- 更新日 : 2025年1月10日
パワハラ対策が義務化!企業がとれる対策や成功事例を解説
パワハラ対策が義務化されたことに伴い、多くの企業がその重要性を認識するようになりました。パワハラは職場環境を悪化させるだけでなく、従業員のやる気や生産性に深刻な影響を与えるため、適切な対策が重要です。本記事では、安心して働ける職場環境を築けるよう、
企業向けの具体的なパワハラ対策や成功事例などを解説します。
目次
パワハラ防止法により、パワハラ対策は義務化している
2020年6月から大企業、2022年4月から中小企業も含めすべての事業主に対して、職場におけるパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務化されました。企業は、パワハラ行為に厳しく対処する姿勢を示し、安心して働ける職場環境を整えることが求められています。
パワハラに関する方針の明確化及びその周知・啓発
パワハラに関する方針の明確化は、企業が健全な職場環境を維持するために不可欠です。まず、企業は職場におけるパワーハラスメントの内容および禁止に関する方針を決定し、社内報やメール、掲示板などを通じて管理監督者を含む労働者に周知することが重要です。さらに、パワハラ防止の啓発活動によって、ポスターやパンフレットを作成し、職場内の目に触れる場所に掲示し、意識の向上を図ります。
また、新入社員向けのオリエンテーションや定期的な研修を通じて、パワハラの具体例やその影響について学ぶ機会を設けましょう。
パワハラの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
パワハラの相談を適切に対応するために、企業体制を整えることが不可欠です。まずは相談窓口を設置し、その担当者の役割を明確にします。あらゆるタイプの相談内容に応じた適切な対応ができるよう、十分な研修を受けさせる必要があるでしょう。
次に、相談窓口の存在を全従業員に周知し、気軽に相談できる環境を整えましょう。相談者のプライバシーを守りながら、迅速かつ公正な調査を行う体制を確立することで、信頼性のあるサポートが提供できます。
職場のパワハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応
パワハラの相談を受けたら早急に事実確認を行います。被害者からの具体的な情報を聞き取り、メールやメッセージなど関連する証拠を収集しましょう。その後、加害者にも事情を聞き、公正な立場で事実を明らかにします。
パワハラに関する情報を集めたあとは、パワハラの有無を判断し、必要に応じて調査報告書を作成します。パワハラが認められた場合は、被害者の意向を踏まえ、被害者と加害者の間の関係改善に向けての援助、被害者と加害者を引き離すための配置転換、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応などの措置を講じます。それと同時に、加害者に対しても適切な処分を行うことも重要です。処分内容は企業の就業規則に基づき、適正な範囲で判断します。
最後に、再発防止策を講じることが不可欠です。全従業員への研修や啓発活動を通じて、パワハラのない職場環境を目指しましょう。
パワハラ対策を怠った場合のリスク
パワハラ対策を怠ることは、企業にとってさまざまなリスクを伴います。従業員のメンタルヘルスの悪化や離職率の上昇、さらには法的なトラブルを引き起こす可能性もあるでしょう。パワハラ対策を怠ると、企業の信頼性や業績にも悪影響が及ぶため、適切な対策が不可欠です。
職場環境の悪化による生産性低下
職場環境の悪化は、従業員の生産性に深刻な影響を及ぼします。コミュニケーション不足や過重労働、不当な評価が続くと、従業員はストレスを感じ、モチベーションが下がる傾向です。例えば、チーム内での情報共有が不十分となると、誤解やミスが生じやすくなり、業務の効率が悪化します。他にも、厳しいノルマやパワハラが横行する職場では、従業員のメンタルヘルスが損なわれ、欠勤や離職が増えるでしょう。
さらに、生産性の低下は企業の競争力にも影響を与えます。プロジェクトの進行が遅れたり、品質が低下したりすることで、顧客からの信頼を失い、売上にも悪影響を及ぼす可能性があります。
このように、職場環境の改善は生産性向上に直結するため、企業は快適で協力的な職場を築くことが重要です。
離職率の増加と優秀な人材の流出
パワハラでは、従業員のモチベーションも大きく影響を受けます。自分の努力が評価されないと感じると、仕事への意欲が失われ、他の従業員も「自分も同じ目に遭うかもしれない」と不安を抱えるようになるためです。結果として、職場全体の雰囲気が悪化し、さらなる離職を引き起こす悪循環が生まれます。優秀な人材が流出する可能性が高くなるでしょう。
このような事態にならないよう、企業はパワハラを原因とした人材の流出を防ぐために、パワハラ対策を強化しなくてはなりません。このような取り組みをすることで、従業員の定着率を高め、生産性向上につなげることが可能です。
訴訟や行政指導による企業の信用低下
パワハラに関する訴訟や行政指導は、企業の信用低下を招く大きな要因です。パワハラが発覚すると、企業は社会的責任を問われ、信頼性が損なわれます。特に、メディアに取り上げられると、消費者や取引先からの評価が下がり、業績にも悪影響を与えるでしょう。
また、パワハラ防止法に基づく行政指導を受けた場合、企業名が公表される可能性があります。企業名の公表により企業のブランドイメージが下がり、新たな顧客や優秀な人材の獲得が難航することも考えられます。さらに、パワハラが原因で訴訟が提起され、損害賠償請求が認められる場合、企業にとって経済的負担が増加し、経営に深刻な影響を与える可能性があるでしょう。
このように、企業がパワハラ問題による訴訟や行政指導に絡んでしまうと、企業の存続にも関わります。信用を守ることを意識しながら、持続的な成長を目指すことも重要です。
企業ができるパワハラ防止対策
パワハラは職場環境を悪化させ、従業員のモチベーションや生産性に深刻な影響を与えます。企業がこの問題に真剣に取り組むことは、健全な職場づくりに不可欠です。ここでは、企業の信頼性向上につながるパワハラ防止対策について解説します。
パワハラ防止に関する研修や教育を実施する
パワハラ防止に関する研修や教育は、企業が健全な職場環境を維持するために欠かせない取り組みです。従業員は研修を通じてパワハラの定義や具体的な事例を学ぶことで、無意識のうちに行っている行動がパワハラに該当する可能性を認識できるようになるでしょう。
特に、管理職といったリーダーを担う立場にある人たちの場合、研修で適切なコミュニケーションスキルや指導法を身につけることによって、職場内の雰囲気を改善し、従業員が安心して意見を言える環境づくりを実現できます。
研修実施後には、フィードバックやアンケートを実施することで参加者の理解度や感想を把握し、次回の研修に活かしましょう。研修を定期的に行うことは、企業全体でパワハラ防止への意識が高め、安心して働ける職場環境を整えるための近道です。このような取り組みは、従業員の定着率向上や生産性向上にも寄与し、企業の成長につながります。
就業規則などでパワハラに関するルールを明確化する
就業規則にパワハラ禁止の条項を追加することで、従業員は何が許されているのか、何が禁止されているのかを明確に理解できます。このような対応によって、パワハラ行為を未然に防ぎ、安心して働ける環境を整えることが可能です。具体的には、パワハラの定義や禁止行為を明記し、それに違反した場合の懲戒規定も併せて定める必要があります。
パワハラ相談窓口を設置する
2020年のパワハラ防止法施行により、大企業にはパワハラ相談窓口の設置が義務付けされ、中小企業の設置については、2022年4月から義務化されています。こちらの窓口は、従業員がパワハラについて気軽に相談できるとともに、パワハラ問題を早期に発見し対処する機能を担っています。
なお、相談窓口では基本的に所定の研修を受講した人が担当者となっているため、相談者の心情に配慮しているのが特徴です。話した内容に関しては秘密が厳守されるため、従業員は周りのことを恐れず利用できます。
相談窓口の担当に関しては、社内で選任することも外部に委託することも可能です。外部委託の場合、パワハラに関する知識が豊富な知識を持つ専門家が担当する場合があるため、中立的な立場からの適切なアドバイスを受けられる期待が見込まれるでしょう。
匿名のアンケートなどを定期的に行う
パワハラや人間関係に関する悩みは、直接話すことが難しく、本音を伝えたくても伝えられないことが多いかもしれません。そんなときにおすすめなのが、アンケートを匿名で実施することです。アンケートでは職場の雰囲気やコミュニケーションの質、パワハラの実態について質問を設けます。回答があったアンケートをもとにデータを分析することで、「どの部署でどのような課題があるのか」がわかるので、問題解決に向けて具体的な対策を立てやすくなるでしょう。
また、定期的に匿名アンケートを実施することで、改善策がどれだけ効果を上げているかを測定することも可能です。従業員は自分たちの意見が反映されていると感じることで、企業への信頼感がさらに高まります。
社内のコミュニケーションを円滑にする
パワハラ対策の一環として、社内のコミュニケーション文化を育むことが挙げられます。例えば、定期的なミーティングやチームビルディング活動を通じて、従業員同士が意見を自由に交換できる場を設けると、お互いの理解がより深まり、信頼関係が築かれやすくなります。このような取り組みを継続すると、各々が良いパフォーマンスを生み出すことができ、企業全体の活力が向上するでしょう。
企業のパワハラ対策の成功事例
企業のパワハラ対策に真剣に取り組みたいという場合、ご参考として成功事例を知りたいという人もいることでしょう。ここでは、企業のパワハラ対策の成功事例について紹介します。
事例1:アンガーマネジメント研修の継続的な実施でパワハラ撲滅を目指す
大企業におけるパワハラゼロを実現した成功事例として、セイコーエプソン株式会社の取り組みが挙げられます。同社は2015年から全「アンガーマネジメント研修」を導入し、これまでに1.3万人以上が受講しました。なお、この研修は、怒りの感情を適切に管理し、パワハラを未然に防ぐためのスキルを学ぶことを目的としています。
同社の研修は階層別や職場別に実施されており、全経営層が受講必須です。リーダーが率先して学ぶことで、職場全体に良い影響を与えやすくなったそうです。研修を継続的に実施した結果、パワハラの発生を大幅に減少させる結果につながり、企業全体の生産性向上にも貢献しています。
また、継続的なパワハラ対策の取り組みが高く評価され、同社は2023年6月に一般社団法人日本アンガーマネジメント協会が主催する「第1回アンガーマネジメント経営賞」を受賞しました。
事例2:保健師にと外部EAP機関の2つ相談機関の設置で相談しやすい環境を提供
株式会社モスフードサービスは、パワハラ防止策として保健師が相談窓口として対応する「健康相談室」を設置し、相談対応の時間と場所を決定したうえで相談できる仕組みを構築しました。なお、相談窓口は人事部門とは独立して運営されており、従業員が安心して利用できる環境を提供しています。
さらに、外部のEAP機関による電話相談窓口も設けており、従業員がいつでも相談できるような環境を整えています。この取り組みによって、従業員は気軽に悩みを相談できるようになり、パワハラの発生件数が減少しました。
(※)Employee Assistance Programの略称
個人でできるパワハラ防止の対策
個人でできるパワハラ防止の対策として、まずは自分自身の行動を見直すことが大切です。ここではお役立ちの対策について解説します。
管理者の対策:加害者にならないための意識と行動
管理者が、パワハラ加害者にならないためにすることは、パワハラのことを十分理解することです。特に、自らの言動が他者にどのように影響を与えるかを常に考えることが重要であり、部下に対する指導やフィードバックの際に相手の気持ちや立場を尊重することを意識しましょう。自分の価値観を押し付けないことも大切です。多様な価値観やバックグラウンドを持つ従業員がいる職場では、相手の意見や感情を理解し、共感することも大切です。
さらに、外部研修やワークショップに参加することで、パワハラ防止に関する知識を深めることも効果的です。これらの取り組みを重ねることで、管理者自身がパワハラ防止の担い手となり、健全な職場環境の維持に貢献します。意識的な行動と自己反省が、パワハラを未然に防ぐ鍵となるのです。
部下の対策:被害を防ぐためのコミュニケーション方法
立場上、部下はパワハラの被害になりやすいため、相手に対して自分の気持ちや考えを率直に伝える「アサーティブコミュニケーション」の活用をおすすめします。例えば、「私にとってあなたの言動が○○だと感じます」といった具体的な表現を使うことで、相手に自分の気持ちを理解してもらいやすくなります。
また、日常的にオープンな対話を心がけることが大切です。上司や同僚とのコミュニケーションを定期的に行うことで、信頼関係が深まります。困ったことがあれば早めに相談する姿勢も重要です。問題を小さいうちに解決することで、大きなトラブルを未然に防げるでしょう。これらの取り組みを日頃から意識することで、自身でパワハラから身を守ることができます。
早期に相談・記録を取ることを意識する
パワハラを受けた場合、まずは信頼できる同僚や上司に相談することで、状況を客観的に見てもらい、適切なアドバイスを受けることができます。つまり、早期の相談は、問題が深刻化する前に対策を講じる手助けとなるでしょう。さらに、具体的な出来事を記録することも大切です。日時、場所、発言内容などを詳細にメモすることで、後々の証拠として活用できます。記録した内容は、社内での解決を図る際や法的手続きが必要になった場合にも役立ちます。特に、パワハラは陰湿な形で行われることが多いため、他人の目に触れにくいため、証拠を残しておきましょう。
対策を立てることがパワハラの防止につながる
今回は、パワハラの対策について解説しました。「対策」と聞くと、つい何か事が起きてからのことと考えてしまいがちです。しかし、パワハラに関しては、十分に対策をすることで防ぐことが可能です。
自分の身を守る対策も、広い目で見れば相手や周りの人のことも守ることにつながります。自分や自社に合った正しい対策を立て、職場の環境と個人の尊厳を守りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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