- 更新日 : 2025年1月10日
パワハラとの言いがかりは名誉毀損になる?相談先や冤罪の防止策を解説
パワハラの言いがかりは、名誉毀損に該当する場合があります。本記事では、パワハラ冤罪(えんざい)に直面した際の相談先や、言いがかりを防ぐための具体的な対策を解説します。本記事は、人事労務担当者やビジネスパーソンにとって、パワハラ問題解決に向けて適切な対応方法を知れる重要な情報源となるでしょう。
目次
パワハラだと言いがかりをつけられたら、名誉毀損で訴え返せる?
民事で名誉毀損が成立する条件
実際にはパワハラが行われていないのに、「パワハラをされた」という言いがかりをつける行為は「名誉毀損(他人の名誉や評価を傷つける行為)」とみなされる可能性があります。
民事(個人や法人の間で発生する法律上の権利や義務に関する紛争を解決するための法的手続き)の場合、名誉毀損は以下の条件で成立します。
- 事実の提示だけでなく、意見や論評でも成立できる
- 故意だけでなく、過失による場合も含まれる
- 社会的評価を低下させる行為である
- 公然性がある
名誉毀損性を満たしていなければ、不法行為に基づく損害賠償請求の対象とならず、慰謝料や名誉回復措置(謝罪広告や取り消し訂正記事の掲載など)はできません。
民事での名誉毀損と認められた場合は、慰謝料の支払い、謝罪広告、表現の削除などを求めることができます。
刑事で名誉毀損罪が適用されるケース
名誉毀損は警察や検察と個人との間で行われる法的手続きの場合、以下の条件で成立します。
- 公然と行われること
- 具体的な事実を提示すること
- 人の名誉を毀損すること
- 事実の真偽は問わない
具体例として、以下の行為が挙げられます。
- SNSなどインターネット上への投稿
- 会議室や公共の場での発言(複数人が認識できる状態)
- 特定のグループチャットでの発言(他者に伝わる恐れがある)
刑事の名誉毀損においては、基本パワハラが事実無根であり、当人の社会的評価を低下させたことが条件となっています。
ただし、注意点もあります。
- 1対1のメールやDM(ダイレクトメール)は原則として公然性を満たさない
- 被害者による告訴が必要(親告罪)
- 告訴期限は犯人を知った日から6カ月以内
- 公訴時効は犯罪行為終了から3年間
名誉毀損罪が成立した場合、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が課される可能性があります。
パワハラの冤罪とは
パワハラの冤罪とは、実際にはパワハラが行われていないにもかかわらず、「パワハラ」として告発されるケースのことです。
パワハラ冤罪例として、以下のようなものがあります。
- 実態のない告発→パワハラの事実がないのに、嫌がらせや個人的な恨みが要因で告発される)
- パワハラ冤罪による逆パワハラ→部下から上司に対して行われるケースもある
- 誤解や勘違い→パワハラ定義の曖昧さから勘違いや誤解によって冤罪の疑いをかけられることがある
パワハラの冤罪が増えている背景とは?
パワハラの冤罪は、主に以下の背景が要因といわれています。ここでは職場によくあるパターンを踏まえて紹介しましょう。
- パワハラの定義が曖昧→正当な業務指導や命令がパワハラと誤解される可能性がある
- コミュニケーション不足→些細な言動が誤解を招きやすい
- パワハラへの社会的関心の高まり
- 証拠の不足→パワハラの証拠は集めにくく、一方的な訴えや感情のみで判断されやすい
- 職場環境の問題→個人の性格よりも職場環境の問題がパワハラ冤罪の要因となることがある
- パワハラに関する知識の偏り→パワハラという言葉だけが一人歩きし、正確な内容を十分に理解していない人も存在する
特に各人のパワハラに関する知識の偏りは、パワハラ冤罪を多く生み出す要因となりやすいでしょう。
「きつく当たられた」「叱責を受けた」など個人の感覚や感情で「パワハラである」と決めつけてしまうこともあるようです。
よくあるパワハラ冤罪の具体例
パワハラの冤罪の具体例について紹介します。
■ 業務指導の誤解
- 上司が部下の業務ミスを指摘し改善を求めたところ、部下から「パワハラ」と訴えられてしまう
- 締め切りを守るよう注意したところ、過度なプレッシャーだとして訴えられる
■ コミュニケーションの行き違い
- 上司の冗談が誤解され、攻撃として訴えられる
- 業務上の指示が、人間関係からの切り離しと誤解される
■ 評価への不満
- 正当な人事評価に対して不満を持った部下がパワハラとして訴える
- 昇進や昇給の見送りに対して、不当な扱いだとパワハラを主張
■ 過度な要求の誤解
- 業務上必要な残業の指示が過大な要求として訴えられる
- 新しい業務や責任の割り当てが能力を以上の要求だとして訴えられる
どれも「冤罪」であると知っているのであれば、些細なこと、または小さな誤解かもしれません。しかし、実際の業務の中では個人の心情や置かれている環境や状況によっては、「これはパワハラである」と認識される場合があります。
パワハラが言いがかりだと証明する方法
部下からパワハラであると言いがかりをつけられた上司や会社は、そのパワハラが事実無根であることを証明しなければなりません。ここでは、パワハラが事実無根であることを証明する方法について確認します。
パワハラの立証責任は労働者側にある
まず、言いがかりをつけられたのが上司や会社であれば、立証責任は部下や労働者側にあるということになります。身に覚えのないパワハラの疑いをかけられると、焦りや恐怖から自身の潔白を証明や立証したいという気持ちになるかもしれません。しかし、パワハラを行っていない場合、ただ「パワハラを行っていない」という立証だけでは困難です。
証拠を収集してパワハラの言いがかりを退ける方法
パワハラの疑いをかけられた場合、言いがかりを退けるために以下の準備を行います。
- 記録済みのコミュニケーションを提示する
- 業務記録を提示する
口頭でのやり取りは、双方で主張が異なることがあり、解決までに時間を要することがあります。特にパワハラと誤解されやすい指示や指導は、日頃からメールやチャットでやり取りするのが適切です。会議や面談など対面での会話が必要な場合は、可能な限り議事録を残し、相手の許可を取ったうえで音声を残しておきましょう。
さらに、部下の業務パフォーマンスや態度に関することは文字にして記録を残すことをおすすめします。
第三者による証言や書類で事実関係を明確にする
パワハラの言いがかりをつけられた際に頼りになるのが、第三者による証言や証拠となる書類です。以下のような行動をし、書類をそろえておくと、パワハラの言いがかりから回避しやすくなります。
- 同僚や他の部下からの証言を集める
- パワハラとされる場面を目撃した人がいれば、その証言を得る
- 日頃の指示や指導、パフォーマンスや評価についての書類
- 医療関係の書類(ストレスチェックの結果や産業医の所見)
- 日記やメモ(パワハラではない行動の記録)
- 会社のハラスメント防止規定の遵守を示す書類
なお、日記やメモについては、主観的でない内容にしておくと効果的です。
パワハラだと言いがかりをつけられた場合の相談先
実際にパワハラだと言いがかりをつけられた場合は、適切な相手へ相談すると解決がスムーズです。相談する際は、証拠となる書類や記録を用意する、冷静かつ論理的に事実関係を説明する、パワハラの事実がない場合は安易に認めないの3点に注意しましょう。詳細は次の通りです。
まずは信頼できる同僚に相談する
まずは、一緒に働いている同僚や上長へ相談します。日頃から自分を理解してくれている人への相談がおすすめです。
さらに、上長や他部署の人も含め、第三者の視点で自身の潔白を証明してもらえそうな人を探すことも重要です。
日頃の自分をあまり知らない人に相談すると、自分の意に反した形で情報が伝わる可能性があります。パワハラの相談は公平な視点を持つことを意識しましょう。
社内の相談窓口を利用するメリット
パワハラ冤罪に直面した際、社内の相談窓口を利用することには大きなメリットがあります。ここでは主なメリットについて解説しましょう。
- 相談員が会社の状況をよく理解している
例えば、「あの部署は昔からストレスの度合いが高い」といった情報を踏まえて、より適切なアドバイスが得られる可能性が高まります。 - 会社と連携を取りやすい
社内にパワハラの担当窓口があると相談員が会社側と連携を取りやすく、社内の状況調査もスムーズに行えます。そのため、冤罪の真相解明が迅速に進み、問題の早期解決がしやすくなるでしょう。 - 社内の啓発活動につながる
パワハラ防止に関する研修や情報提供を行うことで、職場全体の意識向上につながり、冤罪のリスクそのものを減らすことができます。 - 産業医との連携が取りやすい
社内に相談先を設置すると、専門の産業医などの産業保健スタッフとの連携が取りやすくなります。メンタルヘルスの観点からも適切なサポートが受けられることで、不当なパワハラの申し立てによるストレスへの対処も期待できるでしょう。
社内相談窓口は単なる相談の場にとどまらず、不当なパワハラの申し立てを防止し、パワハラの申し立ての防止と解決に向けた包括的なサポート体制としても機能しています。
弁護士に相談して法的なアドバイスを受ける
不当なパワハラの申し立てがなされたとき、弁護士に相談することは有効な選択肢です。弁護士は法律の専門家として、当人の状況を客観的に分析し、最適な対応策を提案してくれます。
- パワハラに該当するかを判断できる
弁護士は法的な観点から、あなたの行為がパワハラに該当するかどうかを判断します。「これは業務上の正当な指導の範囲内です」など専門的な見解を得られることで、自信を持って対応できるようになります。 - 専門家からのアドバイスがもらえる
弁護士は証拠の収集や保全方法についてもアドバイスしてくれます。例えば、「メールのやり取りや業務日誌を保管しておきましょう」といった具体的な指示により、後の交渉や訴訟に備えることができます。 - 交渉や話し合いに力を貸してくれる
会社との交渉や話し合いの際にも、弁護士の存在は心強い味方となります。「この対応は法的に問題があります」といった専門的な意見を述べてもらうことで、会社側の不当な要求を抑止する効果も期待できます。 - 訴訟へのスムーズな対応ができる
訴訟に発展した場合、早い段階から弁護士に相談していれば、スムーズに対応できます。「この証拠が重要になります」など、訴訟戦略を立てるうえで有利になります。
このように、弁護士への相談は単なる法的アドバイスにとどまらず、不当なパワハラの申し立てへの総合的な対策として非常に有効です。不安を感じたら、早めに専門家のサポートを受けることをおすすめします。
パワハラの冤罪の防止策
日頃の業務の中で、伝えなければならない指摘や指導はあります。しかし、誤解を恐れると、接し方に関して悩むこともあるでしょう。。
以下では、そもそも不当なパワハラの申し立てをされないよう防止するために日頃から実践できる対策について紹介します。
日常的に行うべきコミュニケーション改善策
パワハラの冤罪を防ぐためには、以下の改善策を考えなくてはなりません。
- 日頃のコミュニケーションの見直し
職場でのパワハラ冤罪を防ぐには、日々のコミュニケーションを見直すことが大切です。まず、明確で具体的な表現を心がけましょう。ただ単に「頑張って」ではなく、「来週の月曜日までにレポートを完成させてください」というように具体的に伝えることで誤解を防ぐだけでなく、コミュニケーションの活性化につながります。 - 透明感のあるオープンなコミュニケーション
透明性のあるオープンなコミュニケーションを実践しましょう。情報を隠さず共有し、決定プロセスを明確にすることで、不信感や誤解を軽減できます。 - 定期的なフィードバック
定期的なフィードバックも重要です。月1回といった定期的な面談を設け、そこで良い点と改善点を具体的に伝えれば、厳しい指摘によるトラブルを避けられます。 - 相手の立場や感情を考慮する
相手の立場や感情を考慮することも忘れてはなりません。共感を示しながら接することで、相手の気持ちを理解し、適切な対応ができます。 - 相手の意見も尊重する
自分の意見だけでなく、相手の意見も尊重するコミュニケーションスキルを身につけましょう。「あなたの意見はこういうことですね」と相手の言葉を要約して確認すると、お互いの理解が深まります。 - 相手の言葉の背景を想像する
相手の発言の裏にある意図や状況を理解することで、適切な対応策を考えることが重要です。例えば、「この仕事は難しい」という言葉の裏に、「もっと詳しい説明が欲しい」という要望があるかもしれません。言葉の奥にある真意を探ることで、より良いコミュニケーションが可能になります。
これらの改善策を日常的に実践することで、不当なパワハラの申し立てのリスクを減らし、より健全で生産的な職場環境を整えることができるでしょう。
「パワハラ防止のための研修やガイドラインの活用
パワハラ防止のための研修やガイドラインの活用は、健全な職場環境づくりの要となります。
- 全従業員を対象とした研修の実施
全従業員を対象とした定期的な研修を実施し、パワハラの定義や適切な業務指導の範囲について共通理解を持つことが大切です。研修では、具体的な事例を共有し、ハラスメント防止規定の理解と厳守を促しましょう。 - 階層別研修の実施
効果的な研修のために、管理監督者と一般従業員に分けた階層別研修も有効です。研修内容には、経営トップのメッセージや会社のルール、具体的な取り組みを含め、参加者の理解を深めます。 - 外部の専門家を活用できる仕組み
社会保険労務士などの外部専門家を活用することで、より専門的な知識や最新の情報を取り入れることができます。相談窓口の周知や、相談がしやすくなるような正しい情報の共有が必要です。 - 明確な社内ルールの策定
明確な社内ルールの策定も重要です。就業規則にパワハラの禁止と懲戒規定を明記し、行為者への厳正な対処方針を示すことで、従業員の意識向上につながります。 - 社内のパワハラ窓口の設置
パワハラに関する相談窓口を設置し、その存在を周知することで、問題の早期発見と対応が可能になります。 - パワハラ発生時の手順の明確化
パワハラが発生した場合の対処手順を明確化し、公平な調査と適切な措置を講じる体制を整備することも忘れずに。
これらの取り組みを通じて、パワハラのない職場づくりを目指しましょう。
曖昧な指示を避けるための業務記録の保持
業務記録の保持は、パワハラ冤罪を防ぐための対策のひとつです。ここでは保持するためのポイントを解説します。
- 業務指示や評価は明確に伝える
業務指示や評価は明確に伝えることから始めましょう。「来週の金曜日までに売上を10%増やしてください」というように、期限や数字を含めた具体的な目標を示すことが大切です。 - 対面での会話は議事録や音声を残す
対面での会話も大切な記録になります。ミーティングや1on1の後には、簡単な議事録を作成しましょう。「〇月〇日、△△さんと◇◇について話し合い、××することを決定した」といった内容で記載し、情報を蓄積しましょう。このような取り組みによって、後から「そんな話は聞いていない」といったトラブルを防げます。
対面での会話も大切な記録です。ミーティングや面談のあとには、簡単なもので良いので議事録を作成しておきます。
- 日付
- 出席者
- テーマ
- 問題点
- 対策
- 結果
これらの記録が残ることで、過去のやり取りについての記憶を呼び起こしやすくなり、お互いの主張の齟齬を予防できるのでおすすめです。
ただし、議事録は加筆や修正がしやすいものでもあります。議事録を役立つものにするためには、日頃からこまめに記録し続けるようにしましょう。
- メールやチャットのやり取りを残す
情報化社会の今、メールやチャットでのやり取りは貴重な記録になります。重要な指示や決定事項はこれらのツールを有効活用し、記録として残しておきましょう。また、業務指示や評価に関する文書は、忘れないうちにファイリングし、保管します。 - 業務指示や評価に関する文書は保管
部下の業務パフォーマンスや態度に関する記録も重要です。「〇月〇日、△△プロジェクトで素晴らしい成果を上げた」「◇月◇日、遅刻が続いているため注意した」といった具合に、良い点も改善点も客観的に記録しておきましょう。 - 同僚や他の部署と良好な関係を維持する
同僚や他の部下との良好な関係を維持することも大切です。パワハラ疑惑が生じた際に、公正な証言を得られる可能性が高まります。日頃からコミュニケーションを取り、必要に応じて助け合う環境を整えておくことをおすすめします。
これらの取り組みにより、曖昧な指示を避け、不当なパワハラの申し立てのリスクを大幅に減らすことができるでしょう。記録を習慣化することで、より透明性の高い、健全な職場環境づくりにつながります。
パワハラ冤罪の知識を深め、働きやすい職場環境づくりを考えよう
今回は不当なパワハラの申し立てについて解説しました。こちらの記事を読んだ方の中には、注意すべきことがたくさんあると感じた方もいることでしょう。
しかし、職場で日常から公平で透明性の高いコミュニケーションを意識することが何よりも大切です。パワハラを恐れて注意や指導をしないのではなく、言いにくいことも誤解なく伝え、耳の痛い指導も素直に聞き入れやすい環境を職場全体で築いていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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