- 更新日 : 2024年11月1日
有給休暇は時効で消える?有効期限や繰越の仕組みを解説
有給休暇は労働者が心身をリフレッシュさせ、万全の状態で業務に臨むためにも重要な制度です。しかし、取得しなかった有給休暇は一定の期間で消滅してしまいます。
有給休暇について、正しく理解していないと、思わぬトラブルを招いてしまいかねません。当記事の解説を通し、有給休暇の消滅について正しく理解してください。
目次
有給休暇は時効を迎えると消滅する
年次有給休暇(以下、有給休暇)には、消滅するまでの期間である時効が定められています。その期間と起算日について解説します。
有給休暇の有効期限は2年
有給休暇は、労働基準法第39条に定められた法定の休暇制度です。6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、請求などを待つことなく、当然に原則10日の有給休暇が付与されます。
しかし、付与された有給休暇は、いつまでも保有できるわけではありません。付与されてから2年間のうちに取得しなければ、その有給休暇は時効により消滅してしまいます。
時効の起算日は有給休暇の付与日
時効の計算を始める日を「起算日」と呼び、有給休暇の時効は、労働者に有給休暇が付与された日から進行します。そのため、有給休暇の時効の起算日は、付与日となります。
たとえば、2024年4月1日に入社した労働者であれば、2024年10月1日に10日の有給休暇が付与されます。この場合には、2024年10月1日を起算日として、時効が進行することになり、付与された有給休暇は、2年後である2026年10月1日に消滅することになります。つまり、2026年9月30日までに有給休暇を取得する必要があるわけです。
有給休暇は、入社から6か月を待つことなく、前倒しで付与することも可能です。企業によっては、入社日に付与しているようなケースも見られます。ただし、後ろ倒しにすることは、労働者の不利益となるため、認められません。
有給休暇関連の未払いトラブルの請求期限は5年
有給休暇は、有給の文字が示す通り、賃金が支払われる休暇です。しかし、何らかの理由によって支払われるべき有給休暇中の賃金が支払われないこともあり得ます。このような場合には、未払いの賃金を請求することになりますが、その期限は5年間です。労働基準法第115条により、賃金請求権の時効が5年と定められているためです。
民法の改正を受けて、2020年4月より、それまで2年間であった賃金請求権の時効が5年間に延長されました。しかし、賃金台帳等の記録保存の関係上、準備に時間を要するため、当分の間は3年間となっています。
消滅時効を迎えた有給休暇は買い取り可能?
消滅時効を迎えてしまった有給休暇は、そのまま消滅し、買い取りなどを行うことは原則として認められません。しかし、場合によっては企業による有給休暇の買い取りが認められます。
買い取りが認められるひとつ目のケースは、企業が法定日数以上の有給休暇を付与している場合です。労働基準法で定められた有給休暇の日数は最低のものであり、より多くの日数を付与することは、何ら労働者の不利益とはならないため認められています。たとえば、入社半年後に法定の10日ではなく、15日を付与するような場合です。このような場合には、法定分を上回る5日については企業が買い取っても問題ないとされます。
買い取りが認められる2つ目のケースは、時効が完成した有給休暇を買い取る場合です。時効を迎え、本来であれば消滅することになる有給休暇を買い取ったとしても、労働者にとって何ら不利益にならず、むしろ利益となることが理由です。
3つ目のケースは、退職後における有給休暇の買い取りです。有給休暇は、労働者の権利であるため、退職後に取得することはできません。そのため、退職時に消化し切れなかった有給休暇を企業が買い取ったとしても、何ら退職者にとって不利益とはなりません。
上記のようなケースでは、有給休暇の買い取りが認められます。ただし、従業員からの買い取り請求に企業が応じる義務はありません。
消滅する有給休暇の取り扱いで違法になるケース
有給休暇の取り扱いを誤ると違法となる場合もあります。違法となるケースを把握したうえで、法に則った取り扱いを心掛けましょう。
企業が同意なしに出勤日を調整するなどして消化する
有給休暇には、労働者が保有する有給休暇の5日を超える部分について、労使協定で定めた時季に与えることが可能となる「計画的付与」と呼ばれる制度が存在します。この計画的付与など一部の例外を除いて、有給休暇は労働者が指定する時季に取得させなければなりません。有給休暇を取得するか否かは、労働者の自由意思に委ねられているわけです。労働者の同意を得ることなく、企業があらかじめ指定した日に有給休暇を取得させるような取り扱いは認められません。
企業が有給休暇の時効を短縮する
有給休暇の時効である2年間は、労働基準法第115条で定められた法定の期間です。そのため、企業がこの期間を短縮するような取り扱いは認められません。仮に就業規則等に「年次有給休暇は、権利の行使が可能な日から1年間で消滅する」といった規定を置いているような場合であっても同様です。ただし、認められないのは短縮する場合であって、法定よりも長い期間有給休暇の保有を認めることは、労働者の不利益とならないため、認められます。
有給休暇の消化が義務化
有給休暇が付与されても、業務の繁忙などによって消化がままならないことも珍しくありませんでした。そのような事情を背景に、働き方改革の一環として、2019年4月から年間5日の有給休暇の消化が義務付けられています。
有給休暇の付与日数は、勤続年数によって異なりますが、年5日の消化義務の対象となるのは、年に10日以上付与される労働者です。フルタイム雇用の正社員であれば、入社後半年で対象となります。パートやアルバイトも、条件を満たせば消化義務の対象です。また、労働時間や休憩、休日の規定が適用されない管理監督者であっても、有給休暇の規定が適用されるため、消化義務の対象となります。
消化義務の対象となる5日には、労働者が自ら取得した有給休暇の日数分も含まれます。そのため、すでに労働者自らが時季を指定して3日の有給休暇を取得している場合であれば、企業は2日を取得させればよいことになります。また、先述の計画的付与によって、取得した日数分も同様の扱いです。
消化させなければならないのは、基準日(年10日以上の有給休暇を付与した日)から1年間です。通常であれば入社から6か月経過した日が基準日となりますが、前倒しで付与している場合には、その日が基準日となることに注意してください。つまり、4月1日入社であれば、通常10月1日が基準日ですが、入社日である4月1日に前倒しで付与した場合には、4月1日が基準日となります。中途入社が多い企業は、基準日が労働者ごとに異なっている場合も多いため、しっかりと基準日を把握しておきましょう。
年5日の消化義務に違反した場合には、労働基準法第39条第7項違反となり、同法第120条によって30万円以下の罰金が科せられます。消化させなかった労働者ひとりにつき罰金が科せられるため、雇用する労働者数によっては莫大な額となってしまいます。
年次有給休暇申請書のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
有給休暇の繰越
有給休暇には、2年間の消滅時効が存在するため、付与された年に取得しなくても、翌年に繰り越すことが可能です。具体的に繰越可能な日数と、最大保有日数を見ていきましょう。
繰越可能な日数と最大保有日数
原則としての有給休暇の付与日数は、以下のとおりです。
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
1年間の付与日数は、6年半以上継続勤務している労働者の20日が最大です。これを一切消化せず、丸々翌年に繰り越せば、翌年に付与される20日と合わせて40日保有できることになります。しかし、前述の通り、年に10日以上有給休暇が付与される労働者には、5日の消化義務が存在します。そのため、実際に繰り越せる最大の日数は15日となり、それと翌年付与分の20日を合わせた35日が、保有できる有給休暇の最大日数です。
35日を超えて保有が許されるのは、企業が法定以上の日数を付与している場合に限られます。もし、そうではないにも関わらず、35日を超えて保有する労働者が存在しているのであれば、前述の消化義務違反として罰則対象となるため、注意が必要です。
パートやアルバイトも繰越可能
パートやアルバイトも6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤するという要件を満たせば有給休暇が付与されます。しかし、パートやアルバイトは、フルタイムの正社員と比べて、所定労働日数が少ない場合も多いしょう。そのような所定労働日数の少ない労働者で、以下の条件に該当する場合(週所定労働時間30時間以上の者を除く)には、「比例付与」と呼ばれる制度の対象となります。
- 1週間における所定労働日数が、4日以下
- 週以外の期間で、所定労働日数が定められている場合にあっては、年間所定労働日数216日以下
比例付与の日数は、所定労働日数に応じて変動します。具体的な日数は、以下のとおりです。
所定労働日数 | 勤続年数 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
週 | 1年間 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 | |
4日 | 169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | |
3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
ここで注意したいのは、比例付与の対象となるパートやアルバイトも消化義務の対象となり得る点です。上記表で10日以上となっている労働者が、消化義務の対象労働者となるため、注意してください。
消滅時効については、パートやアルバイトであっても変わりはありません。そのため、繰り越せる最大の日数は、週4勤務で6年半以上勤務した場合の10日(15日-消化義務5日)となり、最大保有日数は繰り越した10日と新規付与15日を合わせた25日です。
繰越した有給と新規付与された有給の消化の順番
有給休暇を全て消化せず繰り越した場合には、繰り越した有給休暇と、その年において新たに付与された有給休暇の2つの有給休暇を保有することになります。このような場合に、いずれの有給休暇から消化すべきであるかを法は定めていません。そのため、いずれから消化することも自由です。
通常は、先に消滅する繰り越し分から消化すると定めている企業がほとんどです。しかし、就業規則等に「年次有給休暇は、新規に付与された日数から取得するものとする」などの規定を置いている場合もあります。就業規則等における消化の順番について、確認しておきましょう。
有給休暇の消滅について理解しトラブルの防止を
有給休暇は、労働者が心身をリフレッシュさせるためにも重要な制度です。しかし、多くの企業では、付与された全ての有給休暇を消化できていないでしょう。そのような場合には翌年に繰り越すことになりますが、いずれは時効によって消滅します。
消滅自体はやむを得ないことだとしても、違法に消滅させたり、意に反して取得させたりするようなことがあってはなりません。消化義務の違反には、罰則も予定されているため、各労働者の基準日や保有日数を正確に把握し、違反のないようにしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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