- 更新日 : 2024年11月1日
標準報酬月額とは?決め方や計算方法、間違えた場合をわかりやすく解説!
毎月の給料から、標準報酬月額をもとにした社会保険料が控除されています。この標準報酬月額は、1年に1度の定時決定や、報酬額が大きく変わった場合に行われる随時改定などで決定されます。ここでは、標準報酬月額の算出方法、決定ならびに改定のタイミングや手続きの方法、標準報酬月額をもとにした社会保険料の計算方法を見ていきましょう。
目次
標準報酬月額とは?
毎月の給料からは所得税の源泉徴収や雇用保険料とともに、社会保険料として健康保険料と厚生年金保険料が差し引かれています。しかし、所得税の源泉徴収や雇用保険料の金額と、社会保険料の金額は、決定方法が大きく違っています。
標準報酬月額と給料の違いは手当を含むかどうか
標準報酬月額とは、その年の4月~6月の3ヶ月間の給与の平均額をもとに、等級に分けて表したものです。健康保険では50の等級、厚生年金保険では32の等級に分けて表します。
なお、標準報酬月額を算出するときの給与には、基本給や各種手当は含みますが、年3回以下の賞与や臨時で支払われるインセンティブ、お祝い金などは含みません。
一方、給料は通常、基本給を指します。各種手当や時間外労働の賃金については含まれません。標準報酬月額は給料に各種手当を加えた金額から算出するため、給料よりも大きくなる傾向にあります。
標準報酬月額は社会保険料の計算に使用される
標準報酬月額は、健康保険料や厚生年金保険料を計算するときに必要な数字です。標準報酬月額の使い方や計算方法について説明します。
健康保険料と厚生年金保険料で標準報酬月額は異なる
社会保険料の金額は、健康保険料・厚生年金保険料とも標準報酬月額をもとに計算されます。標準報酬月額は、従業員に支払われる給料から算定される額で、健康保険の場合は第1等級(58,000円)から第50等級(1,390,000円)までの50段階、厚生年金保険の場合は第1等級(88,000円)から第32等級(650,000円)の32段階に区分されています。この標準報酬月額に健康保険料率をかけて健康保険料の金額、厚生年金保険料率をかけて厚生年金保険料の金額を計算します。
引用:令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
引用:保険料額表(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)|日本年金機構
標準報酬月額表は、上記のように日本年金機構・全国健康保険協会のホームページに掲載されています。全国健康保険協会の健康保険料率は都道府県によって違うため、確認の際は事業所を管轄する都道府県の表を用いるようにしてください。
標準報酬月額の決め方・算出方法
標準報酬月額は、3カ月分の給料をもとに、次のように算出します。
- 標準報酬月額を求める前の3ヶ月において支払われた報酬の合計額を求める。
【報酬となるもの】
基本給、諸手当、年4回以上支給される賞与、通勤定期券など - 合計額を3で割る
- 標準報酬月額表に当てはめる
- 標準報酬月額を求める前の3ヶ月において支払われた報酬の合計額を求める。
たとえば4月の報酬が30万円、5月の報酬が28万円、6月の報酬が29万円の場合で計算してみましょう。3ヶ月の報酬合計額は87万円(30万円+28万円+29万円)のため、報酬月額(報酬平均額)は29万円(87万円÷3ヶ月)です。
標準報酬月額表の報酬月額の欄を見ると、29万円以上31万円未満の場合の標準報酬月額は「300,000円」です。つまり、この場合の標準報酬月額は30万円となります。
標準報酬月額の対象となるもの、ならないもの
報酬とは、標準報酬月額の対象となるもので、その名称に係わらず、労働者が労働の対償として受けるものを言います。報酬は、金銭(通貨)に係わらず、現物支給される食事や通勤定期券も「現物給与」として報酬に含まれます。
一般的に基本給と合わせて支給されることが多い、役職手当や家族手当、残業手当、通勤手当などは標準報酬月額に含まれることとなります。
ただし、労働の対償にならないものや臨時に受けるものは報酬の対象にはなりません。また、年3回以下の支給の賞与は、標準賞与額の対象になりますので、こちらも対象にはなりません。
報酬となるもの | 報酬とならないもの | |
---|---|---|
金銭(通貨)で 支給されるもの |
| |
現物で支給 されるもの |
|
|
参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和5年度|日本年金機構
標準報酬月額に含まれるもの
標準報酬月額に含まれるものは、以下の通りです。
金銭で支給されるもの | 現物で支給されるもの |
---|---|
・金額が定まっているもの 基本給・役職手当・家族手当・住宅手当 ・金額が定まっていないもの ・年に4回以上支給されるもの | ・食事・通勤定期券、食券、社宅 |
ただし、標準報酬月額に含まれるとされるものでも、以下の場合は対象外となります。
- 食事:本人が支給額の2/3以上を負担する場合は報酬に含まれない
- 社宅:本人が支給額と同額を負担する場合は報酬に含まれない
標準報酬月額に含まれないもの
以下のものは、標準報酬月額には含まれません。
金銭で支給されるもの | 現物で支給されるもの |
---|---|
・労務の対償として支払われるものではないもの 事業主の判断で支払われる祝い金・見舞金・慶弔金 健康保険から支払われる傷病手当金 労災保険の休業補償給付 ・臨時で支払われるもの ・実費弁償で支払われるもの ・標準賞与額の対象となるもの | ・労働に必要な被服 制服・作業着 ・記念品など |
標準報酬月額の決定・改定のタイミングと手続きは?
標準報酬月額を決定・改定するタイミングは決まっています。それぞれのときに、定められた手続きを行う必要があります。
入社時の「資格取得時決定」
従業員が会社に入社したタイミングで行われる標準報酬月額の決定手続きが「資格取得時決定」です。入社条件として提示された報酬・雇用契約書に記載されている報酬をもとに、標準報酬月額が決定されます。
資格取得時決定で決まった報酬は、その月から社会保険料の計算に用いられます。いつまで用いるかは資格取得時決定が行われた時期によって異なり、1月1日から5月31日までの場合はその年の8月まで、6月1日から12月31日までの場合は翌年の8月まで使用します。9月1日以降は、次に説明する定時決定で決まった標準報酬月額を使用して、社会保険料を計算します。
年1回の「定時決定」
毎年4月から6月までの3ヶ月の給料をもとに行う標準報酬月額決定手続きが「定時決定」です。7月1日時点で在籍している従業員を対象に行う手続きで、それまで使用していた標準報酬月額から新しい標準報酬月額に変更するために行います。4月から6月までの3ヶ月分の報酬の合計額を3で割り、算出された数値を標準報酬月額表に当てはめ、該当するものが新しい標準報酬月額になります。
4月から6月までの3ヶ月については、それぞれの月で17日以上の報酬支払基礎日数がなければ、定時決定は行われません。その場合は定時決定による新たな標準報酬月額決定は行わず、これまでの標準報酬月額を使用することになります。定時決定で決定した新しい標準報酬月額はその年の9月から、翌年の8月まで使用します。
固定報酬変更時の「随時改定」
定時決定以外の時期に、大幅な報酬額の変動があった場合に行われる標準報酬月額決定の手続きが「随時改定」です。随時改定は、以下の3つの条件すべてに該当する場合に行われます。
- 賃金の固定的部分に変動があったこと
- 変動した月から3カ月分から求めた標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額に2等級以上の変動があった
- 変動があった3カ月の各月の報酬支払基礎日数が、いずれも17日以上ある
6月までに随時改定によって変更された標準報酬月額は、8月(随時改定が7月から12月までの間に行われた場合は翌年8月)まで使用します。
産休終了時の「産前産後休業終了時改定」
産前産後休業後に復職した従業員は、以前のようには働けないことが多いものの、報酬が下がっても各月の報酬支払基礎日数が17日以上ないことから標準報酬月額は変更されません。
産前産後休業から復職した従業員を対象に行う標準報酬月額決定の手続きが「産前産後休業終了時改定」です。
実際の報酬額と標準報酬月額が大きく相違し、社会保険料の負担を軽減する必要があることから設けられている制度です。
産前産後休業終了時報酬月額変更届を提出することによって、対象となることができます。給付終了日の翌日が属する月以降の3ヶ月の報酬にもとづいて、標準報酬月額が変更され、4ヶ月目から新しい標準報酬月額を使用します。
育休終了時の「育児休業終了時改定」
育児休業から復職した従業員を対象に行う標準報酬月額決定の手続きが「育児休業終了時改定」です。産前産後休業終了時改定と同じ理由で設けられ、適用を受ける際は育児休業終了時報酬月額変更届を提出します。給付終了日の翌日が属する月以降の3ヶ月の報酬にもとづいて、標準報酬月額が変更され、4ヶ月目から新しい標準報酬月額を使用します。
標準報酬月額にもとづく社会保険料の計算方法は?
社会保険料は、標準報酬月額を用いて、健康保険料・厚生年金保険料をそれぞれ計算します。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、標準報酬月額に厚生年金保険料率をかけて計算します。
2024年(令和6年)の厚生年金保険料率は、183/1000です。全国一律で、都道府県による違いはありません。また厚生年金保険料は、従業員と会社が保険料を1/2ずつ負担するため、従業員と会社がそれぞれ支払う厚生年金保険料の計算式は、次のようになります。
- 従業員が負担する厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 183/1000 × 1/2
- 会社が負担する厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 183/1000 ×1/2
たとえば標準報酬月額が30万円の場合、従業員と会社が負担する厚生年金保険料は、それぞれ27,450円(30万円×183/1000×1/2)です。
健康保険料の計算方法
健康保険料は標準報酬月額に健康保険料率をかけて計算します。
全国健康保険協会の健康保険料率は、都道府県によって違い、東京都の場合は10.00%です。厚生年金保険料と同じように従業員と会社が折半して1/2ずつ負担するため、従業員と会社がそれぞれ支払う健康保険料の計算式は、次のようになります。
- 従業員が負担する健康保険料 = 標準報酬月額 × 10.00% × 1/2(東京都の場合)
- 会社が負担する健康保険料 = 標準報酬月額 × 10.00% × 1/2(東京都の場合)
たとえば、標準報酬月額が30万円の場合、従業員と会社が負担する健康保険料は、それぞれ15,000円(30万円×10.00%×1/2)です。
標準報酬月額の手続きを間違えた場合
標準報酬月額は1年間用いる数字のため、計算を間違えてしまうと1年間の社会保険料が正しく算出されないことになります。また、標準報酬月額を正しく算出しても、控除や給与計算の際にミスが生じるかもしれません。
標準報酬月額の計算や手続きを間違えたときは、次の方法で対処しましょう。
- 翌月の給与計算時に清算する
- 当月に現金で清算する
- 会社が負担する
間違えて多く控除したときはその分、翌月の控除額を減らし、反対に少なく控除したときは翌月の控除額に上乗せします。この場合、必ず「健康保険料」の項目で調整してください。異なる項目で調整すると所得税額が誤って算出される可能性があります。
早くミスを解消したいときは、当月中に現金で清算することも可能です。間違えて多く控除したときは現金で従業員に返還し、反対に少なく控除したときは従業員から追加徴収します。ただし、現金で返還・徴収するだけでなく、当月の社会保険料の項目も修正しておきましょう。修正を怠ると、年間の社会保険料控除額が正しく計算できません。
控除額が少なかったときは、会社でその分を負担する方法も検討できます。この場合は、会社が負担した金額を「現物給与」として所得税の課税対象としなくてはいけません。反対に控除額が多かったときは、会社が差額を受け取るのではなく、従業員に返還するか翌月の控除額で調整してください。
標準報酬月額の手続き漏れがないように注意しましょう
標準報酬月額の手続きを間違えると、社会保険料の控除額が変わってしまい、社員の生活に大きな影響が出ます。そのようなことが起きないように、標準報酬月額の対象になる報酬について復習したうえで、標準報酬月額を決定するタイミングを理解し、手続きの漏れがないように注意しながら運用していきましょう。
よくある質問
標準報酬月額とは?
健康保険料と厚生年金保険料を計算する際に用いる額で、健康保険は第1等級から第50等級まで、厚生年金保険は第1等級から第32等級まであります。詳しくはこちらをご覧ください。
標準報酬月額の決定・改定のタイミングは?
資格取得時・年に1回(定時)・大幅な報酬変動時・産前産後休業終了時・育児休業終了時が標準報酬月額決定・改定のタイミングです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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