- 更新日 : 2024年9月6日
降格とは?実施の流れや対応、必要書類のひな形、違法のケースを解説
降格とは、従業員の役職や職位などを引き下げることです。懲戒処分による降格、人事異動による降格の2パターンがありますが、いずれも従業員の不利益につながる可能性があり、訴訟等のリスクがあるため慎重な対応が求められます。この記事では降格の概要や手続きの流れ、違法となる可能性などを解説します。
目次
降格とは?
降格(こうかく)とは、従業員の役職や職位、職務上の資格等を引き下げることです。例えば部長であった従業員を課長にすることや、職能資格制度において等級が下がることなどです。昇進、昇格の対義語にあたります。
降格は、懲戒処分として実施するケースと、会社が人事権を行使し人事異動として実施するケースの2つがあります。役職などを引き下げることで減給が伴う場合もあるため、処分を行う際には十分な注意が必要です。以下でその内容を解説します。
降格は「懲戒処分」と「人事異動」の2種類
懲戒処分による降格は、就業規則など会社のルールに違反する等、懲戒事由に該当する場合に会社が行う制裁行為です。
一般的に懲戒処分は7種類ありますが、降格は懲戒解雇、諭旨解雇に次ぐ、上から3番目に重い処分です。就業規則への定めが必要であるほか、実施にあたって厳しいルールが定められており、慎重な対応が求められます。
人事異動による降格は、会社が人事権を行使して実施するものです。従業員の能力面などを考慮し、現在就いている役職等に適任ではなくなったと会社が判断した場合等に人事異動を行い、下位の役職等にします。人事権に基づき行うため、一般的な人事異動と同様に原則として会社が自由に行うことが可能です。ただし、降格理由によっては違法と判断される場合もあるため注意が必要です。
降格の主な理由
降格を行う主な理由を4つ、以下で紹介します。
懲戒処分としての降格
懲戒処分として降格を行う場合は、就業規則に懲戒処分として降格を行うことと、懲戒事由を定める必要があります。また、就業規則を従業員に周知しなければなりません。就業規則に定める懲戒事由に該当する場合に降格を行います。代表的な懲戒事由は以下の通りです。
- 勤務態度不良(遅刻、無断欠勤などの程度が著しい場合)
- パワハラ、セクハラなどのハラスメント行為(極めて悪質な場合)
- 機密情報漏洩、業務上の横領、暴力行為など会社に重大な損害を与える非違行為
- その他就業規則等社内規程に違反した場合
従業員の能力不足に基づく降格
現在就いている役職等に求められる能力やスキルなどが不足している場合や、業績目標が未達である場合などに、従業員の能力不足と評価して降格することがあります。例えば、課長などの管理職がマネジメント能力の不足を理由に一般社員に降格となるケースなどが該当します。
業績不振に基づく降格
業績不振に陥り、人件費の削減が必要な場合に降格を行うこともあります。降格を行うことで役職手当などを削減できるためです。
組織再編に伴う降格
組織再編により部署の統廃合などが行われる際に、廃止される部署の管理職に就いている従業員がその役職を外されたり、他の部署への異動で一般社員に降格したりするケースなどが該当します。また、社内プロジェクトが終了した際にそのプロジェクト特有の役職などが廃止された結果、他部署に異動した際に降格になるケースもあります。
降格が実施される流れ
降格は懲戒処分として行う場合はもちろんですが、人事異動として行う場合でも正しい手順に基づき進めることが大変重要です。降格が適正に行われない場合、労働契約法を根拠に会社による懲戒権や人事権の濫用と判断されるケースがあるためです。
以下で降格が実施される際の流れについて解説します。
降格の理由と事実を確認する
最初に、降格の理由とその根拠となる事実関係を確認する必要があります。懲戒処分としての降格、人事異動としての降格いずれも客観的かつ合理的な事実認定に基づき行われなければなりません。事実関係の確認にあたっては本人だけでなく、周囲の従業員からもヒアリングを行うなど、客観性を担保することが重要です。
なお、懲戒処分として降格を行う場合は、就業規則に定める懲戒事由に基づくことを確認し、規律違反行為等については客観的な証拠を確保しておく必要があります。懲戒処分に至る前段で問題行動があった際の注意指導記録についても確実に残しておきましょう。
また、人事異動として降格を行う場合、対象者との雇用契約において役職や職種が限定されている場合には、個別に合意が必要です。
本人に説明し弁明の機会を設ける
降格の理由や根拠となる客観的な事実関係に基づき、対象従業員に降格を実施することについて丁寧に説明を行います。
懲戒処分として降格を行う場合には、懲戒処分の一般的ルールに基づき、処分対象の従業員の弁明の機会(本人の言い分を聞く機会)を設ける必要があります。弁明の機会を通じて、改善のきっかけになる可能性もあります。この手続きを欠くと、訴訟に発展した場合に不当な懲戒処分として判断される可能性があるため注意しましょう。
人事異動として降格を行う場合には、弁明の機会を設けなくても差し支えありません。ただし弁明の機会を設けることで、事実関係を正確に把握でき、降格理由を本人に伝える中で前向きな改善が可能な場合もあります。
万一、訴訟などに発展した場合にも人事権の濫用と判断されるリスクを軽減することが可能です。したがって、人事異動の場合でもいきなり降格するのではなく、対象の従業員による弁明の機会を設けたほうがよいでしょう。
降格による減給の有無や額を決定する
降格による減給が発生するか否かを確認し、減給とする場合にはその額を決定します。なお、労働基準法第91条に減給の限度額に関する規定があります。しかし、この規定は懲戒処分の一つである「減給処分」が対象で、降格は対象ではありません。したがって、降格による減給には法律上の明確な限度は規定されていません。
なお、本人に大きな問題がないにも関わらず、2段階以上の降格を行う場合や、就業規則への規定等を行わずに基本給の減額を行う場合に、違法とされた裁判例もあります。降格の程度や、減給を行う対象が基本給なのか手当だけなのか等については、慎重に検討し決定するようにしましょう。
本人に降格の通知を行う
降格を行うことが決定したら、実際に降格処分や人事異動等を行う1〜2週間前に本人へ通知します。本人への通知は口頭ではなく、正式な書面(懲戒処分は「懲戒処分通知書」、人事異動は「辞令」が一般的)を手渡す形で行います。また、通知の際には改めて降格の理由や、減給を行う際はその内容などを個別面談等の形で丁寧に説明するとよいでしょう。
関係書類を保管する
降格に関する事実確認の際の根拠にあたる書類や、処分の検討を行った際に作成した資料、降格の通知書面等の関係書類は厳重に保管します。降格の前段で行った注意指導に関する記録についても同様です。会社情報管理の観点から保管が必要ということ以外に、万一、降格を行ったことについて訴訟で争われた際の重要な証拠になります。
降格人事に関連する書類・無料テンプレート
ここでは、降格に関する書類の代表的なものとして、就業規則、降格理由書、降格人事辞令の3種類をそれぞれのテンプレートとあわせて紹介します。
就業規則のひな形・テンプレート
就業規則には懲戒処分として降格を行う場合に、「懲戒処分の種類として降格を行うこと」「懲戒を行う事由(懲戒事由)」のいずれも定める必要があります。
人事異動としての降格は、会社が人事権の行使として実施できるもので、就業規則への定めが義務付けられているわけではありません。なお、降格に伴い基本給を減額する場合には就業規則の定めが必要です。また、役職手当等が減額になるケースでも、訴訟等に発展する可能性が否定できないため、就業規則に規定しておいたほうがよいでしょう。
以下に懲戒処分としての降格に関する規定例を紹介します。
(懲戒の種類)
第●条 会社は従業員が次条に定める懲戒事由に該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行います。
(1)けん責・・・
(2)減給・・・
(3)出勤停止・・・
(4)降格 ●等級を限度として資格等級を引き下げます。なお、この場合の給与は降格後の等級に相当する給与とし、降格で現役職の資格に該当しない場合は降職とします。
(以下略)
(懲戒事由)
第●条 会社は従業員が次のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、けん責、減給、出勤停止、降格とします。
(1)無断、または正当な理由なく、欠勤、遅刻または早退したとき。
(2)・・・
(以下略)
就業規則のテンプレートには、以下のものがありますのでご活用ください。リンク先に記載されている手順に従ってテンプレートをダウンロードすることが可能です。
就業規則(ワード) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
降格理由書のひな形・テンプレート
懲戒処分として降格処分を行う場合の懲戒処分通知書(降格理由書)については以下のテンプレートを活用することが可能です。
降格処分の内容、降格処分の理由をテンプレートに従って記入します。理由についてはそれぞれの事案に該当する内容を記入しましょう。
降格理由書(ワード) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
降格理由書(エクセル) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
降格人事辞令のひな形・テンプレート
人事異動としての降格を行う場合の辞令については、以下のテンプレートを活用することが可能です。通常の人事異動時に交付する辞令と同様のものになります。
降格人事辞令(ワード) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
降格人事辞令(エクセル) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
違法の可能性がある降格とは?
懲戒処分として実施する降格処分は、労働契約法第15条に基づき厳格な基準のもと行わなければ違法と判断され、無効とされる可能性があります。
また、人事異動として実施する降格は、懲戒処分とは異なり、基本的には会社の自由な判断のもと行うことが可能です。ただし、この場合も労働契約法第3条に基づき人事権を濫用したとされる場合には違法と判断される可能性があります。
違法の可能性がある降格とは具体的にどのようなものか、以下で3つ紹介します。
就業規則に降格が明記されていない
懲戒処分として降格処分を行う場合、就業規則に懲戒の種類と懲戒事由を明記しなければなりません。また、就業規則への明記に加えて、従業員に正しく周知することが必要です。これらが行われない場合、懲戒処分としての降格は違法と判断されます。
なお、人事異動による降格については就業規則への記載の義務はないものの、基本給の減額が伴う場合は就業規則への記載がなければ違法と判断されます。
合理的な理由がない
懲戒処分として降格処分を行う場合、就業規則に定める懲戒事由に該当しなければなりません。また、当然ながら明確な根拠が求められます。
人事異動として降格を行う場合も、同様に合理的な理由が求められます。過去の裁判例では、以下の場合に違法と判断されているため注意が必要です。
- 従業員を自主退職させることを目的にした降格
- 有給休暇消化等、正当な権利行使を理由とした降格
- 妊娠、出産、育児休業取得を理由とした降格
処分内容が重すぎる
懲戒処分、人事異動いずれの降格についても、処分理由となった問題行動の程度と比較して処分内容が重すぎる場合、違法と判断される可能性があります。そのため過去の裁判例や、社内事例等に照らしながら慎重な対応が求められます。
人事異動として降格を行う場合では、従業員本人に大きな問題がないにも関わらず、2段階以上の降格を行った場合に違法と判断されることが多く注意が必要です。
【企業側】降格する従業員への対応
企業側における降格する従業員への対応方法について、以下に解説します。
コミュニケーションを取る
従業員と十分なコミュニケーションを取ることが重要です。降格する従業員は会社での役職などが下がり、それに伴い減給等の不利益を受ける場合があります。そしてこれを不服として訴訟が起こる可能性も多々あります。
特に降格の理由は従業員にとって大変気になる点です。処分通知や異動発令を行うだけではなく、事前に対象従業員に対して明確な根拠を示しながら理由を丁寧に説明することが求められます。
なお、懲戒処分の際には、処分対象の従業員に弁明の機会を与えることが義務付けられています。これを欠いた場合、不当な懲戒処分と判断される可能性があるため注意してください。
再昇格の機会を作る
降格に伴う訴訟リスクについては先述の通りですが、会社にとって訴訟リスクだけが問題ではありません。降格により従業員のモチベーションが大きく下がることは確実で、降格後の業務遂行に悪影響を及ぼしてしまいます。場合によっては退職につながることもあるため、会社にとって大きなリスクと言えるでしょう。
降格になる従業員のモチベーションを高めるためにも、降格を伝える際にはこれまでの当該従業員の評価ポイントや功績などもあわせて伝えます。また、当該従業員の再昇格の機会を設けて、キャリアプランを示しながら、実現に向けて具体的に取り組むべきことなどを伝えられるとよいでしょう。
【従業員側】降格を告げられたらどうする?
会社から降格を告げられた場合に、従業員が行うべきことについて主なものを3点紹介します。
降格の理由を確認する
降格を告げられたら、その理由を納得のいくまで確認します。また、降格理由についての根拠も併せて確認することが重要です。降格理由に合理性がない場合には違法な降格の可能性があるためです。
就業規則に降格の記載があるか確認する
就業規則に降格に関する記載があるかも確認しましょう。基本給の減給が伴う場合には、就業規則の規定が求められます。就業規則に降格に関する記載がない場合には違法となるため、確認が必要です。
違法性がある場合は相談窓口に申し出る
以上の確認を踏まえて、会社が行った降格に違法性があると考えられる場合には、自ら抱え込まずに相談窓口に申し出ましょう。社内であれば、人事部門や労働組合が設ける窓口などがあります。
社外であれば、厚生労働省が各都道府県労働局や労働基準監督署に設置している総合労働相談コーナーで、あらゆる労働問題に関する相談を受け付けています。
または弁護士に相談を申し出る方法もあります。
降格を行う場合は慎重な対応を
降格は従業員の給与面や社内での地位低下、キャリアへの悪影響といった不利益が伴います。従業員のモチベーションを下げ、最悪の場合には退職につながるケースもあります。また、訴訟を提起される可能性もあるでしょう。
やむを得ず従業員を降格させる場合、違法と判断されることのないよう遺漏なく手続きを進めるとともに、降格対象の従業員と十分なコミュニケーションを取ることが重要です。この記事で紹介した内容をもとに、慎重に対応しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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