• 更新日 : 2023年10月27日

リストラとは?意味や解雇の4要件、企業事例をわかりやすく解説

リストラとは?意味や解雇の4要件、企業事例をわかりやすく解説

90年代以降、企業の経営環境が急速に変化する中で、「リストラ」という言葉が頻繁に使われるようになりました。経済の不況期だけでなく、新たな技術の出現、業界の変革などの局面では、企業は生き残るために組織の再編や人員調整を余儀なくされることがあります。

人員調整のために行われる従業員の「クビ切り=解雇」という意味で「リストラ」が使用される傾向がありますが、これは正しくはありません。この記事では、リストラの意味から適切な実施方法、具体的な企業事例まで詳しく解説します。

リストラとは?

「リストラ」は、”リストラクチャリング”の略で、英語での正確な表現は「Restructuring」となります。本来の意味は、企業の組織や事業構造を再構築・整理することを指します。

これは、業績の低迷や市場環境の変化など、企業が直面するさまざまな状況に対応し、競争力を向上させるための戦略として行われます。再構築の対象となるのは、部門の再編、事業の売却、新たな事業への参入、資産の処分など、多岐にわたります。

日本の一般的な認識では、「リストラ」は従業員の整理解雇を指すことが多いと言えるでしょう。整理解雇は、経営上の必要性から労働者を解雇する行為を指し、経営環境の変化や経営効率の向上を目的として、企業が人員を削減することが求められる場合に実施されるものです。

厳密には、リストラと整理解雇は同義ではなく、リストラは上記のように基本的に事業の再構築を指し、その一環として整理解雇が含まれるという位置づけになります。リストラそのものは人員削減だけを意味するものではない点を理解することが重要となります。

解雇との違い

一言で解雇と言っても、実は法的には「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3つがあり、それぞれ区別して理解しておく必要があります。「普通解雇」は、労働者の業務遂行能力の不足や健康上の理由など、主に労働者個人の事由に基づいて行われる解雇を意味します。「懲戒解雇」は、労働者の重大な違反や不正行為など、行為に対する制裁である懲戒処分として行われる解雇を指します。「整理解雇」は、事業の再構築という経営上の必要性に基づくものであり、労働者の業務遂行能力やなされた行為との関係で行われるものではありません。この点で、普通解雇や懲戒解雇とは異なる性格を持ちます。

日本で正社員のリストラが難しい理由

日本においてリストラの一環として正社員の整理解雇を行うことは、欧米諸国に比べて難しいと言われています。その背景には、いくつかの特徴的な要因があります。

まず、戦後の日本では、高度経済成長期を経て、終身雇用と年功序列が雇用慣行として根付きました。企業は長期的な視点での人材の確保や育成を重視し、一度雇用された正社員を解雇することに対して消極的となる傾向があります。

終身雇用と年功序列の背景には、経営家族主義という考え方があります。社長をトップする経営陣が家長、社員を家族ととらえるものです。この考え方によると、家長が家族を排除するリストラは、社会的な評価や企業のブランドイメージにも悪影響を及ぼします。

バブル崩壊後の90年代後半には、急激な業績悪化による倒産が相次ぎ、その回避のため、やむなくリストラとして整理解雇を断行する企業も増加しました。しかしながら、大半の企業は現在も定年制を維持しており、終身雇用などの日本型雇用慣行や経営家族主義が崩壊したわけではありません。

整理解雇に対する訴訟も多数起こされており、後述するように最高裁は、一定の要件を満たしていなければ権利の濫用として無効であるとしています。

リストラにかかわる解雇の種類

すでに述べたように解雇には整理解雇以外に普通解雇、懲戒解雇があります。ここでは、改めて、それぞれの違いを詳しく説明します。

普通解雇

普通解雇は、従業員が一定の期間労働契約を継続して遂行する意思や能力を欠いている場合など、従業員個人の能力や適性に関連する理由で行われる解雇です。例としては、継続的な業務遂行の不適切さや、再教育・再配置によっても業務の改善が見込めないケースなどが考えられます。

ただし、日本では、普通解雇を行う際には十分な裏付けや証拠が必要となります。特に経営の裁量とされる人事評価の基準などは明確でなければならず、公正な基準に基づいて適正な評価が行われていることが求められます。

懲戒解雇

懲戒解雇は、懲戒処分として行われるものであり、従業員が重大な違反や不正行為を犯した場合の最も重い処分です。具体的には、窃盗、業務上の機密情報の不正利用、職場での暴力行為、業務に関する重大な過失など、従業員の不適切な行為に起因します。

懲戒解雇はこのような行為が事実として確認され、その行為が職務継続を困難にするほどのものである場合に行われます。しかし、それが有効と認められるためには、就業規則などに根拠規定があって従業員に周知させていることに加え、権利の濫用に該当しないことが必要となります。

整理解雇

整理解雇は、リストラの一環として経営上の必要性から人員を削減する場合に行われる解雇です。これは、経営環境の悪化、事業の縮小や撤退、企業の合併や買収など、経営上の理由によって行われるものです。

リストラ(整理解雇)の判断となる4つの要件

判例では、整理解雇法理が確立されており、以下の4つの要件(要素)を満たさない場合は、労働契約法16条違反(解雇権濫用)となり、その整理解雇は無効とされます。

人員削減の必要性

整理解雇を行う際の最も基本的な要件です。企業の経営悪化や技術の陳腐化などによって事業の再編成が不可欠となり、人員を削減しなければならない状況が生じたことを意味します。

ただし、判例では人員削減をしなければ直ちに倒産の危機に瀕するといった高度のものである必要は必ずしもなく、 経営上の合理的理由が認められれば足りるとするものが多くみられます(ゾンネボード製薬事件 東京地八王子支決平 5.2.18 大阪暁明館事件 大阪地決平 7.10.20 など)。

解雇回避の努力

整理解雇はあくまでも最終的な手段であり、それを実施する前に回避のための努力がなされたかが評価されます。具体的には、残業規制、配転・出向、新規採用の抑制・停止、非正規従業員の雇い止め、希望退職募集などが挙げられます。

人選の合理性

整理解雇における対象者の選び方には「合理性」が求められます。公正で客観的な基準に基づき、解雇対象者を選定する必要があります。年齢、勤続年数、職務内容、業績、能力等を適切に組み合わせた選考基準を設定し、偏見や差別的な要因を排除することが必要です。特定のグループや個人を不当に対象とするような選定は、違法とされるリスクが高まります。

解雇手続の妥当性

上記の3つの要件を満たしていても、解雇手続が不適切であれば整理解雇自体が違法と判断されることがあります。これには、労働組合や従業員代表との十分な協議、解雇の事前通知、適切な退職金の支払いなどが含まれます。また、解雇の意向を告知する際のタイミングや方法、協議の内容や過程も重要となります。

リストラの主な具体的手段

前項でみたように整理解雇は最終的手段であり、そこに至るまでには、できるだけ従業員を解雇しないためのリストラの方法があります。

希望退職者の募集

希望退職は、従業員が自らの意思で退職することを意味し、多くの場合、通常の退職金よりも高額な退職金やその他の特典を提供することで、従業員に退職を促します。正社員に対する希望退職者の募集は、一般的には整理解雇の前段階で行われる傾向があります。強制的な解雇を避けることができる点にあります。期待した数の退職が得られなかったり、必要な人材まで退職してしまったりするリスクもあるため、人事情報の管理と併せて厳格に実施することが求められます。

有期雇用契約の雇止め

非正規雇用などの有期雇用契約は、契約期間が終了すれば自動的に終了する雇用形態です。経営状況が厳しくなった際、契約の更新を見送る、すなわち「雇止め」を行うことで人員削減することができます。ただし、労働契約法19条では、労働者が、①有期労働契約が反復継続して更新されており、雇止めすることが実質的に解雇と社会通念上同視できること、②労働者が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること、の2つのいずれかの条件に当てはまり、かつ、労働者が契約更新の申込みをした場合には、通常の解雇と同様に客観的合理的な理由及び社会通念上の相当性がなければ、契約は更新した扱いになり、雇止めは無効になります。これらの点を十分に確認したうえで実施する必要があります。

不採算部門の整理

企業経営においては、収益性の低い、または赤字となる部門を持続させることが難しくなることがあります。そのような状況では、本来のリストラの意味である事業の再構築として不採算部門の縮小や廃止を検討することが求められます。部門の整理を行うことで、企業全体の収益性を向上させ、経営の健全化を図ることができます。

成長分野への進出

経営状況の改善を目指す手段として、新しい市場や成長が期待される分野への進出も有効です。新しいビジネス領域への参入により、収益の新たな柱を築くことができる場合があります。この手段は、従業員を解雇するのではなく、新しい事業の展開によって雇用を維持または拡大するアプローチとなります。しかし、新事業の成功は保証されていないため、リスクをしっかりと分析し、適切な戦略を立てる必要があります。

リストラの企業事例

リストラとして整理解雇が行われ、裁判で争われた事例を3つ紹介しましょう。

日本航空(客室乗務員)事件(東京高判平26.6.3)

最近の有名な事案です。経営難で会社更生手続き中の日本航空が客室乗務員を解雇したことが問題となりました。会社は、過去の一定期間、病気欠勤により一定日数労務の提供ができなかった者について、過去及び将来の貢献度が低いないし劣ると評価し、整理解雇の対象者としました。判決では、前述の4つの要件を総合的に判断し、整理解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認め、有効であるとして原告の地位確認の請求を棄却しました。この判決は最高裁で確定しています。(上告棄却・不受理 平成29年6月6日最三小決定)

ロイヤル・インシュランス・パブリック・カンパニー・リミテッド事件(東京地決平8.7.31)

ロイヤル・インシュランス社日本支店が、業績の悪化を理由に組織体制をフラットなものに改編し、これによって部長職にあった者を非管理職への降格、自宅待機、退職勧奨を経て解雇した事件です。解雇は就業規則で定める「労働組合の了承」をとっていないとして、手続の点で無効とされました。

ナショナル・ウエストミンスター銀行(第3次仮処分)事件(東京地決平12.1.21)

ナショナル・ウエストミンスター銀行東京支店が、経営合理化の一環として経営戦力の転換に基づくアジア地区におけるトレードファイナンス業務の廃止の決定し、これに伴い、複数の従業員を解雇した事件です。解雇には合理的な理由があるとして、原告の地位保全等仮処分申立の請求は棄却されています。

リストラは拒否できる?

整理解雇は、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性、これら4つの要件を満たしていなければ、解雇権の濫用となり、無効となるというのが判例の考え方です。

これらの要件を満たしている場合、整理解雇は原則として適法と判断されるため、従業員側が拒否することは難しいとされています。ただし、企業側がこれらの要件を十分に満たしていない場合、従業員は解雇の無効を主張し、法的手段を取ることができます。整理解雇については、前述のように対象となった労働者側からこれまで多数の裁判が起こされています。

リストラに類似した言葉との違い

最後に、リストラと類似した紛らわしい用語である「レイオフ」「クビ」との相違について触れておきます。

リストラとレイオフとの違い

「レイオフ」は、英語の “Layoff” に由来する言葉で、経済的な理由や業務量の減少など、企業の外的な要因で一時的に従業員を解雇することを指します。レイオフは、一時的と恒久的なものがありますが、本質的には企業の経営状況が改善されれば再雇用される可能性があるという特徴があります。

リストラは事業の根本的な再構築のために行われるものですが、レイオフは短期的な経済状況の変動に伴うものである点が相違になります。

リストラとクビとの違い

整理解雇の意味で用いられる「リストラ」は、経営戦略の一環として、特定の基準や手続きに基づいて人員削減が行われる場合に使われる言葉です。

一方、「クビ」は、日常語としての解雇を指す非公式の言葉です。「クビになった」という表現が使われることがありますが、これは形式や理由を問わず、雇用関係が終了した状態を示す際に使用されることが一般的です。懲戒解雇された場合も用いられることがあります。

企業の再成長のためのリストラと法的な有効性について知っておこう!

経営環境の変化は避けることはできません。企業として生き残るためには、事業の再構築であるリストラの一環として整理解雇を行わざるを得ない場合もあります。しかしながら、解雇である以上、従業員やその家族の生活に大きな影響を及ぼすことになります。

そのため、整理解雇法理である4つの要件を十分に理解し、慎重かつ適法に実施することが重要となります。


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