• 作成日 : 2022年8月26日

遺族年金とは?遺族厚生年金の要件や対象者などを解説

遺族年金とは?遺族厚生年金の要件や対象者などを解説

遺族年金とは、国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなった際に被保険者によって生計を維持されていた遺族が受け取ることができる年金です。国民年金の被保険者が亡くなった場合は「遺族基礎年金」を受給できます。厚生年金への加入期間もある場合は、あわせて「遺族厚生年金」の受給も可能です。この記事では遺族年金の概要をご紹介します。

遺族年金とは

遺族年金は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」からなり、国民年金・厚生年金の被保険者が死亡した際に遺族が受け取れる年金です。死亡した被保険者に生計を維持されていた親族が受給対象者で、以下の生計維持要件を満たしている必要があります。

  • 同居している、もしくは別居していても仕送りなど受けていること。
  • 前年の収入が850万円未満であること、または所得が655万5千円未満であること。

国民年金に加入していた被保険者が亡くなった場合は遺族基礎年金が支給され、会社員や公務員など厚生年金に加入していた被保険者が亡くなった場合は遺族厚生年金が追加支給されます。なお、遺族基礎年金・遺族厚生年金は非課税所得であるため、年末調整確定申告は不要です。一方、老齢基礎年金・老齢厚生年金は課税所得に該当するため注意しましょう。遺族年金と所得税との関係は下記の記事で詳しく解説しています。


ここからは、遺族基礎年金と遺族厚生年金に分けて詳しくご紹介します。

参考:さ行 生計維持|日本年金機構

遺族厚生年金

遺族厚生年金とは、厚生年金の被保険者が亡くなった際に、被保険者によって生計を維持されていた親族が受け取ることができる遺族年金です。死亡した被保険者が下記のいずれかの要件を満たしている場合、遺族に遺族厚生年金が支給されます。

  1. 厚生年金の被保険者である間に死亡したとき
  2. 被保険者期間に初診日のある傷病が原因で死亡したとき(初診日から5年以内)
  3. 1・2級の障害厚生・共済年金を受けとっている方が死亡したとき
  4. 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
  5. 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき

1および2については、死亡日の前日までに保険料免除期間を含む保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上であることが要件です。ただし、令和8年3月末日までに65歳未満で死亡し、死亡日の前日時点で、死亡月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ受給要件を満たします。

4および5については、保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間を合算した期間が、25年以上あることが受給要件です。なお、「合算対象期間」とは、海外在住などで国民年金への加入が任意である期間において、被保険者にならなかった20歳以上60歳未満の期間を意味します。「カラ期間」とも呼ばれ、受給資格期間には算入されますが年金額には反映されません。

1~3の要件を「短期要件」、4・5の要件を「長期要件」と呼ぶこともあり、それぞれ受給できる年金額が異なります。遺族厚生年金を請求する際には「短期要件」「長期要件」「年金額が高い方の計算方法での決定を希望する」から選択することになり、何も選択しないと短期要件として扱われるため注意しましょう。

参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

参考:年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)様式第105号|日本年金機構

遺族基礎年金

遺族基礎年金とは、国民年金の被保険者が亡くなった際に、被保険者によって生計を維持されていた配偶者や子供が受け取ることができる遺族年金です。死亡した被保険者が下記のいずれかの要件を満たしている場合、配偶者や子供に遺族基礎年金が支給されます。

  1. 国民年金の被保険者である間に死亡したとき
  2. 60歳以上65歳未満の被保険者で、日本国内在住の人が死亡したとき
  3. 老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
  4. 老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき

1および2については、死亡日の前日までに保険料免除期間を含む保険料納付済期間が、国民年金加入期間の3分の2以上であることが要件です。ただし、令和8年3月末日までに65歳未満で死亡し、死亡日の前日時点で、死亡月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ受給要件を満たします。
3および4については、保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間を合算した期間が、25年以上あることが受給要件です。

遺族基礎年金の受給対象者には、死亡した被保険者に生計を維持されていた子のある配偶者や子供が該当します。

優先順位1位子のある配偶者
優先順位2位子(18歳になる年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1・2級の人)※

※ 子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間や、生計を共にする父または母がいる間は、子には遺族基礎年金は支給されません。

参考:遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

遺族厚生年金を受給できるのは?

遺族厚生年金は、死亡した被保険者によって生計を維持されていた親族で、最も優先順位の高い人が受け取ることが可能です。優先順位ごとにご紹介します。

優先順位1位子のある妻
子のある55歳以上の夫(被保険者の死亡当時に55歳以上である人に限る)※1
子(18歳になる年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1・2級の人)※2
優先順位2位子のない妻(子のない30歳未満の妻は5年間のみ受給可能)
子のない55歳以上の夫(被保険者の死亡当時に55歳以上である人に限る)※1
優先順位3位父母(被保険者の死亡当時に55歳以上である人に限る)※1
優先順位4位孫(18歳になる年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1・2級の人)
優先順位5位祖父母(被保険者の死亡当時に55歳以上である人に限る)※1

※1 受給開始は60歳からです。ただし、夫に関しては遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間も遺族厚生年金を受給できます。

※2 「子のある妻」または「子のある55歳以上の夫」が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されません。

受給要件を満たした場合、配偶者や子供は遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金も受給可能です。一方、父母・孫・祖父母には遺族基礎年金の受給資格はなく、遺族厚生年金のみが支給されるため注意しましょう。

参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

遺族年金の支給金額

遺族基礎年金の年金支給額は一律です。一方、基礎厚生年金の支給額は厚生年金への加入期間や過去の報酬額などを基に算定されます。ここでは、遺族厚生年金と遺族基礎年金の計算方法を解説します。

遺族厚生年金の計算方法

冒頭でご紹介した通り、遺族厚生年金は厚生年金への加入期間や、過去の報酬額に基づいて算出されます。老齢厚生年金や障害厚生年金は「定額部分」と「報酬比例部分」に分けて算定されるのですが、遺族厚生年金は「報酬比例部分の4分の3」が年金支給額です。

報酬比例部分は「平均標準報酬月額」、もしくは「平均標準報酬額」に「給付乗率」と「加入期間」を乗じて算出されます。

なお、平均標準報酬月額とは、年金保険料の算定基礎である「標準報酬月額」の総額を加入期間で除した値です。平均標準報酬額は標準報酬月額に「標準賞与額」を加えた総額を加入期間で除した値となります。以前は、年金保険料は毎月の給与によってのみ算出されていましたが、平成12年の厚生年金保険法の改正によって「総報酬制」が導入されました。平成15年4月の施行以降は、毎月の給与に賞与を加えた額を基に年金保険料が算出されています。

給付乗率とは、年金制度の改定に伴う経過措置として設けられた値です。生年月日ごとに決められていますが、遺族厚生年金の短期要件では定率となっています。長期要件では生年月日に応じて読み替えられることがあり、昭和21年4月1日以前生まれの被保険者については異なる給付乗率が適用されるので注意しましょう。

加入期間の月数については、短期要件の場合は一律300ヶ月(25年)です。長期要件の場合は、実際の加入月数がそのまま「加入期間の月数」となります。

報酬比例部分 = 1 + 2

  1. 総報酬制導入前(平成15年3月以前の加入期間)
    平均標準報酬月額 × 7.125 / 1000 × 平成15年3月以前の加入期間の月数
  2. 総報酬制導入後(平成15年4月以降の加入期間)
    平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数

計算にあたっては、過去の平均標準報酬月額・平均標準報酬額には、最近の賃金水準や物価水準を反映するために定められた「再評価率」が乗じられます。
さらに、平成12年の法改正によって年金受給額が減少するのを防ぐために、平成6年の水準で標準報酬を再評価する「従前額保障」という制度が設けられました。上記の計算式で算出された「本来水準の額」が「従前額」より低い場合は従前額が報酬比例部分の額となります。

報酬比例部分(従前額) = 1 + 2 × 従前額改定率

  1. 総報酬制導入前(平成15年3月以前の加入期間)
    平均標準報酬月額 × 7.5 / 1000 × 平成15年3月以前の加入期間の月数
  2. 総報酬制導入後(平成15年4月以降の加入期間)
    平均標準報酬額 × 5.769 / 1000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数

従前額改定率とは、物価変動率の基づく「既裁定者の改定率」によって毎年改定される値です。物価の変動を反映した値と言えます。

遺族厚生年金の受給額は、報酬比例部分(本来水準の額)もしくは報酬比例部分(従前額)の4分の3です。

遺族厚生年金額 = 報酬比例部分 × 3 / 4

参考:は行 報酬比例部分|日本年金機構
参考:年金額の計算に用いる数値|日本年金機構

遺族基礎年金の計算方法

遺族厚生年金が過去の報酬額に応じて受給額が決まるのに対し、遺族基礎年金は定額です。受給対象者である「子のある配偶者」と「子」に分けて受給額をご紹介します。

  • 子のある配偶者が受給する場合
  • 子のある配偶者の遺族基礎年金受給額は、基本額に子の加算額を加えた額です。

    子の人数基本額子の加算額合計額
    1人777,800円223,800円1,001,600円
    2人447,600円1,225,400円
    3人522,200円1,300,000円

    令和4年4月時点での金額です。なお、子の人数が4人以上の場合は、1人につき各74,600円加算されます。

  • 子が受給する場合
  • 受給権を持つ子が1人の場合は、基本額が子の遺族基礎年金受給額となります。受給権を持つ子が複数いる場合は、子の加算額を加えて受給権のある子の人数で割った額が、1人当たりの遺族基礎年金受給額です。

    子の人数基本額子の加算額合計額1人当たりの額
    1人777,800円0円777,800円777,800円
    2人223,800円1,001,600円500,800円
    3人298,400円1,076,200円358,733円

    令和4年4月時点での金額です。なお、子の人数が4人以上の場合は、1人につき各74,600円加算されます。

参考:遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

遺族厚生年金が加算される場合

特定の要件を満たした妻が遺族厚生年金を受給する場合、一定額の加算を受けることが可能です。被保険者が死亡した際に40歳以上65歳未満で、一定の要件を満たした妻などが受けられる「中高齢寡婦加算」と、65歳以上で一定の要件を満たした妻などが受けられる「経過的寡婦加算」の2種類に分けられます。

中高齢寡婦加算

中高齢寡婦加算は、下記のいずれかに該当する妻が遺族厚生年金を受給する場合、40歳から65歳になるまでの間、年額583,400円が加算される制度です。ただし、老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしている夫が死亡した際は、被保険者期間が20年以上の場合に限ります。

  1. 被保険者死亡時に40歳以上65歳未満で、同一生計の子(※)がいない妻
  2. 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子(※)のある妻が、子が18歳に達する年度の3月31日に到達した等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき

※ 「子」とは、18歳になる年度の3月31日を経過していない、または20歳未満で障害等級1・2級の人を指します。

参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

経過的寡婦加算

経過的寡婦加算は、以下のいずれかに該当する65歳以上の妻が受けることができる加算制度です。ただし、老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしている夫が死亡した際は、被保険者期間が20年以上の場合に限ります。加算額は、昭和61年4月1日から60歳になるまで国民年金に加入した場合の老齢基礎年金と合わせると、中高齢寡婦加算と同額になるように定められています。

  1. 昭和31年4月1日以前生まれの妻に65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生したとき
  2. 中高齢寡婦加算がされていた昭和31年4月1日以前生まれの遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳に達したとき

なお、自身も老齢厚生年金の受給権を有する場合は、老齢厚生年金は全額支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金を差し引いた額のみが支給されるため注意しましょう。

参考:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

遺族厚生年金を受給するための手続き

遺族厚生年金・遺族基礎年金を受給するには請求手続きが必要です。遺族基礎年金のみを請求する場合は市区町村に、合わせて遺族厚生年金も請求する場合は所管の年金事務所に下記の書類を提出しましょう。

  • 年金請求書(国民年金遺族基礎年金または国民年金・厚生年金保険遺族給付)
  • 基礎年金番号が確認できる書類(基礎年金番号通知書または年金手帳)
  • 戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し
  • 世帯全員の住民票の写し(※)
  • 死亡者の住民票の除票
  • 請求者の収入が確認できる書類(所得証明書、課税・非課税証明書、源泉徴収票など)(※)
  • 子の収入が確認できる書類(※)
  • 市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書
  • 受取先金融機関の通帳等(受給対象者本人名義)

※ マイナンバーを記載することで省略可能です。

参考:遺族基礎年金を受けられるとき|日本年金機構
参考:遺族厚生年金を受けられるとき|日本年金機構

遺族厚生年金の注意点

結婚・離縁・養子縁組などの特定の事由に該当する場合、遺族厚生年金の受給権が失効してしまうため注意しましょう。失権するのは受給権者本人が下記のいずれかの事由に該当するときです。

受給権者失権事由
妻・夫・子・父母・孫・祖父母・亡くなったとき
・結婚したとき(内縁関係を含む)
・直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき
・夫が亡くなった当時30歳未満の「子のない妻」が、遺族厚生年金を受け取る権利を得てから5年が経過したとき
・遺族基礎年金、遺族厚生年金を受け取っていた妻が、30歳に到達する前に遺族基礎年金を受け取る権利がなくなり、権利失効から5年が経過したとき
子・父母・亡くなった方と離縁したとき
孫・祖父母・離縁によって亡くなった方との親族関係が終了したとき
子・孫・18歳になった年度の3月31日に到達したとき。ただし、障害等級1・2級に該当するときは、20歳に到達したとき
子・孫・18歳になった年度の3月31日を経過した後、20歳未満で障害等級1・2級に該当しなくなったとき
父母・孫・祖父母・亡くなった方の死亡当時胎児であった子が生まれたとき

遺族厚生年金の受給権が失効した場合は、該当日から10日以内に「遺族年金失権届」を所管の年金事務所に提出しなければなりません。

参考:遺族年金を受けている方が結婚や養子縁組などをしたとき|日本年金機構

遺族厚生年金の受給要件や対象者を把握し万が一の事態に備えよう

遺族年金制度についてご紹介しました。遺族基礎年金は、亡くなった被保険者によって生計を維持されていた子のある配偶者や子供を対象とした遺族年金です。

一方、遺族厚生年金は一定の条件を満たした同一生計の親族も受給することができます。年金支給額については、遺族基礎年金は定額ですが、遺族厚生年金は年金加入期間や過去の報酬額などが算定基礎です。さらに、特定の条件を満たした妻は中高齢寡婦加算や経過的寡婦加算を受けることもできます。遺族年金の受給要件や受給対象者は複雑なので、当記事を参考に理解を深め万が一の事態に備えましょう。

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よくある質問

遺族厚生年金とはなんですか?

厚生年金に加入していた被保険者が亡くなった場合、一定の条件を満たした同一生計の親族が受け取ることができる年金です。配偶者や子供は条件を満たせば遺族基礎年金と合わせて受給することができます。詳しくはこちらをご覧ください。

遺族年金の受給権者は誰ですか?

遺族基礎年金の受給権者は、被保険者によって生計を維持されていた子のある配偶者と子供です。遺族厚生年金の受給権者は、一定の条件を満たした同一生計の親族です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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