- 更新日 : 2025年5月27日
傷病手当金における申請書のもらい方 – 申請方法や条件も解説
労働者が病気やケガで働けなくなったときの生活を保障してくれる社会保障制度の一つに「傷病手当金」があります。会社から賃金を支給されなくなった場合も一定期間所得が保障されるため、安心して病気やケガの療養に専念することができます。
本記事では、傷病手当金の制度内容や申請方法、もらい方などを分かりやすく解説します。
目次
傷病手当金とは?
傷病手当金とは、健康保険に加入している会社員などが業務外の病気やケガで会社を休み、会社から賃金を支給されなくなった場合に、健康保険から支給されるお金のことです。
療養期間中の生活保障を行うことを目的とした制度であり、最大1年6カ月の休業期間に対して保障をしてくれます。なお、自営業者などが加入する国民健康保険には、傷病手当金の制度はありません。
傷病手当金の支給条件
傷病手当金をもらうためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
傷病手当金をもらうためには、業務とは関係のない病気やケガであることが必要とされます。業務上の病気やケガで会社を休んだ場合は労災保険(労働者災害補償保険)による給付があるため、傷病手当金はもらえません。
仕事に就くことができないこと
傷病手当金をもらうためには、病気やケガが原因で仕事に就くことができない状態であることが必要とされます。仕事に就くことができないかどうかは、自己判断ではなく医師が判断して証明します。
連続する3日間を含んだ4日以上仕事に就けなかったこと
病気やケガが原因で仕事に就くことができなかった日が連続して3日以上かつ通算して4日以上あることが必要とされます。仕事に就くことができなかった日に土日などの元々会社が休みであった日が含まれていた場合も、この条件の対象になります。
休業した期間中賃金の支払いがないこと
休業期間中、会社から賃金の支給がなかったことが必要とされます。賃金が支給された日に関しては、傷病手当金の支給はありません。なお、支給された賃金が傷病手当金の金額よりも少なかった場合は、差額が傷病手当金として支給されます。
傷病手当金の申請方法
傷病手当金は、以下の手順で申請を行います。
医療機関を受診する
傷病手当金を受給する場合は、仕事に就くことができないことに関して必ず医師の診断に基づいた証明をもらわなくてはなりません。そのため、医療機関を受診し、病気やケガの存在を明らかにした上で、それが原因で仕事に就けないことの診断を得る必要があります。
申請書を作成する
所定の申請用紙(傷病手当金支給申請書)に必要事項を記載します。
- 休業者の氏名や生年月日、健康保険の番号など
- 傷病手当金の振込先の口座情報
- 休業した期間
- 休業者の業務内容
- 業務災害ではないことの証明
- 休業期間中の賃金支払いの有無
- 傷病の名称
- 仕事に就くことができない理由および就くことができなかった期間
6は会社に、7と8は医療機関に証明してもらいます。
申請書を提出する
申請書を作成し終えた後に、医師の診断書などを添えて、審査機関である健康保険組合もしくは協会けんぽに対して申請書を提出します。
協会けんぽの場合は、休業者の住所を管轄している支部宛に提出します。提出方法は、窓口への持参もしくは郵送です。
傷病手当金における申請書のもらい方
傷病手当金支給申請書は、以下の方法で手に入れることができます。
会社からもらう
会社の総務部や人事部などが、従業員が傷病手当金の申請を行う場合に備えて、あらかじめ傷病手当金支給申請書を複数入手して保管している場合があります。
仕事に就くことができなくても会社に来ることができる状態にあり、休業を開始するにあたって出社した場合、会社に傷病手当金支給申請書があるかどうかを確認してみましょう。
会社から郵送してもらう
出社することができない場合、会社に頼んで、審査機関である健康保険組合もしくは協会けんぽから傷病手当金支給申請書を入手してもらい、それを郵送してもらうことで手に入れる方法があります。
インターネットからダウンロードする
協会けんぽに関しては、インターネットから手書きすることができる傷病手当金支給申請書(PDFファイル)をダウンロードすることができます。ダウンロードする場合は、以下のWEBページにアクセスした上で申請書の入力用を使用してください。
傷病手当金の申請期限
傷病手当金の申請には時効があります。業務外の事由による病気やケガの療養のために仕事に就けなくなった日の翌日から2年を経過した場合、時効により申請できなくなります。
通常、傷病手当金は1カ月単位で申請します。何カ月分かをまとめて申請してもかまいませんが、その場合、申請する休業期間の初日の翌日から2年を経過した日が申請期限となります。
(例)
2024年1月12日から休業を開始した場合、「連続する3日間を含んだ4日以上仕事に就けなかった」要件を満たした2024年1月15日から傷病手当金の支給対象となります。
2024年1月15日から2024年4月14日までの3カ月分をまとめて申請することにした場合、2026年1月15日までに申請を行う必要があります。
傷病手当金の支給額について – 計算方法
傷病手当金の支給額は、以下の計算式で計算されます。
(計算式)
一日当たりの傷病手当金支給額
一日当たりの傷病手当金支給額は、以下の計算式で計算されます。
(計算式)
支給開始日とは
初めて傷病手当金の支給対象となった日のことをいいます。具体的には、休業を開始した後に「連続する3日間を含んだ4日以上仕事に就けなかった」要件を満たすことになった日のことです。
標準報酬月額とは
社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)を計算するときに用いられる報酬区分に該当する金額のことをいいます。都道府県ごとに区分表が設定されています。
例えば、東京都の場合、諸手当を含む賃金の月額が210,000円以上230,000円未満の人は全員賃金の月額を220,000円と見なして社会保険料を計算します。
参考:標準報酬月額|協会けんぽ
申請期間中の休業日数
申請期間中に、業務外の事由による病気やケガの療養のために休業した日数の合計のことです。申請期間中のすべてを休業していた場合、申請期間中の暦日数が休業日数になります。
支給額の計算例
- 会社の所在地:東京都
- 申請期間:2024年1月15日から2024年4月14日
- 申請期間中の休業日数:90日間
- 休業者の直近12カ月間の標準報酬月額平均額:360,000円
この場合の傷病手当金額は、以下になります。
傷病手当金額=360,000円÷30日×2/3×90日=720,000円
傷病手当金の支給日はいつ?
傷病手当金の支給日は、審査の状況や審査機関によって異なります。一般的には、申請した日の2週間から1カ月後に振り込まれることが多いです。産業や会社ごとに組織されている健康保険組合に関しては、毎月10日、20日、月末日といったようにあらかじめ支給日が決められている場合もあります。
初回の申請は、審査を厳密に行うことで支給日が通常よりも遅くなることがあります。申請書の記入や添付書類などに漏れがないように注意を払うことが必要です。
傷病手当金の受給について – 人事労務担当者が行うこと
傷病手当金の受給に関して、人事労務担当者は、以下の対応を行う必要があります。
従業員から連絡・必要情報を聞く
従業員から病気やケガでしばらくの期間会社を休みたいという連絡が入った場合、以下のことを確認します。
- 病気やケガの原因病気やケガの原因が業務上なのか業務外なのかを確認します。
- 休業予定日数どの程度の期間休業することを予定しているのかを確認します。病気やケガの原因が業務外であり、休業期間が4日以上になる場合は傷病手当金の対象となるため、本人にそのことを伝えます。
- 有給休暇使用希望の有無休業期間中に有給休暇を使用する希望があるかどうかを確認します。有給休暇を使用した場合、その日は賃金が支給されるため、休業期間中であっても傷病手当金の支給対象にはなりません。
- 休業期間中の連絡先確認休業期間中に連絡のつく連絡先を確認します。傷病手当金の申請に関して会社から本人に確認をしなければならない場合があるためです。
申請書の準備・従業員に渡す
本人に傷病手当金を申請したいという希望があるかどうかを確認し、希望のある場合は、傷病手当金支給申請書を入手した上で本人に渡します。
傷病手当金は、「連続する3日間を含んだ4日以上仕事に就けなかった」要件を満たした後から支給対象になるため、休業開始後3日間は支給されません。そのため、最初の3日間を有給休暇で処理してもよいかどうかの確認も本人に対して行う必要があります。
従業員から申請書を受け取り、申請書を作成する
傷病手当金支給申請書は4枚綴りになっています。
- 1枚目と2枚目(本人情報や休業期間などの記載)/本人記入
- 3枚目(休業期間中の賃金支払いの有無の証明)/会社記入
- 4枚目(傷病名や仕事に就けないことの診断結果)/医療機関記入
1枚目と2枚目、4枚目が記入された申請書を本人から受け取り、3枚目の記入を行った上で申請書を完成させます。
協会けんぽに申請を行う
1枚目から4枚目までのすべての記入を終えた傷病手当金支給申請書を、本人の住所を管轄する協会けんぽの支部に提出します。会社が健康保険組合に加入している場合は、組合の窓口に提出しましょう。提出は、持参もしくは郵送で行います。
社会保障制度の一つである傷病手当金
労働者が病気やケガで働けなくなったときの所得を保障する傷病手当金は、国が国民生活の安全や安定を支える社会保障制度の一つとして存在します。
いざというときに生活に困らないように、制度の内容を理解した上で、必要となったときに迅速かつ的確に対応できるようにしておくことが望ましいです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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