• 更新日 : 2024年11月1日

予定昇給率とは?ベースアップとの違いや算出方法を解説

退職後に支給される一時金や年金は、従業員の生活にとって大切なものです。しかし、その額は合理的なものでなければならず、支払うべき額も前もって把握することが必要となります。当記事では、予定昇給率の概要だけでなく、算出方法などについても解説します。

予定昇給率とは

「予定昇給率」とは、給与比例の年金制度において、その計算に使用されている計算基礎率のひとつです。企業年金制度に加入する者の給与等が、毎年度どの程度上昇するのかを想定し、昇給率という形にすることで表しています。

退職給付制度においては、ポイント制が採用されている場合もあります。ポイント制とは、従業員が1年勤務するごとに付与されるポイントと、能力や企業への貢献度合いに応じて付与されるポイントの合計を退職金等へ反映させる仕組みです。ポイント制が採用された企業における予定昇給率は、ポイントに基づき算出されます。

2012年の法改正で「予想昇給率」に呼称が変更された

退職金等に関する会計の基準である「退職給付会計基準」は、2000年より導入されています。我が国の退職給付会計基準は、国際的な会計基準に近づけることを目的として、2012年に改正され、退職給付債務の計算方法の見直しなどが行われました。その際に、予定昇給率から「予想昇給率」に呼称が変更されています。なお、本記事では以下においても、予定昇給率の呼称を用いて解説します。

予定昇給率を算出する目的

予定昇給率の算出は、「退職給付金額の事前把握」と「公平かつ合理的な昇給」の2つを目的として行われます。詳細を見ていきましょう。

退職給付金額を前もって把握する

予定昇給率は、企業に在籍する従業員の年齢が上昇するにつれて、どの程度給与が上昇するのかを把握するために用いられます。給与の上昇率を把握することで、支給される退職給付の金額も事前に把握可能となるため、退職給付金額の必要額を見込んだ予算や、賃金の策定に役立てることも可能です。

公平で合理的な昇給を行う

昇給に関する規定は各企業によって異なりますが、予定昇給率を設定することで、従業員が公平かつ公正な評価を受けることが可能となります。報酬の透明性が向上することで、従業員の業務へのモチベーションや企業へのエンゲージメントの向上、雇用の安定などの効果も期待できるでしょう。

昇給とベースアップの違い

予定昇給率には、昇給という言葉が用いられています。この昇給とは何を意味するのでしょうか。また、昇給に似た言葉として、ベースアップが存在します。両者はどのような点で異なっているのでしょう。

昇給は個人の貢献度や勤続年数が根拠

「昇給」とは、従業員の勤続年数や企業への貢献に応じて、基本給の引き上げを行うことを指す言葉です。役職が上昇する「昇進」や、社内における等級が上昇する「昇格」によって給与が上がることも多いですが、それらを伴わず昇給する場合もあります。

日本においては、毎年定期的に昇給が行われる「定期昇給」を取り入れている企業も少なくありません。また、従業員の実績等が考慮される「考課昇給」や、企業業績が好調な場合に従業員への還元を目的として行われる「臨時昇給」など、昇給には複数の種類が存在します。

職務遂行能力や企業への貢献度合いに応じた昇給であれば、実績と給与のギャップは生じ辛いでしょう。しかし、企業への勤続年数や、従業員の年齢に応じて自動的に昇給させているような場合には、実績と給与にギャップが生じ、不公平であると感じる従業員も出てきます。昇給基準は、公平かつ合理的なものとすることが、従業員の不満を生まないためにも重要です。

ベースアップは全従業員の給与の底上げ

同時に複数人の昇給が行われることも珍しくありませんが、あくまで上昇するのは個々の従業員の基本給であり、昇給しない者も存在します。これに対して、「ベースアップ」は、企業における全従業員の基本給の引き上げを行うことが特徴です。また、ベースアップは、略称である「ベア」として使用される場合も少なくありません。毎年2月から3月に行われる労働組合による賃上げ要求である春闘は、全労働者の賃金を底上げするベースアップを目的とする場合も多く、新聞やニュースを賑わせています。

昇給は、職務遂行能力や企業への貢献度、勤続年数などによる従業員への評価に基づいて行われます。これに対して、ベースアップは、従業員の生活水準の向上や、インフレによる物価上昇への対応などを目的として行われる点でも昇給とは異なります。両者は、賃金を引き上げるという点では共通していますが、基準や目的において大きく異なっている点に注意が必要です。

予定昇給率の算出方法

予定昇給率は、企業個別の賃金規程や、平均給与の実態分布および過去の昇給実績などに基づいて、合理的に推定することで算出されます。過去の昇給実績においては、大幅なインフレによる給与テーブルの改訂などに基づいた異常な値は除いたうえで、合理的であると認められる要因のみを用いることが必要です。また、原則として予定昇給率は、個別の企業ごとに算出されます。しかし、連合型である企業年金の制度では、賃金規程および平均給与の実態などが類似している集団の予定昇給率を用いることも可能です。

従来の予定昇給率は、確実に見込まれる昇給を基にし、昇給率を算出していました。しかし、2012年の退職給付会計基準改正によって、予想される全ての要因を考慮したうえで、昇給率を算出する方法に改められています。これは、予定昇給率について、確実に見込まれる昇給だけを考慮する場合には、割引率など、ほかの計算の基礎と整合性を欠いた結果となることが考えられるためです。また、国際的会計基準においては、確実性までは求められておらず、確実に見込まれる昇給などではなく、予想される全ての要因を考慮すべきとされたことも理由となります。

日本における予定昇給率は、対象となる給与の昇給が、以下の2つより構成されていると考えて、推定することが適当である場合が多いとされています。

  • 年齢や経験年数と相関が見られる部分
  • ベースアップ相当部分

次項より、それぞれの部分について解説を行います。

年齢や経験年数と相関が見られる部分

この部分は、退職給付債務の計算において、使用されることになる人口統計的な計算基礎とされています。蓄積された経験や、企業への貢献度合いに応じ昇給する部分などを指しており、対象となる給与のデータを基に年齢階層別の指数を推定するなど、数理的手法を用いることが一般的です。

確定給付企業年金制度をはじめとする企業年金制度を採用している場合、企業年金制度における財政の目的で、使用される基礎率の使用も考えられます。しかし、この場合であれば、計算の対象となる者の範囲の相違などに留意することも必要です。また、退職給付債務計算にける計算の基礎として、そのまま使用することが妥当か否かについても、検討する必要があるでしょう。なお、ポイント制を採用している場合、予想ポイントとポイント単価予想における「予想ポイント」が、この部分に該当することになります。

ベースアップ相当部分

この部分は、退職給付債務の計算において使用されることになる金融経済的な計算の基礎とされます。インフレや生産性向上の見込みなどから合理的に予想したうえで、予定昇給率に含めることが必要とされています。 また、金融経済的な計算の基礎は、ほかの金融経済的な計算の基礎(たとえば、割引率や予想再評価率など)との整合が取れているかにも留意して設定しなければなりません。なお、ポイント制を採用している場合、予想ポイントと、ポイント単価予想における「ポイント単価予想」が、この部分に該当することになります。

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予定昇給率の見直しの必要性

会計基準においては、計算の基礎に重要な変動などが生じていない場合であれば、予定昇給率を見直さないことも可能であるとされています。予定昇給率の重要性を判断するに当たっては、個別の企業固有となる実績などに基づくことが必要です。

退職給付債務等に重要な影響を与えると認められる場合であれば、予定昇給率を再検討することが必要ですが、それ以外の事業年度では見直さないことも可能です。また、企業年金制度において、財政再計算時の基礎率が見直された場合、退職給付債務の計算においても、反映させるように見直すべきか否かを検討することが適当であるとされています。

退職給付金額の算定には予定昇給率が重要

予定昇給率を設定することで、将来支払われる退職給付の金額が事前に把握可能となります。このことによって、将来の予算計画等の策定がスムーズに進むことになります。また、報酬にも透明性が確保され、従業員のモチベーションアップの効果も期待できるでしょう。

設定すべき予定昇給率を考える際には、複数の要素を考慮しなければなりません。スムーズに設定可能とするために、ぜひ当記事をご活用ください。


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