- 更新日 : 2024年10月30日
クライシスマネジメントとは?リスクマネジメントとの違いやプロセスを解説!
企業経営において、予期せぬ危機に直面することがあります。自然災害や製品不具合、情報漏洩など、さまざまなクライシスが企業の存続を脅かす可能性は否めません。このような状況下で、企業が迅速かつ適切に対応し、被害を最小限に抑えるためには、効果的なクライシスマネジメントが不可欠です。
本記事では、クライシスマネジメントの基本概念から実践的なポイントまで、詳しく解説します。
目次
クライシスマネジメントとは?
クライシスマネジメントとは、企業や組織が突発的な危機に直面した際に、その影響を最小限に抑え、迅速かつ効果的に対応するための一連のプロセスや手法のことです。危機には自然災害やテロ攻撃、重大なシステム障害、製品リコールなどが含まれ、これらが発生した際には、組織の存続や信頼性を保つための対応が求められます。
クライシスマネジメントは、事前の計画策定、危機発生時の対応、事後の復旧と評価という3つのフェーズに分けて実施されます。これにより、組織は迅速かつ適切な行動を取ることができ、被害の拡大を防ぎ、早期の復旧を図ることができるのです。
クライシスマネジメントとリスクマネジメントとの違い
クライシスマネジメントとリスクマネジメントは、どちらも組織の安全と安定を保つための重要な手法ですが、その目的とアプローチには明確な違いがあります。リスクマネジメントは潜在的なリスクを事前に特定し、それらのリスクが実際に発生する前に予防策や軽減策を講じるプロセスです。
一方、クライシスマネジメントは、すでに発生した危機に対して迅速かつ効果的に対応することを目的としています。リスクマネジメントが計画的で予防的なアプローチを取るのに対し、クライシスマネジメントは緊急対応と復旧に焦点を当てています。両者は相互補完の関係にあり、リスクマネジメントでリスクを減少させ、クライシスマネジメントで残存リスクに対処するのが理想です。
クライシスマネジメントとBCPとの違い
クライシスマネジメントと事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)は、どちらも組織の危機対応に関する重要な概念ですが、その焦点と範囲は異なります。クライシスマネジメントは、危機発生時の即時対応とその後の復旧プロセスに重点を置いており、具体的な危機対応手順や緊急連絡体制などを含みます。
これに対してBCPは、危機発生後も事業の継続を可能にするための計画であり、長期的な視点での復旧と安定化を目指します。また、代替業務プロセスの確立、バックアップ体制の整備、重要資産の保護などが含まれます。クライシスマネジメントは短期的な対応に焦点を当てていますが、BCPは長期的な事業継続を確保するための包括的な計画です。両者を組み合わせることで、組織は危機に対する強固な対応力を備えることができます。
企業経営におけるクライシスの事例は?
企業経営におけるクライシスは外部要因と内部要因の2つに分けられます。ここでは、それぞれの事例を挙げて解説します。
外部要因によるクライシスの事例
外部要因によるクライシスとは、企業の管理が及ばない外的な事象によって引き起こされる危機のことです。代表的な事例として、自然災害やテロ攻撃、経済危機、パンデミックなどが挙げられます。
例えば、2011年の東日本大震災では、多くの企業がサプライチェーンの寸断や生産拠点の被災により、事業継続が困難になりました。トヨタ自動車は、部品調達の困難から国内外の工場で生産停止を余儀なくされ、グローバルな生産体制に大きな打撃を受けました。
また、2020年に始まった新型コロナウイルスのパンデミックは、航空業界や観光業に甚大な影響を与えました。日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)は、国際線の大幅な減便を強いられ、経営危機に直面しました。
内部要因によるクライシスの事例
内部要因によるクライシスとは、企業内部の問題や意思決定ミスによって引き起こされる危機のことです。代表的な事例として、製品欠陥や不正会計、データ漏洩、経営者の不祥事などが挙げられます。
2015年に発覚した東芝の不正会計問題は、企業の信頼性を大きく損なう内部要因によるクライシスの典型例です。利益の水増しや損失の先送りなどの不適切な会計処理が明らかになり、東芝は巨額の損失を計上し、上場廃止の危機に直面しました。この事態は、企業統治の不備と経営陣の倫理観の欠如が招いた深刻なクライシスとして、企業の内部管理の重要性を再認識させました。
2016年の三菱自動車の燃費不正問題も、内部要因によるクライシスの事例として挙げられます。燃費データの改ざんが発覚し、企業イメージの悪化や販売台数の激減、多額の賠償金支払いなど、経営に深刻な打撃を与えました。
クライシスマネジメントが重要な理由は?
クライシスマネジメントが企業経営において重要な理由は、多岐にわたります。主な理由を確認していきましょう。
企業の存続を守る
クライシスマネジメントは、企業の存続を守るために不可欠です。自然災害やサイバー攻撃、製品の不正問題など、予測不能な危機が発生した際に、迅速かつ適切な対応を行うことで、企業の存続を可能にします。例えば、新型コロナウイルスのパンデミックでは、多くの企業が出社制限や経済活動の停滞に直面しましたが、クライシスマネジメントを適切に行うことで事業継続を図り、被害を最小限に抑えることができました。
社会的信用の維持
企業が危機に直面した際、その対応が迅速かつ適切であることは、社会的信用の維持に直結します。例えば、製品リコールや不祥事が発生した場合、迅速な情報公開と誠実な対応を行うことで、顧客や取引先からの信頼を維持することができます。逆に、対応が遅れたり不適切だったりした場合、企業の信用は大きく損なわれ、経営に長期的な悪影響を及ぼします。
経済的損失の最小化
クライシスマネジメントを適切に実施することで、経済的損失を最小限に抑えることができます。危機が発生した際に迅速な対応を行うことで被害の拡大を防ぎ、早期復旧につながります。例えば、サプライチェーンの寸断や生産停止などの事態に対して、事前にリスクを想定し、代替策を準備しておくことで、事業の中断を最小限に抑えることができます。
二次災害の防止
クライシスマネジメントは一次災害だけでなく、二次災害の防止にも重要な役割を果たします。例えば、自然災害が発生した際に適切な避難指示や安全対策を講じることで、従業員や地域社会の安全を守ることができます。また、情報漏洩やサイバー攻撃に対しても、迅速な対応を行うことで二次的な被害を防ぐことができます。
組織のレジリエンス強化
クライシスマネジメントは、組織のレジリエンス(回復力)を強化するための重要な手段です。危機を経験することで、組織はその対応力を向上させ、将来の危機に対する準備をより万全にすることができます。定期的な訓練やシミュレーションを通じて従業員の危機対応能力を高めることで、組織全体のレジリエンスが向上します。
クライシスマネジメントのプロセスは?
クライシスマネジメントは、企業の危機対応能力を高め、組織の存続と発展を支えるという重要な役割を果たします。では、そのプロセスはどうあるべきなのでしょうか。
準備段階
クライシスマネジメントの準備段階とは、危機が発生する前に行う予防的な活動のことです。この段階では、まず企業が直面し得るさまざまなリスクを特定し、それに対する対応策を決めます。具体的にはリスクアセスメントを行い、リスクの発生確率と影響度を評価します。その後、リスクに対する具体的な対応策を計画します。
具体的には、自然災害に対する防災計画やサイバー攻撃に対するセキュリティ対策が含まれます。また、危機発生時に迅速に対応できるよう、クライシスマネジメントプラン(CMP)を作成し、関係者に周知します。さらに、定期的な訓練やシミュレーションを実施し、実際の危機発生時に備えた対応力を養うことも重要です。
対応段階
対応段階では、実際に危機が発生した際に、迅速に危機管理チームを招集して状況を把握し、被害を最小限に抑えるための初期対応を行います。具体的には、被害の拡大を防ぐための緊急措置や、関係者への迅速な情報提供が求められます。また、社内外のコミュニケーションを円滑に行うための体制も整備しておかなければなりません。
メディア対応や顧客への説明など、透明性の高い情報発信も重要です。さらに、事前に策定したクライシスマネジメントプランに基づき、各部門が連携して対応を進めることが求められます。これらにより混乱を最小限に抑え、復旧に向けた準備を迅速に行うことができるでしょう。
回復段階
回復段階では、危機が収束した後の復旧作業を行います。この段階では、まず被害の全容を把握し、復旧計画を策定します。これには被害を受けた設備・システムの修復、業務プロセスの再構築、従業員の安全確保などが含まれます。また、危機対応の過程で発生した問題点や改善点を洗い出し、次の危機に備えた改善策を講じることが重要です。
さらに、危機対応の経験を組織全体で共有し、今後のクライシスマネジメントの強化に役立てます。このプロセスを通じて組織のレジリエンス(回復力)を高め、将来の危機に対する準備をより万全に行うことができるでしょう。定期的な見直しと訓練を続けることで、クライシスマネジメントの効果を持続的に向上させることができます。
クライシスマネジメントを実施する際のポイントは?
では、実際にクライシスマネジメントを実施する場合、どのようなことに注意すべきなのでしょうか。3つのポイントを挙げて解説します。
対応責任者と対策本部の設置
クライシスマネジメントを効果的に実施するためには、まず対応責任者を明確に定め、対策本部を設置することが重要です。通常、対応責任者は経営層から選出され、危機発生時の意思決定と全体の指揮を担います。対策本部は各部門の代表者で構成し、情報の集約と共有、対応策の立案と実行を担当します。
これらにより、組織全体で一貫した対応が可能になり、混乱を最小限に抑えることができます。また、平時から定期的に対策本部のシミュレーション訓練を行うことで、実際に危機が発生した際にはスムーズな対応が可能になります。
情報収集と分析
クライシスマネジメントにおいて、正確かつ迅速な情報収集と分析は極めて重要です。日頃から業界動向や社会情勢、競合他社の動きなどを注視し、潜在的なリスクを把握しておくことが求められます。また、危機発生時にはSNSなどのソーシャルメディアを含む多様な情報源からリアルタイムで情報を収集し、分析する体制を整えることが重要です。
収集した情報を適切に分析することで、危機の規模や影響を正確に把握し、適切な対応策を講じることができます。さらに、誤情報や風評被害にも迅速に対応できるよう、情報の真偽を確認する手順も確立しておくべきです。
コミュニケーション戦略の策定
クライシス発生時のコミュニケーション戦略は、企業の信頼性と評判を左右する重要な要素です。まず、ステークホルダー(従業員、顧客、取引先、メディア、地域社会など)を特定し、それぞれに適した情報提供の方法と内容を事前に計画しておくことが重要です。情報開示は迅速、正確、透明性を原則とし、隠蔽や虚偽の情報提供は絶対に避けるべきです。
また、一貫性のあるメッセージを発信するため、スポークスパーソンを定め、対外的な発言を一元化することも重要です。さらに、ソーシャルメディアの活用も含めた多様なコミュニケーションチャネルを準備し、状況に応じて適切に使い分けることが求められます。
クライシスに強い組織づくりで企業の未来を守ろう!
クライシスマネジメントは、企業の存続と信頼性を守るための重要な取り組みです。リスクマネジメントとは異なり、実際に発生した危機への対応に焦点を当てています。準備、対応、回復の各段階で適切な措置を講じることで、危機の影響を最小限に抑え、迅速な復旧を図ることができます。
組織全体のクライシスマネジメント能力向上に向けて、従業員教育や訓練の実施、コミュニケーション体制の整備に取り組むことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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