• 更新日 : 2024年8月27日

ダイバーシティ&インクルージョンとは?事例や効果的な導入ポイント

現代社会は、多様性が尊重される時代です。世の中の生活環境や消費者のニーズ、働き方などに対する価値観が多様化しており、多様性に順応できない企業は淘汰されるリスクが高まります。

そのことを受けて、多様性の存在を受け入れた上で効果的に活用していく「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方が、企業関係者から注目されています。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

ダイバーシティ&インクルージョンとは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(受容)を合わせた言葉です。多様性の存在を受け入れた上で、効果的に活用した経営を推進する考え方をいいます。

ダイバーシティの意味

ダイバーシティとは、世の中の価値観や文化、人々の性別や年齢、国籍、嗜好などの多様性を尊重することです。固定概念や差別的な発想をなくし、世の中には多様なものの見方や考え方、属性があることが当たり前だとの考え方に立った経営を行います。

インクルージョンの意味

インクルージョンとは、世の中や人々に多様性があることを企業(組織)として受け入れた上で、多様性の存在を活用することです。企業(組織)内で多様性の存在を認め合うことによって、社内を一体化させる考え方に立った経営を行います。

ダイバーシティ&インクルージョンはなぜ必要か

以下のような社会環境の変化が、ダイバーシティ&インクルージョンの必要性を高めています。

生産年齢人口の減少

1995年をピークに、日本は生産年齢人口(15〜64歳)が減少し続けています。そのため、企業は高齢者や育児期間中の女性など、多様な働き手を活用する姿勢が必要になりました。

参考:日本の人口動態と労働者構成の変化|中小企業庁

外国人雇用の増加

生産年齢人口の減少に伴い、国内で働く外国人労働者の数が増加しています。令和5年度は外国人労働者の総数が200万人を超え、統計史上最高値となりました。雇用の場でも、国籍が異なる人々の価値観や文化などの多様性を受け入れる姿勢が必要とされています。

参考:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ|厚生労働省

働くことに対する価値観の変化

時代の変化に伴い、働くことに対する若年者の価値観も多様化しています。そのため、働くことに対する価値観の多様性を受け入れた経営が必要とされるようになりました。

ダイバーシティ&インクルージョンが発揮されている状態とは?

企業内でダイバーシティ&インクルージョンが発揮されることで、以下のような状態が生まれます。

女性の活躍推進

ダイバーシティ&インクルージョンが発揮されると、適材適所の業務配置やマネジメント職への従事などに対して、女性従業員が自己の能力を発揮し適正に評価される状態が生まれます。女性の活躍推進が実現すると、企業にも以下のような変化が生まれるでしょう。

  1. 男女のアイデアをバランスよく取り入れて、世の中の多様なニーズに対応しやすくなる
  2. ワーク・ライフ・バランスに取り組みやすくなり、社員満足度が向上して人材定着につながる

外国人雇用の推進

ダイバーシティ&インクルージョンが発揮されると、国籍による差別がない人事評価や処遇制度が構築されます。外国人を雇用する機会が増え、企業が外国人の能力を活用する状態が生まれます。外国人雇用の推進が実現すると、企業には以下のような変化が生まれます。

  1. 海外の文化や価値観などをよく知る外国人のアイデアを取り入れて、グローバルビジネスに対応しやすくなる
  2. 日本人と外国人の多様な視点や発想を融合して、企業内にイノベーションを創出しやすくなる

高齢者雇用の推進

ダイバーシティ&インクルージョンが発揮されると、再雇用制度や定年延長などにより高齢者を雇用する機会が増えます。それにより、企業が高齢者の能力や経験を活用している状態が生まれます。高齢者の雇用推進が実現すると、企業に以下のような変化をもたらすでしょう。

  1. 高齢者の高いスキルを若年者に伝承し、企業内の人材の質が向上する
  2. 高齢者の経験を活かすことで、経営上のリスク回避につながる

障害者雇用の推進

ダイバーシティ&インクルージョンが発揮されると、障害者が働きやすい職場環境が構築されます。障害者を雇用する機会が増え、企業が障害者の能力や知見を活用している状態が生まれます。障害者雇用の推進が実現することで、企業には以下のような変化が生まれます。

  1. 障害者が得意とする単純作業などの業務に対して、障害者の能力を活用することで、業務の生産性が向上する
  2. 障害者の知見を活用することで、ユニバーサルデザイン商品やサービスを開発しやすくなる

育児や介護と仕事の両立推進

ダイバーシティ&インクルージョンが発揮されると、短時間勤務やテレワークなどにより、育児や介護を行う従業員が家庭と仕事を両立している状態が生まれます。育児や介護と仕事の両立推進が実現すると、企業には以下のような変化が生まれます。

  1. 育児や介護による離職(人材の流失)を防止できる
  2. 育児や介護と仕事の両立推進が企業イメージ向上につながり、人材を確保しやすくなる

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組むメリット

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組むことで、企業と従業員に以下のようなメリットが発生します。

企業側のメリット

企業イメージの向上

社会的ニーズに合った経営を行うことで、企業イメージがアップします。顧客や消費者からの評価が高まり、市場内での競争力も向上するでしょう。株主からの評価が高まることで、株価向上などの好影響も生まれます。

人材を確保しやすくなる

働き方の多様性を受け入れた経営を行うことで、従業員の満足度が高まり、求職者からのイメージも向上します。従業員が定着して求人に対する応募が増えるなど、人材確保においても好影響が生まれるでしょう。

商品やサービスの開発力が向上する

多様な発想や考え方を融合した経営を行うと、世の中の潜在的なニーズに対応しやすくなります。顧客や消費者から受け入れられる商品やサービスの開発につながるといった好影響が生まれます。

従業員側のメリット

働きやすさが向上する

自己の価値観や考え方、生活環境に適合した就労環境を得られるようになり、働きやすさが向上します。

ワーク・ライフ・バランスを実現しやすくなる

多様な価値観を認められることで、仕事と私生活を両立しやすくなり、ワーク・ライフ・バランスの実現につながります。

ダイバーシティ&インクルージョンの問題点

以下のような問題点の存在により、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を妨げることがあります。

企業側の問題点

業務体制に関する問題点

業務遂行や役割分担を柔軟に行える体制が整っていないと、多様な働き方を受け入れるのが困難です。多様な働き方を機能できる業務体制を構築する必要があります。

コミュニケーションに関する問題点

従業員同士が自由に意見し合えるカルチャーが存在しないと、多様な発想や考え方を融合させた経営を行うことが難しくなります。従業員の多様な発想や考え方を引き出せる、風通しのよいコミュニケーションの実現に力を入れる必要があるでしょう。

従業員側の問題点

意識に関する問題点

多様性を受け入れる意識が希薄な従業員が多いと、ダイバーシティ&インクルージョンの推進が難しくなります。多様性に対する意識を高めるためには、従業員教育に力を入れる必要があるでしょう。

誤解や偏見に関する問題点

多様性に関して特定のテーマだけ認識した従業員が多いと、ダイバーシティ&インクルージョンの推進が難しくなります。ダイバーシティ&インクルージョンの内容や推進する理由について、従業員が正確に理解するよう意識改革を促すことが必要です。

ダイバーシティ&インクルージョンの効果的な導入ポイント

ここでは、ダイバーシティ&インクルージョンの導入効果を高めるポイントを解説します。

自社の目標やビジョンを定める

今後の経営に関するビジョンや目標を明確にします。

  • 自社は今後、どのような状態で成長を遂げたいのか
  • 自社は今後、どのような経営の到達点を目指すのか(定量目標、定性目標)

従業員に理解を促し意識を変える

ダイバーシティ&インクルージョンに対する理解を深めるために、従業員に推進する目的を説明して意識改革を行います。

  • 自社が目指すことを実現するために、多様性の受け入れが必要な理由を説明する
  • 多様性の受け入れに対して、どのような対応が望まれるのか理解を促す

コミュニケーションを強化する

コミュニケーションに関して、従業員の多様な発想や考え方を活用できる仕組みを構築します。

  • 立場や年齢、性別などに関係なく、自由に意見を言える仕組みを構築する
  • 個人の意見を組織全体で共有できる仕組みを構築する

従業員の声を集めて改善する

従業員の多様な発想や考え方を集めて、自社の改善に結びつける仕組みを構築します。

  • 従業員の多様な発想や考え方集めて、自社を改善するための具体的な計画に落とし込み、組織内のマネジメントにより進捗を管理する
  • 改善の成果について、公正に評価する仕組みを構築する

人事制度や採用方法を見直す

働き方の多様性に対応した人事評価制度や採用方法を確立します。

  • 個々の従業員の業務役割を明確にした上で、業務の遂行結果を公正に評価する人事評価制度を構築する
  • 多様な人材を確保するために、採用のチャネルや選考基準を多様化する

社内環境を整備する

従業員が多様な働き方を選択しやすくなるように社内環境を構築する。

  • 在宅勤務や短時間勤務、フレックスタイム制の導入など勤務体制を多様化する
  • 働き方に対する従業員の満足度を定期的にチェックし、改善する

ダイバーシティ&インクルージョンの企業事例

世の中の企業のダイバーシティ&インクルージョンへの取り組み事例を紹介します。

【建設業】株式会社熊谷組

株式会社熊谷組は、「全員参加の経営に取り組む」とのスローガン実現に向けたダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。

専門組織であるダイバーシティ推進室を新設し、ダイバーシティ推進担当者を全国の支店から選任しました。それにより、従業員の時間外労働時間の減少、女性の管理職者数の増加、外国人労働者の増加などを実現しています。

参考:株式会社熊谷組の取り組み|熊谷組

【電気・ガス業】中部電力株式会社

中部電力株式会社は、顧客の幸せや社会の持続的な発展への貢献に向けたダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。従業員一人ひとりが自分らしく働くことができ、誰もが互いに褒め合える認め合えることで、職場を生き生きとさせる取り組みを推進しています。

  • 女性活躍・仕事と育児の両立に向けた取り組み
  • チャレンジド(障がい者)の雇用促進
  • 定年再雇用者の活躍支援

参考:DE&Iの推進 – 社会|中部電力株式会社

【情報通信業】BIPROGY株式会社

BIPROGY株式会社は、多様性を活かしたイノベーション創出の実現に向けたダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。現場の社員とトップマネジメントが連携し、対話を通じた主体的な活動を行っているのが特徴です。

取り組みを補完するために、育児・介護への支援、LGBTQへの理解と支援などの多様な働き方を支えるための仕組みを構築しています。

参考:WORK STYLE 変化に柔軟な働き方|BIPROGY

【運輸業】大橋運輸株式会社

大橋運輸株式会社は、誰もがやりがいを持ち、笑顔で働ける社会を目指すという理念の実現に向けてダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。

  • 女性社員の活躍をサポート
  • 障害者の活躍をサポート
  • LGBTQ理解への取り組み
  • ワーク・ライフ・バランスの取り組み
  • ダイバーシティ&インクルージョンを意識した人事制度

参考:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン|大橋運輸

【小売業】株式会社ローソン

株式会社ローソンは、企業価値を高めるための経営戦略の一環としてダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。ダイバーシティ&インクルージョン推進担当役員を配置し、制度設計や運用、人材登用などを行っています。その上で、以下の取り組みに力を入れています。

  • 女性の活躍推進
  • 育児と仕事の両立支援
  • 多様な人財の採用
  • 多様な人財が働きやすい環境づくり

参考:従業員との関わり:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)推進|ローソン公式サイト

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンとは?

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンとは、ダイバーシティ&インクルージョンに公平性(エクイティ)を加えた概念です。ダイバーシティ&インクルージョンの推進に関して、従業員の個別のニーズに合った機会を与えることで、平等な結果を得られるようにするという考え方です。以下のような対応が考えられます。

  • 能力向上への意識が高い子育て従業員に対して、短時間勤務制度を適用しながら教育支援を行う
  • マネジメント職について意欲が高い短時間勤務従業員に対して、管理職への登用機会を与える

多様化への対応は企業が生き残るために必要なこと

少子高齢化の進展による人材不足や、インターネット環境の進展による市場ニーズの多様化、グローバル経営への対応は、企業が避けて通れない問題です。そのような環境下で企業が生き残るためには、働き方や価値観、考え方などの多様性を受け入れた経営が求められます。多様化への対応が、今後の企業の重要な課題であるといえるでしょう。


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