• 更新日 : 2024年6月14日

ワークシェアリングとは?メリット・デメリット、導入方法を解説

働くといえば、フルタイムの正社員をイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし、近年は短時間正社員や地域限定正社員など多様かつ柔軟な働き方が広がっています。

当記事では、近年注目を集めるワークシェアリングについて解説します。メリットやデメリットをはじめ、成功事例なども紹介するため、ぜひ参考にしてください。

ワークシェアリングとは?

「ワークシェアリング」とは、仕事を労働者同士で分け合う制度です。仕事(ワーク)を共有(シェア)することから、このように呼ばれています。

ワークシェアリングは、社会全体における労働者の総数を増やすことを目的としています。ワークシェアリングの導入によって、労働者ひとり当たりの労働時間が減少する代わりに、労働者の総数を増やすことが可能です。

たとえば、ワークシェアリングでは8時間の労働時間をひとりで担当するのではなく、4時間ずつ2人で担当することになります。労働時間を分割することで、それまでよりも多くの労働者の雇用が可能となるでしょう。

ワークシェアリングが注目されている背景

ワークシェアリングは、1970年から1980年代にかけて欧州圏で発生した不況により、注目を集めることになりました。不況期には、人件費を削減するために人員整理が必要になります。しかし、ワークシェアリングにより労働時間を短縮すれば、雇用が維持できるだけでなく、新たな雇用の創出も可能となります。不況期における失業対策として、ワークシェアリングが導入されることになったわけです。

日本において、ワークシェアリングが注目されている背景には、価値観の多様化が挙げられます。ワークシェアリングを導入すれば、雇用を維持しつつ多様な就業形態に対応可能です。短時間の勤務であれば、育児や介護と仕事の両立も図りやすくなるため、従業員のライフステージに応じた働き方の有力な選択肢となります。

価値観の多様化だけでなく、少子高齢化の進展による生産年齢人口の減少も、注目の背景として挙げられます。ワークシェアリングであれば、定年後の高齢者やブランクのある方であっても働きやすくなります。多様な人材を活用できるようになるため、労働力不足の解決にもつながるでしょう。

ワークシェアリングの種類

ワークシェアリングは、雇用を労働者同士で分け合う制度ですが、目的によっていくつかの種類に分けられています。種類ごとの目的を解説します。

雇用維持型(緊急避難型)

「雇用維持型(緊急避難型)」は、企業業績が悪化した場合の整理解雇などを回避するために行われるワークシェアリングです。労働時間の短縮によって、解雇することなく人件費の削減が可能となり、労働者の雇用維持につながります。

業績悪化に見舞われた企業では、人材の流出が問題となりがちです。しかし、雇用維持型のワークシェアリングを行えば、人材の流出を防ぐことが可能となり、経営再建も容易になります。

雇用維持型(中高年対策型)

「雇用維持型(中高年対策型)」は、中高年労働者の雇用維持や雇用創出を目的として行われるワークシェアリングです。なお、ここでいう高年齢労働者とは定年以上の労働者をイメージしてください。

中高年になれば、体力も低下し、フルタイムの労働に耐えられる人材ばかりではありません。そのような場合に、短時間勤務や少ない日数での勤務を提示することで、定年を迎えた中高年労働者が活躍しやすい環境を提供します。

雇用創出型

「雇用創出型」のワークシェアリングは、より多くの労働者を雇用するために行われます。現在企業に雇用される労働者の労働時間短縮によって、新規の労働者を雇用することが目的です。

求人倍率が低い場合には、求職者の数が多くなり、なかなか仕事を見つけることができません。そのような場合に、雇用創出型ワークシェアリングが行われます。失業対策に特化したワークシェアリングだといえるでしょう。

多様就業対応型

近年は、政府が進める働き方改革を背景に多様な働き方の実現が求められています。「多様就業対応型」は、そのような多様な働き方の実現に資するワークシェアリングです。

フルタイム勤務では、育児や介護などと仕事の両立を図ることは困難です。しかし、短時間勤務であれば、両立も図りやすくなるでしょう。多様就業対応型は、労働時間を調整することで、ワークライフバランスの実現につなげるワークシェアリングです。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングには、様々なメリットが存在します。企業と従業員それぞれのメリットを解説します。

企業側のメリット

ワークシェアリングは、ひとつの仕事を複数人で分け合う制度です。ワークシェアリングによって、ひとり当たりの負担が軽減されるため、より仕事に集中できるようになり、生産性が向上します。また、生産性が向上することによって、時間当たりの利益も向上します。そのため、実質的な人件費の削減につながり、コストカットの効果も期待できるでしょう。

ワークシェアリングでは、業務量の調整も容易に行えます。それぞれの事情に応じた業務量に調整することで、人材も集めやすくなります。そのため、急な需要増や緊急事態への対応が必要な場合にもワークシェアリングであれば、迅速な人員配置が可能です。

ワークシェアリングにより、雇用を維持すれば、「あの企業は不況期であっても従業員を守っている」と社会的な評価を受けることが可能です。企業のイメージアップにつながるだけでなく、整理解雇が回避されることで従業員の企業に対するエンゲージメント向上も期待できます。

従業員側のメリット

ワークシェアリングは、従業員にとってもメリットのある制度です。短時間勤務による育児や介護と仕事の両立などは、その代表例となるでしょう。従業員にとって、ワークライフバランスが実現できることは大きなメリットです。

ワークシェアリングでは、労働時間が短縮されるものの雇用自体は維持されます。本来なら失業するような場面でも、仕事を続けることが可能な点は従業員にとってメリットとなります。また、ワークシェアリングのメリットは、現在勤務している従業員だけが享受するわけではありません。ワークシェアリングを行えば、求職者にとっても仕事が得やすくなる効果が期待できるため、求職者にとってもメリットの大きい制度です。

ワークシェアリングのデメリット

ワークシェアリングは、メリットの大きい制度ですが、デメリットも存在します。企業と従業員に分けてデメリットを解説します。

企業側のデメリット

労働時間の短縮を伴うワークシェアリングの導入には、就業規則の改定などが必要となります。また、これまでと労働形態が異なることになるため、給与計算ルールの見直しなどが必要となる場合もあります。制度導入に必要な手間や時間は、決して小さなものではありません。ワークシェアリングは、企業にとって負担が増えることにつながる場合もあります。

ワークシェアリングによって、雇用する従業員数が増加すれば、管理のコストも増加します。社会保険料の負担が増える場合もあり、管理や金銭的なコスト増もデメリットとして挙げられるでしょう。

従業員側のデメリット

従業員にとって、ワークシェアリングは給与の低下につながる制度です。ワークシェアリングにより、ひとり当たりの労働時間は減少するため、どうしても労働時間に対応する給与も低下してしまいます。給与は、生活に直結するため大きなデメリットであるといえます。

従業員にはそれぞれの事情があるため、ワークシェアリングを歓迎する者ばかりではありません。そのため、より多く仕事をこなしたいと考えている従業員にとっては、不満の溜まりやすい制度でもあります。

ワークシェアリングが向いている企業

ワークシェアリングは、仕事を分担することでひとり当たりの業務量を減らし、生産性を向上させる効果が期待できます。しかし、全ての業務がワークシェアリングに向いているわけではありません。

従業員各人の裁量の幅が大きい業務や、積み重ねた経験が重要となる業務などは、ワークシェアリングには向いていないといえます。このような業務には、顧客との関係の積み重ねが重要な営業などが該当します。不向きな業務にワークシェアリングを導入しても、効率が下がるだけでしょう。

一方で、誰が行っても一定のクオリティを維持できる単純作業や、ルーチンワークが主となる製造業などはワークシェアリングが向いているといえます。定型的なデータ入力や、マニュアルに沿った文書の作成が主な業務である企業も、ワークシェアリング導入の効果が期待できます。

ワークシェアリングの導入方法

ワークシェアリングは、段階を踏んで導入することが必要です。各ステップを解説します。

現状把握

ワークシェアリングの導入には、現状の把握が欠かせません。必要となる人員や、コスト、部署単位の負担割合などを把握します。また、この際には現場の意見を聞くことが大切です。

効率化

ワークシェアリング導入前に、現時点で可能な業務効率化を図ることが必要です。この作業により、ワークシェアリング導入後の業務移行がスムーズに進みます。また、余剰となった人員を他の部署に配置することで生産性の向上も期待できます。

シェア可能な業務の洗い出し

自社の業務がワークシェアリングに適しているか確認することが必要です。不向きな業務に導入しても効率を下げるだけのため注意してください。自社のどの業務がワークシェアリング可能か洗い出しましょう。

マニュアルの作成

シェア可能な業務の選定を終えたら、シェアリング用のマニュアルを作成します。指揮系統や共有すべき情報など必要となる事項を記載しましょう。シェアリングによって、これまでと異なる作業手順となる場合もあるため、マニュアルの作成は必須です。

進捗の確認

ワークシェアリングは、導入後の振り返りも重要です。定期的に業務の進捗状況を確認することで、目標の達成や生産性向上の度合いを測れます。負担の大きい従業員がいないか確認することも必要です。

ワークシェアリングの成功事例

ワークシェアリングは、適切に導入すれば大きな効果が得られます。成功事例を紹介するため、導入の参考としてください。

株式会社エー・ピーカンパニー・まいばすけっと株式会社

飲食店を運営する株式会社エー・ピーカンパニーと、スーパーを運営するまいばすけっと株式会社は、2020年4月から「従業員シェア」と呼ばれる制度を導入しました。同制度は、コロナ禍による店舗休業を余儀なくされた企業から、需要拡大で人材が必要になった企業が期間限定で従業員を受け入れるものです。

店舗休業により余剰となったエー・ピーカンパニーの従業員が、まいばすけっとに短期雇用されています。店舗拡大により、人材が必要となったまいばすけっとと、休業により、余剰人員が生まれたエー・ピーカンパニー両社の思惑が合致した形です。従業員シェアにより、雇用を維持しつつ、人手不足も解消できました。

参考:居酒屋からスーパーへ 前例なき“従業員シェア”決断の裏側|Touch! PERSOL

クラスメソッド株式会社

クラスメソッド株式会社は、短時間正社員制度を採用することでワークシェアリングの推進を行っている企業です。同社は結婚や出産、育児を迎える年代と、介護を要する親世代を支える年代の社員によって構成されています。

同社では、ワークシェアリングの活用による働きやすい環境の整備や、継続就業の支援を行っており、今後も介護のために制度利用者が増えると予想しています。また、営業やエンジニアの経験を有する育児退職者が、自社で実力を発揮できるとしており、ワークシェアリングによる多様な人材の活用を図っています。

参考:クラスメソッド株式会社|多様な働き方の実現応援サイト

ワークシェアリングで利用できる助成金

ワークシェアリングにより、一時的な雇用調整を行った場合には、「雇用調整助成金」を利用できる可能性があります。雇用調整助成金は、事業不振などを理由に、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が利用できる助成金です。雇用の維持を目的として行われる休業や、教育訓練、出向などに利用できます。

また、ワークシェアリングに伴って、職業訓練などを行うのであれば、「人材開発支援助成金」が利用できる場合もあります。雇用調整助成金や人材開発支援助成金の詳細は、厚生労働省のホームページを確認してください。

参考:
雇用調整助成金|厚生労働省
人材開発支援助成金|厚生労働省

ワークシェアリングの活用で業務の効率化を

価値観の多様化によって、これまでとは異なる柔軟な働き方へのニーズが高まっています。当記事で紹介したワークシェアリングは、仕事と家庭生活の両立を助ける柔軟な働き方の代表例となります。ぜひ当記事を参考に、自社への導入を検討してください。


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