• 更新日 : 2022年2月14日

新入社員でもわかる「給与明細の見方」 保険料は何のためにいくら引かれる?

この4月から働き始めた新入社員のみなさんにとって、待ちに待った初任給を受け取る時期が近づいてきました。期待に胸を膨らませながら給与明細を見てみると……総支給額からいろいろと差し引かれた手取り額に落胆するかもしれません。どの項目が、何のために、いくら引かれているのかわからない方もいるでしょう。

今回は、新入社員はもちろんすでに社会人の方もしっかり把握しておきたい「給与明細の控除項目」についてわかりやすく解説します。(執筆者:特定社会保険労務士 黒田英雄)

保険証が貰えるのは健康保険料を払っているから

健康保険の仕組み

まず1つ目の項目は「健康保険料」です。病院やクリニックなどの医療機関で診察を受けるときには、受付でまず保険証を提示します。これまで学生だった方などは、家族の扶養に入っていて保険証もそこから支給されていたと思います。あるいは、市町村で国民健康保険に入っていた方もいるかもしれません。


新入社員の給与明細例(※属性や数値を含め架空の一例です)

家族の扶養に入っている場合、保険料はその家族が払っています。国民健康保険でも、基本的には世帯主が保険料を払っています。つまり、ほとんどの新入社員のみなさんにとっては、はじめての「自分で保険料を払う保険証」になるのです。

健康保険は、収入に応じた保険料を支払うことで、医療を平等に安価に受けることができる仕組みになっています。窓口では実際にかかった医療費の原則3割を負担し、残りの部分は健康保険から医療機関に支払われています。

会社員が加入する健康保険には「組合健保」と「協会けんぽ」があり、それぞれ独自の給付が用意されていることがあります。独自給付は自分で申請しないと受けられないものも多くあるので、まずは加入した健康保険のホームページなどで、どういった給付があるのかを確認しましょう。

保険料はどうやって決まるのか

気になるのは、自分が払う保険料はどう決まっているかですよね。

新入社員の保険料は、入社したときの給与を元に計算されます。健康保険には「標準報酬月額」という保険料を決めるための等級があります。1円単位まで計算していては煩雑なので、給与ごとにざっくりとした枠の中に当てはめ、それぞれの枠(等級)で保険料を決めています。

例えば、東京都の協会けんぽで、大卒の平均初任給206,700円を受け取る場合は17等級となり、保険料は19,800円です(介護保険料は考慮外)。これを本人と会社で折半するため、新入社員の給与から引かれる額は9,900円です。

2年目以降は、昇給で給与が上がることが多いと思います。そこで、毎年4~6月の3カ月間の給与の平均から標準報酬月額を決定して、保険料が改定されていきます。

他にもある健康保険の給付

健康保険に加入していることで受けられる給付は他にもあります。

入院などで医療費が高額になったら、一定額までの支払いに抑える「高額療養費」の制度があります。手術費などの莫大な医療費も、高額療養費制度のおかげで負担を抑えることができます。

また、病気やケガで仕事を休まなければならなくなったときに、要件を満たしていれば「傷病手当金」が支給されます。お休みする前の1年間の給与を元に日額が計算され、大体給与の3分の2の金額が、休みに入って4日目~最長1年6カ月の間支給されます。

他にも出産でお休みしたときに受けられる「出産手当金」、子どもが生まれたときに受けられる「出産育児一時金」、本人や家族が亡くなったときに受けられる「埋葬料」などがあります。

老後のためだけではない厚生年金保険料

「年金なんて払い損」は本当か?

2つ目の項目は「厚生年金保険」です。健康保険料よりも、もっと大きな金額が引かれているでしょう。


新入社員の給与明細例(※属性や数値を含め架空の一例です)

若い世代の方からよく聞かれるのが、「保険料を払っていても年金として戻ってこないのではないか?」という質問です。確かにこれから払っていく保険料の総額と、老後に受け取る年金の総額を比較すると損するといった試算もあります。

そもそも、国民年金や厚生年金のいわゆる公的年金は、積立方式ではありません。今現役世代が払っている保険料は、基本的に今の受給者の年金給付に充てられています。現役世代が払ったものを貯めておいて、その人たちがいずれ受給者になったときに還元するといった制度ではないのです。

じゃあ払わない方がいいのかというと、そんなことはありません。公的な老齢年金の大きなメリットは貰える期間に限度がないことです。つまり、死ぬまで貰えるのです。

また、万が一病気やケガで障がいを抱えてしまった場合に、保険料をしっかりと納めていれば「障害年金」を受けることができます。また、お子さんがいる家庭で配偶者が亡くなってしまったときには、「遺族年金」を受けられる場合があります。

「年金=老後に貰うもの」だけではないことも覚えておくとよいでしょう。

保険料はどうやって決まるのか

考え方は健康保険料と同じですが、厚生年金保険料は等級の数が少ないです。

大卒の平均初任給206,700円だと、厚生年金では14等級となり保険料は36,600円です。これを会社と折半するので、新入社員の給与から引かれる額は18,300円です。

収入が多ければ年金も多くなる

健康保険料と同じ仕組みで、厚生年金保険料も毎年改定されます。給与が増えていけば保険料も上がっていきますが、その分は将来の年金給付にちゃんと反映されます。毎年、誕生月には日本年金機構から「ねんきん定期便」が送られてきて、これまで払った保険料の額と、このままいくと貰える年金の額が記載されています。

残念ながらすぐに廃棄してしまう方も多いようですが、万単位の保険料を払っているわけですから、ぜひじっくり見ていただければと思います。

失業したとき以外にも使える雇用保険料

いわゆる失業保険の仕組み

3つ目は「雇用保険」です。新入社員にとって失業は縁遠いかもしれませんが、額は大きくはないながらもしっかりと引かれています。


新入社員の給与明細例(※属性や数値を含め架空の一例です)

一般的に失業手当と言われるものは、雇用保険では「基本手当」と呼びます。基本手当は、勤続年数や年齢によって給付日数が大きく変わります。長い職業生活の中では何が起こるかわかりませんから、万が一のために毎月の給与から天引きして備えているのです。

仕事を辞めたときには、次の仕事を探すためにハローワークに行って求職の申し込みをします。その新しい仕事を探している間のみ、ハローワークから認定を受けて基本手当が支給されます。仕事を辞めたからといって、自動的に誰にでも支給されるものではありません。

保険料の労働者負担分は、2019年度は給与の1,000分の3~4(業種によって異なる)と決められています。健康保険料と厚生年金保険料は会社は同額を負担していましたが、雇用保険料は会社の方がかなり多めに払っていて、雇用安定事業や能力開発事業に充てられています。

早く再就職すれば貰えるごほうびも

次の仕事がなかなか見つからない方もいるかもしれませんが、中にはすぐに再就職先が決まることもあります。そうすると、基本手当の給付日数がまだまだ残っている状態です。その場合、要件を満たしていれば「再就職手当」を受けることができます。

残っている基本手当の給付日数が多ければ、より多くの再就職手当を受けられる制度になっています。また、再就職手当を受給した人が前職よりも給与が下がってしまった場合は、一定期間仕事を継続すると差額を支給して貰える給付もあります。

もしも仕事を辞めるようなことがあったら、まずはハローワークで相談してみてください。そのための保険料を毎月払っているのです。

在職していても使える教育訓練給付金

雇用保険を活用できるのは仕事を辞めた人だけかというと、そうではありません。在職中の方でも利用できる制度があります。それが「教育訓練給付金」です。

仕事を続けながら資格取得や知識習得を目指す方のために、その勉強の講座の費用を給付として一部還元して貰えます。筆者もサラリーマン時代にこの制度を利用して、社会保険労務士の資格を取得しました。

講座はなんでもいいわけではなく、支給対象になるものが決められています。詳しくは資格学校等にお問い合わせください。受講が終了した証明書をハローワークに提出することで、講座にかかった費用の20%(最大10万円まで)が支給されます。

1年以上雇用保険に加入しているとこの制度を利用できるので、新卒の方は来年度以降から対象になります。さまざまな分野の講座があるので、一度調べてみてはいかがでしょうか。

まとめ

ご紹介してきたように、給与からは税金以外にもさまざまな保険料が引かれています。その額は大きいと感じるかもしれませんが、それぞれが自分の職業生活や日常生活に役立つものだとおわかりいただけたかと思います。

せっかく保険料を払っているので、必要な際にしっかり活用できるよう制度をチェックしておきましょう。


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