• 更新日 : 2024年4月5日

有給休暇の消化は義務?取得日数や期限・罰則を解説!

有給休暇の消化率が低調なことを受け、2019年の労働基準法改正で有給休暇のうち5日の消化を義務化しました。この有給休暇消化の義務化により有給休暇の消化率は高まり、働き方改革が進んでいます。

この記事では有給休暇に関する労働基準法の規定内容、有給休暇取得義務化、有給休暇取得に関するトラブル等について紹介します。

有給消化は義務?

有給休暇は、労働基準法第39条で「年次有給休暇」と定められています。以下では、年次有給休暇の定義と、2019年4月の労働基準法改正により施行された年次有給休暇取得義務化について解説します。

そもそも有給休暇(年次有給休暇)とは

年次有給休暇は労働基準法に定める取得条件などの要件を満たす限り、法律上当然に発生する労働者の権利です。労働者が心身をリフレッシュしたり、自己啓発などによる能力向上を図ったりする機会を持てるようにする趣旨で定められています。法定休日のほかに毎年一定日数付与され、休暇でありながら取得しても賃金が支給されます。

年次有給休暇は、会社側の正常な事業運営を妨げるような事情がある場合を除いて労働者が希望する日に付与しなければなりません。

2019年4月より年休消化が義務化

働き方改革関連法の成立に伴い、労働基準法が2019年4月に改正され、使用者が労働者に年5日の年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。対象となる労働者は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者です。なお、管理監督者や有期雇用労働者も対象に含まれます。

この規定に違反した場合には、30万円以下の罰金が科されることがあります。

取得日数の最低は5日

上記の年5日の年次有給休暇は、年次有給休暇の付与日(基準日)から1年以内の間に取得させなければなりません。

(例)入社日2024/4/1、年次有給休暇の付与日(基準日)2024/10/1に年次有給休暇を10日付与された労働者の場合は、2024/10/1~2025/9/30の1年間に5日取得させることが義務付けられます。

この原則通りの取扱いの場合、年次有給休暇の付与日は労働者の入社日によって異なります。そのままでは管理が複雑になるため、労働者に不利にならない形で付与日を統一する取扱い(斉一的取扱いといいます)が認められています。

例えば全ての労働者の年次有給休暇付与日を4/1に統一している会社であれば、年5日の年次有給休暇は4/1から翌年3/31までの間に取得させることが義務付けられます。

なお、すでに労働者に対して以下の年次有給休暇が付与されている場合は、取得させる義務がある年5日からその日数が差し引かれます。

労働者自身が申し込んで付与された年次有給休暇
使用者が計画的付与の定めに基づき付与した年次有給休暇(計画年休)

したがってこれらの年次有給休暇の日数が5日以上の場合は、年休付与は義務付けられず、4日以内の場合は不足する日数の付与が義務付けられます。

(例)労働者が自分で3日間の年次有給休暇を申し込み、実際に取得していた場合、新たに使用者が労働者に取得させる義務があるのは2日です。

以上を踏まえると、1年間の年次有給休暇の取得日数は最低5日ということになります。

なお、この規定により年次有給休暇を取得させる際、取得日については労働者の意見を聴くことが使用者に義務付けられています。また、労働者の意見については尊重するように努めなければならないとされています。

参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得|厚生労働省

取得が義務化された背景

使用者が労働者に年次有給休暇を取得させることを義務付けた背景には、年次有給休暇の取得率の低さがあります。

厚生労働省の就労条件総合調査の結果によると、2019年の年次有給休暇取得義務化以前は長い間50%を下回ることが多かったことが分かります。

2019年の年次有給休暇の取得義務化以降は、年次有給休暇取得率は急激な上昇傾向を示しています。2023年(令和5年)の調査結果(2022年(令和4年)実績)では、62.1%まで上昇しており、法改正の効果がうかがえます。

参考:令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

年次有給休暇の取得条件

以下では労働基準法に定められている年次有給休暇の付与要件について、基本要件と2010年より新たに制度化された時間単位年休の付与要件に分けて解説します。

基本要件

年次有給休暇は、以下の2つの条件を満たすことで労働者に付与されます。原則として暦日単位で付与されます。なお、使用者の同意を条件に半日単位で付与することも可能です。

  • 雇入れの日から起算して6か月以上継続勤務したこと
  • 全労働日の8割以上出勤したこと(出勤率が8割以上であること)

「継続勤務」とは、労働契約が存続していることを意味します。したがって休職期間や病気による長期の欠勤期間、在籍出向の期間、定年退職者を嘱託等により継続雇用する期間などであっても、継続勤務の期間に含まれます。

「全労働日」には就業規則等に定める所定休日や、ストライキ等による不就労日、使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日などは含みません。

「出勤日」は欠勤していない日ですが、労災による休業期間、育児介護休業期間、産前産後休業期間、年次有給休暇取得日などは出勤日に含みます。

時間単位年休の付与要件

年次有給休暇は、暦日単位で付与するのが原則です。一方、労働者の様々な事情等に対応できるようにすることで取得率を高めるために、2010年4月より労働基準法が改正され、時間単位の年次有給休暇の付与が可能になりました。なお、時間単位の年次有給休暇の付与にあたっては労使協定の締結と就業規則への規定が必要です。

時間単位の年次有給休暇の主な要件は以下の通りです。

  • 労働者の請求によって付与する(請求がない限り、付与する義務はない)
  • パートタイム労働者など、所定労働日数が短い労働者であっても対象とすることができる
  • 時間単位での付与日数は5日以内とし、1日の時間数は所定労働時間以上とする

※所定労働時間に1時間に満たない端数がある場合は、1時間単位に切り上げて計算
例えば1日の所定労働時間が7時間30分の場合は、1日の時間数は8時間として計算
し、最大で8時間×5日=40時間を時間単位年休として付与する

  • 1時間以外の単位で付与単位を定める場合の時間数は所定労働時間未満である

年次有給休暇の付与日数

年次有給休暇の付与日数は、継続勤務期間により異なります。労働基準法による原則では、入社から6か月間継続勤務すると10日の年次有給休暇が付与されます。以降は継続勤務期間が1年増えるごとに1~2日付与日数が増え、最大で20日付与されます。なお、付与日数は翌年まで繰り越すことができます。

具体的には以下の表の通りです。

継続勤務期間6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

また、パートタイム労働者など所定労働日数の少ない労働者に対しても、週の所定労働日数に応じて付与(比例付与)されますが、同様に継続勤務期間により付与日数が異なります。比例付与の要件は1週間の所定労働時間が30時間未満であり、さらに以下のいずれかの要件を満たすことです。

  • 週所定労働日数が4日以下
  • 週以外で所定労働日数が定められている場合は、年間の所定労働日数が216日以下

比例付与の場合の付与日数は以下の表の通りです。

週所定労働日数4日または年所定労働日数169~216日の場合

継続勤務期間6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以上
付与日数7日8日9日10日12日13日15日

週所定労働日数3日または年所定労働日数121~168日の場合

継続勤務期間6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以上
付与日数5日6日6日8日9日10日11日

週所定労働日数2日または年所定労働日数73~120日の場合

継続勤務期間6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以上
付与日数3日4日4日5日6日6日7日

週所定労働日数1日または年所定労働日数48~72日の場合

継続勤務期間6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月以上
付与日数1日2日2日2日3日3日3日

年次有給休暇の計画的付与とは

年次有給休暇の計画的付与とは、労使協定を締結する(労働基準監督署への届出は不要)ことにより、付与日数のうち5日を超える部分について使用者が計画的に付与できる制度です。労働基準法により定められています。この制度に基づき付与された年次有給休暇は、一般的には計画年休と呼ばれます。

例えば、企業全体あるいは一部の事業場単位(工場など)で一斉休業日を設け、その日を年次有給休暇とする方式や、年次有給休暇付与計画表により個人別の事情を加味して計画的に付与する方式などがあります。

なお、「付与日数のうち5日を超える部分」には、前年度から繰り越された年次有給休暇の日数も含みます。

例えば、前年度から繰り越された年次有給休暇が10日、今年度の年次有給休暇の付与日数が20日の労働者であれば、25日を計画的付与の対象にすることができます。

年次有給休暇の取得を拒むのは違法?罰則について

労働者が年次有給休暇を取得することは、法律上当然に与えられている権利であること述べましたが、年次有給休暇の取得を拒むのは違法なのでしょうか。以下で詳しく解説します。

年次有給休暇の取得を拒否するのは違法

労働基準法により、使用者は原則として労働者が指定した日に年次有給休暇を与えなければなりません。よって、年次有給休暇の取得を拒否することは違法と言えます。

ただし、労働者が指定した日に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は年次有給休暇の取得日を他の日に変更することができます。これを時季変更権と呼びます。年次有給休暇の取得を拒否することはできませんが、取得日を変更することはできます。

この「事業の正常な運営を妨げる場合に該当する場合」として認められる可能性があるのは、以下のような場合です。

  • 年次有給休暇を取得しようとしている労働者の代替要員を確保できない場合

※ただし、代替要員を確保できないことに正当な理由がある(繁忙期で人員に余裕がない、年休取得の申込時期が遅かった等)ことが求められます。会社は代替要員の確保のための具体的な努力をすることが義務付けられています。

  • 夏季繁忙期等で、年次有給休暇取得希望者が一定の日に重なった結果、代替要員が確保できない場合
  • 職場内の集合研修日(取得希望者が受講しなければならないもの)などに年次有給休暇の取得を希望した場合
  • 長期の年次有給休暇取得を希望した場合

上記の代替要員が確保できない場合について、常態的に要員が不足している状況で代替要員が確保できない場合は、そもそもの企業側の体制そのものの問題であり「事業の正常な運営を妨げる場合」として認められないことになります。

取得を拒否した場合、企業は罰則がある

企業が正当な理由がなく年次有給休暇の取得を拒否した場合には、労働基準法違反となります。その場合、労働基準法第119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。

取得を拒否された場合は、労基署に相談する

年次有給休暇の取得を拒否された場合、その理由が時季変更権の行使によるものか否かを確認する必要があります。

会社が時季変更権の行使により、年次有給休暇の取得日の変更を求める場合には時季変更権の行使理由を記載した書面を交付した上で、労働者に丁寧に説明して合意を得るのが望ましいと言えます。また、時季変更権を行使した場合は、労働者の年次有給休暇の取得希望日に近い日付で代わりの年次有給休暇が取得できるよう配慮しましょう。

年次有給休暇の取得拒否ではなく、時季変更権の行使によるものかどうかは、上記の書面や説明により確認できます。

一方、時季変更権を繰り返し行使されて年次有給休暇が取得できない場合や、時季変更権の行使理由として認められない理由で年次有給休暇の取得が拒否されるような場合などもあるでしょう。その際は、各都道府県労働局や労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーに無料で相談することができます。その結果、労働基準法に違反している疑いがある場合は、労働基準監督署等の行政指導が行われる可能性があります。

参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

年次有給休暇の取得がトラブルになりやすいケース

年次有給休暇の取得は、労働基準法で認められている労働者の権利であるとは言え、取得の仕方によっては会社との間でトラブルに発展するケースもあります。以下ではそのようなケースを3つ紹介します。

繁忙期における取得

労働者が所属する職場の業務が繁忙期を迎えている場合に、年次有給休暇を取得しようとしても、代替要員の確保ができない場合もあります。

会社が代替要員の確保のためにあらゆる努力をしてもそれが不可能で、年次有給休暇の取得日を変更しなければならない場合には、時季変更権を行使できる可能性があります。そのような場合は年次有給休暇を取得したい日に取得できないことになります。結果として予定を変更しなければならなくなってしまいます。

退職前の取得

退職予定の労働者が退職日の前に最終出勤日を決め、残っている年次有給休暇を消化することがあります。この場合には予め決まっている最終出勤日までに引継ぎや残務整理を済ませることができます。

一方、このような取り決めがない場合に、労働者から退職前に年次有給休暇を全て消化したいとの申し込みがあると、退職日が迫っており業務上支障があっても時季変更を行える日がないことがあります。

この場合、年次有給休暇の取得を認めざるを得ないため、会社にとって困った状態に陥り、トラブルとなってしまうでしょう。

長期かつ連続の取得

長期かつ連続した年次有給休暇の取得を希望する場合、代替要員確保の困難さが増す状況として会社による時季変更権が認められやすいと言われています。したがって、取得希望日に取得できない可能性が高く、結果として労働者側で予定変更等が発生することになります。

年次有給休暇の取得でのトラブルを防ぐためには

前章で述べたような会社とのトラブルを防ぐためになすべきことについて、3点紹介します。

取得については早めに連絡する

年次有給休暇の取得に伴い、代替要員の措置が必要な場合があります。代替要員の措置ができない場合に、年次有給休暇の取得日の変更が発生する可能性があるため、年次有給休暇の取得が決まったら早めに会社に連絡しましょう。就業規則等で年次有給休暇の取得申請期限が定められている場合にはその内容に従います。

繁忙期での取得は会社と相談する

先述の通り、業務の繁忙期にあたる場合は、会社側で代替要員の確保が困難な場合があります。代替要員の確保が困難な場合、取得時期の変更を求められることがあります。業務の繁忙期に年次有給休暇を取得する場合は、就業規則等で定められている年次有給休暇の申込時期によらず、取得することを決めたら会社と早めに相談するようにしましょう。

退職前は有給取得前に引継ぎを済ませておく

年次有給休暇が残っており、退職前にそれを消化したい場合は、年次有給休暇を取得する前に業務の引継ぎや残務整理などは済ませておくようにしましょう。先述の通り、業務引継ぎなどが済んでいない状態で年次有給休暇を取得することで、会社側に迷惑をかけてしまうことになります。

パートやアルバイトに有給消化義務はある?

労働基準法の規定内容は、パートやアルバイトを除外していないため、これまで説明した年次有給休暇の取得に関する規定内容も適用されます。したがって、年5日の年次有給休暇消化義務も適用されます。

ただしこの規定の対象者は、10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者に限定されています。

先述の通り、週所定労働時間が30時間未満で、週所定労働日数が4日以下の場合などは、年次有給休暇の比例付与の対象となります。比例付与の結果、10日以上の年次有給休暇が付与されない場合は消化義務の規定の対象外になる点には注意が必要です。

従業員の年次有給休暇取得を進めて、働きやすい職場作りを

年次有給休暇の取得は労働基準法に定める労働者の権利であり、規定に違反した場合には企業側に罰則が科されるおそれがあります。

また、年次有給休暇を取得しづらい企業は、従業員のワークエンゲージメントの低下につながるだけでなく、従業員を採用する場合もそのような評判により敬遠されてしまうため、人材確保が難しくなるでしょう。

以前は年次有給休暇の消化率が低かったこともあり、その消化を促進するために計画的付与、年5日の付与義務化など、法改正により様々な対策がとられています。この記事で紹介した内容に基づき、制度を十分に理解した上でうまく活用して、従業員の年次有給休暇の取得を進めさせ、働きやすい職場作りにつなげてください。


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