- 更新日 : 2024年12月11日
給与明細を電子化・ペーパーレス化するには?導入方法からメリット・デメリットまで紹介
給与明細の電子化・ペーパーレス化には、コスト削減や業務効率化といったメリットがありますが、電子メールやクラウドサービスの利用など、自社に合った方法を検討し、従業員から同意を得なければなりません。
今回は、給与明細を電子化・ペーパーレス化する方法や、メリット・デメリットを詳しく解説します。
目次
給与明細の電子化・ペーパーレス化とは
給与明細の電子化・ペーパーレス化とは、電子メールやクラウドサービス経由で従業員に給与明細を交付することをいいます。これまで紙の給与明細書を発行してきた企業にとっては、「紙の書類でなくても法律上大丈夫なの?」と気になるかもしれません。
2006年の税法改正により、2007年1月1日以降、給与の支払明細書や源泉徴収票の電子交付が可能になりました。2021年現在では、退職所得の源泉徴収票・支払明細書や公的年金の源泉徴収票等も電子交付の対象となっています。
法律で認められている「電子交付」の方法とは、以下の3つを指します。
【電子交付の種類】
- 電子メールでデータを交付する
- 社内LAN・WANやインターネットを利用して閲覧する
- フロッピーディスクやCD-ROM等の磁気媒体等に記録して交付する
現在は、給与明細書のファイルをメールに添付して交付するほか、クラウドソフトを活用して従業員がWeb上で給与明細書を閲覧できるようにする方法が主に採用されています。
給与明細を電子化・ペーパーレス化したら何ができる?
給与明細書を電子化・ペーパーレス化することで、具体的に何ができるようになるのかについて見ていきましょう。
オンライン上でミスなく給与明細を作成できる
まず大きく変わるのが、オンライン上で給与明細を作成できるようになる点です。
給与明細を電子化・ペーパーレス化して、PDFなどで従業員に送付すれば、給与明細を印刷・仕分け・封入・配布または投函するといった一連の工程をカットできます。
電子化・ペーパーレス化した給与明細書のフォーマットは、PDF形式やXML形式などがあります。業務効率化を図れるだけでなく、「別の人の給与明細書を封入してしまった」といった人的ミスの防止にもつながります。
さらに、給与明細の作成場所・保管場所に悩まずに済むのも電子化・ペーパーレス化のメリットです。紙の給与明細書は、印刷する際に他の従業員の目に触れないよう作業場所に気を配らなければなりません。過去の給与明細書を保管するための場所も必要です。給与明細を電子化・ペーパーレス化することで、大幅に利便性の向上が図れるでしょう。
メールで給与明細を配信できる
電子化・ペーパーレス化により、給与明細書のメール配信が可能になります。給与計算システムなどを用いて、クラウド上やアプリで給与明細書を閲覧することも可能です。
紙の給与明細書の場合、郵送であれば封筒代・切手代・郵送料が発生しますが、電子化・ペーパーレス化によってこうしたコストをカットできます。「給与明細書を机の上に置いたはずなのに、受け取られていない」といった、思いがけないミスも防ぐことも可能です。
勤怠管理システムとシームレスに連携できる
勤怠管理システムを導入している場合、給与明細書の電子化・ペーパーレス化することでシームレスに連携できます。
給与データを自動で取り込み、日々入力する勤怠情報と給与計算が連動されるため、小さなミスの削減につながります。
給与明細を電子化・ペーパーレス化する方法
給与明細を電子化・ペーパーレス化するには、既存の方法と照らし合わせて自社にあったスタイルを選択する必要があります。その際、必ず従業員一人ひとりに電子化の同意を得なければなりません。
① 既存のやり方で給与明細を電子化・ペーパーレス化できるか検討する
まずは、既存のやり方で給与明細を電子化・ペーパーレス化できるか検討する必要があります。
【どこまでの書類を電子化・ペーパーレス化するのか検討する】
毎月の給与明細書のみを電子化するのか、源泉徴収票にも対応するのかなど、電子化する書類の範囲を検討します。
【給与明細へのアクセス方法を検討する】
電子化・ペーパーレス化した給与明細に従業員がアクセスする方法は、メール配信やWebやクラウド上での閲覧が一般的です。
メール配信の場合、給与明細を電子化・ペーパーレス化するシステムがなくても対応可能ですが、従業員一人ひとりにメールを配信する負担がかかります。Webやクラウド上での閲覧であれば、一斉に対応することが可能です。
ただし、全従業員がパソコンやスマートフォンを所持しているとは限りません。自社の現状や従業員人数に合わせて、対応可能な方法を検討しましょう。
【既存のやり方との相性を検討する】
給与明細の電子化・ペーパーレス化が、既存のやり方とうまく連携できるかも重要なポイントです。給与明細の電子化・ペーパーレス化だけでも業務効率化を図れますが、勤怠管理や給与計算のシステムと連携させることで、さらに大きな効果を発揮します。
すでにこうした管理システムを利用している場合は、既存システムとの連携方法や範囲を確認しながら検討します。場合によっては、一部もしくは全部のシステムを入れ替える方法も視野に入れる必要があるでしょう。現在の勤怠管理・給与計算をタイムカードやエクセルで行っている場合は、システムの導入を同時に検討するのもおすすめです。
② 従業員から電子化・ペーパーレス化の同意を得る
給与明細の電子化・ペーパーレス化にあたっては、従業員の同意を得た場合に可能であると租税法第231条に定められています。したがって、給与明細を電子化・ペーパーレス化する方法がある程度固まった段階で、従業員に通達して同意を得なければなりません。
従業員の同意を得るにあたっては、以下の情報を通達します。なお、同意書の決まったフォーマットはありませんが、「電子交付について承諾する旨、承諾日、受給者氏名」の3点によって承諾したとされます。
【従業員から同意を得るにあたり通達する内容】
- 電子交付する書類の名称(例:毎月の給与明細書)
- 電子化・ペーパーレス化する具体的な方法
- 受信者ファイルへの記録方法
- 交付の予定日
- 交付の開始日
こうした通達を書面または社内メールで通知し、その返信として同意に必要な内容を記載してもらう手順があります。なお、給与明細書をメールで配信する場合は、送信先となる従業員のメールアドレスを確認する必要があります。また、Webやアプリで閲覧できるようにする場合はログイン方法なども通知しなければなりません。
また、給与明細電子化の同意書のテンプレートは、以下リンクから無料でダウンロードできます。エクセル・ワードそれぞれのフォーマットがあるので、ぜひご活用ください。
③ 電子化・ペーパーレス化に反対する従業員への対応策を考える
給与明細の電子化・ペーパーレス化の同意を得られなかった従業員に対しては、給与明細書を従来通り書面で交付しなければなりません。電子化・ペーパーレス化を進めても、全従業員が同意するとは限りませんので、一部紙の給与明細書での対応が必要となります。
給与明細を電子化・ペーパーレス化すると、受け取る従業員側は、スマートフォンやパソコンなどの端末を所持している必要があります。業務でこうした端末を使用しない場合は、給与明細を確認する手段がない従業員がいる可能性もあります。全員が給与明細の電子化・ペーパーレス化に対応できると決めつけずに、一人ひとりの状況を確認しましょう。
また、給与明細の電子化・ペーパーレス化の同意を得ていたとしても、従業員が書面交付を希望したときには、給与明細書を書面で交付しなければなりません。住宅ローンや教育ローンなどの審査で、金融機関から給与明細書の提出を求められる場合があるからです。そのために、紙の給与明細書を印刷できる機能のあるシステムを選ぶのがよいでしょう。
給与明細の電子化・ペーパーレス化が面倒など、なんとなくの理由で同意を先延ばしにするケースもあるかもしれません。その場合は、電子化・ペーパーレス化によって従業員が得られるメリットを丁寧に説明することも大切です。
給与明細を電子化・ペーパーレス化するメリット
続いて、給与明細の電子化・ペーパーレス化で得られるメリットを説明します。
コスト削減につながる
給与明細の電子化・ペーパーレス化によって、コスト削減が期待できます。具体的には、今まで給与明細書を印刷していた印刷代や紙代のほか、封入に使っていた封筒の代金が削減できます。そのほか、在宅勤務や県外の拠点など遠方在住者に郵送していた場合は郵送費を削減できます。それぞれ少額ですが、従業員の数が増えると無視できない金額になるものです。
また、こうした印刷から配布にかかる手間や時間が短縮されることで、その業務に費やしていた人件費も結果として削減できます。
【削減につながるコスト例】
- 印刷代
- 紙代
- 封筒の費用
- 郵送費
- 印刷から配布にかかる人件費
業務効率化に貢献できる
給与明細の電子化・ペーパーレス化により、従来の業務フローを効率化できます。具体的には、「印刷する」「確認して封入する」「手渡しや郵送によって配布する」といった業務を削減できます。
給与明細の交付は、毎月発生する業務です。業務フローを効率化することは、人的コストの削減にもつながります。また、封入ミスや配送ミスといったトラブルがなくなるため、従業員の業務負担も軽減されます。
給与明細の紛失を防げる
給与明細を電子化・ペーパーレス化することで、給与明細を紛失するリスクが少なくなります。
給与明細には、所得税額や社会保険料などさまざまな情報が記載されています。副業をしている従業員は確定申告でこれらの情報が必要になるほか、「年金を支払った証拠として給与明細を保管している」といった人もいます。
このように、給与明細は個人がいくら稼ぎ、どれだけ納税したかを確認できる重要な書類です。紙の書類は、誤って捨ててしまうといった紛失リスクがありますが、電子ファイルの場合はそうしたリスクを抑えることができます。
紙でも電子ファイルでも、紛失した場合に企業側が再発行することは可能です。しかし、賃金台帳なら「最後の賃金について記入した日」から3年などと、一定の保存期間が設けられています。どれほど長い期間保存しているかは企業によって異なりますが、破棄した過去の分の記録は再発行が難しいため、紛失リスクの少ない電子ファイルで給与明細書を受け取れることは、従業員にとってメリットになります。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
いつでもどこでも給与明細を確認できる
いつでもどこでも、場所と時間を問わずに給与明細を確認できるようになるのも電子化・ペーパーレス化のメリットです。
昨今では、テレワークのようにオフィス以外の場所で働くスタイルが広がっています。そうした従業員にとっては、わざわざオフィスに出向いて受け取ったり、郵便ポストを確認したりする必要がないのは非常に便利です。
現物を持ち歩かなくても、電子化・ペーパーレス化された給与明細を確認できる端末があればいいわけです。たとえば、住宅ローン申請のための書類を作成するなど、所得の確認が必要となったときに、スマホを操作するだけで確認できます。副業している従業員が確定申告する際にも、すぐに過去分を確認できます。
給与明細の電子化・ペーパーレス化するデメリット
給与明細の電子化・ペーパーレス化は、気をつけなければいけない課題もあります。具体的には、情報漏えいのリスクと、既存方法からの移行に伴う業務負担の増加です。
情報漏洩のリスクがある
紙の給与明細でも、紛失や元のデータが流出するといった情報漏洩リスクはあります。しかし、電子化・ペーパーレス化を行うことで、新たに脅威となるリスクにも備えなければなりません。
たとえば、メールで給与明細を個別に送信する場合、メールアドレスを間違えてしまえば個人情報の流出となります。また、給与明細のデータを保存したUSB等の紛失も、考えられる情報漏洩のリスクです。
さらに、クラウド上で閲覧できる給与明細システムを利用しているからといって、セキュリティ面で安心できるわけではありません。個人情報の流出事故として、クラウドサービスのシステム障害により保存していたデータが消えてしまったり、流出してしまったりする事例があります。
給与明細を安全に電子化・ペーパーレス化するには、労務担当者が情報セキュリティ対策への理解を深めると共に、利用するシステムやクラウドサービスが十分な情報セキュリティ対策を施しているかを確認しなければなりません。総務省が公表している情報セキュリティ対策のガイドライン等を参考にしつつ、万全な体制を構築しましょう。
参考:事例13:クラウドサービスに預けていた重要データが消えた|総務省 国民のための情報セキュリティサイト
クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン(第3版)|総務省
電子化・ペーパーレス化のために、既存のやり方を変える必要がある
給与明細の電子化・ペーパーレス化で新たな業務フローに移行するにあたり、想定される課題にも対応しなければなりません。電子メールを利用する方法と、クラウドサービスやシステムを利用する方法で、それぞれ以下の課題が考えられます。
【電子メールで交付するときの課題】
電子化・ペーパーレス化した給与明細を送信するメールアドレスを確認しなければなりません。また、雇用形態によって給与支払い日が異なる場合は、メーリングリストを作成したり個別にメールを配信するといった対応が必要です。
【クラウドサービスやシステムを利用するときの課題】
給与明細の電子化・ペーパーレス化に利用するクラウドサービスやシステムのフォーマットにあわせて、新たにデータを作成する必要があります。給与計算システムと連携させる場合に互換性がなければ、手作業でデータを加工するといった負担も発生します。
また、電子化・ペーパーレス化した給与明細を、給与支払い日にあわせて閲覧できるように業務を進める必要があります。
【電子化・ペーパーレス化に対応した業務フローを整備する】
最後に、電子化・ペーパーレス化に対応した業務フローに変更します。セキュリティ面を考慮して給与明細の電子ファイルをパソコンなどの端末に保存しない、クラウドサービスやシステムには会社が許可した端末からのみアクセスできるようにするといったマニュアルの整備も求められます。
給与明細の電子化・ペーパーレス化には、クラウドサービスを活用しよう!
給与明細の電子化・ペーパーレス化には、コスト削減や業務の効率化といったさまざまなメリットがあります。
給与明細書をPDF化してメールで配信するといった可能ですが、従業員規模が大きい場合は、勤怠管理システムや給与計算システムと連動できるクラウドサービスを活用することでより業務を効率化できます。
マネーフォワード クラウド給与なら、給与計算から給与明細の電子発行、振込までを一貫して効率化することが可能です。給与明細の電子化・ペーパーレス化にあたって、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
給与明細の電子化とは?
これまで紙で交付してきた給与明細書を、電子メールやクラウドサービスを通じて従業員に配布することをいいます。ペーパーレスによるコスト削減や業務効率化につながり、担当者の業務負担を軽減します。詳しくはこちらをご覧ください。
給与明細を電子化する方法は?
まず適切な電子化の方法を検討します。システム導入やクラウドサービス利用では勤怠管理や給与計算システムとの互換性もあわせて検討しましょう。電子化にあたっては従業員の事前の同意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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