- 更新日 : 2024年11月22日
固定時間制とは?デメリットや変形労働時間制との違い、残業の場合を解説
企業にとって労働時間の管理は、働きやすい会社づくりに欠かせない要素の一つです。これから固定時間制の導入を検討している方も多いのではないでしょうか。本記事では、固定時間制のメリット・デメリットに加え、変形労働時間制との違いや残業の計算方法などについて詳しく解説していきます。
目次
固定時間制とは?
固定時間制とは、法的に規定された用語ではなく、企業が独自に定める毎日の始業・終業時間を一定とする働き方のことです。勤務時間が固定されていることから、実務の現場では「標準労働時間制」とも呼ばれることもあります。
労働基準法では、厳格な法定労働時間の弾力化として変形労働時間を定めていますが、それ以外の労働時間制度と認識されているのではないでしょうか。これにはさまざまなメリットがあると考えられており、現在、多くの企業で導入されています。例えば、「9時〜18時」といったように、始業時刻と終業時刻が明確に定められているケースが代表的な働き方とです。
固定時間制を導入している企業の割合
厚生労働省が2023(令和5)年に実施した「令和5年就労条件総合調査」によると、調査に応じた約6,400社のうち、約40%の企業が固定労働制を採用していることが明らかとなっています。この割合は、前年の2022(令和4)年の調査から4%ほど増えており、固定時間制を選択する企業が緩やかに増加していることがわかるでしょう。
固定時間制のメリット
固定時間制は、企業と従業員双方にさまざまなメリットをもたらす労働時間制度です。特に、労務管理の効率化、賃金計算の簡素化、そして従業員のワークライフバランスの向上という点で、その効果を発揮します。以下、それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
労務管理がしやすい
固定時間制では、従業員全員が同じ時間に始業・終業するため、シフト管理が非常に簡単です。これにより、人事担当者は、出勤簿の作成や勤怠管理といった労務管理業務を効率的に行うことができます。
また、人事評価や給与計算の基礎となる勤務データの集計もスムーズに行えるため、人事担当者の負担を軽減するといった効果も期待できるでしょう。
賃金計算がしやすい
固定時間制では、法定労働時間に対する実労働時間も明確であるため、煩雑な手間がかからず、割増賃金も含めて賃金計算も容易です。これにより、賃金計算にかかる時間を大幅に削減し、給与計算ミスの未然防止に大きく貢献します。
ワークライフバランスが確保できる
固定時間制では、従業員が仕事とプライベートの時間を明確に分けることができます。毎日同じ時間に始業・終業するため、生活リズムが安定し、プライベートの時間を充実させることができるでしょう。
また、事前に予定を立てやすいというメリットによって、従業員の満足度向上や離職率の低下につながることが期待できます。さらに、ワークライフバランスが向上することで、従業員の健康状態の改善にもつながり、結果として企業全体の生産性向上の実現も期待できるでしょう。
固定時間制のデメリット
固定時間制は、メリットの多い労働時間制度ですが、一方でデメリットも存在します。特に、業務量の変動への対応の難しさ、イレギュラーな事態への対応の遅れ、そして従業員の育成機会の減少などの点がデメリットとして考えられるでしょう。ここからは、それぞれのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
業務量の変動に対応しにくい
固定時間制では、業務量が急増しても、従業員は決められた時間内で作業を完了させなければなりません。そのため、残業が発生しやすく、従業員の負担が増加する可能性があります。
また、業務量が減少した場合でも、従業員は時間いっぱいまで勤務しなければならないため、人件費の無駄遣いになることもあるでしょう。業務量の変動が著しい業種では、固定時間制は必ずしも適していません。
緊急な対応が難しい
固定時間制では、従業員が全員同じ時間に退勤するため、緊急事態が発生した場合に、対応できる人員が限られてしまうことがあります。例えば、自然災害やシステムトラブルが発生した場合、すぐに対応できる従業員が誰もいないという状況に陥るでしょう。
また、顧客からの問い合わせやトラブルに対しても、営業時間外に迅速に対応することが難しく、顧客満足度の低下につながる可能性があります。
教育や研修時間が確保しにくい
固定時間制では、従業員が全員同じ時間に勤務するため、教育や研修の時間帯を確保することが難しい場合があります。特に、全社一斉に行う研修などは、業務に支障が出ないよう、時間帯を調整する必要があるため、結果的に勤務時間外に開催せざるを得ない場合も少なくありません。
また、個別の指導や相談を行う時間も限られてしまうため、従業員の育成が遅れることも想定されます。
固定時間制と変形労働時間制との違い
固定時間制と変形労働時間制は、どちらも労働時間に関する制度ですが、大きな違いが3つあります。
まず固定時間制は、毎日同じ時間に始業し、同じ時間に終業する、つまり労働時間が固定されている制度です。一方、変形労働時間制は、労働基準法が定める法定労働時間に柔軟に対応するために、特定の日や週に1日8時間、1週40時間を超えていても、一定期間で平均して法定労働時間内に収まっていれば、時間外労働とはしない制度です。例えば、繁忙期には長時間労働、閑散期には短時間労働といった働き方が可能です。
次に、固定時間制は、従業員の生活リズムが安定しやすく、シフト管理がしやすいというメリットがある一方で、変形労働時間制は導入に労使協定と労働基準監督署に届出が必要になるほか、労働時間管理が複雑になるというデメリットを抱えています。
最後に、業務量の変動に対して、固定時間制は迅速な対応が難しい一方で、変形労働時間制では、急な変動にも柔軟に対応できるという点が強みとなっています。
固定時間制での残業の計算方法は?
固定時間制における残業の計算方法は、労働基準法に基づいて行われます。ここからは、法定時間を軸として、残業時間の計算方法や賃金の割増率について解説しましょう。
法定時間内での残業の場合
原則として、法定労働時間(8時間)内での残業に対しては、割増賃金の支払義務はありません。そのため、通常の時間給換算で残業した時間分の賃金を支払うことが一般的です。ただし、企業と労働組合の間で締結された36協定によって、法定労働時間内での残業についても割増賃金を支払うことが合意されている場合があります。
法定時間外での残業の場合
法定労働時間を超えて残業した場合には、労働基準法第37条にのっとり、原則として所定労働時間に支払われる賃金の1.25倍以上の割増賃金を支払わなければなりません。例えば、通常、1時間あたりの時間給が1,500円の従業員が、時間外労働をした場合、残業1時間あたり1,875円以上が支給されなければならないのです。
1日8時間、週40時間と定められた法定労働時間を超えて、従業員を働かせる場合、先述の36協定の締結と、割増賃金の計算ルールを就業規則等に明記することが必要となってきます。ただし、時間外労働が夜10時以降や休日に発生した場合は、割増率のルールが異なるため注意しましょう。
残業時間が月60時間を超えた場合
労働基準法では、1カ月間の時間外労働時間が原則として45時間を超えることは禁止されています。ただし、36協定を締結し、労働者の過労を防ぐための措置を講じることで、この上限時間を超えて残業させることが認められる場合があるので、詳細について確認しましょう。
労働基準法第37条にて、月60時間を超えた残業に対しては、通常賃金より50%以上割り増しした賃金を支払うことが義務付けられています。例えば、月40時間以上60時間未満の残業に対しては、25%以上の割増率が適用され、月60時間以上の残業には、50%以上の割増率が適用されます。
ちなみにこのルールは、2023年3月までは大企業のみが対象となっていましたが、2023年4月より中小企業も適用となっており、企業規模にかかわらず、残業に対しては定められた割増賃金を支払うことが義務付けられています。
深夜に残業した場合
まず、深夜労働(午後10時から翌朝5時まで)については、残業の有無にかかわらず、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払うことが、労働基準法第37条4項にて義務付けられています。深夜の時間帯に残業が発生した場合、割増率は重複して適用となるため、下記のように割り増しされた賃金の支払いが生じます。
休日に労働した場合
休日労働については、残業の有無にかかわらず、通常賃金の35%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。ここで注意すべき点は、割増賃金の支払い義務が生じるのは、あくまでも「法定休日」に働いた場合であるということです。
労働基準法では、企業は自社の従業員に対して、1週間のうち最低1日(または4週間を通して4日以上)の休日を付与する義務があります。この休日が「法定休日」です。一方、「所定休日(法定外休日)」という休日は、企業が独自で定めた休日を指します。例えば、週休3日制の企業の場合、1日が法定休日、残り2日が所定休日となり、このうち法定休日に労働した場合に限り、35%以上の割増賃金が適用されるのです。
ただし、法定休日の労働は、法定労働時間を超えて働いても残業とはみなされません。そのため、6時間働いても、12時間働いても、労働時間に対し35%以上の休日割増賃金が支給されるのです。労働時間が午後10時から翌自治午前5時の深夜帯に及んだ場合のみ、休日手当(35%)+深夜手当(25%)=割増率60%以上の賃金が生じます。
固定時間制の導入方法
固定時間制を導入する際には、いくつかの準備作業が必要です。特に、就業規則の変更、労働時間の管理体制の整備、そして全社への周知徹底が重要です。ここからは、固定時間制導入を円滑に進めるためにおさえておくべき3つのステップについて、解説していきます。
就業規則の変更手続きを行う
固定時間制を導入するためには、まず、会社の就業規則を変更する必要があります。就業規則には、労働時間、休憩時間、休日など、労働条件に関する重要な事項が定められおり、固定時間制を導入する場合、これらの項目を具体的に記載しなければなりません。就業規則の変更手続きは、労働基準監督署への届出が必要となる場合もありますので、事前に確認しておきましょう。
初めて就業規則を作成する場合は、一般的な必要事項が網羅されたテンプレートを活用すると効率的に作業を進めることができます。下記リンクよりダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
就業規則(ワード) テンプレート | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
労働時間の管理体制を整備する
固定時間制を円滑に運用するためには、労働時間の管理体制を整備することが不可欠です。厚生労働省では、労働時間の管理体制づくりの際には、以下の3点に注意しながら取り組みを進めることを推奨しています。
- 勤怠ルール
勤怠記録は、タイムカードやICカードなどの客観的な記録を、原則基本情報とすること。やむを得ず自己申告制による勤怠管理を行う場合は、別途ガイドラインの作成や実態調査・報告が速やかにできる体制づくりなどの対策を講じること。 - 労働記録の保存
従業員の労働時間を正確に記録するための賃金台帳のほか、労働者名簿・出勤簿・タイムカードなどの労働時間を記録した書類は、適切な管理に努め、3年間(※書類ごとの最後の記載がなされた日から起算)は保存すること。 - 社内体制の整備
労働時間の管理責任者や労働時間等設定改善委員会を設置し、常に社内の労働状況のモニタリングと改善活動が行える体制を整えること。始業時刻、終業時刻、休憩時間などを明確に定め、従業員に周知徹底させること。
また、遅刻や早退などの際の対応についても、具体的な事例に対応したルールを設定すること。
社内に周知する
固定時間制を導入する際には、従業員全員に周知徹底することが重要です。従業員が新しい制度について理解していないと、トラブルの原因になる可能性があります。そのため、導入前に、全社説明会を開催したり、社内報で周知したりするなどの取り組みを行いましょう。また、就業規則や賃金規定は、すべての従業員がいつでも閲覧できる状態で管理し、社内ルールにスムーズにアクセスできる環境づくりも大切です。相談窓口を設けるなど、従業員の抱える疑問や不満を解消する仕組みづくりも行うとよいでしょう。
固定時間制が効果を発揮するためには、丁寧で慎重な導入プロセスが不可欠!
固定時間制を導入することで、企業は生産性向上や従業員のワークライフバランス実現といったポジティブな効果を得ることが期待されます。
導入を成功させるためには、就業規則の見直しや労働時間の管理体制の整備、従業員への周知徹底といった事前準備が重要です。また、導入後の運用段階では、労働時間の遵守や残業時間の適正な管理、従業員の意見聴取を徹底することで、新ルールが社内に定着し、安定的な運用へとつながっていきます。
労働時間に関するルールの変更には、さまざまな法律を遵守することが求められるため、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、丁寧に進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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