• 更新日 : 2024年12月19日

傷病手当とは?金額や条件・期間、もらえない場合の具体例を解説

病気で長期間会社を休むことになった場合、頼りになるのが健康保険から支給される傷病手当です。傷病手当金はいつまで、いくら受け取れるのか、気になる人もいるでしょう。

本記事では、傷病手当金の支給条件や申請方法、支給金額などについて解説します。手当金がもらえないケースや退職後の取り扱いも紹介しますので、社会保障の基礎知識として確認しておきましょう。

傷病手当金とは?

傷病手当金とは、病気やケガで会社を休み収入が途絶えたときに、会社員や家族の生活を保障するために健康保険組合や協会けんぽなどから支給される給付金です。最初に、傷病手当金の支給期間からみていきましょう。

参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会

傷病手当金がもらえる期間

傷病手当金の支給期間は、「支給スタート日から通算1年6ヶ月」です。連続して休業した場合、支給スタート日は病気やケガで会社を休んだ初日から4日目です。休業初日からの3日間を「待期期間」といい、傷病手当金は支給されません。

支給スタート日が2020年7月1日以前の場合、支給期間は「支給スタート日から最長1年6ヶ月」でしたが、現在は「通算1年6ヶ月」に変更されています。支給期間の中に職場復帰して報酬を得ていた期間があれば、その期間を除いて1年6ヶ月分が支給されます。

傷病手当金がもらえる期間

引用:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省

傷病手当金の支給条件

傷病手当金の支給条件は、以下の4つをすべて満たすことです。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  • 仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

それぞれの支給条件について解説します。

業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

休業の原因となった病気やケガは、業務外の事由に限定されます。業務上の事由による休業の場合、労災事故として労働災害補償保険の休業補償給付が支給されます。美容整形などは病気とみなされないため対象外です。

「療養」については、入院治療だけでなく自宅療養を含みます。

仕事に就くことができないこと

「仕事に就くことができない」とは、休業前にしていた仕事に従事できない状態のことです。簡単な仕事はできても、本来の業務ができなければ条件に該当します。

労務不能の判定は、医師の診断を参考に健康保険組合などが判断します。

連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

傷病手当金の支給を受けるには、休業スタートから3日間連続の休業(待期期間)が必要です。待期期間が終わったあとの休業日から、傷病手当金の支給が始まります。

ケガで仕事に復帰するまで連続して休業する場合、休業スタート日から4日目に傷病手当金が出ます。2日間休業して1日出社することを繰り返していると、いつまで経っても給付はありません。有給休暇や土日の休日も待期期間に含まれるので覚えておきましょう。

休業した期間について給与の支払いがないこと

休業期間に対する給与がないことも支給要件の1つです。傷病手当金は、休業中に収入のない(または減少した)会社員や家族の生活を保障するための給付であるためです。

給与の支払いがあっても支給金額が傷病手当金を下回る場合、その差額が支給されます。

傷病手当金はいくらもらえる?

傷病手当金は、休業1日につき所定の金額が支給されます。1日当たりの支給額の計算方法について解説します。

1日あたりの支給額の計算方法

傷病手当金の1日当たりの支給額は、休業前の給与(日給に換算した金額)のおおよそ2/3です。実際の支給額は、以下のとおり計算します。支給スタート日は、待期期間が終了して初めて傷病手当金が支給される日のことです。

支給スタート日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額(※)を平均した額÷30日×2/3

※標準報酬月額とは毎年4月〜6月の報酬を基に所定の計算方法で算出した金額です。社会保険料や将来の年金額の計算基礎となります。

参考:標準報酬月額・標準賞与額とは?|全国健康保険協会

休業前12ヶ月の標準報酬月額の平均額が40万円の場合、1日当たりの支給額は以下のとおり計算します。

支給額=40万円÷30日×2/3=8,887円(※)

 

※端数処理は「30日」で割ったあとに1の位を四捨五入、「2/3」を掛けたあとに小数点第一位を四捨五入します。

健康保険の加入期間12ヶ月に満たない場合

転職して間もないなどの理由で支給スタート日より前の健康保険加入期間が12ヶ月に満たない場合、前述の計算ができません。傷病手当金の支給額は、以下のいずれか低い方の金額を「各標準報酬月額の平均額」として計算します。

  • 支給スタート日より前の月以前の継続した各月標準報酬月額の平均額
  • 加入する健康保険組合などの前年9月30日における全被保険者の標準報酬月額の平均額

少しわかりにくいので、以下のケースで傷病手当金の支給額を計算してみましょう。

  • 4月入社で4月~6月の標準報酬月額が25万円、7月から休業スタート
  • 勤務先健康保険組合の全被保険者の前年9月30日における標準報酬月額の平均額が30万円

金額の低い25万円を休業前の給与と考えて、以下のとおり1日当たりの傷病手当金の支給額を計算します。

  • 支給額=25万円÷30日×2/3=5,553円

傷病手当金がもらえない場合

療養のため長期間休業しても、傷病手当金がもらえなかったり一部が調整(支給停止)されることがあります。

(傷病手当金が支給されるケースと支給されないケース)

支給されるケース支給されないケース
給与の支払いなしあり
障害厚生年金、障害手当金受給なし受給中
老齢年金受給なし受給中
休業補償給付受給なし受給中
出産手当金受給なし受給中

傷病手当金が支給されない1つのパターンが、支給要件を満たしていないケースです。ノーワーク・ノーペイの原則により休業中は無給が一般的ですが、休業中も給与を支払ってくれる企業もあります。また、有給休暇を使うと給与が発生します。

2つ目のパターンが、その他の公的給付を受けているケースです。厚生年金の障害給付(障害厚生年金や障害手当金)と老齢年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金※)、健康保険の出産手当金などが該当します。

※退職後に後述する「継続給付」を受けているケースが対象です。

その他の公的給付を受給できる場合、原則障害手当金は支給されません。しかし、障害手当金の日額が公的給付(日額に換算)を上回る場合、その差額が支給されます。

休業補償給付は「業務上の事由(労災)」による病気・ケガの休業に対する給付であるため、同じ事由で傷病手当金は受給できません。労災受給中に労災とは別の事由で障害手当金の受給権が発生しても、併給されません。

傷病手当金の支給日は?

傷病手当金の支給日は、決まっていません。加入する健康保険組合等によって異なりますが、おおむね申請後2週間後から1ヶ月後に指定口座に振り込まれます。

申請のタイミングは傷病手当の受給者が任意に決められますが、給与の締切日ごとに1ヶ月単位で申請するのが一般的です。申請書には、勤務状況や給与の支給状況に関する事業主の証明が必要であるためです。

傷病手当金の申請の流れ、手続き

傷病手当金の申請は本人が健康保険組合などに対して行いますが、実際には会社経由で申請するのが一般的です。申請の流れや必要書類、手続きについて解説します。

傷病手当金の申請の流れ

傷病手当金の申請書に記載するのは、申請者と勤務先、医師の3者です。本人が直接申請する場合、申請の流れは以下のとおりです。

  • 勤務先または健康保険組合などから請求書を入手する
  • 担当医師に休業の原因となった病気やケガの症状や経過、就労の可否などを証明してもらう
  • 勤務先に勤務状況や給与の支給状況を証明してもらう
  • 健康保険組合などに申請する

勤務先が証明後、健康保険組合などに申請することもあります。

必要書類

傷病手当金の請求に必要なのは、「傷病手当金支給請求書」です。請求書は、各健康保険組合などによって異なるため、自分が加入している健康保険から入手します。

また、「傷病手当金がもらえない場合」で紹介した「その他の公的給付」を受けている場合、給付を証明する書類を添付しなければなりません。詳細については、加入している健康保険で確認しましょう。

参考:健康保険傷病手当金支給申請書|全国健康保険協会

勤務先が行う手続き

傷病手当金を請求できる可能性がある場合、勤務先の担当者は該当の従業員に対して制度内容や今後の手続きを説明してあげましょう。請求者は従業員ですが、制度を知らなかったり、手続きに不安を感じていたりすることも考えられます。

勤務先は、申請書の事業主記入欄に申請期間の勤務状況や給与の支給状況を記載して、事業主名で証明します。そのほかの記入欄がすべて記載されていれば、勤務先から健康保険組合などに申請書を提出してもいいでしょう。

本人が行う手続き

傷病手当金の申請者は、休業する従業員本人です。勤務先の担当者が手続きの案内や申請のフォローをしてくれることもありますが、やるべきことは自分で把握しておきましょう。本人が行う主な手続きは「傷病手当金の申請の流れ」で解説した以下のとおりです。

  1. 傷病手当金請求書を入手する
  2. 病気やケガの症状や経過、就労の可否について医師の証明を取り付ける
  3. 勤務状況や給与の支給状況について勤務先の照明を取り付ける
  4. 健康保険組合などに申請書を提出する

休業期間が数ヶ月以上になる場合、給与の締切日ごとに1ヶ月単位で申請するのが一般的です。1ヶ月ごとに上記手順で申請を繰り返します。

退職後も傷病手当金は支給される?

傷病手当金は、勤務先を退職した後も支給されます。ただし、以下の条件をすべて満たさなければなりません。

  • 退職日(健康保険の資格喪失日の前日)までに勤務先の健康保険に1年以上加入している
  • 退職日の翌日(健康保険の資格喪失日)に傷病手当金を受けている、または支給条件を満たしている

また、前述のとおり退職後も傷病手当金を受給していて、老齢年金の受給権が発生した場合、傷病手当金は支給されません。ただし、障害手当金の日額が老齢年金額(日額に換算)を上回る場合、その差額が支給されます。

休業する従業員には事前に手続きを案内しましょう

傷病手当金は、病気やケガで休業したときに、会社員などの生活を保障するために支給される健康保険の給付金です。支給要件を満たせば、通算1年6ヶ月にわたり休職前の収入のおよそ2/3が支給されます。

一般的に休業中は無給になるため、経済的な不安を感じる従業員もいます。企業の担当者は、休業する従業員に事前に手続きを案内するなど、従業員が安心して療養に専念できるように傷病手当金の申請をフォローしましょう。


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