- 更新日 : 2022年5月20日
65歳以上の従業員の社会保険手続き
昨今の高年齢者の増加に伴い、60歳を過ぎた方々が就業を続けるケースが増えてきました。
これは、社会保険の「高年齢者雇用安定法の改正」や「厚生年金の受給開始年齢の65歳への段階的引上げ」(ともに平成25年4月~)などが大きく影響しています。
65歳未満を定年とした会社においても、従業員の希望によりその後も継続して雇用する場合があり、加入する社会保険においてはさまざまな手続きの変更を伴います。
「65歳」は社会保険の手続き上、非常にポイントとなる年齢です。今回は、従業員が65歳以上になったとき、社会保険実務担当者が注意しなければならない点について説明します。
従業員自身の社会保険の変更点
まず、65歳以上の従業員自身の社会保険上についての変更点について説明します。
国民年金
国民年金の被保険者には第1号被保険者、第2号被保険者および第3号被保険者と3種類あります。
会社勤めの方は第2号被保険者となり、同時に厚生年金保険の被保険者でもあります。そのため、60歳までは毎月給与から徴収される厚生年金保険料に国民年金の保険料も含めて処理していました。そして、60歳から65歳未満の従業員で、年金受給資格の10年(※)を満たしていない人や基礎年金満額(40年)を希望する人は国民年金に任意加入できます。
しかし、従業員が65歳以上になり、年金受給資格を取得すると、国民年金の被保険者ではなくなります。
この時、65歳の時点で老齢基礎年金の受給資格を満たすために必要な納付年数(※)に達していない場合には、会社勤めを続ければ最長で70歳まで第2号被保険者でいられます。
この場合、手続は特に必要ありません。
(※)年金を受給するためには、25年の払込期間が必要でしたが、将来の無年金者を抑えていくという視点から平成29年8月以降、払込期間が10年に短縮されました。
厚生年金保険
厚生年金保険は原則として70歳まで加入できます。引き続き保険料は給与から天引きされ、65歳時点での会社側が行うべき変更は特にありません。
ただし、65歳以上になると給付面での変更があります。例えば、65歳以前に特別支給の老齢厚生年金を受け取っている場合があります。
そして、65歳以上になると「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」を従業員自身が日本年金機構へ提出しなければならず、その結果、受け取る年金も老齢基礎年金と老齢厚生年金に変わります。
また、在職老齢年金の計算方法にも変更があります。60歳代前半までは、ひと月あたりの年金と給与(総報酬月額相当額)の合計が28万円を上回る場合に年金が減額の対象とされてきました。
これが65歳以後は、合計が47万円以上の場合には減額されることになります。こちらも特に会社側での手続きは必要ありません。
介護保険
介護保険では、40歳から65歳までの医療保険加入者のことを第2号被保険者、65歳以上の方を第1号被保険者と呼びます。
65歳までの従業員はこの第2号に該当し、介護保険料は給与から天引きされます。65歳を迎えて第1号になると、その後に支給される年金から天引きの形で徴収されます。
この場合、保険料の納付は従業員本人が行う形となります。
(ただし、65歳になったからといって、すぐに保険料が天引きされるわけではありません。居住する市区町村によって方式が異なりますが、通常は年金請求して天引きの対応が整うまでの間、市区町村から送付される納付書または口座振替で納付する形になります。)
被扶養配偶者の変更点
次に、65歳を迎えた従業員の被扶養配偶者の変更について説明します(被扶養配偶者本人は会社勤めをしていないため、厚生年金保険は対象外です)。
国民年金
被扶養配偶者は、従業員である第2号被保険者と配偶関係にあり、主として第2号被保険者の収入により生計を維持する者のうち20歳以上60歳未満の場合において国民年金の第3号被保険者となります。
第2号被保険者が65歳までの間の保険料は、第2号被保険者の加入する年金制度により、被扶養配偶者の保険料負担はありませんでした。
しかし、従業員が65歳以上で国民年金の被保険者ではなくなると、60歳未満の配偶者は第1号被保険者となり、自ら保険料を納めなくてはなりません。
この場合、居住する市区町村の役所で第1号被保険者への手続(種別変更)を被扶養配偶者自身で行います。
健康保険
健康保険は従業員が75歳になるまで継続します。被扶養配偶者の保険料は被保険者全体の保険料で賄われているので、配偶者自身が先に75歳にならない限り、従業員が65歳以上でも配偶者の健康保険は維持されます。
介護保険
健康保険の被扶養者である40歳から64歳までの配偶者の場合、介護保険料は会社に勤める40~64歳の第2号被保険者全体で賄うため、被扶養者自身が保険料を納めることはありません。
健康保険と同じく、被扶養配偶者自身が先に65歳にならない限り、従業員が65歳を迎えても介護保険は維持されます。
(65歳以後は配偶者自身が第1号となり、自ら保険料を納めます。)
誕生日が「1日」の人は要注意
社会保険では誕生日当日を1日目として起算するため、「○歳に到達した日」とは「誕生日の前日」になります。
民法の付属法の一つに「年齢計算に関する法律」というのがあって、生まれた日を1日目と数えることになっています。したがって、1歳になるのは誕生日の前日なのです。社会保険も同様に、65歳になるのは、65歳の誕生日の一日前と考えます。
月をまたぐ場合、例えば1日に生まれた人の場合は、誕生日の一日前が誕生日と違う月になるため、注意が必要です。
そもそも健康保険や介護保険、厚生年金などの保険料は月単位で徴収されます。
このうち、被保険者負担分の保険料を給料等から差し引けるのは、被保険者の生計を保護の観点から「前月分」の保険料に限られています。
具体例を挙げて考えてみると、6月1日に65歳の誕生日を迎える人は、前日の5月31日が65歳到達日です。保険料は65歳に到達した月の分から控除されなくなるため、この場合は5月分から保険料の控除がなくなります。
一方、6月2日が誕生日の人の65歳到達日は6月1日で、保険料の控除停止も6月分からとなります。
給付面も同様です。老齢の年金は「65歳に到達した日」に受給権が発生し、その翌月から実際の支給が始まります。
ここでも、6月1日生まれの人は5月31日に受給権が発生し、6月から年金の支給が始まるのに対して、6月2日生まれの人は6月1日に受給権が発生し、年金の支給は7月からとなります。
今後のニーズが増える65歳以上の社会保険手続き
65歳は年金の支給という大きな節目になるため、社会保険上はさまざまな変更手続きが必要になります。65歳以上のほかにも60歳、70歳なども節目の年齢に当たります。
今後のニーズを考えると、65歳以上の従業員の社会保険手続きは増えそうです。会社の社会保険実務担当者の方は、それぞれの場合にどのような手続きが必要になるか、チェックしてみて下さい。
よくある質問
従業員が65歳に達した場合、国民年金についてはどのような扱いになりますか?
国民年金に任意加入することもできますが、原則として国民年金の受給権を取得すると、国民年金の被保険者ではなくなります。詳しくはこちらをご覧ください。
従業員が65歳に達した場合、厚生年金についてはどのような扱いになりますか?
厚生年金保険は原則として70歳まで加入でき、引き続き保険料は給与から天引きされます。詳しくはこちらをご覧ください。
従業員が65歳に達した場合、介護保険についてはどのような扱いになりますか?
介護保険は、65歳を迎えて第1号被保険者になると、支給される年金から天引きされます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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