- 更新日 : 2024年2月16日
出戻りとは?メリット・デメリットや事例を紹介
人事制度における「出戻り」は、退職した従業員が一時的に外部で経験を積んだ後、企業に戻ってくる仕組みです。この制度を理解し、活用することは、最近では重要な人材戦略の一つとなっています。本記事では、「出戻り」のメリット・デメリットとともに、成功事例をご紹介します。
出戻りとは?
そもそも「出戻り」とは、どのような意味なのでしょうか。まずは、言葉の意味と最近、注目されている背景についてみてみましょう。
出戻りとは?その意味
「出戻り」とは、一度退職した会社に再び雇用されることを指します。人事制度としては「ブーメラン社員」とも呼ばれ、退職した従業員が新たな経験やスキルを身につけたうえで、以前の職場に戻るというものです。出戻りは、退職者が以前の職場の業務、社内文化、システムに既に精通しているため、再教育のコストや時間が節約できるという利点があります。また、出戻りする従業員は、退職中に他の企業で新しいスキルや異なる業務プロセスを経験していることが多く、その新たな知見を元の職場にもたらすことが期待されます。
出戻りが注目されている背景
出戻りが注目される背景には、人材の流動性の高まりやキャリア形成の多様化があります。特に、キャリアアップやスキル獲得のために転職を繰り返すケースが増えている昨今において、出戻りは再雇用の有効な選択肢となっています。企業側では、人材不足の問題を背景に、熟練した人材を確保するために出戻りを歓迎する傾向が見られます。また、従業員側では、新たな経験を積んだ後、以前の職場での人間関係や職場環境が再評価されることもあります。これらの社会的・経済的な状況変化が、出戻りというキャリアパスをより一般的なものにしているのです。
出戻りのメリット
「ブーメラン社員」として出戻りを制度化する企業が増えつつありますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのメリットを挙げてみます。
【従業員】 就職・転職活動の負担を減らせる
出戻りは従業員側の新たな職場への就職や転職活動に伴う負担を大幅に軽減するメリットがあります。一度離職した企業に戻ることで、新規の求人探し、履歴書や職務経歴書の作成、面接の準備といった時間と労力を要するプロセスを省くことができます。また、選考においても、既に企業がその従業員の能力や性格を知っているため、採用プロセスがスムーズに進むことが多く、従業員にとっての不確実性が軽減されます。
【従業員】企業文化を知っている・馴染みやすい
出戻り従業員にとっての大きなメリットの一つは、企業文化や職場の環境に既に馴染みがあることです。新しい職場に適応する際のストレスや不安を軽減できるため、仕事に集中しやすくなります。また、既存の同僚や上司との関係を維持していることも多く、チームへの再統合がスムーズに進むことが期待されます。これによって、新しい環境で短期間で生産性を発揮することを可能にします。職場のルール、プロセス、そして組織内の非公式なコミュニケーションチャネルに精通していることは、職場内でのスムーズな人間関係の構築にも大きく寄与するでしょう。
【企業】オンボーディングのコストを削減できる
出戻り従業員を採用することは、企業にとっても大きなメリットがあります。新たな従業員を採用する際のオンボーディング(新入社員教育)のコストと時間を大幅に削減できる点が特に重要です。出戻り従業員は、企業の文化、システム、プロセスに既に精通しているため、新しい従業員が業務に慣れるまでに通常必要とされる時間やトレーニングのコストを削減できます。また、彼らは以前の経験を通じて既に実証されたスキルセットと企業への適合性を持っているため、採用のリスクを減らし、生産性への迅速な貢献が期待できます。
出戻りのデメリット
出戻りを制度化するには、メリットだけでなく、デメリットもあることを認識しておく必要があります。4つのデメリットが考えられます。
【従業員】 以前と雇用条件が変わっている場合がある
出戻り従業員は、復帰する際に以前とは異なる雇用条件となる可能性もあります。企業の経済状況、業務内容の変更、市場の需要の変化などが生じれば、給与、福利厚生、労働時間などが影響を受けることが考えられます。特に退職してから長期間が経過した場合や、企業が経営戦略を大きく変更した場合には、こうした傾向はより顕著になるでしょう。
従業員は、以前の条件を期待して復職したものの、条件が悪化し、現実とのギャップに直面することで失望感を覚えることがあります。
【従業員】以前と役職等の立場が変わっているときがある
元の職場に戻ることは、従業員にとって以前の役職や立場が保証されるとは限らないというデメリットがあります。組織内での再配置や昇進、降格などが行われた後に復職する場合、以前とは異なる役職や責任を担うことになるかもしれません。
また、同僚や上司の変更により、職場の人間関係やチームダイナミクスが変わっている可能性もあります。これらの変化は、従業員が新しい環境に適応する際のストレスや不満の原因になることがあります。
【従業員】次回の退職が難しい
出戻り従業員は、再度退職を検討する際に特有の困難に直面することがあります。出戻りという経歴は、企業によっては忠誠心や職場への定着性に疑問を投げかける要因となることがあります。従業員が一度退職しているという経歴は、将来的な転職活動において、新たな雇用主に対して納得のいく説明が求められるでしょう。こうしたことから、出戻り後の退職には躊躇することも想定できます。
【企業】再度同じ理由で退職する可能性がある
企業側にとって、出戻り従業員が再度同じ理由で退職するリスクがあります。出戻り従業員が初めに退職した際の理由が、組織の文化、人間関係、職務内容、報酬体系などに関連している場合、これらの問題が依然として解決されていない限り、同じ理由での再退職が発生する可能性があるからです。
このリスクを軽減するためには、企業は出戻り従業員の採用に際して、退職理由を詳細に分析し、問題点が解決されていなければ、改善のための具体的な措置が講じることも必要となります。
出戻りは嫌われる?注意点を解説
出戻りは、既存社員に問題なく受け入れられるのでしょうか。ここでは、ネガティブな側面と制度を成功させるための注意点についてみていきます。
出戻りは既存社員から嫌われる?
出戻りが既存社員から嫌われるかどうかは、状況や組織の文化によって異なります。一般的に、出戻りが職場にポジティブな影響をもたらし、以前からの良好な人間関係を維持している場合、既存社員からの受け入れは比較的スムーズになります。しかし、出戻り従業員が過去に職場で問題を引き起こしたり、職場の雰囲気に負の影響を与えていたりした場合、一部の社員から懐疑的な視線を向けられる可能性があります。
出戻る際の注意点
出戻りを制度化するには注意すべき点があります。企業側と出戻る従業員側の2つの視点に分けて考えてみましょう。
まず、企業側で「出戻り」を制度化する際には、公正性と透明性を保持することが重要です。出戻りを許可する基準やプロセスを明確にし、全社員に公平に情報を提供する必要があります。これには、出戻りのポリシー、選考基準、必要な手続き、従業員が企業に復帰する際の条件などが含まれます。
また、出戻り従業員が再びチームに馴染むためのサポート体制や研修プログラムを整備することも重要です。さらに、現在の従業員との関係やチーム内のバランスを考慮し、従業員間のコミュニケーションを促進し、出戻りがチームに与えるネガティブな影響を最小限に抑えることが必要です。
透明性を確保し、全従業員が出戻りのプロセスを理解し、受け入れられるようにすることが、組織全体の士気と生産性を維持するために不可欠だといえるでしょう。
一方、出戻りする従業員側の注意点としては、出戻りを考える際には、自身の意図と企業側の期待を明確にすることが重要です。まず、退職した理由と、再び同じ職場で働くことを望む理由を自問自答し、前回の退職から何が変わったのか、どのような点が改善されているのかを明らかにします。また、以前のポジションや待遇が保証されるわけではないことを理解し、新たな役割や条件に対する柔軟な姿勢を持つことが必要です。
出戻り制度を採用している企業事例
日本企業において、出戻り制度はキャリア形成や人材の有効活用を促進する手段として広く採用されています。以下、具体的な企業例とその制度の概要を2つ紹介します。
トヨタ自動車株式会社(Toyota Motor Corporation)”プロキャリア・カムバック制度”
トヨタ自動車は、2005年からプロキャリア・カムバック制度を導入しています。対象者は、入社後3年後を経過し、かつ専門職経験が1年以上の事技専門職以上の従業員であり、退職事由は配偶者の転勤と介護による退職の2つに限定されています。
手続きとしては、退職前に面談のうえ、再雇用申請の登録をすることで、退職後は原則、申請によって退職後の部署に復帰することができます。退職後の期間については、制限はなく、本人の希望する時期に申請すればよいことになっています。
三菱重工業株式会社(Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.)”ウェルカムバック採用”
三菱重工業は、退職事由を問わず、退職した従業員の再入社を歓迎する再雇用制度を採用しています。この制度は、退職後に得た新たな経験やスキルを生かし、再就職後に同社で活躍することが期待するものです。対象となる従業員は、同社で1年以上勤務し、自己都合で退職した者とされており、定年退職や移籍による退職は除かれます。
ウェルカムバック採用のサイトに登録することでキャリア採用の求人情報を知ることができ、通常のキャリア採用と同様の選考プロセスで採用されることになります。
出戻り制度を活用し、従業員の成長と組織の発展を実現しよう!
出戻り制度は、柔軟な人材の再活用を可能にし、新たな視点と経験を組織に持ち帰らせる強力な仕組みです。しかし、その運用には慎重さが求められ、従業員とのコミュニケーションが不可欠です。デメリットを克服し、メリットを最大限に生かすことができれば、従業員の成長と組織の発展を実現することができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
契約社員とは?パートとの違いやメリット・デメリットを解説
契約社員とは、契約期間に定めのある有期労働契約の社員です。正社員は契約期間に定めのない無期雇用なのが契約社員との違いとなります。 有期契約社員にはデメリットしかないと思われがちです。正社員を雇用せず契約社員にする理由はどこにあるのでしょうか…
詳しくみるバランススコアカード(BSC)とは?4つの視点や効果、作成方法まで解説
企業が業績を伸ばし、継続的な成長を続けるためには、複数の観点による多面的な状況把握が必要です。財務や顧客など、ひとつの観点からの評価のみでは正確に状況を把握することは困難でしょう。 当記事では、経営戦略を効率的に推進するために役立つバランス…
詳しくみるKKDとは?見積りのフレームワークは仕事でどう活用する?
KKDとは「経験・勘・度胸」のことで、日本の製造業で古くから重視されてきた手法です。KKDによる判断は的確で失敗も少ないと評価される一方、論理性や客観性のなさを指摘されることも多く「KKDは古い」との声もあるようです。 本記事では、KKDの…
詳しくみる自己啓発とは?目的やメリット・デメリットを解説!
自己啓発とは自分のスキル・能力を向上させるための取り組みを指します。従業員が自己啓発を行うと効率的に業務ができたり高い技術を要する作業ができたりと、仕事にも良い影響を与えます。企業の成長・発展にもつながるため、奨励する制度を設けるなど、従業…
詳しくみるマネジメント経験とは?求められる基準や役職経験がない場合のアピール方法を解説!
企業が求める人材の中で、マネジメント能力は重要な要素の一つです。しかし、「マネジメント経験」という言葉の意味は必ずしも明確ではありません。単に管理職を経験したことだけでなく、プロジェクトの統括や部下の育成なども含まれます。本記事では、マネジ…
詳しくみる復職制度とは?カムバック、ジョブリターンの意味やメリット、注意点を解説!
日本の総人口の減少と少子高齢化の進展にともなう労働力人口の減少により、採用に頭を悩ませる企業の数が増加しています。そのような中、過去に退職した従業員を再雇用することで必要な人材を確保する対応が注目を浴びています。 今回は、退職した従業員を再…
詳しくみる