- 更新日 : 2024年9月6日
時差出勤とは?勤怠・給与・残業計算方法やフレックスタイム制との違い
働き方改革が進む中、時差出勤制度への注目が高まっています。通勤ラッシュの緩和や従業員のワークライフバランスの向上に効果的なこの制度ですが、導入にあたっては十分な理解と適切な運用が欠かせません。
本記事では、時差出勤の概要から導入方法、勤怠管理まで、人事担当者が押さえるべきポイントを詳しく解説します。
目次
時差出勤とは?
時差出勤とは、従業員が通常の始業・終業時刻とは異なる時間帯に出勤・退勤することを認める制度のことです。この制度は労働基準法上の変形労働時間制の一つではなく、就業規則などで定められた始業・終業時刻を変更する取り扱いです。
時差出勤の主な目的は、通勤ラッシュの緩和や従業員のワークライフバランスの向上、業務の効率化などです。また、新型コロナウイルス感染症対策としても注目されています。
時差出勤の勤務パターンの例
時差出勤の具体的な勤務パターンは、企業や業務の特性に応じて様々です。具体的な勤務パターンには、以下のようなものがあります。
- 早朝型:通常の始業時刻より1~2時間早く出勤し、それに応じて早く退勤する。
例:7:00~16:00(通常8:00~17:00の場合) - 遅延型:通常の始業時刻より1~2時間遅く出勤し、それに応じて遅く退勤する。
例:10:00~19:00(通常8:00~17:00の場合) - 選択制:複数の始業時刻の中から従業員が選択できるようにする。
例:8:00~17:00、9:00~18:00、10:00~19:00から選択 - 季節変動型:夏季と冬季で異なる勤務時間を設定する。
例:夏季7:00~16:00、冬季9:00~18:00
いずれも所定労働時間が変わらないため1日の勤務時間は固定されていますが、出退勤時間を柔軟に調整できます。
時差出勤のメリット・デメリット
ここでは、時差通勤のメリット・デメリットについて考えてみます。
時差出勤のメリット
時差出勤には、従業員と企業の双方に多くのメリットがあります。従業員は通勤ラッシュを避けることができ、通勤時のストレスや身体的負担が軽減されます。これは、特に新型コロナウイルス感染症対策としても有効です。
また、育児や介護を行う従業員は私生活との両立が容易になり、ワークライフバランスの向上につながります。さらに、従業員の生活リズムに合わせた勤務が可能になることで、業務効率や生産性の向上が期待できます。
企業側のメリットとしては、長時間労働の是正による従業員の健康増進や、残業代などの人件費負担の軽減が挙げられます。加えて、優秀な人材の確保や従業員のモチベーション維持にも寄与します。
時差出勤のデメリット
時差出勤には、いくつかのデメリットや課題もあります。最大のデメリットは、勤怠管理と残業代計算の複雑化です。従業員ごとに始業・終業時刻が異なるため、実労働時間を個別に把握する必要があり、管理が煩雑になります。これに伴い残業代の計算も複雑化し、ミスが発生しやすくなります。
また、従業員間のコミュニケーションや情報共有が難しくなる可能性があります。勤務時間帯が異なることで、対面でのミーティングや打ち合わせの調整が困難になる場合があるからです。
さらに、時差出勤制度の運用には就業規則の変更や労使間の合意形成が必要で、導入に向けた準備や手続きに時間と労力がかかります。
時差出勤とフレックスタイム制との違い
時差出勤と類似した制度にフレックスタイム制があります。両者には、どのような違いがあるのでしょうか。
制度の法的根拠
時差出勤は、従業員が所定の労働時間内で始業・終業時刻を選択できる制度です。法律上の明確な定義はなく、就業規則などで定められた始業・終業時刻を変更するものです。
一方、フレックスタイム制は労働基準法第32条の3に規定された制度で、一定期間(清算期間)の総労働時間を定めたうえで、労働者が日々の始業・終業時刻を決定できる働き方です。フレックスタイム制を導入する場合は、就業規則への記載や労使協定の締結が必要です。
労働時間の設定方法
企業が複数の勤務時間帯を設定し、従業員がその中から選択するか、または個別に調整して決定します。通常、1日の労働時間は固定されています。フレックスタイム制では、清算期間内で総労働時間を満たせば、日々の労働時間を柔軟に変更できます。また、コアタイム(必ず勤務すべき時間帯)を設定することも可能です。
時間外労働の取り扱い
時差出勤の場合、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働は時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要です。フレックスタイム制では、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合に時間外労働となります。日々の労働時間が8時間を超えても、清算期間内で調整が可能です(労働基準法第32条の3)。
導入手続きと運用
時差出勤の導入における主な手続きは、就業規則の変更です。フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結が必要です(労働基準法第32条の3)。協定には、対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間などを定める必要があります。また、就業規則の変更も必要です。
時差出勤の導入方法
時差出勤の導入は法令遵守とともに、従業員の理解を得ながら進めることが大切です。以下のようなステップを踏むとよいでしょう。
現状分析と目的設定
時差出勤導入の第一歩は、現状分析と明確な目的設定です。従業員の通勤状況、業務の特性、顧客対応の必要性などを詳細に分析します。目的は通勤ラッシュの緩和、ワークライフバランスの向上、業務効率の改善、感染症対策などが考えられます。
制度設計
時差出勤の具体的な制度設計を行います。主な検討項目は以下の通りです。
- 対象となる従業員の範囲
- 勤務時間帯のパターン(例:7:00~16:00、8:00~17:00、9:00~18:00など)
- 申請・承認のプロセス
- 勤怠管理の方法
制度設計の際は、労働基準法第32条に定められた法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を遵守することが重要です。また、同法第34条に基づく休憩時間の確保も忘れてはいけません。
就業規則の変更
基本的に、時差出勤制度の導入には通常の就業規則の変更手続きが必要です。変更内容が従業員に不利益となる場合は、労働契約法第9条に基づき、原則として従業員の個別の合意が求められます。
労使協議と従業員への周知
時差出勤制度の円滑な導入のためには、労使間の十分な協議が不可欠です。労働基準法第90条に基づく従業員の過半数代表からの意見聴取に加え、従業員全体への説明会の開催なども検討するとよいでしょう。従業員への周知では、変更後の就業規則をいつでも見ることができるようにする必要があります。
試行期間の設定と運用
本格的に導入する前に、試行期間を設けることをおすすめします。試行期間中に以下の点を確認します。
- 業務への影響
- コミュニケーションの課題
- 勤怠管理システムの適合性
- 従業員の反応や利用状況
試行期間中の運用状況を踏まえ、必要に応じて制度の微調整を行います。その際、労働基準法第36条に基づく時間外労働の状況にも注意を払い、過重労働につながっていないかを確認することが重要です。
時差出勤を就業規則に記載する方法
時差出勤制度を導入する際には、就業規則を変更する必要があります。ここでは、具体的な記載方法について解説します。
就業規則への記載方法
時差出勤制度を導入する際の主な内容は以下の通りです。
- 時差出勤制度の対象となる従業員の範囲
- 勤務時間帯のパターン
- 時差出勤の申請・承認プロセス
- 時差出勤時の勤怠管理方法
- 時差出勤に関する禁止事項や制限事項
これらを明確に定めることで、制度の適正な運用と労使間のトラブル防止につながります。なお、就業規則の変更は労働基準法第89条に基づき、所轄労働基準監督署長への届け出が必要です。
記載する際の文例
就業規則に記載する際の文例を紹介します。
第○条(時差出勤制度)
会社は、従業員のワークライフバランスの向上及び業務の効率化を図るため、時差出勤制度を導入する。
2 時差出勤制度の対象者は、正社員とする。ただし、業務上の必要性により、会社が対象外と判断した者を除く。
3 勤務時間帯は、以下の3パターンとする。
(1) 7:00~16:00(休憩60分)
(2) 8:00~17:00(休憩60分)
(3) 9:00~18:00(休憩60分)
4 時差出勤を希望する従業員は、所定の様式に希望する勤務時間帯を記載のうえ、所属長の承認を得なければならない。
5 時差出勤の適用期間は1ヵ月単位とし、前月20日までに申請するものとする。
6 会社は、業務上の必要がある場合に時差出勤の承認を取り消し、または変更を命じることがある。
7 時差出勤時の勤怠管理は、社内の勤怠管理システムにより行うものとする。
就業規則のどの部分に記載するのか
時差出勤制度は通常の勤務時間に関する規定を変更するものであるため、「勤務時間、休憩時間、休日及び休暇」の章に記載するのが適切です。ただし、既存の就業規則の構成によっては、別途「働き方」や「勤務形態」などの章を設けて記載することも考えられます。
この記事では、就業規則のテンプレートを用意しています。ぜひ、ダウンロードして活用してください。
時差出勤の勤怠管理・残業代の計算方法
時差出勤制度を導入する際は、各従業員の勤務パターンに応じて適切に労働時間を管理し、正確に残業代を計算することが重要です。また、労働基準法を遵守しつつ、従業員の健康管理にも十分配慮する必要があります。ここでは、時差出勤の勤怠管理と残業代の計算方法について解説し、具体例を示します。
時差出勤の勤怠管理・残業代の計算方法
時差出勤における勤怠管理も通常の勤怠管理と同様に、労働基準法第108条および同法施行規則第54条に基づき、使用者が適切に労働時間を把握する必要があります。
残業代の計算は、各従業員の定められた勤務時間帯を基準に行います。労働基準法第37条に基づき、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える部分については、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
また、深夜時間帯(22時から5時)におよぶ勤務の場合、同じく労働基準法第37条に基づき、25%以上の深夜割増賃金の支払いが必要です。時間外労働と深夜労働が重なる場合は、双方の割増率を合算して50%以上の割増賃金となります。
勤怠管理システムを使用する場合は、各従業員の勤務時間帯に応じて適切に残業時間を計算できるよう設定することが重要です。また、2019年4月から順次施行された働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制(労働基準法第36条)も考慮する必要があります。
時差出勤の具体例
時差出勤の具体例を3つ紹介しします。
例1.基本的な時差出勤の場合
Aさん(通常勤務時間:9:00~18:00)が時差出勤制度を利用し、7:00~16:00の勤務を選択した場合
7:00に出勤し、16:30に退勤した場合
- 所定労働時間:8時間(7:00~16:00、休憩1時間)
- 時間外労働:0.5時間(16:00~16:30)
- 残業代:0.5時間分の割増賃金(通常の時間給の25%増)
例2.深夜時間帯にかかる時差出勤の場合
Bさん(通常勤務時間:9:00~18:00)が時差出勤制度を利用し、13:00~22:00の勤務を選択した場合
13:00に出勤し、23:00に退勤した場合
- 所定労働時間:8時間(13:00~22:00、休憩1時間)
- 時間外労働:1時間(22:00~23:00)
- 深夜労働:1時間(22:00~23:00)
- 残業代:1時間分の割増賃金(通常の時間給の50%増、時間外25%+深夜25%)
例3.変則的な時差出勤の場合
Cさんが1日おきに異なる時差出勤パターンを選択した場合
- 月・水・金:7:00~16:00
- 火・木:10:00~19:00
この場合、各日の所定労働時間は8時間ですが、日によって残業の計算基準時刻が異なります。例えば、以下のようなケースです。
1.月曜日に7:00~17:00まで勤務した場合
- 所定労働時間:8時間(7:00~16:00、休憩1時間)
- 時間外労働:1時間(16:00~17:00)
- 残業代:1時間分の割増賃金(通常の時間給の25%増)
2.火曜日に10:00~20:00まで勤務した場合
- 所定労働時間:8時間(10:00~19:00、休憩1時間)
- 時間外労働:1時間(19:00~20:00)
- 残業代:1時間分の割増賃金(通常の時間給の25%増)
時差出勤関連の無料テンプレート・ひな形
以下より、テンプレートを無料でダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
時差出勤で働き方改革を推進しよう!ポイントは準備と運用!
時差出勤制度は、従業員の働きやすさを向上させる一方で、適切な管理が求められます。就業規則の整備、労使間の合意形成、勤怠管理システムの導入など、準備すべき事項は多岐にわたります。
しかし、これらを丁寧に進めることで、従業員満足度の向上と業務効率化の両立が可能になります。時代に即した柔軟な働き方の実現に向けて、時差出勤制度の導入を検討してはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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