• 更新日 : 2024年11月1日

退職一時金制度とは?企業年金・確定拠出年金との違いや支給時期を解説

従業員には、退職給付として、一時金や年金が支給される場合もあります。従業員は、退職に伴い収入を失うことになるため、退職給付は従業員にとって非常に重要です。当記事では、退職一時金制度について、概要やメリット・デメリット、税金の取扱いなどの解説をします。興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。

退職一時金制度とは

「退職一時金」とは、退職給付の一種であり、従業員が退職する際に一時金の形で支給される会社の福利厚生の1つです。退職一時金などの退職給付は、法律によって支給が義務付けられているわけではありません。退職一時金を制度として設けないことも可能であり、設ける場合であっても、支給条件や支給額は会社が自由に設定可能です。

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付を制度として設けている企業の割合は74.9%です。企業規模が大きくなるほど割合が大きくなり、1,000人以上規模では、じつに90.1%が退職給付制度を設けています。

退職給付には、一時金だけでなく、後述する年金制度も存在します。そのうち、退職給付として退職一時金のみを支給している企業の割合は69.0%で、退職給付のなかでも退職一時金が多く採用されていることがわかります。また、一般的に使用されている「退職金」という言葉は、この退職一時金を指すことが少なくありません。

参考:令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

退職年金制度(企業年金)との違い

退職給付が年金の形で支給される場合は「退職年金」と呼ばれます。一時金として1回のみ支給される退職一時金と異なり、終身または有期で定期的に一定額が支払われる点が大きな違いです。

「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付を年金としてのみ支給する企業の割合は9.6%です。退職給付の大部分は、一時金として支給されていることがわかる結果でしょう。なお、退職給付は1種類しか採用できないわけではないため、一時金と年金の併用も可能です。両制度を併用している会社の割合は、21.4%となっています。

参考:令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

退職一時金制度の主要な3種類

退職一時金は3種類に大別可能です。ここでは、退職一時金の主要な3種類について解説します。

  • 社内準備(社内積立)型

会社内部に、退職一時金の原資となる資金を積み立て準備し、退職の際に支給する形です。後述する2種類と異なり、自社内のみで手続きが完結するのが特徴です。

  • 中小企業退職金共済制度

会社が独自に退職給付制度を設けることが難しい場合に採用される制度です。中小企業が多く採用しており、中小企業退職金共済が支払いまでを行うため、煩雑な事務手続きが不要となります。

  • 特定退職金共済制度

所得税法施行令第73条に基づき設立された特定退職金共済団体(商工会議所や、商工会など)と、退職金共済契約を締結し、管轄税務署の承認のもとで実施される制度です。中小企業退職金共済制度などと重複して加入ができます。

参考:所得税法施行令|e-Gov法令検索

社内準備型の退職一時金制度のメリット・デメリット

退職一時金において、中小企業退職金共済制度などを採用すれば、煩雑な事務手続きから解放されるのがメリットです。しかし「令和5年就労条件総合調査」による退職一時金制度における支払準備形態の内訳は、以下のようになっています。

  • 社内準備:56.5%
  • 中小企業退職金共済制度:42.0%
  • 特定退職金共済制度:9.9%
  • そのほか:9.7%

56.5%と過半数を超える割合の会社が、外部積立ではなく、社内準備の形態を選んでいます。では、外部積立ではなく、自社内で退職一時金の原資を積み立てる社内準備型を採用するメリットは、どのような点なのでしょうか。事業者と従業員に分け、デメリットとともに解説します。

参考:令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

事業者から見たメリット・デメリット

社内準備型の退職一時金は、自社内で手続きが完結するため、資金を管理しやすい点がメリットです。資金の流動性が高いため、一時的に退職一時金の原資をほかの用途に転用できる点もメリットとなります。

一方、原資となる資金の運用をすべて会社が行う必要があり、責任もすべて会社が負うことになります。また、現金での積み立てとなるため、課税対象となってしまう点もデメリットといえるでしょう。

従業員から見たメリット・デメリット

中小企業退職金共済の場合、加入後1年未満の退職では、退職一時金が支給されません。しかし、社内準備型であれば、会社が支給事由を自由に決定できるため、入社後1年未満の退職であっても、退職一時金が支給される場合もあります。また、退職一時金共通のメリットとして、一時金としてまとまったお金が受け取れる点が挙げられます。

一方、積立資金が外部に流出したり、退職一時金以外の用途に使われたりした場合、退職一時金が支払われなくなる点は、従業員にとってデメリットとなるでしょう。

退職一時金制度と企業型確定拠出年金(DC)の違い

退職者に一時金や年金を支給する制度として、企業型確定拠出年金(企業型DC)と呼ばれる制度があります。この制度では、掛金を会社が拠出し、加入者となる従業員自身が掛金の運用の指図を行う点が特徴です。

社内準備型の退職一時金制度においては、すべてを会社がその責任のもとで運用しているため、従業員が資金運用の指図を行うことはありません。この点は、両者の大きな違いといえるでしょう。

また、将来受け取る額も両者で異なります。退職一時金制度においては、勤続年数や退職事由に応じて、社内規定に基づきあらかじめ定められた一時金が支給されます。しかし、企業型確定拠出年金は、従業員自身が掛金運用の指図を行い、その結果に応じて受け取る額も変動する制度です。従業員自身の関与によって、受け取る額が変動する点でも両者は異なっています。

税や社会保険料における違い

社内準備型の退職一時金制度では、たとえ退職金の原資として使用する目的であっても、その内部留保は課税対象です。一方で、企業型確定拠出年金において事業主が拠出する掛金は、課税対象とならないだけでなく、社会保険料の対象ともなりません。税や社会保険料の取扱いも両者は異なっています。

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退職一時金の支給時期

「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付の退職者1人あたりの支給額は、大卒および大学院卒の定年者で1,896万円です。このような大きな額となる退職一時金をいつ受け取れるのかは、従業員にとって大きな関心事となります。しかし、退職一時金の支払時期は、明確に定められておらず、会社が自由に決定することが可能です。一般的には、退職から1〜2か月後に支払われる会社が多いものの、退職に関する書類の確認など、事務手続きのために3か月以上かかる場合もあり、会社によって支払時期は様々です。

退職一時金の支払時期については、就業規則の退職金に関する規定や、退職金規程に定められていることが通常です。まとまったお金を受け取ることになるため、住宅ローンの繰り上げ返済など、退職後の生活設計において、退職一時金の果たす役割は非常に大きくなっています。就業規則や退職金規程を確認し、不支給事由などと併せて、支払いスケジュールを把握しておいたほうがよいでしょう。

参考:令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

退職一時金にかかる税金

毎月の給与や夏季冬季のボーナスなど、会社から受け取るお金には、住民税や所得税といった税金がかかります。では、退職一時金に関しては、どのような取扱いとなるのでしょうか。退職一時金にかかる税金について解説します。

退職一時金は所得税と住民税の課税対象

退職一時金は、退職所得として復興特別所得税を含めた所得税の課税対象となります。住民税の課税対象ともなるため、支払われた金額に応じた税金を納付しなければなりません。ただし、後述する退職所得控除の制度が存在するため、支払われた金額によっては、非課税となる場合もあることに注意しましょう。

退職所得控除を利用できる

退職一時金を受け取った際には、「退職所得控除」を利用できます。退職所得は、下記の式によって求めることが可能です。

(退職一時金の受取額-計算した退職所得控除の額)×2分の1

退職所得控除の計算方法は、以下の表の通りです。

勤続年数(=A)退職所得控除額
20年以下40万円×A

(80万円未満の場合は80万円)

20年超800万円+70万円×(A-20年)

※退職の直接の原因が、障害者となったことであれば、上記式で計算した額に100万円を加算

退職者の勤続年数に応じ、上記表の式を用いて計算し、受け取った退職一時金の金額が、退職所得控除額を超えていなければ、非課税となります。一方、受け取った退職一時金が、退職所得控除額を上回っていれば、その額の2分の1が退職所得として課税対象となります。

なお、最低の控除額が80万円であるため、受け取った退職一時金の額が50万円や60万円であれば、計算結果を問わず非課税です。

具体的な例を用いて、計算してみましょう。20年間継続勤務し、退職一時金の支給額が870万円であった場合には、以下のようになります。

退職所得控除額:40万円×20年=800万円
退職所得:(870万円-800万円)×2分の1=35万円

上記の例では35万円に課税されることになります。では、同じ退職一時金の支給額で、勤続年数が21年であった場合はどうなるのでしょうか。この場合には、勤続年数が20年を超えることになるため、上記事例とは適用される退職所得控除の計算式が異なります。

退職所得控除額:800万円+70万円(21年-20年)=870万円
退職所得:(870万円-870万円)×2分の1=0円

上記式により、この場合には、課税対象とならないことがわかります。退職所得控除は、勤続年数が長ければ長いほど、退職者にとって有利になる制度です。勤続年数に比して、退職一時金の支給額が高い場合には、多くの税金がかかってしまうため注意してください。

確定申告は不要

課税上、退職所得に分類される退職一時金は、源泉徴収の対象であり、支給時に所得税が源泉徴収されています。そのため、支給時点で納税手続きは終了しており、原則として確定申告のような別途の納税手続きは不要です。

ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないような場合には、退職一時金より一律20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されてしまいます。この場合には、確定申告を行うことで、過剰徴収されてしまった税金の還付を受けることが可能です。

福利厚生として退職一時金を活用しよう

少子高齢化の進展によって、生産年齢人口の減少が続く日本では、人手不足が深刻化しており、企業規模や業種を問わず、人材獲得競争が激化しています。退職一時金や退職年金制度の有無は、会社としての魅力を大きく左右する要素です。人材獲得競争を勝ち抜くためには、福利厚生の一環として退職給付を設けることが大きな武器となるでしょう。当記事の解説を参考に、自社にとって適切な退職給付制度を選択してください。


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