• 更新日 : 2024年10月25日

地域手当とは?種類や支給率、対象地域の計算例を解説

地域手当は、物価の高い都市部で働く方が生活しやすいように、給与に上乗せされる仕組みです。しかし、適正な地域手当の条件設定や計算方法が不明確で、判断が難しいと感じている人も多いのではないでしょうか。本記事では、地域手当の種類や支給率・対象地域の決定方法などについて、具体的な計算例を交えながら、分かりやすく解説していきます。

地域手当とは?

地域手当とは、勤務地ごとの物価や生活費の格差を是正し、特に物価が高い都市部で勤務する従業員の生活負担を軽減するために支給される手当です。これは主に大企業や従業員数の多い企業で導入されており、全国に支店を持つ企業が、勤務地ごとの生活費の違いを補うことで、従業員のモチベーション維持や人材確保を図る狙いがあります。

特に国家公務員への支給に関しては、人事院による給与構造改革により2006年に制度が段階的に導入されました。一方、民間企業における地域手当の支給は企業ごとの判断に委ねられており、厚生労働省の「令和2年就労条件総合調査の概況」では、地域手当の支給を行っている民間企業は平均で12.2%に留まっているという結果が出ています。このことから、民間企業における導入はまだ限定的で、さらなる普及には課題が残っている状況です。

参考:人事院「給与構造改革の概要」

参考:厚生労働省「令和2年就労条件総合調査の概況」

国家公務員に支給される地域手当の種類

全国各地への転勤が生じる国家公務員は、勤務地の物価によって生活水準が変動するため、水準を一定に保つために地域手当が導入されました。支給される地域手当には4つの種類があり、それぞれの手当は、勤務地や勤務条件に応じて支給額が異なります。ここからは、国家公務員に支給されている4種類の手当について解説していきます。

地域(都市)手当

地域(都市)手当は、勤務地の物価水準に応じて支給される手当です。一般的に、東京や大阪などの大都市圏ほど物価が高いため、支給額も高くなります。特例的に、成田・中部・関西国際空港周辺地域については、空港の所在地となっている市区町村の平均的な物価よりも価格が高くなることから、地域手当の支給対象となります。

広域異動手当

広域異動手当は、勤務する現職場から60km以上離れた職場へ異動した職員に対して支給される手当です。異動に伴う生活環境の変化や、新たな勤務地への適応に要する費用を補填することを目的としており、職員の異動を円滑に進めるために重要な役割を果たしています。支給額は、官署間の距離に応じて算定され、異動日より3年間支給されます。

特地勤務手当

特地勤務手当とは、僻地や離島などの生活環境が著しく困難な地域で勤務する公務員に対して支給される手当のことを指します。特地勤務手当は、交通の便が悪かったり、医療機関や教育施設が不足していたり、気候が厳しかったりするなど、一般的な都市部と比較して生活環境が厳しい場所で勤務する従業員に対して支給される点が特徴です。支給期間は、原則3年間となっており、生活環境が厳しい地域における人材獲得のためのインセンティブとしての役割も果たしています。

寒冷地手当

寒冷地手当は、北海道や東北地方をはじめとする寒冷地で勤務する職員に対して支給される手当です。寒冷地では暖房費や防寒具代など、通常の生活費よりも多くの費用がかかるため、寒冷地手当の支給を通じて勤務を困難にする要因を軽減し、職員の健康維持に貢献することを目的としています。

参考:人事院「国家公務員の諸手当の概要」

地域手当の計算方法、支給例

地域手当をはじめとする各種手当は、人事院が定めたルールによって運用されており、当初は国家公務員を対象とされた各ルールは、現在は地方公務員や民間企業でも活用されています。ここからは、国家公務員を対象とした地域手当を含む4つの手当の支給額の算出方法について解説していきます。

地域(都市)手当

国家公務員の地域手当の支給額は、下記計算方法によって算出されます。

(俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額 × 支給割合

<支給例>

俸給40万円、俸給の特別調整額3万円、専門スタッフ職調整手当2万円・扶養手当1万円の職員が、3級地にて勤務する場合。

(40万+3万+2万+1万)× 15%=6万9,000円

なお、「俸給の特別調整額」は民間企業でいう「役職手当」、「専門スタッフ職調整手当」は政策情報分析官・国際総合研究官という高度な専門知識を扱う職務に従事する職員に対して支給される手当を指します。

また、地域手当算出の際に用いられる「支給割合」は、各市区町村ごとに定められた1〜7の等級ごとに、下記の通りパーセンテージが7段階に設定されています。

級地区分主な支給地域支給割合
1級東京都特別区(23区)20%
2級大阪市、横浜市、調布市、つくば市、豊田市、他16市16%
3級さいたま市、千葉市、八王子市、名古屋市、他20市15%
4級神戸市、豊中市、浦安市、相模原市、他14市12%
5級水戸市、京都市、奈良市、広島市、福岡市、他38市10%
6級仙台市、宇都宮市、静岡市、高松市、他75市15町6%
7級札幌市、新潟市、金沢市、北九州市、他61市4町1村3%

前項でも触れた一部空港周辺地域に対しては、上記等級による支給割合ではなく、下記支給割合が定められています。

  • 成田国際空港区域:16%
  • 中部国際空港区域:12%
  • 関西国際空港区域:12%

参考:厚生労働省「国家公務員の地域手当に係る級地区分 (別紙)」

参考:e-Gov 法令検索「人事院規則九―四九(地域手当)」

参考:人事院「用語の解説」

広域異動手当

国家公務員の広域異動手当の支給額は、下記計算方法によって算出されます。

(俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額 × 支給割合

広域異動手当の算出の際に用いられる支給割合は、下記の通りです。

距離300km以上60km以上300km未満
支給割合10%5%

<支給例>

俸給40万円、俸給の特別調整額3万円、専門スタッフ職調整手当2万円・扶養手当1万円の職員が、官署間の距離が400kmとなる職場での勤務を命じられた場合。

(40万+3万+2万+1万)× 10%=4万6,000円

異動先が地域手当の支給対象地域である場合は、地域手当の支給割合を減らした割合となります。

参考:人事院「国家公務員の諸手当の概要」

特地勤務手当

国家公務員の特地勤務手当の支給額は、下記計算方法によって算出されます。

{特地官署に勤務することとなった日の(俸給+扶養手当)の月額 × 1/2+現に受ける(俸給+扶養手当)の月額 × 1/2}× 支給割合

特地勤務手当の算出の際に用いられる支給割合は、下記の通りです。

級別区分勤務地-例-支給割合
1級知床森林生態系保全センター、東北地方整備局玉川ダム管理所など4%
2級阿寒湖管理官事務所、白山自然保護官事務所など8%
3級種子島税務署、那覇地方法務局石垣支局、八重山財務出張所など12%
4級奄美海上保安部古仁屋海上保安署、八丈島区検察庁など16%
5級鹿児島森林管理署徳之島森林事務所、西表自然保護官事務所など20%
6級南大東島地方気象台、小笠原自然保護官事務所など25%

<支給例>

俸給40万円、扶養手当1万円の職員が、賃金待遇に変更がないまま、5級に該当する地域での勤務する場合。

((40万+1万)× 1/2+(40万+1万)× 1/2 ) × 20%=8万2,000円

広域異動手当と同様に、地域手当を支給される場合は、地域手当を差し引いた額が支給されることになります。

参考: e-Gov 法令検索「人事院規則九―五五(特地勤務手当等)」

寒冷地手当

国家公務員の寒冷地手当の支給額は、下記表に基づき決定されます。

地域区分世帯区分対象地域-例-
世帯主の職員その他の職員
扶養親族あり扶養親族なし
1級地26,380円14,580円10,340円旭川市、網走郡、阿寒郡
2級地23,360円13,060円8,800円札幌市、ニセコ町、宗谷郡
3級地22,540円12,860円8,600円函館市、室蘭市、奥尻郡
4級地17,800円10,200円7,360円秋田市、山形市、盛岡市

参考:|e-Gov 法令検索「国家公務員の寒冷地手当に関する法律 」

地方公務員の地域手当

地方公務員は、働く場所や業務内容によって下記のように種類が分けられ、それぞれの種類によって給与体系や福利厚生が異なり、地域手当の支給においても違いがあります。

一般職:市町村や都道府県の一般事務を行う職員。事務職や技術職など多岐にわたる業務を担当

特別職:首長(市長、知事など)・副首長・教育委員会委員など、選挙で選任されるなどした政治色の強い職種

嘱託職員:期間を定めて雇用される職員。専門的な知識や経験を持つ人が多数

臨時職員: 期間限定で雇用される職員。通常、イベントの補助や事務補助などの短期的な業務を担当

嘱託職員や臨時職員は基本的に現地採用となるため、基本的に地域手当が支給されることはありません。一方特別職に対しては、一般職を同様に地域手当は支給されます。

また、地域手当の支給ルールに関しては、2006年の導入時より、基本的には国家公務員を対象とした運用ルールが地方公務員にも適用されており、支給条件等の見直しに関しても、国家公務員において生じた変更に準ずる形となっています。

民間企業の地域手当

民間企業における地域手当は、法的な義務に基づいて支給されるものではなく、企業独自の制度です。そのため、支給の有無や金額、対象となる地域などは、企業ごとに大きく異なります。導入理由も、人材獲得や従業員のモチベーション向上を目的とした福利厚生としての色味が強く、働きやすい職場環境づくりの一環として導入しているケースが多く見られる傾向です。そのため、公務員に対する地域手当とは複数の点において違いが見られるのです。

項目民間企業公務員
法的根拠法的義務はなし法的に支給義務あり
制度の柔軟性高い比較的低い
透明性低い高い
対象地域企業の裁量で決定法律で定められた地域
支給額企業の裁量で決定法律や条例に基づき決定

2024年の地域手当の見直し

地域手当は、10年ごとに見直しが行われる地域手当ですが、2024年は対象地域の「大くくり化」がなされたことで話題となりました。これに伴い、7段階に定められていた級地区分も変更となりました。主な変更点は以下の通りです。

  • 支給対象地域の単位を「市区町村」から「都道府県」へと広域化。県庁所在地や人口20万以上の中核都市については、個別に級地区分を指定。
  • 7段階で設けられてきた級地区分を5段階へ変更。支給割合も変更(※以下の表を参照)
級地区分1級2級3級4級5級
支給割合20%16%12%8%4%

級地区分と支給割合の変更に際しては、地域手当の支給額が急に減額によって対象従業員の負担が急増しないため、1年につき1%ずつ段階的に引き下げが実施されます。

また、近年の働き方やライフスタイルの多様化や社会情勢の変化が加速化していることを受け、これまで10年に一度としていた見直し期間も短縮する運びとなりました。

参考:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」

地域手当を導入する際の注意点

全国各地に拠点を構える企業にとって、地域手当の導入は一見、従業員満足度向上に大きく貢献する施策のように感じられるでしょう。しかし、地域手当の導入は従業員の不満や反感の要素を含んでいるため、企業は慎重に導入を検討したうえで、制度設計を行う必要があります。

その代表的なリスクとして、同じ業務でも給与格差が生じることが挙げられます。明らかに生活が不便な僻地や離島・寒冷地はさておき、利便性の高い地域での勤務に対しても地域手当が支給されることで、従業員の間では不公平感を募らせる原因となりかねません。また、従業員にとって納得のいかない給与格差は、離職につながることも考えられます。公務員と違い、それぞれの企業が独自に制度設計できるからこそ、労働基準法などの法令遵守はもちろん、公平性・透明性を保った制度設計を行いましょう。

地域手当導入の成功は働きがいのある会社づくりの第一歩

民間企業にとって地域手当の導入は、単なる生活補助ではく、従業員に対し会社への貢献を感謝する方法の一つです。勤務地による物価の差を補填し生活の安定を支えることで、従業員のモチベーションや定着率が高まり、さらには、充実した福利厚生制度が整備された企業として優秀な人材の獲得においても優位性を高められるでしょう。一方、導入にあたっては、対象地域や支給額など、従業員間に不利益や不満が生じないよう慎重な検討が不可欠です。従業員とのコミュニケーションを密にし、納得のいく制度設計を行うことで、より働きがいのある会社へと成長させられるでしょう。


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