に記録したうえで、出勤・退勤時間から休憩時間を差し引きます。この際、端数処理は行いません。

こうして算出した分単位の正確な労働時間に賃金を掛け合わせることで、1分単位での給与計算が可能です。

休暇・休業のルールを見直す

有給休暇や特別休暇などの取得ルールも給与計算に影響します。これらのルールが法令と一致しているか確認し、必要に応じて見直すことが重要です。

特に育児休業や介護休業に関する法律は改正が繰り返されており、今後も大幅な制度変更などの可能性もあります。最新の情報に注意を払い、法律違反にならないようにするとともに従業員に不利益が発生しないようにしましょう。

参考:育児・介護休業法について|厚生労働省

給与計算における法律遵守の重要性を理解しよう

給与計算は、労働者の権利を守ると同時に企業運営を支える重要な業務です。「賃金支払いの5原則」をはじめとする関連法律を正しく理解することはもちろん、1分単位での労働時間の計算や最低賃金の遵守、就業規則の見直しなど、実務面での細やかな対応が求められます。

また、給与計算に関係する法律は改正されることも多々あるため、適宜給与計算の仕組みや運用を見直すことをおすすめします。


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