• 作成日 : 2022年8月5日

年次有給休暇の計画的付与とは?時季指定との違いなど

年次有給休暇の計画的付与とは?時季指定との違いなど

働き方改革では、我が国の長時間労働の是正が課題とされ、残業規制などともに、年次有給休暇の取得率向上に向け、労働基準法が改正されました。今回は、年次有給休暇のうち、5日を超える分については、計画的に休暇取得日を割り振る計画的付与制度と、事業主の時季指定について詳しく解説していきます。

年次有給休暇の計画的付与とは?

年次有給休暇の計画的付与は、従業員の年次有給休暇の取得率を上げるための制度であり、5日を超える分については、労使協定を結べば、計画的に付与できるという制度です。

また、働き方改革の一環として2019年4月に確実な年次有給休暇の取得を目指して労働基準法が改正されましたが、どのような内容になっているのでしょうか。

計画的付与は義務?

厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、我が国の2019年(令和元年)の年次有給休暇の取得率は52.4%で、政府目標である70%とは大きな乖離がありました。

年次有給休暇は、一般の従業員の場合、雇入れの日から6カ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した場合には、最低10日を付与しなければならないとされています。

要件を満たせば、権利として発生し、従業員が使用者に取得時季を申し出れば、年次有給休暇が付与されるのが原則です。しかし、職場の同僚に迷惑がかかるなどの理由で、従業員が取得希望の申出をためらうことが多いという状況がありました。

年次有給休暇の計画的付与は、職場における業務との兼ね合いをつけながら、互いに気がねなく、年次有給休暇を取得できる制度として設けられているものです(労働基準法39条5項)。

年次有給休暇の日数のうち、5日を超える部分については労使協定によって付与時季に関する定めをしたときは、その時季に与えることができます。

ただし、計画的付与は法律上の義務ではありません。また、2019年の改正対象ともなっていません。

参考:厚生労働省|就労条件総合調査

計画的付与と時季指定による付与の違い

法改正によって変わったのは、年次有給休暇の時季指定に関する規定です。もともと、取得時季を指定する時季指定権は、従業員の権利として規定されていましたが、前述のように本人から申し出るのに躊躇するケースが多く、取得率を上げる上で課題とされていました。

計画的付与制度を導入している企業では、導入していない企業よりも取得率が高いものの、導入企業自体が2019年度の調査では22.2%の水準にとどまっていました(「令和元年就労条件総合調査」)。

前述のようになかなか進まない年次有給休暇の取得率向上のためには、確実な取得を目指す改正が必要となります。

そこで、2019年の労働基準法改正では、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員(管理職を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち5日については、使用者が時季を指定して取得させることを義務づけました(労働基準法39条7項)。

ただし、時季指定に当たっては、従業員の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければならないとしています。また、計画的付与で従業員が取得した日数については、事業主が指定する5日から控除することができます。

交替制付与方式・一斉付与方式・個人別付与方式

法改正の影響や年次有給休暇の計画的付与についての啓蒙活動の効果もあり、その後、計画的付与の導入企業はほぼ倍増し、2021年の調査では46.6%にまで増加しています(「令和3年就労条件総合調査」)。

計画的付与制度の導入には、一般的には次の3つの方式があります。

  1. 班・グループ別の交替制付与方式
    班・グループ別に交替で年次有給休暇を付与する方式です。流通・サービス業など、定休日を増やすことが難しい企業や事業場で導入されるケースが多くなっています。
  2. 企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方式
    全従業員に対して同一の日に年次有給休暇を与えるという付与方式です。工場などの製造部門のように操業をストップさせて全従業員を休ませることのできる事業場に向いています。
  3. 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
    夏季、年末年始、ゴールデンウィークなどに年次有給休暇を個人別に計画表に基づいて付与する方式になります。上手に組み合わせれば、大型連休とすることも可能です。誕生日や結婚記念日などのメモリアル休暇として活用するケースもあります。
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年次有給休暇の計画的付与を行う上での手続き

導入企業が増えている年次有給休暇の計画的付与制度ですが、実際に導入するにはどのような手続きが必要なのでしょうか。

労使協定の締結・就業規則の変更を行う

計画的付与制度の導入には、就業規則の変更と労使協定の締結が必要となります。

まず、就業規則に「従業員代表との書面による協定により、各従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある」というような規定を設けます。

この条項にある「従業員代表との書面による協定」が労使協定に該当します。従業員の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合との書面による協定でも構いません。

常時10人以上の従業員を使用する事業場の場合は、就業規則を変更した場合は、所轄の労働基準監督署に届出をしけなければなりません。

労使協定において決める項目

労使協定で定める主な内容は、以下の通りです。なお、年次有給休暇の計画的付与についての労使協定は労働基準監督署に届出義務はありません。

1. 計画的付与の対象者
計画的付与の対象となる日数の関係上、年次有給休暇を6日以上付与する従業員であれば、正規・非正規などの雇用形態や勤務形態に関係なく、計画的付与の対象者とすることができます。

ただし、育児休業や産前産後の休業などに入ることがわかっている従業員や、定年退職することが予定されている従業員は対象から外しておきます。

2. 計画的付与の対象となる日数
計画的付与の対象となるのは、年次有給休暇日数のうち5日を超過する部分だけです。

有給休暇のうち最低5日は、従業員が自由な取得を保障することになっています。前年度分の繰り越しがある場合は、繰り越し分の日数を含めて5日を超過する部分が対象です。

なお、パートタイマーのように週の所定労働時間が30時間未満で週の所定労働日数が4日以下などの従業員については、労働日数に応じて年次有給休暇は比例付与されます。この場合も5日を超過する部分が計画的付与の対象となります。

3. 計画的付与の実施方式
班・グループ別の交替制付与方式の場合は、班・グループ別の具体的な付与日を定めます。企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方式の場合も、具体的な付与日を定めます。

年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式の場合は、計画表を作成する時期とその手続きなどについて定めることになります。

4. 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
事業場全体の休業による一斉付与方式の場合などは、新入社員の入社のタイミングや勤続年数、所定労働日数等によっては、5日を超える年次有給休暇がないケースもあります。

この場合、そのままであれば計画的付与の対象者とすることができないため、以下のような措置をとることになります。

  • 特別休暇を付与する。
  • 休業手当として平均賃金の60%以上を支払う(労働基準法26条)。

5. 計画的付与日の変更
計画的付与の日を指定する場合、従業員の時季指定権、使用者の時季変更権はいずれも行使できません。あらかじめ計画的付与日の変更が予定される場合には、労使協定で変更する際の手続きについて定めておきましょう。

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計画的付与を進める上での注意点

年次有給休暇の計画的付与制度の導入手続きについてみてきましたが、そのほか、どのような注意点があるのか説明します。

従業員が労使協定の締結を拒否したら?

一部の従業員が年次有給休暇の計画的付与制度の導入について拒否した場合はどうなのるでしょうか。

結論から言えば、従業員の過半数の同意があれば、労使協定は有効に締結することができます。したがって、一部の者が反対したとしても、要件を満たした全員が計画的付与の対象となります。

前述のように、付与される有給休暇の日数が5日以下の場合、計画的付与をそのまま適用できず、特別な措置を講じる必要があるので注意しましょう。

労使協定を結ばないまま、計画的付与を勝手に行ったら?

計画的付与制度の導入では、就業規則において労使協定で締結することを規定し、実際にそのルールに従って労使協定を締結することとなっています。

労使協定を締結せず、計画的付与を行った場合、その効力が生じないだけでなく、事業主の時季指定義務において自発的に5日以上の年次有給休暇が取得できない場合、計画的付与日数から控除できないことになります。

年5日の年次有給休暇を労働者に取得させなかったことになれば、結果的に労働基準法39条7項に違反し、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条)。

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年次有給休暇の計画的付与について知っておこう!

年次有給休暇の計画的付与について、2019年に改正された時季指定義務との関係も含めて解説してきました。

計画的付与制度は、ここ数年で導入企業が急増しています。事業主による時季指定義務とともに年次有給休暇の取得促進では有効な制度です。

年次有給休暇の取得率向上は、働き方改革の一環でもあり、企業としても生産性向上のために積極的に取り組むことを検討すべきでしょう。

よくある質問

年次休暇の計画的付与とは何ですか?

年次有給休暇の日数のうち、5日を超える部分については労使協定によって付与時季に関する定めをしたときは、その時季に与えることができる制度です。詳しくはこちらをご覧ください。

計画的付与と時季指定による付与の違いについて教えてください。

計画的付与は任意の制度ですが、事業主の時季指定による付与は労働基準法上の義務です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:坪 義生(社会保険労務士)

じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、㈱矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。

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